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I はじめに
 ○終末期医療の在り方については、昭和62年以来3回にわたって、検討会が開催され、その都度報告書がとりまとめられている。このうち第2回(平成5年)、第3回(平成10年)には意識調査を実施し、その時々の調査結果や日本人の死生観、倫理観等を踏まえて検討を重ねてきた。
 ○前回報告書を取りまとめてから5年以上が経過しており、この間、医学、医療は進歩、発展するとともに、医療を取り巻く環境も大きく変化してきている。国民の医療に対する認識や意識も、大きく変わっている。
 ○本検討会では、一般国民、医師、看護職員、介護施設職員(介護老人福祉施設の介護職員をいう。以下同じ。)を対象に終末期医療に関する意識調査を実施し、平成5年、平成10年の意識調査の結果との対比のもとに終末期医療に対する国民の意識やその変化を把握し、本人の意思を尊重した望ましい終末期医療の在り方について検討を行った。
 ○平成14年10月に第1回を開催し、平成15年2月から3月にかけて意識調査を実施した後、平成16年6月までに7回にわたり検討会を行い、今般、以下のとおり、意見をとりまとめたものである。

II 意識調査の概要
 ○一般国民、医師、看護職員、介護施設職員の計13,794人(前回14,163人)を対象に意識調査を実施した。高齢化の進展に伴い、介護老人福祉施設で最期を迎える人が増えてきたため、前回の調査では対象としなかった介護施設職員を初めて対象に含めた。
 ○調査対象者の内訳は、20歳以上の一般国民5,000人(前回5,000人)、医師3,147人(前回3,104人)、看護職員3,647人(前回6,059人)、介護施設職員2,000人(前回対象とせず)であり、回収率は50.7%(前回52.0%)であった。

表  「終末期医療に関する調査」回収結果
対象者 対象施設 調査人数(人) 回収数(人) 回収率(%)
一般国民 5,000(5,000) 2,581(2,422) 51.6(48.4)
医師 3,147(3,104) 1,363(1,577) (1,577) 43.3(50.8)
病院 2,000(2,000) 714 (1,059) 35.7(53.0)
診療所 1,034(1,034) 425 (466) 41.1(45.1)
緩和ケア 113(70) 78 (52) 69.0(74.3)
その他・無回答 146
看護職員 3,647(6,059) 1,791(3,361) 49.1(55.5)
病院 2,000(4,000) 806 (2,190) 40.3(54.8)
診療所 1,034(1,034) 347 (425) 33.6(41.1)
緩和ケア 113(525) 83 (394) 73.5(75.0)
訪問看護ステーション 500(500) 314 (352) 62.8(70.4)
その他・無回答 241
介護施設職員 介護老人福祉施設 2,000 1,253 62.7
総計 13,794(14,163) 6,988(7,360) 50.7(52.0)
 注) ( )内は前回調査結果

 ○調査項目については、調査対象者の意識の変化が把握できるように、前回とほぼ同じ内容としたが、がんの末期や植物状態以外に脳血管障害や痴呆等で死を迎える高齢者も多いことから、今回の調査では、高齢者の終末期における療養の場所の項目等を新たに追加した。
 ○調査結果については別添のとおり。

