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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和2年(行ウ)第494号・令和3年(行ウ)第23号
大久保自動車教習所 不当労働行為救済命令取消請求事件(第1事件)、不当労働行為救済命令一部取消請求事件(第2事件)
第1事件原告兼第2事件被告参加人  株式会社X1(「会社」) 
第1事件被告参加人兼第2事件原告  X2組合(「組合」) 
第1事件被告兼第2事件被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
判決年月日  令和4年2月2日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①分会に所属する組合員に対して平成28年冬季賞与を支払わなかったことが、労働組合法(労組法)第7条第1号の不当労働行為に当たるとして、②平成28年冬季賞与についての団体交渉において、会社が不適切な言動を行ったことや交渉を一方的に打ち切ったことなどが、同条第2号の不当労働行為にあたるとして、組合が、平成29年4月3日に京都府労委に救済申立てを行った事件である。
2 初審京都府労委は、①については労組法第7条第1号の不当労働行為に該当するとして、会社に対し、基準内賃金の0.3か月分に相当する額等の金員の支払を命じ、②については棄却した。これに対し、会社、組合の双方が再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、本件各申立てをいずれも棄却した。これに対し、会社、組合の双方が東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、会社及び組合の請求をいずれも棄却した。
 
判決主文  1 原告会社及び原告組合の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じ、参加によるものも含めてこれを2分し、その1を原告会社の負担とし、その余を原告組合の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点1 本件冬季賞与不支給が労組法7条1号(不利益取扱い)所定の不当労働行為に当たるか否かについて
(1)「不利益な取扱い」の該当性について
ア 分会員とフリー社員の賞与支給基準については、いずれも、会社の規程上会社の業績と労働者の勤務成績又は業績に応じて賞与が支払われる定めがあり、会社も、両者に実質的な相違がないことは争っていない。
 それにもかかわらず、会社が、組合員でないフリー社員にのみ本件冬季賞与を支払い、分会員(組合員)には一切支払わなかったことは、組合員と非組合員とをその待遇において差別し、分会員に本件冬季賞与が支給されないという経済的不利益を与えるものにほかならないから、本件冬季賞与不支給は、分会員に対する「不利益な取扱い」(労組法7条1号)に該当するというべきである。

イ これに対し、会社は、分会員とフリー社員とでは、賃金構造及び賃金水準の差から導出される賞与支給に関する必要性等に相違があることを理由に、本件冬季賞与不支給が分会員に不利益をもたらすものではないと主張する。
 しかしながら、会社の主張する賃金構造及び賃金水準の差は、過去の労使交渉において、会社の要求に組合が応じず、分会員に係る賃金水準が維持された結果として存在するものである。一方で、労組法7条1号が、対等な立場での団体交渉の促進・擁護を目的とするものと解されることに照らせば、「不利益な取扱い」の有無については、労使交渉の結果を尊重することを前提として、本件冬季賞与について個別にその存否を検討するのが相当と解され、賞与の支給基準に実質的相違がない以上、不利益取扱いの存在を認めるほかない。会社の上記主張は採用できない。

(2) 不当労働行為意思について
ア 会社と組合との間では、平成6年に労働条件の引下げを巡るB1会長の発言や賞与の減額をきっかけとして労働争議が発生した。平成20年以降、会社は、毎年、分会員の労働条件の引下げを求めていたのに対し、原告組合が同業他社の賃金資料を求めるなどして、本件冬季賞与不支給に至るまで両者が妥結に至ったことはなかった。
 上記の状況下で、会社は、本件冬季賞与に関し、分会員とフリー社員とで支給基準に実質的な相違がないにもかかわらず、累積赤字等を理由に原告組合からの支給要求を一切拒否した一方で、フリー社員には一律これを支給したのであるから、本件冬季賞与不支給は、分会員が組合の組合員であることを理由とした不当労働行為意思に基づくことが強く推認される。 

イ これに対し、会社は、分会員とフリー社員の会社業績に対する貢献度や、賃金構造の差から導出される賞与支給に関する必要性の相違を理由に上記取扱いをしたのであって、分会員が組合の組合員であることを理由としたものではない旨主張する。

ウ しかしながら、分会員とフリー指導員の間の賃金水準の差が過去の労使交渉の結果であることに照らせば、「分会員の労働条件が優遇されている。」との会社の認識は、過去の労使交渉の結果に対する会社の不満と表裏一体の関係にあるものといわざるを得ない。これに加え、不利益取扱いの有無については、本件冬季賞与につき個別に検討すべきことを併せ考えると、会社がフリー社員の処遇改善を意図していたとしても、当該意図もまた、上記不満を背景として、分会員の処遇につき相対的に不利益をもたらす意図と表裏一体のものといわざるを得ない。

