労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東急バス 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第57号(甲事件)・第200号(乙事件) 
甲事件原告・乙事件被告補助参加人  東急バス株式会社 
乙事件原告・甲事件被告補助参加人  個人8名
全労協全国一般東京労働組合 
乙事件原告  個人5名 
甲事件被告・乙事件被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
判決年月日  平成24年1月27日 
判決区分  一部取消 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社が、①組合員13名に対して、残業扱いとなる乗務(以下「増務」という。)の割当てに当たって、他の乗務員との間で差別的な取扱いを行ったこと、②平成17年度に組合員2名を15年無事故表彰から外したことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、増務の割当てに当たって、会社が組合員13名のうち12名に対して行った行為は不当労働行為に当たると認定し、会社に対して、①増務の割当てに関する差別の禁止、②組合員9名に対するバックペイ、③文書の交付・掲示を命じ、組合員2名について1年を経過した事実に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令主文のうち、組合員3名に係る救済申立てを認容した部分を取り消す等の一部変更を行い、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社及び組合らがそれぞれ東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、中労委命令を一部取り消した。
判決主文  1 中労委が平成20年(不再)第38号事件について平成21年12月2日付けでした命令中、主文第1項のうち次の部分を取り消す。
 初審命令主文のうち再審査被申立人であり乙事件原告でもあるX1に係る救済申立てを認容した部分を取り消し、同人の救済申立てを棄却した部分。
2 甲事件原告・乙事件被告補助参加人の請求を棄却する。
3 乙事件原告・甲事件被告補助参加人ら及び乙事件原告ら(乙事件原告X1を除く。)の各請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、甲事件・乙事件を通じて全体を28分し、その14を甲事件原告・乙事件被告補助参加人の負担とし、その13を乙事件原告・甲事件被告補助参加人ら及び乙事件原告ら(X1を除く。)の負担とし、その余を被告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件救済命令申立ては二重申立てとして違法であるか(争点1)
 不当労働行為審査手続の審査対象は、不当労働行為の事実の有無であると解されるところ、組合員X1ら6名に関する申立事実たる不当労働行為は、前件救済命令申立てでは平成17年2月までの増務割当差別であり、本件救済命令申立てでは同年3月以降の増務割当差別であると解される。また、組合員7名に係る増務割当差別は、本件救済命令申立てで初めて問題とされ、前件救済命令申立ての対象となっていなかった。そして、組合らは、会社が、前件初審命令後も増務割当てに関する取扱いを改めないとして本件救済申立てを行ったものであり、現に増務割当てに関する組合差別の状況に変化はなかったから、組合らの救済申立てを求める利益は失われていない。
 このように、前件救済命令申立て及び本件救済命令申立ては、審査対象を異にする上、いまだ組合らの救済命令申立ての利益が存する。
2 増務割当差別による不利益取扱い(労組法7条1号)、支配介入(同条3号)の不当労働行為の成否(争点2)
(1) 組合員X2からX7まで
 ①X2からX7までが増務を希望しているにもかかわらず、組合加入の直後ないしその後程なく増務時間に有意な減少傾向や乗務員全体の平均との有意な格差が認められることは不自然というべきであり、②上記6名については、会社が組合を嫌悪し、組合に所属するが故に増務をさせられないという趣旨の言動をするなど、会社の差別的意図を推認させる状況も認められ、③組合と会社間では激しい労使対立が存在し、その後も不当労働行為救済申立事件や民事訴訟事件等が継続的に提起されるなど、その状況が継続してきたことが認められる。
 以上の事情に照らすと、会社の上記組合員ら6名に対する取扱いは、十分な増務をさせないことによりその生計に打撃を与え、組合の弱体化を図ることに目的があると推認され、組合を嫌悪した不利益取扱いであり、支配介入でもあると認められる。
(2) 組合員X8及びX9
