労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成28年(行コ)第3号
ハートフル記念会(旧ひまわりの会)不当労働行為救済申立命令取消請求控訴事件 
控訴人  社会福祉法人X(「法人」) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z1労働組合神奈川県本部(「県本部」)  
被控訴人補助参加人  Z1労働組合神奈川県本部Z2分会(「分会」、「県本部」と併せて「組合ら」)  
判決年月日  平成28年4月21日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 神奈川県労働委員会は、法人の次に挙げる行為が不当労働行為に当たるとして、救済命令を発した。
(1) 法人が、職員や分会に対し職員の処分問題に関する組合らの組合活動を非難等する文書を送付等したこと
(2) 法人が、県本部の執行委員長で、法人職員のA1を職務手当が支給される法人運営の有料老人ホームDホームの生活相談員の責任者から解任したこと
(3) 法人が、A1を特殊業務手当が支給されるDホーム所属の相談員から同手当が支給されない法人運営の特別養護老人ホームE苑所属のデイサービスを中心とした送迎業務他を担当する一般職に配置転換をしたこと
(4) 法人が、分会が本件各処分及び職員の人事問題等を交渉事項として団体交渉の申入れに対して誠実に対応しなかったこと
2 法人は、これを不服として、中央労働委員会に再審査の申立てをしたが、中労委は、初審命令を一部訂正の上、法人の再審査の申立てを棄却した。
3 法人は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。
4 法人は、これを不服として、東京高裁に控訴を提起したが、同高裁は法人の控訴を棄却した。   
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、法人の請求は理由がないものと判断する。
  その理由は、後記2のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における法人の主張に対する判断を付け加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の補正
  原判決72頁5行目から10行目までを次のとおり改める。
 「 本件解任の事由6について、法人は、過去の交通事故や職場の無断離脱の後、法人からの注意に対するA1の態度を問題とする趣旨であり、刑事裁判において前科を考慮して量刑を決めるのと同じであると主張する。懲戒処分において処分を選択する際に過去の懲戒処分歴を考慮することは許容され、事由6として記載されている内容もその趣旨のものと理解できなくはない。しかし、事由6の注意は交通事故によるものであって、事由1ないし5とは行為の性格が異なり、上記のとおり、事由1ないし5は本件解任の合理的理由とはならないものであるから、事由6の事情を併せて考慮しても本件解任が合理的理由を有することにはならない。」
3 当審における法人の主張に対する判断
(1) 9月30日報告、2月7日要求書、2月17日通知書及び4月22日業務通知書について
  9月30日報告について、法人は、A2に対する処分及びその理由を職員に周知するためには、A1の行う組合活動の内容、適否に踏み込んでA2とA1との関係に言及せざるを得なかったものであって、A1の行う組合活動を非難する趣旨を含むものではないと主張する。しかし、9月30日報告のうち、A1とA2が特別な関係にあり、そのためA2のパワーハラスメントについて組合らに相談することができず、組合らはA1の活動が組合らと関係がないという立場をとっているとの部分は、A2に対する処分やその理由について説明する文章の後に付け加えられているものであり、かつ、文脈上、A2の処分や理由のために必要な言及であるとは解されない。
  2月7日要求書について、法人は、A3が申し立てた労働審判についての組合の見解等を質問したものにすぎず、A1や組合らの組合活動を非難する趣旨を含むものではないと主張する。しかし、2月7日要求書は、労働審判においてA3が主張する内容は虚偽であるとの一方的な前提に立った上で、A1が行う組合活動は組合らを無視した暴挙であるという法人の見解への同調を求める趣旨と理解できるのであり、単に組合らの見解について質問する趣旨のものとはいえない。
  2月17日通知書について、法人は、事実と異なる情報宣伝の内容を訂正するものにすぎず、A1や組合らの組合活動を非難する趣旨を含むものではないと主張する。しかし、2月17日通知書は、文面上、単に定期昇給についての法人の方針を説明するに止まらず、組合らの活動手法は末法思想的で遣憾なものであるとの非難を付加しており、単に組合らが宣伝する内容に対する訂正する趣旨とは解されない。
