概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁平成28年(行ウ)第6号
大阪市(チェック・オフ廃止)外1件労働委員会救済命令取消請求事件 |
原告 |
大阪市 |
被告 |
国(処分行政庁・中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z1労働組合 |
同上 |
Z2労働組合 |
同上 |
Z3労働組合 |
同上 |
Z4労働組合(Z1労働組合からZ2労働組合と併せて「組合
ら」) |
判決年月日 |
平成30年2月21日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、市による次の行為がそれぞれ不当労働行為に当たるとし
て、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
(1)大阪府労委平成24年(不)第24号事件(第15号事件)
ア 市が、平成24年2月29日、Z1組合に対し、平成19年4月1日付け「給与の一部控除に関する協定書」から組合費
の項目を削除し、組合費の控除について平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
イ 市が、平成24年3月6日、Z2組合に対し、昭和55年4月1日付け「協定書」を継続せず、組合費の控除について平
成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
ウ 市が、平成24年3月9日、Z3組合に対し、昭和55年4月1日付け「協定書」を継続せず、組合費の控除について平
成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
(2) 大阪府労委平成24年(不)第65号事件(第16号事件)
市水道局が、平成24年2月29日、Z4組合に対し、昭和40年7月31日付け「賃金の一部控除に関する協定」から労働組
合費の項目を削除し、組合費の控除について平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと(前記(1)の
3つの通告と併せて「本件通告」)。
2 初審の大阪府労委は、本件通告は、市による労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、市に対して、各通告がな
かったものとしての取扱い及び文書手交をそれぞれ命じた。
3 市は、これを不服として、中労委に再審査請求をしたところ、中労委は、文書手交のみを命ずる内容に初審命令の一部を変更
し、労使双方に命令書を交付した。
4 市は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、市の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
争点に対する判断
1 争点(1)(本件通告が,補助参加人らに対する支配介入(労働組合法7条3号)に該当するか。)について
(1)
本件通告は,チェック,オフ廃止にかかる通告であるところ,チェック・オフは労働組合に対する便宜供与であって,これを行うか否かは原則として使用者の裁量に委ねられると
解されることや,チェック・オフが一定期間継続されているとしても,そのことから直ちに使用者がこれを継続すべき義務を負う
と解すべき法的根拠もないことからすると,その廃止に当たり,実体法上の合理的理由までを必要とすると解するのは相当でな
い。もっとも,チェック・オフが労働組合にとって簡便かつ確実に組合費を取り立てることによりその財政を確固たるものとし,
かつ,組合費の滞納による組合員の除名,脱退を防ぐものであって組織の維持強化に資するものであることからすると,チェッ
ク・オフが廃止されることにより,当該労働組合の財政面のみならず,組合費の滞納等による組合員の脱退等を招き組合員数の減
少につながるなど,その団結権の側面においても少なからぬ不利益を与える可能性があるというべきであり,その不利益の程度
は,当該労使間においてチェック・オフが長期間継続しているほど大きくなる面があることは否定できない。このような点からす
れば,使用者が,労働組合を弱体化させることを意図してチェック・オフを廃止する場合や,そのような効果を与えることを認識
しながら十分な手続的配慮を尽くすことなく廃止する場合には,支配介入に当たる場合があると解するのが相当である。
そして,実際に支配介入に当たるか否かの判断に当たっては,前記諸要素のうち,チェック・オフ廃止により労働組合が受け
る不利益の程度と,同廃止を求める使用者側の目的,動機等を中心に勘案して行うことになるが,使用者側が明確に労働組合の弱
体化等を意図するなど,その動機が明らかに不当と認められる場合については,それ自体でチェック・オフの廃止が許されないこ
とになるというべきであるし,労働組合に与える不利益の大きさなどによっては,手続的な配慮の一環として,チェック・オフ廃