 ①X8及びX9が増務の割当てを希望していたにもかかわらず、組合加入後、増務割当時間数に有意な減少や乗務員全体の平均との有意な格差が認められることは不自然というべきであり、②会社と組合間に激しい労使対立が存在し、その後もその状況が継続してきたことが認められることを考慮すれば、会社の上記両名に対する取扱いは、十分な増務をさせないことによりその生計に打撃を与え、組合の弱体化を図ることに目的があると推認され、組合を嫌悪した不利益取扱いであり、支配介入でもあると認められる。
 上記両名には、会社の職制が、組合を嫌悪する内容の発言をした事実は認められないものの、会社が組合を嫌悪し弱体化を図っていたことは、会社の職制の他の組合員らに対する発言をもって十分に立証されている。
(3) 組合員X10
 X10については、組合加入前の増務実績の立証は十分でなく、同加入により増務時間が減少したかは明らかではないものの、①増務の割当てを希望していたにもかかわらず、同加入後の増務時間は、いずれも1か月1桁台の時間に止まるなど、乗務員全体の平均との有意な格差が認められることは不自然というべきであり、②X10が増務の割当てを申し出たのに対し、会社の職制が拒む旨の言動をするなど、会社の差別的意図を推認させる状況も認められ、③会社と組合間に激しい労使対立が存在し、その後もその状況が継続してきたことが認められることを考慮すれば、会社のX10に対する取扱いは、十分な増務をさせないことによりその生計に打撃を与え、組合の弱体化を図ることに目的があると推認され、組合を嫌悪した不利益取扱いであり、支配介入でもあると認められる。
(4) 組合員X1
 X1については、12年11月に組合加入後もしばらくの間増務の割当てを希望しておらず、組合加入前後で増務時間の減少は認められないが、①13年1月ころ増務の割当てを希望したが、会社から拒まれており、増務の割当てを希望していたにもかかわらず、大半が1か月1桁台の増務時間に止まり、乗務員全体の平均との有意な格差が認められることは不自然というべきであり、②X1が、13年1月ころ及び16年11月ころ、増務の割当てを申し出ているのに対し、会社の職制が拒む旨の言動を繰り返しており、その拒絶の態様に照らしても、X1が組合に属していることがその動機であることは明らかで、会社の差別的意図を推認させる状況も認められ、③X1は、20年4月ころにも、増務の割当てを申し出ているのに対し、会社の職制は本社がまだ許していない旨の言動をし、会社は、本件審査対象期間の前後に、X1に対する増務の割当てを拒否しており、継続的な不当労働行為意思の存在が認められ、④会社と組合間に激しい労使対立が存在し、その後もその状況が継続してきたことが認められることを考慮すれば、会社のX1に対する取扱いは、十分な増務をさせないことによりその生計に打撃を与え、組合の弱体化を図ることに目的があると推認され、組合を嫌悪した不利益取扱いであり、支配介入でもあると認められる。
(5) 組合員X11及びX12
 ①X11及びX12は、従前から増務の割当てを希望しておらず、組合加入後も同様で、前件初審命令が発令されたのを機に、団体交渉に関する要求書に増務希望者として名を連ねているが、上記両名が、上記要求書のほかに、具体的に増務割当てを要求した形跡はなく、②X11は、上記要求書提出前から数時間程度の増務を行っており、同書面提出後も同程度の時間数の増務を行っているし、X12も、同書面提出前に増務の実績はなく、同書面提出後に月に数時間の増務を行うようになったことが認められる。
 すると、組合と会社間の対立状況等を考慮するとしても、X11及びX12につき、本件審査対象期間中の増務割当てが、直ちに会社が意図的に増務を割り当てない結果であると推認するのは相当でなく、不利益取扱いないし支配介入の不当労働行為が成立するとはいえない。
(6) 小括
 以上のとおり、X2からX10までに対する増務割当ての差別的取扱いが不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に当たり、X11及びX12に対する取扱いは不当労働行為に当たらないと判断した本件中労委命令に違法はない。
 他方、本件中労委命令が、X1に係る部分について不当労働行為に当たらないと判断した点には、事実誤認の違法があるから、取り消されるべきであり、中労委は、改めてX1に係る部分について、具体的な救済方法を定めるべきである。
 なお、組合らは、本件中労委命令のうち、X13に係る再審査申立てを却下した部分についても違法と主張する。しかし、X13に係る部分について救済申立てを棄却する部分を含む本件初審命令については、会社のみが再審査申立てを行った(組合らは再審査を申し立てていない。)が、中労委は、X13に係る部分につき、再審査で判断するに及ばないとして、再審査申立てを却下したのであって、本件中労委命令に違法はない。
3 救済方法の相当性(争点3)
(1) 差別的取扱いの禁止(主文4項)について
 ア 本件中労委命令は、組合員ら(X1、X11及びX12を除く。)に対する差別的取扱いの禁止を命じた本件初審命令を維持したが、組合員らの増務割当て等の状況及びそれに関する職制等の言動等や前件初審命令後も同様の差別的取扱いが継続していること等にかんがみれば、改めて差別的取扱いの禁止を命じる高度の必要性が認められるから、かかる救済方法を定めること自体に裁量の逸脱・濫用があるとは認められない。
