労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成31年(行コ)第63号
大乗淑徳学園不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  学校法人X1(「法人」) 
被控訴人   国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z1教職員組合(「組合」) 
判決年月日  令和元年8月8日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大学等を経営する法人からの学部を廃止する予定である 旨の説明を受けて結成された組合が、①法人が不合理な開催条件に固執して組合との団交を拒否していること、②法人が組合に対 して法人の施設内での組合活動を認めない等と通知したこと、③組合との連絡手段を郵便に限定したこと、④法人の施設内に郵送 された組合あての郵便物等を返送し又は組合委員長の自宅に転送したこと、⑤組合による口頭での団交申入書返却等の依頼(「本 件返却等依頼」)に対し郵送にてその旨を要望するよう述べて応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てが あった事件である。
2 東京都労委は、申立ての一部を認容し、(i)法人の求める団交ルールに従うことに固執しての団交拒否の禁止、(ii)法 人施設内の組合活動を認めない等の通知、組合との連絡手段を郵便に限定し文書や口頭による申入れを受け付けないこと及び組合 宛ての郵便物等を返送又は組合委員長の自宅に転送することによる支配介入の禁止、並びに(iii)文書掲示を命じ、(iv) その余の申立てを棄却する旨の命令を発した。法人は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委は再審査申立てを棄却し た。
3 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は法人の請求をいずれも棄却した。
4 法人は、これを不服として東京高裁に控訴したが、同高裁は法人の控訴をいずれも棄却した。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も,法人の本件請求は理由がないものと判断する。その 理由は,次のとおり補正し(注:補正部分(略)),次項に当審における法人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決 の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから,これを引用する。

2 当審における法人の補充主張
(1)争点1(組合の法適合組合該当性)について
 使用者は,単に資格審査の手続に瑕疵があり又はその結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消しを求めることは できないものと解すべきであること,法人の主張は結局組合が労組法の規定に適合しないことのみを理由として救済命令の取消し を求めるのと異ならないものであって失当であること,組合規約には同法5条2項各号に掲げる規定が含まれており,実際の実施 の有無にかかわらず,組合が法適合組合に当たると認められることは,前記1説示のとおりである。
(2)争点2ないし4(法人が組合との連絡手段を郵便に限定したこと,法人の本件返却等依頼への対応及び法人が組合に対し組 合活動は学外で行うよう通知したことの支配介入該当性)について
ア 判断基準について
 使用者が使用者施設を利用した組合活動を許さないことが権利の濫用であると認められる特段の事情の有無については,施設管 理権と組合活動の調和を図る見地から,当該組合活動の内容及び必要性,当該組合活動により使用者に生ずる支障の有無及び程 度,使用者の不当労働行為意思の有無等の諸点を総合考慮して判断すべきであることは,前記1説示のとおりである。
イ 法人が組合人との連絡手段を郵便に限定したことの支配介入該当性について
 就業規則19条は,学内の組合活動について,就業時間外に,法人の業務遂行に支障を生じさせない穏当な態様により,重要な 議題を含む団交についての連絡をするような場合にまで,逐一法人の許可を必要とする趣旨のものではないと解するのが合理的で あるから,このような連絡についても許可申請が必要であることを前提とする法人の主張は採用することができないこと,法人 は,団交の開催条件に関する迅速かつ円滑な連絡を妨げること及び郵便以外の方法による連絡を認めても法人に支障は生じないこ とを認識した上で,組合を嫌悪し,施設管理権の行使を名目として組合との迅速かつ円滑な連絡を妨げ,組合を弱体化させる意図 に基づき,あえて連絡手段を郵便に限定したものと認められること等は,前記1説示のとおりである。