エ また、フリー社員の賞与支給に係る規定は、会社の業績と労働者の業績により賞与を支給するというものであって、会社が主張するような賃金格差を是正する、あるいはインセンティブを与える必要に応じて支給するなどとはされておらず、賃金体系全体をみても、当然に、フリー社員に対してのみ賞与によりインセンティブを与えることなどが想定されているとも解されない。
 「労働者の業績」も、単に低い賃金で就労すること自体がこれに該当するとは解し難い。また、会社が主張する分会員ないしフリー指導員の粗利益額等の全体ないし平均の比較のみを理由として、個々人の利益や勤務形態等の相違を吟味せずに、フリー指導員に対して基準内賃金に応じて一律に本件冬季賞与を支給する一方で、分会員に対しては一切支給しないなどとすることも、上記基準に沿った合理的かつ自然な取扱いとはいい難い。

オ 以上によれば、会社業績に対する貢献度や賞与支給に関する必要性の相違を理由として、本件冬季賞与に関する上記取扱いをした旨の会社の主張は採用できず、他に前記アの推認を覆す事情はうかがわれないから、本件冬季賞与不支給は、分会員が労働組合の組合員であることを理由とした不当労働行為意思に基づくものと認められる。

(3) 小括
 以上によれば、本件冬季賞与不支給は、労組法7条1号所定の「不利益な取扱い」に該当し、かつ、分会員が組合の組合員であることの「故をもって」されたものであると認められるから、本件冬季賞与不支給は、労組法7条1号(不利益取扱い)に該当する。

2 争点2 本件冬季賞与についての団体交渉に係る原告会社の対応が労組法7条2号(団交拒否)及び同条3号(支配介入)所定の不当労働行為に当たるか否か
(1) 本件団交でのB1会長の言動について
 組合は、本件団交におけるB1会長の「おまえら」などと述べた言動が、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たるとともに、同条3号の支配介入に当たると主張する。
 しかしながら、組合は、事前に交渉事項を示さなかったばかりか、B1会長に対し、団体交渉を申し入れた趣旨は分かっているかという挑発的とも取れる態度で本件団交を開始した上、「上の人」という多義的な用語を使い、意図的に同じ質問や確認などを繰り返した後に、「上」とはフリー指導員である旨その意味を明らかにしたものであって、B1会長の言動は、このような組合の態度対応に触発され、また、労使双方が冷静さに欠けるやり取りの中でされたものであるから、なお、誠実交渉義務違反として団体交渉拒否に当たるとか、組合の自主的運営、活動を妨害するものとして支配介入に当たるとまでいうことはできない。

(2) 本件団交の打切りについて
 組合は、B1会長が、フリー指導員に本件冬季賞与を支給した理由を尋ねられても回答せずに質問を書面で出すよう繰り返し、交渉を打ち切った行為が、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たると主張する。
 しかしながら、本件団交において、B1会長は上記理由を尋ねられ、分会員よりもフリー指導員の方が頑張っている、フリー指導員よりも分会員の賃金が10万円高い旨述べるなどしており、その理由について全く回答していなかったものではなかった。本件団交では、労使双方が騒然とする中でやり取りが行われていたことに照らせば、質問や要求を改めて書面で出すよう求めたとしても直ちに不相当なものではなく、実際にその後も、本件回答書等により団体交渉が継続されていたといえることからすると、B1会長は、団体交渉を正常化するために一旦本件団交を打ち切ったにすぎず、これが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえない。

(3) 本件回答書の記載について
 組合は、本件回答書が、事務員及び送迎職員に対する賞与の支給の有無やその範囲について全く回答しないものであり、労組法7条2号の団体交渉拒否に該当すると主張する。
 しかしながら、本件団交においては、主として本件冬季賞与支給に関して分会員とフリー指導員の相違が取り上げられ、これに引き続く本件回答書において、業務内容をほぼ同じくする両者の平均賃金の相違及びフリー指導員16名に対する本件冬季賞与の平均額を回答したことは、会社の立場からすれば、一応本件団交の議題に沿ったものといえる。これに対し、組合が更なる回答を求めたにもかかわらず、会社がこれを拒んだなどの事情はなく、本件回答書上も、これによって団体交渉を打ち切る意思まではうかがわれない。本件回答書において、フリー指導員以外のフリー社員に対する本件冬季賞与の支給の有無等を回答しなかった一事をもって、直ちに正当な理由なく組合との団体交渉を拒否したと評価することはできない。

