労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成29年(行ウ)第505号
大乗淑徳学園不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X法人 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会)  
被告補助参加人  組合Z 
判決年月日  平成31年2月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大学等を経営する法人からの学部を廃止する予定である 旨の説明を受けて結成された組合が、①法人が不合理な開催条件に固執して組合との団体交渉を拒否していること、②法人が組合 に対して法人の施設内での組合活動を認めない等と通知したこと、③組合との連絡手段を郵便に限定したこと、④法人の施設内に 郵送された組合あての郵便物等を返送し又は組合委員長の自宅に転送したこと、⑤組合による口頭での団体交渉申入書返却等の依 頼(「本件返却等依頼」)に対し郵送にてその旨を要望するよう述べて応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、救済申 立てがあった事件である。
2 東京都労委は、申立ての一部を認容し、(i)法人の求める団体交渉ルールに従いことに固執しての団体交渉拒否の禁止、 (ii)法人施設内の組合活動を認めない等の通知、組合との連絡手段を郵便に限定し文書や口頭による申入れを受け付けないこ と及び組合宛ての郵便物等を返送又は組合委員長の自宅に転送することによる支配介入の禁止、並びに(iii)文書掲示を命 じ、(iv)その余の申立てを棄却する旨の命令を発した。法人は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委は再審査申 立てを棄却した。
3 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起されたが、同地裁は原告の請求をいずれも棄却した。 
判決主文  1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(組合の法適合組合該当性)について
 労組法第5条第1項は、労働委員会に対し、労働組合が同法第2条及び第5条第2項の要件を具備するか審査すべき義務を課し ているが、この義務は、労働委員会が国家に対して負うものであって、使用者に対して負うものではなく、仮に当該審査の手続に 瑕疵があり又はその結果に誤りがあるとしても、使用者は、労働組合が同法第2条の要件を具備しないことを不当労働行為の成立 を否定する事由として主張することにより救済命令の取消しを求め得る場合があるのは格別、単に審査の手続に瑕疵があり又はそ の結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消しを求めることはできないものと解すべきである(最高裁昭和32年 12月24日第三小法廷判決・民集11巻14号2336頁参照)。
 原告の主張は、結局、組合が労組法第5条第2項の規定に適合しないことのみを理由として救済命令の取消しを求めるのと異な らないものであって、全判示に照らして失当である。
2 争点2(法人が組合との連絡手段を郵便に限定したことの支配介入該当性)、争点3(法人の本件返却等依頼への対応の支配 介入該当性)及び争点4(法人が組合に対し組合活動は学外で行うよう通知したことの支配介入該当性)について
(1) 労働組合は、当然に使用者の所有し管理する施設を利用する権利を保障されているものではなく、労働組合による当該施設の利用は、本来、使用者と団交等による合意に基づいて 行われるべきものであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで当該施設を利用して組合活動を行うことは、こ れらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある 場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらない (最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。
 そして、使用者がその管理する施設を利用した組合活動を許さないことが権利の濫用であると認められ支配介入に当たるか否か は、施設管理権と組合活動の調和を図る観点から、当該組合活動の内容及び必要性、当該組合活動により使用者に生ずる支障の有 無及び程度、使用者の不当労働行為意思の有無等の諸点を総合考慮して判断すべきである。
(2) 法人が組合との連絡手段を郵便に限定したことは、組合の組合員の雇用維持という重要な議題を含む団体交渉についての連絡を、施設管理上顕著な支障がないにもかかわらず、組 合を弱体化させる意図により妨害したものであって、施設管理権を濫用したものとして組合の運営に対する支配介入に当たると認 めるのが相当である。