III 患者に対する説明と終末期医療の在り方
 1.病名や病気の見通しに対する説明と治療方針の決定
終末期医療については、一般国民、医師、看護職員、介護施設職員の多くが、「非常に関心がある」、「まあ関心がある」と回答しており(般80%、医92%、看95%、介93%)、いずれも高い関心を持っている(P3)。また、年齢によらず、どの年齢層でも関心が高い(般75〜84%、医86〜100%、看57〜97%、介92〜100%)(P4P5)。(注:一般国民、医師、看護師、介護施設職員の回答について、それぞれ般、医、看、介と省略している。また、P_とあるのは、別添の調査結果における該当ページ。以下同じ。)
自分が治る見込みがない病気に罹患した場合に、病名や病気の見通し(治療期間、余命)について知りたいと回答した者の多くは、担当医師から直接説明を聞きたいと考えており(般92%、医98%、看98%、介96%)(P7)、医師、看護職員、介護施設職員の過半数は、治療方針の決定に当たって「患者本人の意見を聞く」、「患者本人の状況を見て誰にするか(意見を聞くか)を判断する」としている(医71%、看88%、介63%)(P10)。
このことは、病名や病気の見通しは患者本人に説明し、治療方針を決定するに際しては、患者本人の意向を中心にすることが、医療関係者の基本になっているものといえよう。
また、治療方針の決定に当たって、「患者本人の意見を聞く」と回答した者(医14%、看17%、介6%)よりも、「患者本人の状況を見て誰にするか(意見を聞くか)を判断する」と回答した者が多く(医57%、看71%、介57%)、前回までの調査よりは「患者本人の意見を聞く」が若干増加している(医5%、看1%の増)(P10)。このことは、医療関係者が、患者本人の意思決定能力、家族の状況や気持ちを踏まえて、誰に説明するのが適切かを判断して説明していることを伺わせるものである。終末期医療の現場において、患者本人に対する説明を基本におきながらも、患者本人の状況を見つつ説明する相手方を決めていく現実的な対応をとっていると考えられる。また、高齢者医療では、終末期に脳血管障害や痴呆等の疾病のため、患者にいわゆる「意思決定能力」がない場合も多く、患者本人の状況を見て誰に説明し、意見を聞くかを決定するということが現実的であることも多い。
今後は、医療は患者が選択し参加するものであるという意識が一層進むことが考えられることから、患者、その家族と医療関係者が十分に対話を行い、信頼関係を構築し、患者自身の選択や主体性が十分に尊重されるようにすることが重要であると考えられる。
また、治る見込みのない病気の病名や病気の見通し(治療期間、余命)を患者に説明するに当たっては、医師は、他の医療関係者とともに、患者の年齢、理解度、心理状態、家族や社会的な背景に配慮した上で、患者や家族の要望を踏まえ、適切な時期に、適切な方法で行う必要がある。さらに、病状説明や病気の見通しを伝えた後に、医師は看護師等他の医療関係者と協力して患者・家族の不安を軽減し、患者が病気の対処をできるように援助することも求められている。終末期医療に関わる医師、看護師等の医療関係者に対するコミュニケーションやこころのケアに関する研修・教育の充実が望まれる。
また、医療関係者は、患者に対して、病気になったときに選択する医療や生き方について、日頃から自分の意思を明らかにしてよいこと、医療関係者に遠慮せずに尋ねてよいこと等を説明する必要がある。

 2.終末期医療の在り方
自分が痛みを伴う末期状態(死期が1か月程度よりも短い期間)の患者になった場合、心臓マッサージ等の心肺蘇生措置は「やめたほうがよい」、または「やめるべきである」と回答した者が多い(般70%、医90%、看91%、介79%)(P11)。
 注)「心肺蘇生措置」とは、死が迫ったときに行われる、心臓マッサージ、気管挿管、気管切開、人工呼吸器の装着、昇圧剤の投与等の医療行為を指す。以下同じ。
また、自分が痛みを伴う末期状態(死期が6か月程度よりも短い期間)の患者になった場合には、単なる延命医療について、「やめたほうがよい」、または「やめるべきである」と回答した者も多く(般74%、医82%、看87%、介83%)(P12)、その多くは、単なる延命医療を中止するときに、「痛みをはじめとしたあらゆる苦痛を和らげることに重点をおく方法」(緩和医療)を選択し(般59%、医84%、看83%、介75%)、「あらゆる苦痛から解放され安楽になるために医師によって積極的な方法で生命を短縮させるような方法」(積極的安楽死)を選択する者は少ない(般14%、医3%、看2%、介3%)(P13)。痛みを伴う末期状態となった場合、国民は単なる延命医療をやめることには肯定的であるが、その場合でも積極的な方法で生命を短縮させる行為は許容できないというのが、国民の間でほぼ一致していると考えられる。
ただ、この点については、医師や看護師は、一般国民に比べて、苦痛を和らげることに重点を置く方法を選択する者が多く、積極的な方法で生命を短縮させるような方法を選択する割合が少なくなっていることにも留意する必要がある。
自分が治る見込みのない持続的植物状態の患者になった場合、単なる延命医療について、「やめたほうがよい」、または「やめるべきである」と回答した者が多く(般80%、医85%、看87%、介84%)(P16)、その多くは、単なる延命医療を中止するとき、「人工呼吸器等生命の維持のために特別に用いられる治療は中止して良いが、それ以外の治療(床ずれや喀痰吸引等)は続ける」と回答している(般53%、医62%、看71%、介65%)が、「一切の治療を中止してよい」とするものも少なくない(般28%、医22%、看14%、介18%)(P17)。
 注)「持続的植物状態」とは、脳幹以外の脳の機能が障害され、通常3〜6か月以上自己及び周囲に対する意識がなく、言語や身振りなどによる意思の疎通はできないが、呼吸や心臓の動き、その他内臓機能は保たれている状態をいう。以下同じ。