 イ 不当労働行為が将来再び繰り返されるおそれが多分にあると認められる場合は、過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会はあらかじめこれを禁止する不作為命令を発することを妨げないと解される。
 その不作為命令の特定性の程度は、罰則で強制される以上、ある程度具体的に示されるべきであるが、あまり厳格に要求することは、将来の不当労働行為の予防という観点に照らし合目的的とはいえないから、労働委員会に相当の裁量がある。本件では、組合員らを他の乗務員と増務割当てに関し差別して取り扱ってはならないことは、通常人にも理解可能な内容といえ、会社が、増務割当時の取扱いの合理性を確保し、各組合の増務時間数の相当程度の均衡を確認し調整を行えば、同主文の履行は可能であるから、本件差別禁止条項における不作為命令の特定の程度は相当であり、本件中労委命令が、労働委員会に与えられた裁量を逸脱・濫用しているとは認められない。
(2) 不利益分の金員支払(主文2項の2)について
 ア 不利益変更禁止の主張について
 会社は、会社のみが再審査を申し立てているにもかかわらず、本件中労委命令では、X4及びX9の金員支払額が会社に不利益に変更され、労働委員会規則55条(1項)ただし書に違反すると主張する。
 しかし、X4及びX9について、本件初審命令は、各月の支払額及びこれに対する各支給日の翌日からそれぞれの支払日まで、年5分の割合による金員を付加して支払わなければならないとし、他方で、本件中労委命令は、合計額欄の金額及びこれらに20年10月1日から支払済みに至るまで年5分を乗じた金額を支払わなければならないとし、いずれの場合も、各月の支払額又は合計額に年5分の割合による金員を付加して支払う必要があるところ、付加して支払う金員については、発生すべき起算点が、各支払日(17年3月ころから19年6月ころまでの間)か、20年10月1日かで異なり、すると、今後極めて遠い将来に至るまでの間、本件中労委命令が支払を命じた額は、本件初審命令が支払を命じた額を超えるものではないこととなる。
 よって、金員支払額は会社に不利益に変更されているものではなく、会社の主張は、付加して支払うべき額を考慮しない主張であって、失当である。
 イ 二重命令の主張について
 会社は、関連事件判決で、増務差別に関し支払を命じられ支払ったから、本件で増務差別の不利益分の支払を命じるのは二重命令であり、違法である旨主張する。
 しかし、関連事件で上記支払を求めていた者は、組合であって、組合員らではないし、関連事件で認定された不法行為は、増務差別のほか、組合脱退勧奨、郵便物の取扱いに関する差別も含まれているから、賠償金全額を増務差別のみに関するものとはいえず、会社の主張は前提を欠く。したがって、関連事件の増務差別等に関する賠償は、本件と同一の訴訟物に関するものとはいえず、二重命令をいう会社の主張は、失当である。
 ウ 算定方法について
 本件中労委命令は、組合員らの増務割当差別による不利益分の算定に当たり、①基本的には、各人の差別開始時点の前の月平均増務時間数から本件審査対象期間の月平均増務時間数を差し引いた数字を用いることとし、②例外的に、従前長時間の増務を行っていた組合員に対し、その長時間の増務の水準を保障すべきとはいえないから、営業所の乗務員1人当たりの月平均増務時間数13時間を超える時間についてまで、差別により失った増務時間とみるのは相当でないとして、前記①より13時間が低い場合は、これによるとしている。
 上記算定方法は、不確定な要素を含む中で、諸般の事情を可能な限り考慮することで、増務差別による不利益分を合理的に算出しようとしたもので、適切かつ妥当といえる。したがって、上記算定方法に従い、X2からX9までに対する金員の支払を命じ、X10に対する金員の支払を命じなかった本件中労委命令は、妥当かつ適切と認められ、かかる算定方法を採用すること自体に裁量の逸脱・濫用があるとは認められない。
(3) 文書の交付及び掲示(主文2項の3)について
 本件差別的取扱いの態様、会社と組合との関係性、今後の労使関係の見通し等の諸事情によれば、かかる救済方法を定めることに裁量の逸脱・濫用があるとは認められないから、本件中労委命令に、労働委員会の裁量権の逸脱や濫用は認められず、違法とは認められない。
(4) 小括
 したがって、本件中労委命令の定める救済方法は相当で、裁量の逸脱・濫用があるとは認められない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成17年(不)第102号 一部救済 平成20年9月2日
中労委平成20年(不再)第38号 一部変更 平成21年12月2日
東京高裁平成24年(行コ)第93号 棄却 平成24年10月3日
最高裁平成25年(行ヒ)第29号 不受理 平成26年12月16日
中労委平成27年(不再)第1号 一部変更 平成28年3月16日
 
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