  4月22日業務通知書について、法人は、新たな団体の設立を促すものではなく、A1や組合らの組合活動に対する非難ではないと主張する。しかし、4月22日業務通知書の内容は、別件労働審判において調停が成立したことを通知するものではあるが、それとは直接関係のない、分会は腐敗しており信用するに値せず、今後は職員代表者を中心とした構成が必要であるとの法人の考えが付加して記載されており、この記載は、分会を強く非難し、分会とは別の組織や団体を結成する必要があることをいうものであって、組合の自主性、団結力、組織力を損なうおそれのある行為というべきである。
  したがって、9月30日報告、2月7日要求書、2月17日通知書及び4月22日業務通知書がいずれもA1や組合らの組合活動を非難等する支配介入行為であると認定する原判決の判断は相当であり、法人の主張は採用することができない。
(2) 法人は、本件解任は合理的理由に基づく法人の正当な人事権行使であって、A1が組合員であることや組合活動を理由にしたものではなく、労組法7条1号の禁止する「不利益」には当たらない旨主張する。
  法人の主張する本件解任の事由1ないし5が、殊更に懲戒の理由とすべきものではないこと又は本件解任の合理的理由とはなり得ないものであることは、原判決において説示するとおりである。
  また、法人は、事由6は、交通事故そのものではなく、法人が注意したことに対するA1の態度を問題視しているのであって、同一事由によって二重の制裁を科すものではないと主張するところ、この点については、上記2で原判決を訂正し説示するとおりである。
(3) 法人は、本件配置転換がいずれも労組法7条1号の禁止する「不利益」には当たらない旨主張するが、本件配置転換はA1に対する否定的評価を背景とした左遷と受け止められてもやむを得ないものであること、実質的にはA1に対して意向聴取が行われずにされた異動であり、精神上の不利益を伴う取扱いであることは、原判決において説示するとおりである。その内容及び程度に鑑みれば、その不利益を単にA1の主観であり、社会通念上受忍限度の範囲のものということはできない。
(4) 法人は、当時の団体交渉の場はまともに議論ができるような場ではなかったのであるから、組合側の主張の詳細が明らかになるまで法人が分会からの団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由がある旨主張する。
  しかし、平成22年5月の団体交渉においてA1が空のペットボトルを手の掌又は机の上を叩いてリズムをとりながら発言していたことや、B1前理事長が詐欺師であるとして同人の辞任を求める趣旨の発言をしたことなど、法人が指摘する事情を考慮しても、それをもって団体交渉の場において法人と組合らが正常な協議ができない状況にあったとまでは認められない。また、証拠上、当時組合らやその関係者が、法人との団体交渉の場において脅迫的な言動や暴力行為を行うことを危惧すべき事情があったとも窺われない。したがって、平成22年5月の団体交渉の場におけるA1の言動をもって法人が団体交渉の申入れに応じなかったことの正当な理由になるとはいえず、法人の主張は採用することができない。
(5) 法人は、本件命令3項は憲法19条に違反すると主張する。
  本件命令3項が命ずる掲示の内容は、労働委員会において法人の行為が不当労働行為と認定された事実を関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑止しようとする趣旨のものであって、法人に対し反省等の意思表明を強制するものではないから、憲法19条に反するとはいえない(最高裁判所平成9年(行ツ)第6号平成9年10月23日第1小法廷判決、最高裁判所昭和63年(行ツ)第140号平成3年2月22日第2小法廷判決・裁判集民事162号123頁、最高裁判所昭和63年(行ツ)第102号平成2年3月6日第3小法廷判決・裁判集民事159号229頁参照)。したがって、本件命令3項につき、憲法19条違反をいう法人の主張は失当であり、採用することができない。
(6) 以上のほか、法人が控訴理由書において指摘し、主張する種々の事項について勘案しても、原判決の認定判断を覆すに足りない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神労委平成23年(不)第18号 全部救済 平成25年3月12日
中労委平成25年(不再)第17号 棄却 平成26年3月12日
東京地裁平成26年(行ク)第383号 緊急申立ての一部認容 平成27年3月25日
東京地裁平成26年(行ウ)第189号 棄却 平成27年11月27日
最高裁平成28年(行ツ)第255号、平成28年(行ヒ)第295号 上告棄却・上告不受理 平成28年9月29日
 
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