ウ 法人の本件返却等依頼への対応の支配介入該当性について
 法人は,施設管理権の行使を名目として組合との迅速かつ円滑な連絡を妨げ,組合を弱体化させる意図に基づき,あえて連絡手 段を郵便に限定したものであり,本件返却等依頼についての法人の対応は,組合の運営に対するこのような支配介入の一環として 行われたものである上,本件返却等依頼に対する対応をそれ自体としてみても合理性が認められないこと等は,前示のとおりであ る。
エ 法人が組合に対し組合活動は学外で行うよう通知したことの支配介入該当性について
 就業規則19条の解釈は前示のとおりである上,学内の組合活動には,重要な議題を含む団交に関する連絡等の重要性の高いも のや施設管理上の支障がほとんど生じないものも含まれ,これら組合活動の一切を許可がないことのみを理由として認めない場 合,法人に支障がほとんど生じない組合活動も不可能となり,円滑な組合活動が阻害されることになることに加え,法人は組合を 弱体化させる意図に基づいて組合との連絡手段を郵便に限定していたことなどを併せ考慮すれば,法人は,重要な組合活動を含む 学内における一切の組合活動を,これにより法人に生ずる支障の有無と無関係に,組合を弱体化させる意図により禁止したものと 認められることは,前示のとおりである。
(3)争点5(法人が組合宛ての郵便物等を返送し又はA1委員長の自宅に転送したことの支配介入該当性)について
 法人は,他組合と組合とを別異に取り扱っていること,法人は,組合宛ての郵便物等を同委員長のレターボックスに入れること より手間のかかる返送等をしていること,組合は,組合宛ての郵便物等の返送等により,上部団体との連絡に更なる期間等を要 し,組合活動に具体的な支障が生じたこと,法人が組合の弱体化を意図して組合との連絡方法を郵便等に限定していたことなどを 考慮すれば,法人が組合の弱体化を意図して返送等したものであり,組合の運営に対する支配介入に当たるというべきであるこ と,法人が組合に対する便宜供与の義務を負わないとしても,組合に対する弱体化の意図が認められること等は,前記1説示のと おりである。
(4)争点6(法人の3月26日付け団交申入れ及び5月9日付け団交申入れへの対応の正当な理由のない団交拒否該当性)につ いて
 いずれの団交申入れには義務的団交事項を含み,法人は団交義務を負っていたが,交渉場所を学外とする開催条件に固執して団 交に応じなかった法人の対応は,正当な理由がない限り,団交拒否の不当労働行為に当たること,組合は,当初から一貫して学内 での団交を希望し,法人が応じなかったため,学内を希望する理由を明らかにし応じない理由を問い合わせ,また,法人が他組合 との団交は学内で行っており,これと異なる条件とすることは不合理である旨指摘したが,法人は,学校施設は教育の場,教育活 動の施設であり,労働組合の活動等の場所ではない旨の回答を繰り返し,形式的説明に終始し,組合において学外での団交に応ず るか否かを検討することは困難であり,団交開催に向けた議論が進捗する見込みは乏しかったこと,これらの諸点に加え,本件で 問題となっていた団交は組合員の雇用維持という重要な議題を含むものであり,その速やかな開催が望まれるものであったことな ども併せ考慮すれば,法人は,学外での団交に固執して団交の開催に向けた誠実な説明及び交渉を怠り,正当な理由なく団交を拒 否したものと認めるのが相当であること等は,前記1説示のとおりである。
(5)争点7(救済の必要性)について
 法人は,当審口頭弁論終結時に至るまで,組合との連絡手段を郵便に限定したことの不当労働行為該当性を争っており,自らの 行為が不当労働行為に当たると認識した上でこれを改めたわけではない上,法人が組合の持参した文書の受領等をするようになっ たのは,当該文書を受領しないことが不当労働行為に当たるとした都労委命令の交付後であることによれば,都労委命令を維持し た中労委命令を取り消した場合,法人が組合の持参する文書の受領等を再度拒否するおそれがあるといわざるを得ず,未だ正常な 集団的労使関係秩序が回復されたということはできず,救済の必要性が認められること等は,前記1説示のとおりである。
(6)争点8(都労委命令の主文の明確性等)について
 都労委命令主文は明確性を欠くとはいえないことは,前記1説示のとおりであって,都労委命令の判断を是認した中労委命令も 明確性を欠くとはいえない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成27年(不)第73号 一部救済 平成28年10月4日
中労委平成28年(不再)第62号 棄却 平成29年10月4日
東京地裁平成30年(行ク)第174号 認容 平成31年2月21日
東京地裁平成29年(行ウ)第505号 棄却 平成31年2月21日
最高裁令和2年(行ヒ)第19号 上告不受理 令和2年3月11日
 
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