事件名 |
大阪府労委平成24年(不)第24号 |
事件番号 |
大阪府労委平成24年(不)第24号 |
申立人 |
Y市従業員労働組合、Y市学校職員労働組合、Y市学校給食調理員労
働組合 |
被申立人 |
Y市 |
命令年月日 |
平成26年2月20日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
被申立人市が、申立人組合らと締結していた協定書に基づき、長期
間にわたり組合らのチェック・オフを実施してきたところ、平成24年2月から3月にかけて25年4月1日以降のチェック・オ
フを廃止する旨通告したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
大阪府労委は市に対し、1
各組合に対して行ったチェック・オフの廃止に関する申入れがなかったものとして取り扱うこと、2
文書手交を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人は、平成24年2月29日に申立人Y市従業員労働組合
に対して行った、同19年4月1日付け「給与の一部控除に関する協定書」のうち組合費の控除に関する文言を削除する旨、組合
費の控除については有効期限を同25年3月31日までとする覚書を別途締結し、新協定の有効期限を同24年4月1日から1年
間とする旨の申入れがなかったものとして取り扱わなければならない。
2 被申立人は、平成24年3月6日に申立人Y市学校職員労働組合に対して行った、昭和55年4月1日付け協定書及び同日付
け「給与から組合費を控除することに関する協定の細部事項」により締結した協定は継続せず、組合費の控除については廃止する
旨、組合費の控除については平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨、組合費以外の各種控除金の控除に係る協定
書を新たに締結する旨の申入れがなかったものとして取り扱わなければならない。
3 被申立人は、平成24年3月9日に申立人Y市学校給食調理員労働組合に対して行った、昭和55年4月1日付け「協定書」
及び同日付け「給与から組合費を控除することに関する協定の細部事項」により締結した協定は継続せず、組合費の控除について
は廃止する旨、組合費の控除については平成25年3月31日までとする覚書を別途締結する旨、組合費以外の各種控除金の控除
に係る協定書を新たに締結する旨の申入れがなかったものとして取り扱わなければならない。
4 被申立人は、申立人Y市従業員労働組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記(省略)
5 被申立人は、申立人Y市学校職員労働組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記(省略)
6 被申立人は、申立人Y市学校給食調理員労働組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記(省略)
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判断の要旨 |
認定した事実によれば、Y市従業員労働組合(市従)の組合員に係
るチェック・オフは昭和32年以降、Y市学校職員労働組合(学職労)の組合員に係るチェック・オフは昭和55年以降、Y市学
校給食調理員労働組合(学給労)の組合員に係るチェック・オフは昭和55年以降、それぞれ適法に継続して実施されてきたので
あり、チェック・オフが公民を問わず、広く一般に行われている便宜供与であることを考え併せると、当該チェック・オフを廃止
するには合理的な理由とともに、その廃止に当たって労使間で十分に協議し、合意形成を行うための適正な事前手続をとることが
必要不可欠であって、当該チェック・オフの根拠となる労働協約の廃止の理由や改定手続等の如何によっては不当労働行為となり
得ると解すべきである。
組合らとのチェック・オフの根拠となる労働協約の改定理由についてみると、市及び市教育委員会(市教委)は団交において
チェック・オフ廃止の理由として、職員厚遇問題等を契機とした便宜供与の見直しである旨述べていることが認められる。しか
し、いずれの団交においても、組合らとの関係においてチェック・オフのどの点が不適切なのかについて具体的な説明がなされて
いない。市及び市教委は便宜供与全般を一般的、抽象的に不適正な労使関係を生み出した要因の1つである旨主張するにとどま
り、長年にわたり労使合意の下に継続され、廃止によって少なからぬ影響が生じる本件のチェック・オフを廃止する理由としては
具体性を欠いており、一方的であるといわざるを得ない。
また、市は、既にチェック・オフが廃止されている職員団体と同様の取扱いをしたい旨主張するが、条例に基づいてチェック・
オフが認められていた職員団体と労働協約による労使合意の取決めを根拠とする組合らとでは、そもそも前提条件が異なるのであ
り、市の主張は本件申入れを正当化する理由とはならない。
次に、事前手続についてみると、①平成20年4月1日、チェック・オフ廃止条例が公布され、職員団体については21年3月
末をもってチェック・オフが廃止されたこと、②23年8月、チェック・オフ訴訟第一審判決が出され、同条例の無効確認を求め
る訴え等が却下されたこと、③同年12月、新しい市長が就任したこと、④24年2月、市が市従に対し、また、同年3月、市教
委が学職労及び学給労に対し、それぞれ本件申入れ(1年間の猶予期間を設けて、25年3月末をもってチェック・オフを廃止す
ることを内容とするもの)を行ったことなどが認められる。
これらのことからすれば、市は新市長就任の数年前から職員団体に対してはチェック・オフを廃止しており、チェック・オフ廃
止は従前からの方針であった旨の主張は一見不自然ではない。しかし、一方で、本件申入れはチェック・オフ訴訟第一審判決後、
チェック・オフ廃止について具体的な申入れのないまま、半年余り経過した後に行われたものであり、なぜこの時期になって申入
れがなされたか判然とせず、本件申入れが市の主張どおり従前からの市の方針に沿ったにすぎないものとまでみることはできな
い。
また、市は協定期間満了の約1か月前に本件申入れを行った上で、チェック・オフ廃止の始期を1年後とする対応を取った旨主
張する。しかし、準備期間を取った対応については一定の評価はできるものの、これはあくまでもチェック・オフ廃止を前提とし
た準備期間であり、また、組合らとしては市から提示された協定書改定案等を受け入れずに無協約状態となれば、組合費以外の控
除も全て廃止され、組合員に多大な影響を与えることから、協約改定に応じざるを得ない立場に置かれていたとみるべきであっ
て、市はこのような状況を踏まえ、組合らとの協議を十分に行わないまま労働協約の改定を迫ったものであり、相応の配慮をした
ものとはいい難い。
以上のとおりであるから、本件申入れは、長期にわたって労使合意の下に実施されてきたチェック・オフの根拠となる労働協約
を改定するほどの合理的な理由がないまま一方的に改定を通告したものであり、その後も改定が必要なほどの合理的な理由が十分
説明されることなく、組合らの同意を得る努力が尽くされないまま改定されたのであって、かかる申入れは組合らに対する支配介
入に当たり、労組法7条3号に該当する不当労働行為である。 |
掲載文献 |
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