労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成30年(行コ)第111号
大阪市(チェック・オフ廃止)労働委員会救済命令取消請求控訴事件
控訴人  大阪市(「市」) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z1労働組合(Z1組合) 
同上  Z2労働組合(Z2組合) 
同上  Z3労働組合(Z3組合) 
同上  Z4労働組合(Z4組合)(Z1組合からZ3組合と併せて「組合 ら」) 
判決年月日  平成30年8月30日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、市による次の行為がそれぞれ不当労働行為に当たるとし て、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
 (1)大阪府労委平成24年(不)第24号事件(第15号事件)
  ア 市が、平成24年2月29日、Z1組合に対し、平成19年4月1日付け「給与の一部控除に関する協定書」から組合費 の項目を削除し、組合費の控除について平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
  イ 市が、平成24年3月6日、Z2組合に対し、昭和55年4月1日付け「協定書」を継続せず、組合費の控除について平 成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
  ウ 市が、平成24年3月9日、Z3組合に対し、昭和55年4月1日付け「協定書」を継続せず、組合費の控除について平 成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと。
 (2) 大阪府労委平成24年(不)第65号事件(第16号事件)
 市水道局が、平成24年2月29日、Z4組合に対し、昭和40年7月31日付け「賃金の一部控除に関する協定」から労働組 合費の項目を削除し、組合費の控除について平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨通告したこと(前記(1)の 3つの通告と併せて「本件通告」)。
2 初審の大阪府労委は、本件通告は、市による労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、市に対して、各通告がな かったものとしての取扱い及び文書手交をそれぞれ命じた。
3 市は、これを不服として、中労委に再審査請求をしたところ、中労委は、文書手交のみを命ずる内容に初審命令の一部を変更 し、労使双方に命令書を交付した。
4 市は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、市の請求を棄却した。
5 市は、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、市の控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  当裁判所の判断
1 当裁判所も,市の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,当審における当事者の補充主張に対する判断を付加す るほかは,原判決の「事実及び理由」第3の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における当事者の補充主張について
(1) 市は,チェック・オフは単なる便宜供与であり,その廃止が支配介入となるのは,組合を弱体化しようとの意図の下に行われた権利濫用と評価される場合に限定され,チェック・ オフにより,本来労働組合が自らすべき組合費の徴収を市の費用と労力において免れているにすぎず,その廃止による影響は本来 必要なコストを労働組合が自ら負担することになるのみであるから,大きなものではなく,また,チェック・オフが継続されてき た期間の長短によってその影響の度合いに差が生じるものではないと主張する。
  しかし,チェック・オフは使用者の労働組合に対する便宜供与の一つであるが,一旦これが開始された場合には,労働組合の 財政を確固たるものとし,その組織の維持強化に資するものであることから,チェック・オフが廃止されることにより,当該労働 組合の財政面のみならず団結権の側面においても少なからぬ不利益を与える可能性があり,その不利益の程度は,チェック・オフ が長期間継続しているほど大きくなる面があることは否定できず,労働組合に対しチェック・オフ廃止による不利益を与えてもな お廃止せざるを得ないという相当な理由がなく,又は廃止に当たっての手続的配慮を欠く場合において,チェック・オフ廃止の目 的,動機,その時期や状況,廃止が労働組合の運営や活動に及ぼし得る不利益,影響等の諸要素を総合考慮した上,労働組合の弱 体化,運営・活動に対する妨害の効果を持つものといえるときは,支配介入に当たると解するのが相当であり、市の主張は採用す ることができない。
(2) 市は,本件チェック・オフ廃止の必要性について,①不適切な労使関係を生み出した要因の一つである便宜供与を見直し,新たに健全,正常な労使関係を構築する必要があったこ と,②本件チェック・オフ廃止条例制定後も労使癒着の構造は払拭されるに至っておらず,労使関係適正化の要請は現に存在して いること,③既にチェック・オフが廃止されている市職員団体に対する取扱いと平仄を合わせる必要性があったことを上げる。
  しかし,上記①,②の点について,これらの目的とチェック・オフの廃止という手段との間の具体的な関連性が明らかではな く,市において組合らとの間の労使関係の適正化を図るためにチェック・オフを廃止する具体的な必要性があることはうかがわれ ず,市とその職員との間に市の主張するような事情があることをもって,組合らとの間のチェック・オフについて,組合らに不利 益を与えてもなお廃止せざるを得ないという相当な理由があるものとはいえず,チェック・オフを存続させることにより,労使癒 着の構造を助長するおそれがあるとの市の主張を裏付ける証拠はなく,市が主張する労使癒着の構造を助長するおそれは,一般 的・抽象的なものにとどまるといわざるを得ない。
  また,上記③の点についても,この平仄を合わせる必要性につき,組合らは労組法上の労働組合であるものの,職員団体には 団体交渉権は認められていないなど市との関係における法的地位には違いがあるのであり,上記の点をもって,組合らに対し不利 益を与えてもなお廃止せざるを得ないという相当な理由をなすものとはいえない。
  市の主張は採用することができない。
(3) 手続的配慮に関し,市は,本件通告の時期を遅らせるといった不当な動機や事情はなく,チェック・オフ廃止については,本件チェック・オフ廃止条例の提案理由において議会の 意向が明らかにされているなど,組合らとしてもその方向性は当然に認識していたし,市も労使癒着問題に関連し,労使間交渉 ルールの適正化に取り組んでいたのであり,本件通告の時期の選択は,行政判断としての裁量の範囲であったし,チェック・オフ 廃止までの1年間の猶予期間についても問題はないと主張する。
  しかし,本件通告は,労使間での事前説明や調整等が一切ない状況で突然行われ,その内容も,組合ら労働組合側の個別事情 を一切考慮することなく,四半世紀から半世紀にわたって継続的に行われていた組合費のチェック ・オフを1年間の猶予期間のみで廃止ないしは廃止される可能性がある状態に置くことを求めるものであり,しかも,Z1組合,Z2組合及びZ3組合については本件通告から協 定の有効期間満了までわずか1か月強という,提案内容を検討し必要な調査等を行った上で結論を出すには著しく不十分な期間し か存在しない状況で行われたものであること,その説明においても,チェック・オフ廃止の必要性についての具体的な説明はされ なかったことから、市の主張するところは,手続的配慮の観点からも十分な対応がされたものとはいえない。
  市の主張は採用することができない。
3 よって,市の本件請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとする。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成24年(不)第24号 全部救済 平成26年2月20日
大阪府労委平成24年(不)第65号 全部救済 平成26年2月20日
中労委平成26年(不再)第15号・16号 一部変更 平成27年11月18日
東京地裁平成28年(行ウ)第6号 棄却 平成30年2月21日
最高裁平成30年(行ツ)第382号・平成30 年(行ヒ)第442号 上告棄却・上告不受理 平成31年4月25日
 
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