(4) 組合の主張(一連一体の不当労働行為)について
 組合は、事前に交渉事項を示さずとも本件冬季賞与不支給が本件団交の議題であることは会社も承知しており、本件団交の眼目は、フリー指導員だけでなく、フリー社員全員に本件冬季賞与が支給されたか否かの事実確認であったにもかかわらず、B1会長は虚偽の発言の他、暴言等を繰り返し、回答を避けるために本件団交を打ち切り、本件回答書でもその回答を回避したのであり、これらの交渉過程の全体に照らして総合的に評価すれば、本件冬季賞与不支給が不当労働行為であることを隠蔽する目的でなされた一連一体の不当労働行為である旨主張する。
 しかしながら、本件団交につき組合が交渉事項を事前に特定していない以上、B1会長としては、本件冬季賞与が話題となることを事前に予想していたとしても、具体的な質問事項については組合の発言から認識し、これを前提として回答するほかない。この点で、「上の人」との表現は、分会員の間においてフリー指導員を指すものとして認職されていたとしても、客観的に、上司等と混同する可能性のあるミスリーディングな表現であることは明らかであり、発言者であるA1委員長において、この点につき認識していなかったものとも考え難い。
 一方で、B1会長は、A1委員長が「上の人」の意義につき明示する前に、フリー指導員に対する本件冬季賞与の支給につき回答しているなど、B1会長において、本件団交に際し、支給の範囲につき虚偽の回答をする意図を有していたものとは認め難い。B1会長がフリー社員ではない役員を念頭に置いて上記回答をした可能性や、事前通告のない質問(「上の人」)に対して、質問内容を誤認するとともに、回答内容(上司に対する支給の有無)についても誤認した可能性は否定できず、組合の上記主張は採用できない。
 以上によれば、本件団交に係る一連の経緯を総合的に評価しても、会社の対応が、本件冬季賞与不支給が不当労働行為であることを隠蔽する目的でなされた一連一体の不当労働行為であるということはできず、組合の主張は採用できない。

3 争点3 救済方法に関する裁量権の逸脱、濫用の有無について
(1)本件冬期賞与の支給について
 本件命令は、会社がフリー指導員16名に支払われた本件冬季賞与が、平均しておおむね基準内賃金に0.3を乗じた額が支払われていることを根拠として、分会員に対する本件冬季賞与相当額として基準内賃金に0.3を乗じた金額の支払いを命じることを相当としたものである。
 組合は、会社においては、分会員に賞与を支払うに際し、基準内賃金と家族手当を合計した金額を賞与計算の基礎賃金とすることが労使慣行となっていたとして、基準内賃金と家族手当を算定の基礎とすべきである旨主張する。
 しかし、分会員に賞与を支払うに際し、基準内賃金と家族手当を合計した金額を賞与計算の基礎賃金とすることが、長期間にわたって継続した取扱いとして確立した労使慣行となっていたとまで認めることはできず、家族手当を算定基礎に加えることが救済命令制度の趣旨、目的に照らして必要不可欠であるとまではいえない。
 また、組合は、フリー社員にはそもそも家族手当が支給されていないところ、そのような扱いは不当な待遇に当たり、かかる待遇を前提として賞与の支給基準を判断することは、不当な待遇を肯定することになる旨主張し、他方、会社は、本件命令に従い、分会員に対し、各人の基準内賃金に0.3を乗じた額を賞与として支給するとフリー社員より多額の賞与を支給することになり、分会員とフリー社員との間の賃金格差を助長することなる旨主張し、いずれも、分会員とフリー社員との間で従前から続く待遇の格差を問題とするものと解される。
 しかしながら、労組法27条の救済命令制度は、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を同命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るなどの趣旨で設けられたものであって、不当労働行為以前から生じていたような待遇格差を直接是正するためのものではなく、これらは、正常な集団的労使関係秩序の下における団体交渉等によって解決されるべき問題である。
 したがって、本件冬季賞与不支給に対する救済方法において、上記待遇の格差を考慮することが相当であるとはいえず、いずれの主張も採用できない。

(2) ポスト・ノーティスについて
 本件において不当労働行為であると認められるのは本件冬季賞与不支給のみであり、分会員に与える経済的不利益の程度は、おおむね平成28年12月の基準内賃金月額の3割に相当する範囲にとどまると解され、本件命令によってその経済的不利益は回復され、これによって組合の活動一般に対する侵害も相応に除去されると考えられることに照らせば、更にポスト・ノーティスを命じることが救済命令制度の趣旨、目的に照らして必要不可欠であるとまではいえず、原告組合の主張は採用できない。

(3) 小括
 以上によれば、救済方法に関する労働委員会の裁量権の行使が前記救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるとはいえない。

4 総括
 以上のとおり、本件冬季賞与の不支給は労組法7条1号の不利益取扱いに該当し、不当労働行為が成立する。他方、本件団交におけるB1会長の言動を含め、本件団交に係る会社の対応が、労組法7条2号及び3号の不当労働行為に該当すると認めることはできない。
 そうすると、本件冬季賞与不支給について労組法7条1号の不当労働行為が成立するとした本件命令の判断は正当であり、本件命令の救済方法にも裁量権の逸脱濫用はないから、本件命令に取り消すべき違法はない。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
京都府労委平成29年(不)第1号 一部救済 平成30年7月26日
中労委平成30年(不再)第39号・第40号 棄却 令和2年9月2日
東京高裁令和4年(行コ)第53号 棄却 令和4年9月1日
最高裁令和5年(行ツ)第74号・令和5年(行ヒ)第64号 上告棄却・上告不受理 令和5年5月24日
最高裁令和5年(行ヒ)第65号 上告不受理 令和5年5月24日
 
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