止までの間に,合理的な猶予期間を置いて,その間に,労働組合に与える不利益を最小限に止めるべく必要な不利益緩和措置を採
ることも検討されるべきであり,このような措置を採つたか否かによって,チェック・オフの廃止が支配介入に当たるかが左右さ
れることもありうる。いずれにしても,使用者としては,このようなチェック・オフの廃止に当たり,団体交渉等の労使協議の中
で十分に議論を尽くすべきであり,その中で,チェック・オフ廃止の必要性を可能な限り具体的に説明するとともに,労働組合に
与える不利益の程度等に応じて,上記のような猶予期間の必要性及びその長短や,不利益緩和措置の必要性及びその内容について
も十分に吟味すべきであり,そのような労使協議を十分に尽くさないままチェック・オフの廃止を行うことは,手続的配慮を欠い
たものと評価され,支配介入に当たるとされることが多いというべきである。
(2) 以上の観点から,本件における支配介入該当性について検討する。
ア 市が、チェック・オフ廃止の目的として不適切な労使関係の払拭等を掲げていること自体をもって,不当ということはできな
いが、他方で、本件通告は,労使間での事前説明や調整,事務折衝又は情報提供等が一切ない状況で突然行われたものである上,
その内容も,労働組合側の個別事情を一切考慮することなく,四半世紀から半世紀にわたって継続的に行われていた組合費の
チェック・オフを1年間の猶予期間のみで廃止ないしは廃止される可能性がある状態に置くことを求めるものであり,しか
も,Z1,Z2及びZ3については本件通告から協定の有効期間満了までわずか1か月強という,提案内容を検討し必要な調査等
を行った上で結論を出すには著しく不十分な期間しか存在しない状況であった。加えて,本件通告後に行われた団体交渉において
も,市は,組合らいずれに対しても,労使関係の相互依存体質の解消,市民目線から見た適正な労使関係の構築といったチェッ
ク・オフ廃止の必要性を一般的・抽象的に説明するにとどまり,チェック・オフ廃止によって組合らそれぞれに生じる個別事情の
有無,個別事情に対する対応の必要性,対応可能性等の具体的な検討の提案を行わないばかりか,協定が締結されない場合には他
の控除項目についても控除できなくなり組合員が重大な不利益を被る結果となるといった不利益を告げているのであって,事実上
市の要求に従うことを強制するものであり,労使協議を十分に尽くそうとする姿勢であったとはおよそ評価できないといわざるを
得ない。
イ また,市長は,市長に就任した後,公務員組合がほしいままに振る舞うことが国の破綻につながるといった趣旨の発言を行う
など,基本的に労働組合に対し否定的な発言をしている上,労働組合が政治活動や人事介入等を主導的に行っている旨の発言な
ど,市長が労働組合の組合活動について否定的な見解を強く表明している状況下で,市議会においても,チェック・オフに関し便
宜供与にすぎないとしてその廃止に慎重になる必要はないという趣旨を明言していることや,前記で説示したとおり,市が,労働
組合に対するその他の対応と同様,組合らの状況を何ら考慮することなく,組合らにおいて検討する余地がほとんどない状況で,
事実上市の提案に応じることを強制するといった一方的な態度をもって本件通告を行っていることに照らすと,市は,少なくと
も,本件通告が組合らを弱体化させる効果を有することを十分に認識した上で,これを行ったと認めるのが相当である。
ウ 以上のとおり,市は,少なくとも,本件通告が組合らを弱体化させる効果を有することを十分に認識した上でこれを行ってお
り,かつ,本件通告を行うに当たって必要な手続的配慮を行っておらず,これにより一定の支障が生じていることからすると,
チェック・オフが有する性質や市のチェック・オフ廃止の目的が不適切な労使関係の払拭にあり,そのために便宜供与を原則一律
に廃止するという方針を採ることが政策として一応の合理性を有するものと評価できることを考慮しても,本件通告は組合の弱体
化又はその活動に対する妨害といった効果を持つと評価できるから,組合らに対する支配介入に該当すると認められる。
2 争点(2)(本件命令が,労使関係条例12条との関係で労働委員会規則33条1項6号に違反するか。)について
本件命令は,中労委において本件通告が不当労働行為に該当すると認定されたことを市に表明させることによりこれを関係者
に周知徹底させ,同種の不当労働行為の再発を抑制しようとする趣旨のものと解することができる。このような本件命令の趣旨に
照らすと,市において,労使関係条例12条に牴触しない形で本件命令の内容を履行することは,必ずしも不可能ではないという
べきである。
したがって,本件命令は,市において実現することが可能なものであるから,労働委員会規則33条1項6号に違反するもの
ではない。
3 結論
以上によれば,市の請求には理由がないからこれを棄却することとする。 |
その他 |
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