労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東急バス 
事件番号  東京高裁平成24年(行コ)第93号  
控訴人   東急バス株式会社  
被控訴人   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被控訴人補助参加人   個人8名
全労協全国一般東京労働組合  
判決年月日  平成24年10月3日  
判決区分  棄却  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 会社が、①組合員13名に対して、残業扱いとなる乗務(以下 「増務」という。)の割当てに当たって、他の乗務員との間で差別的な取扱いを行ったこと、②平成17年度に組合員2名を15 年無事故表彰から外したことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、増務の割当てに当たって、会社が組合員13名のうち12名に対して行った行為は不当労働行為に当たる と認定し、会社に対して、①増務の割当てに関する差別の禁止、②組合員9名に対するバックペイ、③文書の交付・掲示を命じ、 組合員2名について1年を経過した事実に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令主文のうち、組合員3名に係る救済申立てを認容 した部分を取り消す等の一部変更を行い、その余の申立てを棄却した。
 会社及び組合らは、これを不服として、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、中労委命令を一部取り消し た(組合員1名について、初審命令を取り消し救済申立てを棄却した中労委命令を、さらに取り消した。)。
 本件は、これを不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、控訴人の〔原審〕甲事件請求は理由がないものと判 断する。その理由は、原判決を補正し、追加の判断を加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」記載の とおりであるから、これを引用する(ただし、〔原審〕乙事件請求の〔組合員4名〕に関する判断部分を除く。)。
2 追加判断
(1) 差別的な増務割当てが不可能であるとの点について
 会社は、組合員の増務時間の実情が差別割当て以外の原因によるものであり、増務割当ての仕組みから、会社が組合員の増務割 当てを意図的に調整することは客観的に不可能であると主張する。
 しかし、①必然的かつ常態的に相当時間の増務が生じ、会社は、これを乗務員の労働時間管理という観点から割り当てなければ ならない状況にあるところ、Z組合の組合員と組合員との残業時間には有意な格差が認められること、②組合員らは、残業(増 務)を希望して営業所長等に申し入れをしているのに対し、営業所長らは、最終的に残業を決める権限がありながら、組合加盟を 理由に割り当てしないとか、本社の指示で増務はさせられない旨述べるなどして応じていないことによれば、配車係が具体的に増 務の割当てをする際、本社又は上層部の意向に沿って、何らかの意図的・人為的操作をしたと推認され、この推認を覆すに足りる 証拠はない。
 会社においては、乗務員のうちに自ら増務を希望しない者に対しては増務を割り当てておらず、配車係が頼みやすい人に頼むと いう実情も存在するから、増務割当てを意図的に増減することは現実にも可能であったと認められる。
(2) 不利益変更禁止違反(中労委命令のバックペイが、組合員2名につき初審命令の額を超えるとの点)について
 初審命令と中労委命令とを比較すると、組合及び組合員は、初審命令のバックペイの金額につき、不服を申し立てていないの に、中労委命令は、組合員A及びBにつき、バックペイの元本金額につき初審命令を超える金員の支払を命じている。
 しかし、初審命令と中労委命令とでは、遅延損害金の起算日が異なっており〔初審命令では各支給日の翌日、中労委命令では平 成20年10月1日〕、初審命令では平成20年9月30日時点でAにつき7万6718円、Bにつき1万6503円の遅延損害 金が発生していることになる。したがって、平成20年9月30日時点での元利合計金額は、中労委命令よりも初審命令の方が高 く、その差額はAにつき6万8938円、Bにつき8703円である。
 他方、平成20年10月1日以降毎年発生する遅延損害金は、初審命令より中労委命令の方が高く、その差額はAにつき年 389円、Bにつき年390円である。したがって、毎年この額ずつ、初審命令の元利合計と中労委命令の元利合計の差額は減少 していくことになり、Aにつき約177年、Bにつき約22年が経過すると中労委命令の方が初審命令を超えることとなる。
 以上によれば、中労委命令の元利金が初審命令の元利金を上回るのは遠い将来のことであり、その間、支払がされないことは通 常考えられないことからみて、中労委命令の認容するバックペイの金額は、実質的にみて、初審命令を上回るものではない。
(3) 組合間差別の認定について
 会社は、組合間差別の存在を認定するについては、具体的、個別的に認定する手法を採るべきであるのに、原判決及び中労委命 令はこれを採用せず、結果としての残業時間の平均値の比較のみに終始していると主張する。
 しかし、会社は、従業員の勤務時間の管理を行っていたから、組合員各自の残業命令時間及び実際の残業時間はもちろん、これ に対応するZ労組の組合員の残業時間等を立証することは可能であるところ、労働委員会でも、原審でも、残業時間管理の詳細が 分かる証拠は提出しておらず、また、具体的に中労委命令と異なった算定をすべき旨の主張も立証も行っていない。
 本件では、残業時間において、組合員らと全体の乗務員との間に不自然で有意な格差が認められ、また、営業所長らが、増務を 希望する組合員らに対し、本社の指示で増務はさせられない旨述べるなど、会社の差別的意図の存在を推認させる言動をしている ことが認められるから、会社が組合差別の意図に基づいて、組合員らに増務割当てをせず、あるいはこれを調節していたことは十 分推認し得るものと判断される。
 他方、会社は、増務実績に格差があることについて、具体的な事実をもって反証せず、また、それが不可避的であるとか、合理 的であることにつき、説明もできていないから、本件につき、不当労働行為が成立するとした原判決及び中労委命令に何ら違法な 点はない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成17年(不)第102号 一部救済 平成20年9月2日
中労委平成20年(不再)第38号 一部変更 平成21年12月2日
東京地裁平成22年(行ウ)第57・200号併 合 一部取消・自判 平成24年1月27日
最高裁平成25年(行ヒ)第29号 不受理 平成26年12月16日
中労委平成27年(不再)第1号 一部変更 平成28年3月16日
 
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