(3) 法人の本件返却等依頼への対応は、組合との連絡手段を郵便に限定する対応の一環として求めたものとみるべきである。また、本件返却等依頼の内容は、文書によらなければその 内容を理解し難いといった事情は見当たらない上、文書の交付方法を郵便に限ることについても、合理的な理由が見当たらない。
 このように、法人の本件返却等依頼への対応は、組合の運営に対する支配介入の一環として行われたものである上、本件返却等 依頼に対する対応をそれ自体としてみても合理性が認められないから、組合の運営に対する支配介入に当たるというべきである。
(4) 学内における組合活動には、重要な議題を含む団体交渉に関する連絡等の重要性の高いものや、施設管理上の支障がほとんど生じないものも含まれ、これら組合活動の一切を許可 がないことのみを理由として認めない場合、法人に支障がほとんど生じない組合の組合活動も不可能となり、組合の円滑な組合活 動が阻害されることとなる。このことに加え、前判示のとおり、法人が組合を弱体化させる意図に基づいて組合との連絡手段を郵 便に限定していたことなども併せ考慮すれば、法人は、重要な組合活動を含む学内における一切の組合活動を、これにより法人に 生ずる支障の有無と無関係に、組合を弱体化させる意図により禁止したものと認められる。
 以上によれば、法人が少なくとも許可がない限り学内における一切の組合活動を認めない旨通知したことは、施設管理権を濫用 するものとして組合の運営に対する支配介入に当たるというべきである。
3 争点5(法人が組合宛ての郵便物等を返送し又は組合委員長の自宅に転送したことの支配介入該当性)について
 法人は、上部団体からの郵便物等の取次ぎについて、組合を他の組合と別異に取り扱っていること、法人は、教員宛の私用の郵 便物等は同教員のレターボックスに入れているところ、あえてこれより手間のかかる返送又は転送をしていること、組合は上部団 体との連絡に更なる期間及び費用を要し組合活動に具体的な支障を生じたことに加え、前判示のとおり、法人が組合を弱体化させ る意図に基づいて組合との連絡手段を郵便に限定していたことなども併せ考慮すれば、法人は組合の弱体化を意図して参加人宛て の郵便物等を返送又は転送したものであり、参加人に対する支配介入に当たるというべきである。
4 争点6(法人の団体交渉申入れへの対応の正当な理由のない団体交渉拒否該当性)について
 使用者が負う団体交渉義務には、労働組合と誠実に交渉する義務が含まれ、法人は、団体交渉の開催に向けての交渉過程におい ても、開催条件である交渉場所等について誠実に交渉する義務を負っていたものであるから、法人がこれを怠って誠実な説明や交 渉をしなかった場合には、当該団体交渉拒否には正当な理由が認められないというべきである。
 法人の説明は、学校施設は教育のための場であって組合活動を行うための場所ではないから学内での団体交渉は行わない旨の形 式的説明に終始したものであって、法人は、学外での団体交渉に固執して団体交渉の開催に向けた誠実な交渉を怠ったものである から、正当な理由なく団交を拒否したものと認めるのが相当である。
5 争点7(救済の必要性)について
(1) 使用者による不当労働行為の成立が認められる場合であっても、それによって生じた状態が既に是正され、正常な集団的労使関係秩序が回復されたときは、救済の必要性がないも のとして救済申立てを棄却することができる。
(2) 法人は、当審の口頭弁論終結時に至るまで、組合との連絡手段を郵便に限定したことの不当労働行為該当性を争っている上に、組合の持参した文書を受領するようになったのは、 当該文書を受領しないことが不当労働行為に当たるとした都労委命令の交付後であることに照らせば、組合との連絡手段を郵便に 限定した不当労働行為については、救済の必要性があるというべきである。
(3) 法人は、都労委命令の交付後に、まず学外の交渉場所を提案しているが、学外を再度提案した理由について、他の労働組合との団体交渉例によったものである旨を主張するにとど まり、当該提案の合理的理由を基礎付けるに足りる説明がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、救済の必要性は失われ ないものというべきである。
 また、法人は、これに続き埼玉キャンパス構内の交渉場所を提案しており、当該提案は、団体交渉場所に限っていえば組合の要 求に応ずるものであったということができるが、組合は組合の上部団体の役員の団体交渉への参加を求めていたところ、当該提案 には、双方の出席者を法人の教職員に限る旨の条件が付されていた。そこで検討するに、前掲最判昭和54年10月30日の理は 団体交渉にも基本的には及ぶものであるから、使用者は、団体交渉のためであっても、使用者施設の利用を当然に受忍しなければ ならないものではなく、労働組合は、当然には使用者施設において団体交渉を行う権利を有しない。もっとも、団体交渉は労使関 係の基盤として労働組合にとって極めて重要な機会であり、特に義務的団体交渉事項については使用者は団体交渉に応ずべき義務 を負っていること、当該労働組合の組合員であれば、労働契約に基づく労務の提供のために通常は事業場へ立ち入ることに加え、 労務提供場所でない使用者施設への立ち入りについても、従業員としての立場から明示又は黙示に容認されていることも多いこと などから、同施設の平穏かつ秩序ある利用への懸念が大きいことなど特段の事情がない限り、団体交渉のための使用者施設の利用 についても、一般的にこれを認める必要性が相当に高いというべきであり、権利濫用の判断に当たっては、この点を充分に考慮す べきである。
