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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和4年(行コ)第53号
大久保自動車不当労働行為救済命令取消、不当労働行為救済命令一部取消請求控訴事件 
控訴人兼被控訴人参加人  X組合(「組合)」 
控訴人兼被控訴人参加人  株式会社Y(「会社)」 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
判決年月日  令和4年9月1日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①分会に所属する組合員に対して平成28年冬季賞与を支払わなかったことが、労働組合法(労組法)第7条第1号の不当労働行為に当たるとして、②平成28年冬季賞与についての団体交渉において、会社が不適切な言動を行ったことや交渉を一方的に打ち切ったことなどが、同条第2号の不当労働行為にあたるとして、組合が、平成29年4月3日に京都府労委に救済申立てを行った事件である。
2 初審京都府労委は、①については労組法第7条第1号の不当労働行為に該当するとして、会社に対し、基準内賃金の0.3か月分に相当する額等の金員の支払を命じ、②については棄却した。これに対し、会社、組合の双方が再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、本件各申立てをいずれも棄却した。これに対し、会社、組合の双方が東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、会社及び組合の請求をいずれも棄却した。これに対し、会社、組合の双方が東京高裁に控訴した。
5 東京高裁は、会社及び組合の控訴をいずれも棄却した。
 
判決主文  1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は、控訴人会社の控訴により生じた費用は控訴人会社の負担とし、控訴人組合の控訴により生じた費用は控訴人組合の負担とする。
 
判決の要旨  1 原審と同様、①本件冬季賞与不支給は労組法7条1号所定の不当労働行為(不利益取扱い)に該当し、②本件冬季賞与についての団体交渉に係る会社の対応は同条2号所定の不当労働行為(団交拒否)に該当せず、③本件命令における救済方法には労働委員会による裁量権の逸脱・濫用は認められず、控訴人らの各再審査申立てを棄却した本件命令に違法はないと判断する。

2 当審における当事者の補足主張に対する判断
(1) 争点1(本件冬季賞与不支給が労組法7条1号(不利益取扱い)所定の不当労働行為に当たるか否か)に関する会社の補足主張について
ア 不利益取扱いの存否について
 会社において、分会員とフリー社員では、全体としての賃金体系が相違し、一定の賃金格差が存在するとしても、賞与については、会社の業績と労働者の勤務成績又は業績に応じて支払われるとの実質的にみて同様の規程が置かれているところ、会社が、本件冬季賞与について、指導員を含むフリー社員に対しては一律支給したのに対し、分会員に対してはぞれぞれの勤務成績等を査定することなく一律不支給としたことは、同人らが労働組合の組合員であることの故をもってした不利益取扱いと強く推認される。
 これに対し、会社は、指導員を含むフリー社員を増加させ、同社員を効率的に配置した結果、人件費を削減するとともに、夜間・土日祝日教習という受講生のニーズに対応することができるようになり、営業利益が増加したのであって、分会員は、定期昇給制度に基づく高額な賃金、退職金等の既得権益の恩恵を受けており、本件冬季賞与を支給する必要性は極めて乏しかった上、会社において基本給(時間給)や諸手当の引上げにより分会員とフリー社員との賃金格差を是正するまでの経済的余裕はなく、臨時給である賞与によって業績改善に貢献したフリー社員の労に報い、インセンティブを与えることとした旨主張する。
 しかしながら、会社が上記賃金格差是正等のため、分会員の賃金引下げ以外の方策を検討したと認めるに足りる証拠はなく、会社が主張する上記事情をもってしても、分会員について、個別に勤務成績等を査定することなく、本件冬季賞与を一律不支給としたことを正当化することはできず、本件冬季賞与不支給が労働組合の組合員であることの故をもってした不利益取扱いに当たるとの上記推認は覆らない。

イ 不当労働行為意思の存否について
 会社と組合との間では、平成9年から平成13年にかけて大規模なストライキが実施されるなど対立が激化した後、大規模なストライキが実施されることはなくなったというものの、会社が求める分会員の労働条件の引下げについて妥結に至ることはなく、B会長らは、平成26年の団体交渉時や平成27年の春闘要求時にも、分会員に対し、攻撃的な発言や組合嫌悪の発言をしていたのであって、本件冬季賞与不支給までに労使間の対立が相当に激化したまま継続していたといえ、分会員への一律不支給という本件冬季賞与不支給は不当労働行為意思に基づくものであると強く推認することができる。
 また、会社は、本件冬季賞与支給に至るまで、特段フリー社員の処遇改善等を検討していたとはうかがえず、そのような状況の下、分会員については、勤務成績等を査定することなく、本件冬季賞与を一律不支給としたところ、これが不当労働行為意思に基づくものと評価することによって、会社がフリー社員の処遇改善を図ることが不可能になるとは認め難い。

ウ 以上によれば、本件冬季賞与不支給は、会社が分会員に対し労働組合の組合員であることの故をもってした不利益取扱いといえ、労組法7条1号所定の不当労働行為に当たる。

(2) 争点2(本件冬季賞与についての団体交渉に係る会社の対応が労組法7条2号(団交拒否)所定の不当労働行為に当たるか否か)に関する組合の補足主張について
ア 本件団交の打切り等について
 組合は、本件団交に際し、事前に交渉事項を示さず、B会長に対する挑発的な態度で本件団交を開始した上、多義的な文言を用いて、意図的に同じ質問や確認を繰り返すなどしたのであって、B会長の本件団交における言動にも適切さを欠く点があるものの、かかる言動は労使双方が冷静さに欠けるやり取りをし、騒然とする中で行われたものである上、B会長は、フリー指導員に本件冬季賞与を支給した理由について、分会員に比べてフリー指導員の方が頑張っていることや、フリー指導員よりも分会員の賃金の方が10万円高いことを挙げるなど一応の回答をするとともに、更なる質問や要求については改めて書面で出すよう控訴人組合に求めて本件団交を打ち切ったものであり、B会長の上記言動や本件団交の打切りが誠実交渉義務に反する団交拒否に当たるとまでは認められない。