 3.リビング・ウィル(書面による生前の意思表示)
リビング・ウィル(書面による生前の意思表示)の考え方に「賛成する」と回答した者は、前回調査結果よりも増加して、過半数となっており(般59%(48%)、医75%(70%)、看75%(68%)、介76%、( )内は前回調査結果。以下同じ。)(P26)、書面で自分の意思を明示しておくというリビング・ウィルの考え方が国民の間に受け入れられつつあると考えられる。また、書面にする必要はないが、「患者の意思を尊重するという考え方には賛成する」者を含めると、治る見込みがなく、死期が近いときの治療方針に関し、国民の多くは、患者本人の意思を尊重することに賛成している(般84%、医88%、看89%、介87%)(P26)。
しかしながら、書面による本人の意思表示という方法について、「そのような書面が有効であるという法律を制定すべきである」とする国民は、前回調査結果よりも減少して、半数を下回っている(般37%(49%)、医48%(55%)、看44%(52%)、介38%)(P27)。
これは、法律を制定して、どのような場合でも一律に医療関係者がリビング・ウィルに従って単なる延命医療の中止などをするべきではなく、患者の意思を尊重し病状に応じて適切な判断をすることが重要であるという意識があるためではないかと考えられる。このような意識が、今回調査で選択肢が若干修正されたこととも相まって、調査結果に反映されたのではないかと推測される。(注:前回調査では、「医師がその希望を尊重して治療方針を決定する」という選択肢を、今回調査では、「法律を制定しなくても、医師が家族と相談の上その希望を尊重して治療方針を決定する」と変更した。)
今回調査の結果を見る限りは、現状においてはリビング・ウィルを法制化することに、国民の多数の賛成は得られていないとしても、リビング・ウィルという考え方には多数の国民が賛成していることから、何らかの形で自己の終末期医療について意思を表明した場合、その人の意向は尊重されることが重要であり、このような考え方が社会の大きな流れになって医療現場に定着してゆくことが大切である。

 4.患者の意思の確認
患者の意思をどのように確認するかについては、さまざまな場合に対応した、具体的方法を考える必要がある。書面のみによる方法に限定した場合、書面による意思確認ができなければ、逆に、一律に延命医療を進めるおそれもある。したがって、書面による方法は患者の意思を確認する一つの方法ではあるが、事前の意思表示の形式は一つに絞らず、書面を含めて様々な形式があって良いと考えられる。また、患者の意思は状況に応じて変化するため、意思確認は何回も繰り返し行うことが適切である。
医師をはじめとする医療関係者にとっては、患者や家族の思いを聞くことが基本である以上、患者の意思や家族の意向を的確に把握することが重要であり、これを適切に行うためのコミュニケーション技術を身につけなければならない。このための教育・研修を積極的に進めることが必要である。この場合、その是非はともかくとして、我が国では終末期において、医療関係者に対してカウンセラー的役割も期待されているという指摘もあるので、患者や家族の思いを聞くために医療関係者がコミュニケーション技術を身につける必要性はかなり高いと考えられる。
事前に患者本人の意思が確認できない場合、患者本人の代わりに、家族や後見人が治療方針などを決定する(代理人による意思表示)という考え方には、過半数の者が「それでよい」、または「そうせざるを得ない」と回答しており、肯定的である(般57%、医67%、看62%、介60%)(P31)。代理人としては配偶者を上げる者が多い(般63%、医73%、看66%、介63%)(P32)が、医師をはじめとする医療関係者は、代理人の意見の取扱いについて、十分な意見交換を踏まえて、一律に機械的に扱うのではなく、慎重に判断する必要がある。
また、医師等の医療関係者と患者との間に日頃から信頼関係が構築されていることが、終末期において、患者の意思に沿った医療の基本となる。したがって、医療関係者は患者との信頼関係を築く努力をすべきである。

