事件名 |
大阪市(チェック・オフ廃止)外1件 |
事件番号 |
中労委平成26年(不再)第15号・16号 |
再審査申立人(第15号) |
大阪市(大阪市水道局(市水道局)も含めて「市ら」) |
再審査申立人(第16号) |
市水道局 |
再審査被申立人 |
総称して、「組合ら」 |
再審査被申立人(第15号) |
大阪市従業員労働組合(「市従」) |
再審査被申立人(第15号) |
大阪市学校職員労働組合(「学職労」) |
再審査被申立人(第15号) |
大阪市学校給食調理員労働組合(「学給労」) |
再審査被申立人(第16号) |
大阪市水道労働組合(水労) |
命令年月日 |
平成27年11月18日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事案概要 |
1 本件は、市らによる次の行為がそれぞれ不当労働行為に当たると
して、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
(1)大阪府労委平成24年(不)第24号事件(第15号事件)
ア 市が、平成24年2月29日、市従に対し、平成19年4月1日付け「給与の一部控除に関する協定書」から組合費の項
目を削除し、組合費の控除について平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
イ 市が、平成24年3月6日、学職労に対し、昭和55年4月1日付け「協定書」を継続せず、組合費の控除について平成
25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
ウ 市が、平成24年3月9日、学給労に対し、昭和55年4月1日付け「協定書」を継続せず、組合費の控除について平成
25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
(2) 大阪府労委平成24年(不)第65号事件(第16号事件)
市水道局が、平成24年2月29日、水労に対し、昭和40年7月31日付け「賃金の一部控除に関する協定」から労働組合費
の項目を削除し、組合費の控除について平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと(前記(1)の3つ
の通告と併せて「本件通告」)。
2 初審の大阪府労委は、本件通告は、市らによる労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、市らに各通告がなかった
ものとしての取扱い及び文書手交をそれぞれ命じたところ、市らは、これを不服としてそれぞれ再審査を申し立て
た。 |
主文の要旨
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文書手交のみを命じるのが相当として初審命令の主文を変更する。
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判断の要旨 |
1 便宜供与の廃止及びその通告についての考え方
(1)
チェック・オフは、労組法上許容される使用者から労働組合への便宜供与の一つであるから、その廃止についても許されないわけではない。
(2)
しかし、いったん便宜供与を開始した場合には、これを前提に労働組合の活動・運営が行われ、労使関係が形成されることから、便宜供与の廃止は、労働組合の活動・運営や労使
関係に影響を与える可能性がある。
したがって、便宜供与の廃止については、必ずしも開始と同程度の広い裁量が使用者に与えられているとはいえず、使用者がこ
れを廃止するには、廃止する合理的な理由が必要であり、これに加え、労働組合と交渉を行って廃止の理由を丁寧に説明したり、
廃止に当たって十分な猶予期間を設けるなどの手続的配慮も必要であると解すべきであって、これを欠いた場合には労組法第7条
第3号の不当労働行為が成立し得る。
また、本件のように便宜供与の廃止を通告する場合には、通告時においても廃止の合理的な理由が必要であり、通告の前後を通
じての手続的配慮が必要というべきである。
2 本件通告は労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか
(1)
本件通告は、チェック・オフ廃止を内容とするものであり、組合らの活動や運営に特に大きな支障をもたらし得るものであったと認められる。チェック・オフは労使間において
30年から50年余りもの長期間にわたり継続されたものであるから、これを廃止することによって組合らの組合費徴収に支障が
生じることは、市らも容易に認識できたというべきである。にもかかわらず、市らは、合理的な理由のないチェック・オフ廃止を
内容とする本件通告を行ったものであり、さらに、手続としても、市らは、組合らに対し、i)本件通告前には、チェック・オフ
廃止の理由の説明も、同廃止の告知や本件通告の予告もしていないこと、ii)団体交渉においても一般的・抽象的な説明にとど
まり、具体的に何が問題なのか、チェック・オフ廃止がその問題解決にどう結び付くかを含めた協議をした形跡がうかがわれない
こと、iii)組合らの各協定に則って本件通告を行った上、新協定の締結により、実際のチェック・オフ廃止までに1年の猶予
期間を設けるとはいえ、組合らに与えられた猶予期間は、平成25年度から一律にチェック・オフを廃止することを前提に、各協
定に則って、あくまで形式的に与えたものにすぎないことなどからすると、十分な手続的配慮もないまま行ったと認められる。
(2)
市長の一連の発言(平成24年1月27日の市定例会常任委員会、同年2月6日に市幹部職員らに宛てたメール、同月20日の市長会見)等を考慮すると、本件通告には、組合ら
を弱体化させる意図があったものと推認することができる。
(3) 以上によれば、本件通告は労組法第7条第3号の不当労働行為に当たる。
3 救済方法
初審命令では、本件通告をなかったものとして取り扱うことも命じている。
しかし、i)本件通告がなかったものとして取り扱ったとしても、既にチェック・オフを1年間に限定する新協定が締結されて
いること、ii)平成25年度からはチェック・オフに関する労働協約も労使間の合意も存在しない状態が続いていること等か
ら、当委員会では、直ちにチェック・オフの再開を命じるのではなく、主文のとおり、文書手交のみを命じるのが相当と考える。
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掲載文献 |
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