イ 回答懈怠について
 会社は、平成28年11月10日開催の団体交渉において、組合からの賞与要求に対し、累積赤字が大きいため、労働条件の引下げ等を求めていた上、本件団交においても、B会長がフリー指導員に本件冬季賞与を支給した理由について、フリー指導員よりも分会員の賃金の方が10万円高いなどと述べていたことからすれば、本件回答書の内容は、会社の主張を踏まえた一次的な回答としては当該議題に沿ったものといえる上、組合は、本件回答書を受け取った後、平成29年4月3日に本件救済申立てをしたというものの、その間、会社に対し、本件回答書の内容について、団体交渉を申し入れたり、更なる回答を求めるなど、本件回答書の趣旨を追及するなどしていないことからすれば、会社が本件回答書において、分会指導員とフリー指導員の平成28年12月の平均賃金、フリー指導員への本件冬季賞与の平均支給額のみを回答し、フリー指導員以外のフリー社員への支給の有無について回答しなかったことをもって誠実交渉義務に反する団交拒否に当たるということはできない。

ウ 以上によれば、本件団交におけるB会長の言動や本件団交の打切り、会社による本件回答書の内容、その他本件冬季賞与についての団体交渉に係る会社の対応を総合的に評価しても、これが誠実交渉義務に反した団交拒否に当たるとまでは認められない(なお、組合は、本件団交におけるB会長の言動が労組法7条3号(支配介入)所定の不当労働行為にも該当する旨主張するところ、かかる主張は取消訴訟において新たに主張するものであり、本件命令において処分行政庁の判断を経ていない上、上記説示したところによれば、本件団交におけるB会長の言動が支配介入に当たるとは認められない。)。

(3) 争点3(救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用の有無)に関する会社及び組合の補足主張について
ア 会社の補足主張について
 会社は、フリー社員と分会員との間では、賞与支給の必要性に相違があるところ、本件命令どおりに分会員に本件冬季賞与を支給すると、分会員とフリー社員との賃金格差が更に拡大することになるのであって、仮に本件において救済命令を発令する必要があるとしても、労使自治の原則に基づき、会社に本件冬季賞与に関する再査定を命ずるべきであって、本件命令には救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用がある旨主張する。
 しかしながら、本件命令は、会社がフリー指導員16名に対し、本件冬季賞与として、平均しておおむね基準内賃金に0.3を乗じた額を支払っていることから、分会員に対する本件冬季賞与相当額としても基準内賃金に0.3を乗じた金額の支払を命じたものであるところ、継続的に上記賞与の支払を命ずるものではなく、これにより分会員とフリー社員との賃金格差が更に拡大することになるとまではいえない上、労使自治の原則から一義的に会社に本件冬季賞与に関する再査定を命ずるべきともいえず、上記命令が労働委員会の救済方法に関する裁量権を逸脱・濫用するものとは認められない。

イ 組合の補足主張について
(ァ) 組合は、本件命令が、本件冬季賞与算定の基礎に家族手当を含めなかったことには、救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用がある旨主張する。
 この点、労使間において基準内賃金と家族手当を賞与算定の基礎とすることが長期間にわたって継続した取扱いとして確立した労使慣行になっていたとまでは認められず、また、フリー社員においてはそもそも家族手当が支給されておらず、フリー指導員16名に対し、本件冬季賞与として、平均しておおむね基準内賃金に0.3を乗じた額が支払われているところ、分会員の賞与算定の基礎に家族手当を加えなかった本件命令に救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用は認められない。
(ィ) 組合は、会社には、本件冬季賞与不支給のみならず、不誠実団体交渉、団体交渉の打切り、回答懈怠の不当労働行為が認められるところ、一連の不当労働行為は、平成6年以降、相当に激化したまま継続していた労使間の対立関係の下に行われたものであり、会社によるフリー社員の積極的雇用と相候って組合の組合活動に対する著しい侵害といえ、会社に対し、本件冬季賞与の支払を命ずるのみで、ポスト・ノーティスを命じなかった本件命令には、救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用がある旨主張する。
 この点、会社には、団交拒否の不当労働行為は認められない上、本件冬季賞与に係る不利益取扱いによる分会員の経済的不利益は本件命令によって一定程度回復する上、上記不利益取扱いによって生じた組合の組合活動一般に対する侵害も相応に除去されるものと解され、上記不利益取扱いが、平成6年以降、相当に激化したまま継続していた労使間の対立関係の下に行われたものであるとしても、上記不当労働行為を周知することが今後の正常な労使関係秩序の回復に必要不可欠であるとまではいえず、会社に対し、本件冬季賞与の支払を命ずるのみで、ポスト・ノーティスを命じなかった本件命令には、救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用は認められない。

ウ 以上のとおり、本件命令には、救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用の違法もない。

3 結論
 よって、控訴人らの各再審査申立てを棄却した本件命令に違法はなく、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山口県労委平成29年(不)第1号 一部救済 平成30年7月26日
中労委平成30年(不再)第39号・第40号 棄却 令和2年9月2日
東京地裁令和2年(行ウ)第494号・令和3年(行ウ)第23号 棄却 令和4年2月2日
最高裁令和5年(行ツ)第74号・令和5年(行ヒ)第64号 上告棄却・上告不受理 令和5年5月24日
最高裁令和5年(行ヒ)第65号 上告不受理 令和5年5月24日
 
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