 5.医療現場の悩み
終末期において、延命のための医療行為を開始しないこと(医療の不開始)や、行っている延命のための医療行為を中止すること(医療の中止)に関してどのような手順を踏むべきか、医師をはじめ医療関係者が悩むことは多く、判断基準が明らかでない。患者の意思を踏まえた個々の医療行為の是非は医療サイドの判断ではあるが、どういう手順を踏んで医療の不開始・中止を決めることが妥当なのか、どのような行為が合法なのか、医師が悩む場面は多い。この点に関する明確な社会的コンセンサスが求められている。また、近時の「安楽死」として報道された事例にも見られるように、「積極的安楽死」と「単なる延命医療の中止」との境界が、法的にかなり曖昧になってきていることも、問題の解決を一層困難なものにしているのである。なお、この場合、医療の不開始と中止の違いについては様々な議論があるが、ここでは一括して取り上げることとする。
他方では、患者本人の意思と家族のそれとが一致しているかが問題になることもある。自分が痛みを伴う末期状態の患者になった場合に「単なる延命医療はやめるべきである」という回答(般21%、医34%、看25%、介21%)に比べ、自分の患者又は家族がそのような患者になった場合に「単なる延命医療はやめるべきである」という回答(般12%、医19%、看13%、介11%)の方が少なくなっている(P12P14)。同様に、自分が持続的植物状態で治る見込みがないと診断された場合に「単なる延命医療はやめるべきである」という回答(般33%、医39%、看30%、介29%)に比べ、自分の患者又は家族がそのような患者になった場合に「単なる延命医療はやめるべきである」という回答(般15%、医17%、看9%、介9%)の方が少なくなっている(P16P18)。
このような調査結果は、患者本人は、早く苦痛から解放してほしいが、家族は単なる延命医療の継続を選択する傾向があるということを示しており、患者本人の意思と家族のそれとが必ずしも一致しないことが医療現場での葛藤を生み出していると考えられる。また、高齢者医療では家族の意向が中心となり、患者本人の意思が二次的なものとなっているという指摘がある。
終末期における望ましい医療の内容は、医師の裁量に関わるので、基本的には、専門学会、医療機関、医師会等が協力してガイドラインを作成し、その普及を図っていくことが考えられなければならない。医療の内容の問題を超えて、いかなる手続に従って医療の不開始・中止の是非を決定すべきかについても同様である。その際、国はこれらの動きに対して必要な支援を図っていくべきである。
終末期医療に対する社会的コンセンサスは今後ますます重要な課題となっていく。医療の不開始・中止、特に患者本人の意思・家族の意向をどのように確認するか、ということについて、臨床における明確なルールが求められている現実を考えるなら、医療関係者や国は、国民の理解を得る努力を重ねていかなければならない。また、それとともに法律家・生命倫理の研究者など有識者も交えた上での国民的議論が十分に尽くされ、適切な結論を得ていく必要がある。

