労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  明泉学園 
事件番号  都労委平成24年不第3号 
申立人  鶴川高等学校教職員組合 
被申立人  学校法人明泉学園 
命令年月日  平成25年11月5日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   被申立人法人の運営するA高校で、あるクラスのHR指導教員(クラス担任)を務めていた組合員X2は、平成23年11月2日、授業中であるにもかかわらず教室に入らない生徒約10名に、教室に入り授業を受けるよう指導した。しかし、生徒らは同年10月31日に退学した生徒S1が来校することを理由にX2の指導に従わず、生徒らが同人に抗議する事態となり、その際、生徒の手がX2の頬に当たるなどした。
 本件は、法人がその5日後に①X2をクラス担任から外したこと、②X2の担当クラスの生徒らに、生徒とのトラブルが生じたので同人を担任から外すこと等が記載された文書(以下「クラス担任変更のお知らせ」という。)を配付したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 東京都労委は法人に対し、1 X2をA高校のHR指導教員に就任させること、2 文書の交付・掲示、3 履行報告を命じた。 
命令主文  1 被申立人学校法人明泉学園は、申立人鶴川高等学校教職員組合の組合員X2を被申立人学園運営の鶴川高等学校のHR指導教員に就任させなければならない。
2 被申立人学園は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、被申立人学園の教職員らの見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
年 月 日
  鶴川高等学校教職員組合
  執行委員長 X1 殿
学校法人明泉学園
理事長 Y1
  当学園が、貴組合の組合員X2氏について、平成23年11月7日鶴川高等学校2年7組のHR指導教員から外したこと、及び「2年7組のHR指導教員(クラス担任)変更のお知らせ」を同組の生徒らに配付したことは、東京都労働委員会においていずれも不当労働行為であると認定されました。
  今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
   (注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)

3 被申立人学園は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 組合員X2をクラス担任から外したことについて
(1) クラス担任外しの理由
 被申立人法人は、平成23年11月2日のX2の言動には、生徒と真剣に向き合い、生徒の話を聞いた上で適切な対応をすることや、生徒を信頼する姿勢が全く認められないことが本件クラス担任外しの理由の1つであると主張する。
 しかし、その時、X2は退学した生徒S1が来校することを法人から知らされていなかったこと等からすれば、X2が生徒らに対して教室に入り授業を受けるよう指導したことは校内見回りの役割を割り振られた教員としては当然の対応であったといえる。一教員の判断で例外的な対応を求めるのは酷に過ぎるというべきである。
 法人はまた、X2が警察を呼ぶ旨の発言をしたことも、クラス担任を外した理由として主張している。しかし、当時の状況と、24年6月7日に法人の校長Y1ら複数名の教員が7名の生徒に対応している際に法人が警察に通報し、実際に警察官を呼んだという状況とを比較考慮すれば、法人の上記主張は均衡を失するものといわざるを得ない。
 また、法人は、11月2日にX2から指導を受けた生徒に対しては日を改めて事情聴取をしたにもかかわらず、X2に対しては事情聴取を行わず、生徒らに「クラス担任変更のお知らせ」を配付するに当たり、生徒らが事情聴取の際に書いた意見書から引用したものを記載する一方、X2に対しては記載内容の確認さえしなかった。
 加えて、仮にX2が不適切な対応をしたということならば、法人は同人に対し、その理由を指摘し、今後の生徒指導のあり方等について指導すべきであったといえるが、このような指導をした形跡は見当たらない。
 以上のとおり、法人がX2の担任外しの理由としているものは、いずれも合理性に欠けることに加え、担任を外すまでの手続についても不自然な面がみられる。
(2) 法人の組合に対する姿勢 
 別件クラス担任外し等事件(都労委平成10年不第14号ほか)に係る中労委命令(平成19年不再第58号事件)や平成24年10月3日の東京地裁立川支部の判決(平成21年(ワ)第1076号。法人及び法人の理事長に対し、不当労働行為に係る慰謝料支払等を命じたもの)に関する事情、別件クラス担任外し等事件の申立て以降も組合員の中でクラス担任を外される者が増加したこと等からすると、組合ないし組合員と法人との対立が深まっていたことが窺える。そして、法人は本件申立て後に初めて団交に応じたものの、本件クラス担任外しの経緯や根拠について組合の質問にまともに答えていないことから、組合を軽視する姿勢が窺える。
 以上から、法人が組合ないし組合員を快く思わず、嫌悪していたであろうことが容易に推認される。
(3) 結論
 以上を考え合わせれば、本件クラス担任外しは、クラス担任を外されたことがない唯一の組合員であるX2に対し、法人が、トラブルが起きたことを奇貨として一方的かつ一面的な見解に基づいて、殊更にクラス担任を外したとみるのが相当であり、同人が組合員であるが故になされた不利益取扱いであるといわざるを得ない。また、X2と他の教員や生徒との接触の機会を減らし、組合の影響力の低下を図った、組合の運営に対する支配介入にも当たるというべきである。
2 「クラス担任変更のお知らせ」の配付について
 前記1で判断したとおり、本件クラス担任外しは不当労働行為に当たるところ、上記文書は、クラス担任外しの理由について、生徒が書いた意見書から引用した言葉をX2に内容の確認もせずにそのまま記載するなど、法人の一方的かつ一面的な見解を正当化し、同人の教員としての適格性を殊更に疑わせる内容となっており、法人がこのような文書を配付したことは、本件クラス担任外しと一体として行ったものと評価するのが相当である。したがって、X2が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合員の評判を落とすことにより組合の影響力の低下を図った、組合の運営に対する支配介入にも当たるというべきである。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成25年(不再)第87号 棄却 平成26年12月3日
東京地裁平成27年(行ク)第417号 緊急命令申立ての認容 平成28年3月31日
東京地裁平成27年(行ウ)第17号 棄却 平成28年6月29日
東京高裁平成28年(行コ)第275号 棄却 平成28年12月14日
最高裁平成29年(行ヒ)第140号 上告不受理 平成29年7月20日
 
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