人材育成事例052
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エンジニアリング業はヒトが最大の財産のため、当社では長年にわたり水処理各分野の専門家を育成し、その知見を結集してきた。しかし、近年のプロジェクト型事業や海外市場の拡大に伴い、社員一人ひとりに総合力が強く求められるようになった。このため、終身雇用、企業内人材育成の日本型人事を堅持しつつ、「経営・技術の各分野を網羅的に精通する人材育成」を理念としている。 具体的には、生涯学習ができる研修体系を整備し、必須受講研修に加え、約50講座の専門基礎研修を自己選択で受講する。あわせて、自己申告、公募制による適材配置を行なっている。入社後3年間を重点育成期と位置づけ、個別指導を通じて一人前に育てる。その後定期異動を経験し、複数の専門分野を修得する。また、主任昇格時(入社10年目頃)に、研修受講歴や異動歴などのキャリアを振り返る機会がある。 60歳以降の再雇用者は、研修講師などを通じて後進への技術伝承を担っている。また、ミッションシートにより、後進指導や業務改善などの中期的取り組みを自己申告している。 2011年度から一般事務職契約社員(有期契約)を定期採用し、契約更新の後に専門職(雇用期間なし、原則転居なし)への転換を計画している。契約社員も専門基礎研修を受講でき、人事部門とのキャリア形成に関する個別面談を通じ、専門職転換が図れるよう支援している。 |
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<キャリア形成支援の導入に至った背景、時期> 当社は、2009年に株式会社荏原製作所グループの水関連事業を統合して設立された。2010年に株式会社荏原製作所、三菱商事株式会社、日揮株式会社の3社経営体制となり、国際展開を志向する総合水事業会社として独立している。 しかしながら、統合前は各業態に即した人材育成制度を運用してきたため、その考え方にはバラツキがあった。長期能力育成型の製造業の人材育成の考え方は、スピード感をもって総合力を育成するエンジニアリング業とミスマッチする部分もあった。また、合併企業の人心の一体感を確立するためにも、人材育成の考え方を明示する必要があった。 そこで、2010年度に構想をまとめ、2011年4月の水ing株式会社(すいんぐかぶしきがいしゃ)への社名変更に際し、独自の人材育成制度を導入するに至った。 導入に際し、(1)80余年にわたるノウハウの結集、(2)社内講師の育成と技術伝承、(3)一人前に育つまでのベースとなる総合的能力の開発、(4)従業員の生涯学習意欲向上に資すること、を基本方針とした。このため、社内横断的な「人財パワーアップ委員会」を組織し、人材育成方針と具体的プログラムを検討している。 <支援の内容> 1.一人前に育つまで(おおむね入社10年目まで) (1) 入社後3年間のOJTリーダーによる個別指導 新卒採用者は最長1年間(技術系総合職)の導入研修の後、各部門に配属される。配属時に上長と人事部門が協議し、3ヵ年の中期育成計画を立てる。その育成計画を踏まえ、中堅社員OJTリーダーが個別指導を行なう。 OJTリーダーには辞令を公布し、主要業務の1つであることを意識づけた後、人事部門によるコーチング研修を行なう。OJTリーダーは新人の担当業務や研修、資格取得などの年度目標を設定し、月次の進捗度と指導記録を作成する。期中の指導はリーダーに一任し、目標設定時と期末確認時に上長が陪席する。これは、OJTリーダーの育成と指導要領の徹底のためでもある。人事部門は指導記録を精査し、適宜、必要な助言・支援を行なっている。 なお、飲みニュケーションを通じた信頼関係構築にも配慮し、入社1年目を担当するOJTリーダーに飲食費の補助をしている(補助の活用は任意)。新人にはじっくりスキルアップに専念できるように、新卒入社3年間は標準評価による昇給を保証している。 (2) 入社10年までのキャリア開発 研修制度では、人事部門が行なう必須研修のほか、自己選択制の専門基礎研修とTOEIC受験支援をしている。必須研修は人事部門が受講者を指定するが、専門基礎研修とTOEIC受験支援は、雇用形態(正社員、契約社員など)に関わらず、自己選択で活用できる。 専門基礎研修は関連部門の知識を修得することで、視野の拡大と部門間の連携強化を狙う。設計、開発、建設、営業、管理部門などの中堅社員が講師を担い、1講座90分、約50講座を、6月から11月の間に月5~6回、勤務時間内に開講している。2013年度は全国ライブ配信でWeb研修を行なう予定である。研修スケジュール、受講申請、受講履歴の確認は、各人が人事システム上でできる。 TOEICは会社で試験を行なうほか、受験料や通信講座の補助をしている。 この他に、入社後10年間のうちに最低1回の異動経験を前提とする。適性と希望をマッチングするため、年1回の自己申告と、随時空きポジションの公募をしている。自己申告と公募は上長を介さずに、システム上で人事部門に直接申請できる。 なお、専門基礎研修とTOEICスコアはロングランでの自助努力を促す考え方だが、おおむね入社10年目の節目となる「主任昇格試験」、その後の管理職の登用選考への反映を予定している。 2.管理職から再雇用後 (1) 管理職対象の選抜・公募型のプロジェクト研修 管理職には3つのプロジェクト型の研修を行なっている。座学(水ingビジネススクール)で経営管理スキルを学習した後(2012年度テーマはマーケティング)、各チームに分かれてテーマを探求している。これらの研修は担当役員からの推薦のほか、公募でも参加できる(自推での参加者も数名いる)。研修日のほか、情報収集・分析、ミーティングで多くの時間を費やすため、受講者、派遣部門ともに負担は大きいが、自己の培った知見を振り返り、メンバーとの共有化に資している。 なお、本研修は経営幹部育成を狙った内容であり、経営への参画意欲の確認も兼ねている。 (2) 再雇用者のミッションシート 定年後は再雇用となり、モチベーションの維持と活用が課題であった。