IV 末期状態における療養場所
 ○自分が痛みを伴う末期状態(死期が6か月程度よりも短い期間)の患者になった場合、多くの一般国民は、自宅療養をした後で必要になった場合には緩和ケア病棟又は医療機関に入院する(般48%)、あるいはなるべく早く緩和ケア病棟又は医療機関に入院することを希望している(般33%)。一方、自宅で最期まで過ごしたいという人は少ない。(般11%)(P39
 ○がんの末期で痛みを伴った患者の療養に当たっては、最後の1、2か月に患者の苦痛が強くなり、患者、家族への負担が増すことが多いことから、最期まで自分らしい生活をできるよう、早い時期から、心のケアを含めた必要な医療や介護を適切に行うシステムを構築することが望ましい。
 ○例えば、(1)自宅で麻薬製剤を適正に使用して疼痛緩和ができる体制を推進する、(2)ごく短期間で在宅療養の体制がとれるようにする、(3)終末期のがん患者を対象とした通所サービスや短期入所(院)など家族の精神的、身体的負担の軽減等の対策を進める、(4)在宅での緩和ケアができる医師や看護師を確保する、(5)地域において、診療所、訪問看護ステーション、緩和ケア病棟が連携したシステムを作るといったことが実現できれば、家族の負担等も軽減され、より多くのがん患者が在宅で最期を迎えることができると期待できる。
 ○一方、自分が高齢となって、脳血管障害や痴呆等によって日常生活が困難となり、さらに、治る見込みのない疾患に侵された場合、一般国民は、病院、次いで老人ホーム、自宅で療養をすることを希望している(各々38%、25%、23%)。また、医師は、自宅、次いで介護療養型医療施設又は長期療養を目的とした病院で療養することを希望しており(各々49%、23%)、看護職員も自宅、次いで介護療養型医療施設又は長期療養を目的とした病院で療養することを希望している(各々41%、27%)。介護施設職員は自宅、次いで介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)で療養することを希望している(各々38%、26%)(P46)。
 ○いずれの場合も、自宅で療養したいのは、「住み慣れた場所で最期を迎えたい」(般62%、医66%、看65%、介70%)、「最期まで好きなように過ごしたい」(般47%、医57%、看66%、介61%)という理由が多く(P47)、自宅以外で療養したいのは、「自宅では家族の介護などの負担が大きい」、「自宅では緊急時に家族へ迷惑をかけるかもしれない」という理由が多い(般84%、医70%、看81%、介75%)(P50P51)。
 ○したがって、高齢者医療でも緊急時の対応や適切な在宅医療、介護サービスが整い、在宅療養の環境がよくなり、家族の負担等を軽減できるようになれば、病院、老人ホーム、自宅という一般国民の希望順位は変わることもあると思われる。
 ○今後は、患者が自分の状況に合わせて病院、ホスピス・緩和ケア病棟、自宅での在宅療養といった様々な体制を選択することを可能とするために、在宅医療・介護、病院、ホスピス・緩和ケア病棟が相互に補完しあって連携するという包括的な保健・医療・福祉サービス提供体制の整備が必要である。また、がんの末期のように、患者の苦痛がひどく、複雑で困難な状況にある場合は、必要に応じて緩和ケア専門家のコンサルテーションを受けられるシステム(例えば、緩和ケア専門外来)の整備も必要である。
 ○大切なのは、生活する人の視点で、安心できる医療や介護の提供体制をどのように作っていくかであり、この方向での終末期医療体制の整備が、今強く求められている。

V 癌疼痛治療法とその説明
 ○「WHO方式癌疼痛治療法」について、内容を知っている医師、看護職員の割合は、前回調査に比べて減少しており(医43%(46%)、看20%(22%))、介護施設職員の69%が、そのような治療法があることを知らないという状況である(P53)。
 ○また、モルヒネの有効性と副作用について患者にわかりやすく具体的に説明することができる医師や看護職員の割合も、前回調査に比べて減少しており(医42%(45%)、看20%(25%))、介護施設職員の59%が説明できない状況にある(P54)。ただし、この結果については、調査の対象となった緩和ケア病棟に勤務する看護職員の数が、前回調査に比べて5分の1程度になっていることに留意する必要がある。
 ○緩和ケア病棟においては、「WHO方式癌疼痛治療法」について、内容を知っている医師、看護職員の割合(医92%、看88%)は、その他の病院、診療所等(医41%、看17%)に比べて多く、モルヒネの有効性と副作用について患者にわかりやすく具体的に説明することができる医師、看護職員の割合(医97%、看76%)も、その他の病院、診療所等(医40%、看17%)に比べて多くなっている(P55)。
 ○癌性疼痛治療をはじめとする緩和ケアは、単に緩和ケア病棟に勤務する医師、看護師だけが提供するものではなく、がん医療のあらゆる領域で必要とされている。その他の病院や在宅医療で働く医師、看護師を対象に、例えば「がん緩和ケアに関するマニュアル」(厚生労働省・日本医師会監修)を活用して、WHO方式癌疼痛治療法や「モルヒネの使用」に関する知識と技術を普及させる必要がある。
 ○今後、WHO方式癌疼痛治療法を普及するに当たっては、従来行われてきた講習会だけでなく、医師、看護師が知識や技術を実践に結びつけられるような地域ごとのセミナーや症例検討会などきめ細かな研修が必要と考える。
 ○さらに、在宅患者に対するWHO方式癌疼痛治療法の普及を図るためには、麻薬等の関連法規を遵守しつつ、運搬、管理、使用、廃棄方法等の取扱い方法を医療現場に周知していくことが必要である。