 その一方で、団体交渉に当該労働組合の上部団体の者等の当該労働組合の組合員でない者が参加する場合には、上部団体が同団 体固有の又は単位組合と競合して団体交渉権を持つとしても、そのことから直ちに当該非組合員が団体交渉のための施設への立入 権や利用権を取得するものではなく、上記の労働組合員の場合と異なった考慮を要する。そこで、権利濫用に当たるか否かは、上 記の観点に加え、団体交渉が労働組合にとってはもとより、使用者にとっても極めて重要な労使関係の基盤としての意義を有する 一方で、使用者の施設管理権に基づく施設の利用や秩序維持等との調和も図る必要があるという点も踏まえ、団体交渉の交渉事項 の内容や重要性、使用者による当該施設の利用の必要性、重要性及び団体交渉に当該施設を利用することによる使用者の支障の内 容や程度、使用者施設以外の代替施設の有無や当該施設の団体交渉利用の容易性、使用者の労働組合に対する上記各事項の説明の 内容、団体交渉参加者全体の人数、使用者側の人数、参加する非組合員と当該労働組合との関係やその人数、使用者施設の収容人 数、交渉に要する時間、従前の団体交渉の実情、一般的な来所者に対する施設管理権行使の実情等諸般の事情を総合的に考慮し、 使用者が団体交渉のために非組合員に使用者施設への立入りや利用を許さないことが労働組合の団体交渉の権利を実質的に侵害す るものか否かという観点から判断すべきである。
 組合員にとって、団体交渉事項は重要な義務的団体交渉事項であって、可能な限り早期に団体交渉を実施すべき必要はある一 方、法人にとって学外者である上部団体の幹部が学内の団体交渉に参加することにより具体的な支障が生ずることについて組合に 対する具体的な説明がなく、かえって法人は他の組合との団体交渉例に倣うという合理的ではない理由に固執していたこと、団体 交渉に上部団体の幹部が参加することによって、法人の施設管理権という観点から看過しがたい支障等が生ずるとは認められない ことなどの諸事情を総合考慮すると、組合において団体交渉への参加を求める上部団体の役員について、上記拒絶理由に基づいて 埼玉キャンパス内の団体交渉場所への立入り及び使用を拒絶することは、組合員の団交権を実質的に侵害するものであり、権利の 濫用に当たるというべきである。
 そして、法人は、現時点でも上記拒絶理由に固執して団体交渉を実質的に拒否していることが認められるから、救済の利益及び 訴えの利益が消滅したということはできない。
6 争点8(都労委命令の主文の明確性等)について
(1) 労働委員会の命令の内容は、主文のみならず理由も含めた命令全体から判断すべきものであり、主文と理由中の判断を併せ読むことにより将来の禁止事項を具体的に特定できる場 合には、当該命令は明確であり適法というべきである。
 都労委命令の主文及び命令を併せて解釈すると、都労委命令の主文第1項は、団体交渉の開催場所を学外に限定することその他 の合理性のない団体交渉ルールに固執して団体交渉を拒否することを禁止するものであることが理解可能であり、都労委命令の判 断を是認した中労委命令も同旨というべきである。
 団体交渉ルールには種々のものが含まれることや、交渉過程で従前はなかった新たな団体交渉ルールが提示される場合もあるこ となどに鑑みれば、合理性のない団体交渉ルールの具体的内容をあらかじめ厳格に特定することは困難であって、救済命令におい てこれを厳格に特定すれば使用者において救済命令を潜脱することが容易となり、その実効性を損なう事態となるのであることに も照らせば、都労委命令の主文第1項は明確であり適法というべきである。
(2) 都労委命令の主文第2項の返送等禁止命令は、組合宛ての郵便物等を返送又は転送しないという不作為を命ずるものであり、そのことは主文自体から明らかというべきである。履 行方法が明記されていないとする原告の主張は、前提を欠き失当である。
 組合委員長が大学の教員の身分を喪失したか否かは別として、同命令は組合員宛ての郵便物等の返送又は転送をしないという不 作為を命ずるものであって、当該郵便物等を組合委員長のレターボックスへ入れることはその履行態様の1つにすぎないから、同 命令が履行不能であるということはできない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成27年(不)第73号 一部救済 平成28年10月4日
中労委平成28年(不再)第62号 棄却 平成29年10月4日
東京地裁平成30年(行ク)第174号 認容 平成31年2月21日
東京高裁平成31年(行コ)第63号 棄却 令和元年8月8日
最高裁令和2年(行ヒ)第19号 上告不受理 令和2年3月11日
 
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