概要情報
事件番号・通称事件名 |
京都府労委平成29年(不)第1号
大久保自動車教習所不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
会社Y(「会社」) |
命令年月日 |
平成30年7月26日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、被申立人が、申立人のA2分会に所属する組合員(以下「分会員」という。)に対し、平成28年の冬季賞与(以下「本件賞与」という。)を支給しなかったこと、被申立人の本件賞与にっいての団体交渉に係る対応が労働組合法(以下「法」という。)第7条の不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
京都府労働委員会は、被申立人に対し、分会員に対する本件賞与として基準内賃金の額に0.3を乗じた額の支給を命じ、その余の申立てを棄却した。
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命令主文 |
1 被申立人は、申立人のA2分会に所属する組合員に対し、平成28年の冬季賞与として、平成28年12月にこれらの組合員に対して支払った被申立人の賃金規程に規定する基準内賃金の額に0.3を乗じた金員及びこれに対する同月28日から支払済みまで年率6分を乗じた金員を支払わなければならない。
2 申立人のその余の申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1 被申立人が本件賞与を分会員に支給しなかったことは、法第7条1号の不利益取扱いに該当するか。(争点1)
(1) 本件賞与に係る不利益性について
被申立人は、分会員とその他指導員は賃金構成が異なり、年間所得にも大きな格差が存在するから、その他指導員のみごく少額の賞与が支給されても、分会員にとって不利益とはいえない旨主張する。
確かに、処遇全体としてみれば、分会員がその他指導員に比べ不利益を被っているとはいえないが、本件は、賞与についての不利益取扱いが問題となっている事案であり、賃金又は処遇全体としての不利益性が問題となっているわけではない。このような場合においては、まず、問題とされている個々の労働条件(本件では賞与)ごとに、その性質・目的を明らかにして比較検討を行うべきものである。
ただ、賞与について比較するとしても、分会員及びその他指導員に適用される規定は相互に大きく異なっており、まず、これらが比較可能であるかという疑問が生じる。
しかし、本件で問題とされる賞与の支給実態をみると、過去、分会員に対しては、基準内賃金等を算定基礎としてこれに支給率を乗じた額の賞与が支給されていたのと同様に、被申立人は、賞与に関する規定にかかわらず、今回もこのような支給基準を用いて賞与を支給したものと認められ、したがって、査定を行った形跡はなく、被申立人の業績のみに基づいて賞与を支給したものと判断すべきである。
そうすると、賞与に関する規定の相違は分会員とその他指導員を比較することの妨げとはならず、むしろ、上記支給基準からすればその他指導員に一律に支給された賞与が支給されなかった分会員に対する取扱いには不利益性が認められる。
(2) 被申立人の不利益取扱いの意思について
被申立人は、その他指導員への賞与の支給は、被申立人の置かれた経営状況の中で、その他指導員の労働条件を改善し、分会員の労働条件との格差を是正するために行ったものである旨主張する。
確かに、分会員とその他指導員の賃金格差の是正が、被申立人が分会員以外の従業員に対してのみ賞与を支給した理由の一つであったと認められる。
被申立人の経営環境は厳しく、将来も楽観できないと認められることからすれば、単年度の黒字があったとしても、直ちにその他指導員の賃金を引き上げることは困難と認められること、被申立人は申立人に対し、過去から継続して労働条件の見直しを申し入れているが、申立人はこれを一切受け入れようとはしておらず、また、賃金規程の一方的変更も容易ではないため、分会員の労働条件を引き下げることも困難と認められることから、次善の策として、賞与の支給を通じて賃金格差の是正を図ることには合理性があるといえなくもない。
しかしながら、本件において、賃金格差の是正が被申立人が本件賞与を不支給とした決定的理由であって、不利益取扱いの意思の推忍を覆すに足りると認められるか検討すると、不当労働行為制度の趣旨から労働組合との協議、交渉は最大限に尊重されるべきであり、特に、格差是正措置によって、賞与という個別の労働条件についてみれば分会員に不利益が生じるような今回のような事案にあっては、当該賞与支給の内容について、少なくとも事前に労働組合に説明し、協議することが求められるにもかかわらず、被申立人は、申立人に一切告げることなく、しかも、分会員の休暇中の時期に分会員以外の従業員に賞与を支給したことが認められるところ、このような被申立人の態度は、賃金格差の是正を決定的理由として本件賞与を不支給としたというものではなく、申立人を不利益に取り扱う意思の表われといわざるを得ないので、前記の推忍を覆すには足らない。
加えて、被申立人が今回の賞与支給にあたって専ら賃金格差の是正を意図していたのであれば、平成28年11月の団体交渉(以下「11月団交」という。)においてその旨を説明することもできたはずであるが、11月団交ではその他指導員の賞与の取扱いには一切言及していないこと、賃金格差是正の方法としては分会員の賃金規程の不利益変更という方法もあり得るところ、賃金規程の不利益変更は現実的には困難としても、被申立人は、賃金削減の提案を繰り返すだけで、申立人の求める資料の提示やより具体的な賃金規程の変更提案も行っておらず、どこまで賃金格差の是正について真剣に検討していたのか疑問に思わざるを得えず、むしろ、団体交渉等における言動からすれば、容易に変更に応じようとしない申立人を嫌悪していたものと推認されること等から、被申立人が、分会員に本件賞与を支給しなかったことは、不利益取扱い意思に基づく法第7条第1号の不利益取扱いと判断される。
2 本件賞与についての団体交渉に係る被申立人の対応は、法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するか。(争点2)
1月団交における会長の言動は、不適切なものを含むとはいえ、多分に偶発的なものであったと認められ、確信的に意図して行われた不誠実なものとはいえない。
1月団交において、被申立人が説明もせず、一方的に団体交渉を打ち切ったとは認められない。
被申立人は、本件回答書では、指導員の平成28年12月の平均賃金月額と平均賞与支給額しか回答しなかったことが認められるが、申立人は、本件回答書に対し、団体交渉を申し入れていないのであるから、被申立人に法第7条第2号の団体交渉拒否があったとはいえない。
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掲載文献 |
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