VI 終末期医療体制の充実について
 ○適切な終末期医療の普及のために今後充実していくべき点として、医師、看護職員、介護施設職員は、共通して、「在宅終末期医療が行える体制づくり」、「緩和ケア病棟の設置と拡充」、「患者、家族への相談体制の充実」、「医師・看護師等医療従事者や、介護施設職員に対する、卒前・卒後教育や生涯研修の充実」を挙げている(P56P57)。
 ○このことを踏まえ、今後次のような方向に施策を進めていくことが必要である。
(1)在宅終末期医療が行える体制づくり
患者が自宅で療養しつつ、必要になれば、病院、ホスピス・緩和ケア病棟に入院できるよう、外来診療、在宅医療・介護、病院、ホスピス・緩和ケア病棟が相互に補完しあって連携するという包括的な保健・医療・福祉サービス提供体制を整備することが必要である。この場合、特に、在宅患者を訪問できる医師の確保が求められている。また、介護保険関係施設における終末期ケアも整備が求められている。
(2)緩和ケア病棟の設置と拡充
痛みを伴うがんの末期患者については、自宅で療養しつつ、必要になればホスピス・緩和ケア病棟に入院できる体制が望ましく、そのような体制の確保を推進するために緩和ケア病棟の設置と拡充が求められている。
(3)患者、家族への相談体制の充実について
終末期医療における患者、家族からの相談には、治療に関すること、精神心理面に関すること、医療機関の選択や費用に関すること、在宅療養に関することなどがある。患者や家族への相談体制としては、まず、医師と患者・家族が対面して、しっかり話をするということが基本である。しかし、患者や家族は、治療以外の問題に関して相談する相手がわからないことがあるため、相談を包括的に扱う「総合相談窓口」を設け、医師、看護師、ソーシャルワーカー、カウンセラーが適切に対応する体制を作っていくことが重要である。
(4)医師・看護師等医療従事者や、介護施設職員に対する、卒前・卒後教育や生涯研修の充実
疼痛やそれ以外の症状の緩和に必要な臨床的知識と技術、患者・家族からの相談をはじめ、患者、家族との間や医療関係者間における適切な意見交換のために必要なコミュニケーションの知識、技術の修得が求められる。
これらの知識、技術が修得できるように、卒前教育では大学医学部、看護師養成所、看護大学、介護施設職員の養成施設等において、教育カリキュラムを充実することが必要であり、卒後教育では教育研修病院、専門学会が一貫した教育カリキュラムをつくり実施する必要がある。あわせて医師会や看護協会等も生涯教育のなかで、終末期医療に係る内容を充実することが必要である。

VII おわりに
 ○本検討会では、従来からの調査との連続性という観点から、主に、痛みを伴うがんの末期患者や、治る見込みのない持続的植物状態の患者を想定して医療はどのようにあるべきかを議論し、その結果をとりまとめた。
 ○一方、がんで亡くなる人は国民の30%程度であり、高齢化が今後急速に進展していくと、がん以外に高齢になって身体が衰弱して、長期に療養生活を送った後に亡くなる人が急激に増えていくものと思われる。従って、今後は、このような人も想定した終末期医療の在り方も併せ考えて議論、検討していくことが必要である。また、終末期医療には、がん、持続的植物状態の患者、高齢者以外にも様々な課題があり、将来的には、小児や神経難病の終末期医療の在り方を含め幅広く検討が行われる必要がある。
 ○本報告書に盛り込まれた内容が、終末期医療に対する国民や医療関係者の理解を深め、終末期医療に対する社会的コンセンサスが得られるよう国民的議論を喚起させるとともに、終末期における医療提供体制の充実に寄与することを強く期待する。


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