労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成27年(行ク)第417号
明泉学園緊急命令申立事件 
申立人  中央労働委員会 
申立人補助参加人  Z高等学校教職員組合(「組合」) 
被申立人  学校法人Y(「法人」) 
決定年月日  平成28年3月31日 
決定区分  緊急命令申立ての認容 
重要度   
事件概要   本件は、①法人の運営する高校のクラス担任であった組合員Aが、授業時間中に教室に入らない約10名の生徒を指導した際、本件生徒らが感情的になり、トラブルとなったことを理由として、学園が組合員Aをクラス担任から外す発令を行ったこと、②法人が組合員Aの担当クラスの生徒に、本件生徒らの組合員Aに対する意見等を記載した文書を配布したことが、いずれも、労組法第7条第1号、第3号の不当労働行為に当たるとして、救済申立てが行われた事案である。
 初審の東京都労委は、本件クラス担任外し及び本件文書の配布はいずれも不当労働行為であったと認め、法人に対し、組合員Aをクラス担任に就任させること、文書掲示等を命じた。法人は、初審命令を不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立てを棄却するとの命令(以下「本件命令」という。)を発し、法人は、これを不服として東京地裁にその取消しを求める基本事件の訴えを提起した。
 本件は、中労委が法人の再審査申立てを棄却した命令の履行を求め緊急命令を申し立てた事案である。 
決定主文  1 被申立人は、被申立人を原告、国を被告(申立人を処分行政庁)とする当庁平成27年(行ウ)第17号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が中労委平成25年(不再)第87号事件について平成26年12月3日付けで発した命令に従って、申立人補助参加人組合員Aを被申立人の運営するZ高等学校のHR指導教員に就任させなければならない。
2 申立費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、被申立人の負担とする。  
決定の要旨  第2 当裁判所の判断
2 本件命令の適法性について
 Aの本件生徒らに対する言動には、謝罪の仕方としてみれば穏当でないなどの面はあるものの、そもそもAが謝罪しなければならないような立場にはないのであるから、これをもって不適切な言動であるとはいえないのであって、担任としての適格性に疑問を抱かせるものともいえない。そうすると、本件解任は必要性、合理性を欠くとした本件命令の判断には、誤りはない。しかも、一件記録等によれば、本件解任は、B2副校長が平成23年11月4日午前8時40分ころに同月2日のAと本件生徒らのトラブルを知ってから僅か半日の間にAから直接事情を聴くことなく決定されたものであること、原告は、当時、組合の組合員が提起した複数の訴訟に敗訴し、新たに提起された訴訟への対応を迫られ、また、別件について発せられた救済命令に従わずに過料に処せられるなど組合と対立する関係にあり、組合との団体交渉においても、常勤講師であったAの専任教諭化等をめぐる対立が続いていたことなどが認められ、このような状況の存在を踏まえて、申立人において、本件解任は、Aが組合の組合員であることを理由にされたものであり、労組法7条1号の不利益な取扱い、同条3号の支配介入に当たるとした判断にも疑義はない。
3 緊急命令の必要性について
 法人は、本案事件において係争中であることを理由に今日に至るまで本件命令を履行していないところ、一件記録等によれば、法人は、平成21年4月1日以降、それまでHRクラス指導担任に支給していた月額1000円以下の担任手当の支給を廃止していることから、本件命令が履行されないことによる今後のAの経済的損失の増大は認めることができない。
 しかしながら、HRクラス指導担任というのは、教科指導以外の生徒指導全般やクラス運営等に携わる教員として重要な業務であり、Aは、必要性、合理性のない本件解任によって担任として適格性を欠くとされてHRクラス指導担任を解任されて以降、HRクラス指導担任に就任できない状況が継続し、本来与えられるべき教員としての重要な業務を遂行する機会を逸することになるし、また、Aが教員としての適格性を欠くとの誤解を生徒、保護者に与え続けることになり、教員としての職務遂行に必要な生徒、保護者との信頼関係を構築することを困難にするなど、法人が本件命令を履行しないことによって職務上、精神上の不利益が増大するおそれがある。しかも、本件解任は、法人が組合員であることや正当な組合活動を理由に職務上、精神上の不利益を課す場合があることを知らしめて、組合の組織や活動を妨害し、あるいは、これに干渉するなどの効果を有するところ、法人が本件命令を履行せずAがHRクラス指導担任に就任できない状況が継続すると、組合員であることや正当な組合活動を理由として一度課された職務上、精神上の不利益は容易に回復できないとの印象を与え、前記の組合の組織や活動に及ぼす効果を増大させて、回復困難な状態に陥らせ、労組法の趣旨、目的に反する結果となることから、緊急命令の必要性があるというべきである。
 なお、学校教育法施行規則59条、104条1項に即して、本件高校の平成28年度の教員編成は、平成28年4月1日を待たずに行われるべきものであるところに、本件緊急命令を発令することは、これに従うべき法人の学校運営や生徒に対する一定の混乱を招来するものではあろうが、それは、年度途中において、本件命令を維持する本案判決がされ、あるいはそれが確定する場合にも生じる混乱といえ、本件緊急命令の発令する必要性、相当性を左右するものではないというべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成24年(不)第3号 全部救済 平成25年11月5日
中労委平成25年(不再)第87号 棄却 平成26年12月3日
東京地裁平成27年(行ウ)第17号 棄却 平成28年6月29日
東京高裁平成28年(行コ)第275号 棄却 平成28年12月14日
最高裁平成29年(行ヒ)第140号 上告不受理 平成29年7月20日
 
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