概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委平成27年(不再)第1号
東急バス(審査再開)不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y株式会社(「会社」) |
再審査被申立人 |
X |
命令年月日 |
平成28年3月16日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、中労委が組合員Xについては不当労働行為が成立しないと判断し、不当労働行為の成立を認めて金銭的救済等を命じた東京都労委の初審命令を取り消したものの、東京地裁が改めて不当労働行為の成立を認めるとともに中労委においてXの具体的な救済方法を定めるべきであると判断して上記中労委命令を取り消し、この判決が確定したことから、中労委が審査を再開した事件である。 |
命令主文の要旨 |
1 会社は、バス乗務員に対し残業扱いとなる乗務(増務)を割り当てるに当たり、組合の組合員Xに対して、他の乗務員と差別して取り扱ってはならない。
2 会社は、Xに対し、54万4040円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済に至るまで年5分を乗じた金額を支払わなければならない。 |
判断の要旨 |
1 改めてXへの増務割当てに関する不当労働行為の成否を争えるか
中労委命令を取り消す判決が確定し、労働委員会が当該事件の審査を再開して命令を出す際には、上記判決の拘束力が及び、これに抵触する認定判断をすることはできない(行政事件訴訟法第33条第1項・第2項、労働委員会規則第48条・第56条第1項)。
したがって、当事者が上記判決に抵触する認定判断を当委員会に求めることは許されない。
また、当事者には、労働委員会における審査及び取消訴訟における審理を通じて十分な主張立証の機会が与えられており、主張立証が尽くされたうえで上記判決が確定しているのであるから、この認定判断を蒸し返すことは、信義則に反する。 2 Xに対する救済方法について
中労委命令で金銭的救済を受けた組合員8名の増務割当差別による不利益分の算定に当たっては、基準時点前の月平均増務時間数から本件審査対象期間における月平均増務時間数を差し引いた時間数を用い、その時間数が13時間を超える場合は13時間とすることとしており、この算定方法については、東京地裁判決においても是認されている。
他方、Xには、Xの基準時点前の増務実績がないことから、上記方式では、直ちにXへの増務割当差別による不利益分を算出することができない。
しかし、上記方式の考え方は、増務割当差別がなかったならば月平均増務時間となったであろう時間数を基準時前増務実績から推計し、それと本件審査対象期間における増務実績との差(ただし、上限を13時間とする。)を不利益分として算出するものであるから、もともと不利益分の算出に推計値が使われており、他の方法によってXの基準時点前の増務実績、すなわち、差別がなかった場合のXの増務時間を推計することが否定されるものではない。
ところで、組合員8名の差別状況下における増務実績はそれぞれ異なっていることから、Xが在籍する荏原営業所における乗務員の平均増務時間である13時間を、直ちに、差別がなかった場合のXの増務時間とみなすことは相当ではない。
そこで、Xに関しては、組合員8名それぞれの本件審査対象期間における平均増務時間(B)を基準時点前の平均増務時間(A)で除して算出した減少割合(B/A)の平均値((B/Aの合計)÷8)(以下、「本件減少割合」という。)程度の増務割当差別を受けたものと認めるのが相当である。
すなわち、Xの本件審査対象期間の増務割当てにおいては、本件減少割合と同程度の差別が行われたものとみて、差別がなかった場合のXの増務時間を、Xの本件審査対象期間の増務実績からこれを割り戻して算出し、これとXの本件審査対象期間の増務実績との差に相当する不利益分についての金銭及びこれに係る年5分の金銭の支払を命じることが相当である。
具体的には、関係各証拠から算出された本件減少割合が0.39であるところ、Xの本件審査対象期間の増務実績の平均は4.3時間であるから、本件減少割合で割り戻すと、Xの基準時点前の推定平均増務時間は11.0時間となる。
この推定平均増務時間の11.0時間とXの本件審査対象期間平均増務実績の4.3時間との差である6.7時間を、Xが本件審査対象期間中に毎月差別を受けた平均増務時間とみなし、これに相当する金銭54万4040円(Xの増務時間単価2900円×6.7時間×28か月)及びこれに係る初審命令交付日である20年10月1日から支払済に至るまでの間の年5分を乗じた金銭を支払うよう命じることが相当である。 |
掲載文献 |
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