そこで2011年8月に、(1)業務改善、(2)後進指導・技術伝承、(3)業務推進、の3側面からなる「ミッションシート」を導入し、培ったキャリアを発揮できようにしている。ミッションシートでは組織における役割・貢献内容を設定し、再雇用後も実力が発揮できる業務・課題配分をしている。その後、2012年4月に再雇用者の賃金を改善している。 前述の専門基礎研修のテキスト作成と講師、営業資料や技術資料の作成など、今まで進まなかった知見の体系化にも貢献している。 3.多様な働き方の設定 2012年4月より、アソシエイト(契約社員)と専門職を導入した。アソシエイトは1年契約で、最大2回更新の後、専門職転換に挑戦する。アソシエイトは転居がなく、特定の専門性の修得を目標とする。専門職は勤務エリアを限定した専門分野を持つ社員であり、社内転換のほか、中途採用を行なっている。なお、専門職から総合職(勤務地・職種の限定なし)への転換の道もある。 導入当初はアソイエイトの育成を管理職に委ねたが、指導が行き届かない部分もあったため、2013年度からOJTリーダーを委嘱し、専門能力向上のための指導を強化する。 <支援に対する従業員の反応、満足度等> 専門基礎研修の受講者は2011年度は延べ約1,000名、2012年度は約500名となっている(本社移転のため)。老若男女が部門、役職の壁なしに肩を並べて受講している。知識の吸収や再確認のみならず、仲間意識が醸成され、企画提案書のレベルアップや部門間での仕様検討会議の活性化が見られる。また、1単位90分という手軽さと、研修後も役立つテキストを整備した点も評価されている。とりわけ、技術系の講座については、散逸しつつあったノウハウの整理にも役立っている。 また、OJTリーダー制度では、対話と記録を重視し、3年の中期育成方針、年間育成計画、月次計画と指導実績、そして期末の習熟度を相互に確認している。当初、専門基礎研修講師、OJTリーダーの負担を本人や部門長が忌避することを懸念したが、先輩社員の責務として定着している。 今後は、配属部門からの要請があったため、新卒の契約社員(有期契約、最大更新2回まで)にもOJTリーダー制度を拡大する。 2011年度から人材育成を担う部門を新設し、研修体系と個別プログラムを全て自社で構築している。研修は自社の事業特性や課題に即した内容を目指しており、参加者や各部門からの指摘事項を踏まえて内容を充実しつつある。当社の現行研修の多くは、公募もしくは上長推薦となっているが、参加者は導入当初から定員を満たしている。従来の研修参加は受身の姿勢で、研修内容への指摘事項もほとんどなかった。しかし、新研修制度への移行後は、研修ニーズや改善点などの指摘事項が多くなり、あわせて部門単位にカスタマイズした研修依頼も増加したため、人事部門の負担は増えている。 一方、自己申告や人材公募については、人事部門へのダイレクトな申請について戸惑いがあるためか、配置転換や社外研修の受講などを申し出る従業員は小数である。 <支援による効果、成果(業績との関係など)> 当社は長らく新卒総合職採用を抑制していたが、2011年4月入社から12~15名の総合職を採用している。総合水事業会社という事業特性に加え、(1)専門基礎研修ほかの研修制度、(2)OJTリーダー制度、(3)入社から定年後再雇用までのキャリアパスの構築も相まって、生涯にわたって水分野のあらゆる知見を学習できる教育環境を整えた。学生および教員の注目度も高まり、エントリー数は8000名を数え、有力な研究室からの推薦者も入社するようになった。株式会社荏原製作所時代からの80余年の事業基盤・技術の承継はあるものの、新参企業としては望外の成果と考えている。 また、研修制度の内製化および長期プロジェクト型研修の導入により、自社の課題に即した実践的研修を行なえるようになった。2011年の長期研修のOBから40代役員を輩出するなど、次期経営層や管理職の育成、意識づけに寄与している。 業績との直接の因果関係はないが、提案書およびプレゼンテーションの質的向上(入札時の技術評価点の向上)、提案前の仕様検討会の頻度・参画度合いが高まっており、受注確保の布石になると考えている。あわせて、散逸しつつあった技術資料の体系化にも資している。 なお、研修機会は大幅に増加したが、社内人脈のネットワークや職場事例を活用することで、外部委託費は半減している。 |
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研修は本社での集合研修が主体であるため、支店などに配属されている技術系・営業系の従業員の受講は難しく、現業部門の従業員はシフト勤務のため対象外となっている。専門基礎研修は長期間のロングランにわたって受講し、管理職昇格に反映する計画であったが、2013年度中におおむね履行完了する従業員が出る一方、受講できない従業員も多い。このため2013年度からは、Web会議システムを活用し全国支店・事務所に配信するライブ研修を行なうことで、キャリア形成への不公平感を解消していく。 OJTリーダー制度は総合職に先行して導入し、2013年度からは契約社員にも適用する。今後、現業系の新卒採用者への適用拡大を課題と考えている。 また、当社は同じ企業グループであるものの、4社の出身者からなるため、未だ上長、本人ともに異動への心理的な壁がある。この点については、自己申告や公募の継続実施とあわせて、人事部門が異動後のキャリア形成に関与することで、中期的に変えていきたいと考えている。 そのほか、当社では2011年4月から一般事務職、2012年度から障がい者の契約社員の採用を進め、既に10名程度が活躍している。契約社員はおおむね入社3年目に正社員転換試験を受験するので、その際の転換前後の教育にも取り組んでいきたい。 |
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【会長奨励】 | |||||||||||||||||
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