労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ひまわりの会(緊急命令申立) 
事件番号  東京地裁平成26年(行ク)第383号 
申立人  中央労働委員会 
申立人補助参加人  全国福祉保育労働組合神奈川県本部(「県本部」) 
申立人補助参加人  全国福祉保育労働組合神奈川県本部緑陽苑分会(「分会」、「県本部」と併せて「組合ら」) 
被申立人  社会福祉法人ひまわりの会(「法人」) 
決定年月日  平成27年3月25日 
決定区分  緊急申立ての一部認容 
重要度   
事件概要   神奈川県労委は、平成25年3月12日、組合らが申し立てた不当労働行為救済申立事件について、次の(1)から(4)までの救済申立ての対象である法人の行為は、いずれも不当労働行為に該当するとして、別紙2のとおりの命令(以下「初審命令」という。)を発した。
(1)法人が、県本部の委員長で、法人の経営する有料老人ホームの職員であるA1(以下「A1委員長」という。)に対し、職務手当が支給される責任者から解任したこと(以下「本件解任」という。)(労組法7条1号)
(2)法人が、A1委員長に対し、特別業務手当が支給される生活相談員から、同手当が支給されない特別養護老人ホーム所属の運転手に配置転換したこと(以下「本件配置転換」といい、本件解任と併せて「本件各処分」という。)(労組法7条1号)
(3)法人がA1委員長に対し、本件各処分を行ったこと及び職員や分会に対し、職員の処分問題に関する組合らの組合活動を非難等する文書を送付等したこと(労組法7条3号)
(4)法人が、分会がした、本件各処分及び職員の人事問題等を交渉事項とする団体交渉申入れに関して、誠実に対応しなかったこと(労組法7条2号)
  法人は、初審命令を不服として、中労委に対し、再審査を申し立てた。中労委は、本件再審査申立てを棄却するとの命令(以下「本件命令」という。)を発し、法人は、本件命令を不服として東京地裁にその取消しを求める基本事件の訴えを提起した。
  本件は、中労委が、本件命令でその一部を訂正の上維持するものとされた初審命令のうち、上記(1)及び(2)の不当労働行為に係る主文第1項及び第2項につき、緊急命令を申し立てた事案である。  
決定主文  1 被申立人は、被申立人を原告、国を被告(申立人を処分行政庁)とする当庁平成26年(行ウ)第189号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が中労委平成25年(不再)第17号事件について発した平成26年3月12日付け命令によってその一部を訂正の上維持するものとした神奈川県労委平成23年(不)第18号事件について、神奈川県労働委員会がした平成25年3月12日付け命令の主文第1項(上記訂正後のもの)及び第2項に従い、
(1)全国福祉保育労働組合神奈川県本部執行委員長A1に対する平成23年2月21日付け責任者解任をなかったものとして取り扱い、同人を責任者に復帰させなければならない。
(2)前記A1に対する平成23年4月18日付け配置転換をなかったものとして取り扱い、同人を有料老人ホームの生活相談員に復帰させなければならない。
2 申立人のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は、補助参加によって生じたものも含めて被申立人の負担とする。  
決定の要旨  第3 当裁判所の判断
1 本件命令の適法性について
(1) 本件解任の不当労働行為(不利益取扱い)該当性
  A1委員長の言動に改めるべき不適切な点があることは否めないが、更に進んで責任者としての資質を否定しなければならないものとまではいい難いのであって、本件解任を行うについての理由としていまだ相当であるとはいえない上、新理事体制発足時に職員の不安を煽るビラを配布したりした事実、及びC1の退任要求の署名に協力した職員を恫喝したとの事実については、一件記録及び基本事件で取調済みの各書証においても認めるに足りない。
  一方で、前記認定事実で取り上げた各文書の表現ぶりに照らせば、法人代表者であるB2理事長が組合ら及びA1委員長に対して悪感情を募らせていることがうかがわれ、本件解任が、C1のホーム長解任に関する問題や、A2の懲戒解雇をめぐって、組合らと法人が対立を深めていき、特に法人において組合らを嫌悪するに至った時期に行われていることを併せ考えると、本件解任はA1委員長が組合らの組合員であることを理由になされたものであるとみることができる。
  以上のとおりであるから、本件解任が労組法7条1号の不利益取扱いに当たるとした本件命令の適法性に重大な疑義があるとはいえない。そして、救済方法の内容に問題とする点もないから、本件命令の主文第1項により訂正された初審命令の主文第1項の救済命令は適法である。
(2) 本件配置転換の不当労働行為(不利益取扱い)該当性
  法人がA1委員長に対してした本件配置転換は、法人がその根拠としてA1委員長に説明した理由のいずれについても、抽象的である感が否めず、法人にて10年余り相談員ないし生活相談員として稼働し、「施設の相談員として居住者の新規利用受け入れ業務に中核的に関わっている。さらに責任者会議の構成員としても必須の存在となってきている。」とも評価されていたA1委員長をして、それまでの生活相談員とは大きく業務内容が異なり、従前は非正規職員が担当しており、生活相談員としての経験を生かす余地の乏しい運転手業務に就かせる理由として了解可能なものがあるとはいえない。
  このことに、本件配置転換が、本件解任と同様、組合らと法人が対立を深め、特に法人において組合らを嫌悪するに至った時期に行われていること、特に、本件解任等について分会が団体交渉の開催を要求していた中で、何らの前触れなく本件配置転換の内示(発表)がなされたことを併せ考えると、本件配置転換はA1委員長が組合らの組合員であることを理由になされたものであるとみることができる。
  以上のとおりであるから、本件配置転換が労組法7条1号の不利益取扱いに当たるとした本件命令の適法性に重大な疑義があるとはいえない。そして、救済方法の内容に問題とする点もないから、本件命令により維持された初審命令の主文第2項の救済命令は適法である。
2 緊急命令の必要性及び相当性について
(1) 法人は、基本事件の訴えを提起した後は、組合らと実施した団体交渉において、その結果が出るまでは本件命令を履行しないとの態度を明確に示し、申立人からの履行状況の照会を受けた際にも、上申書で、同様の態度を明確に表明しているとの経過が認められる。したがって、現時点においても、法人が本件命令を任意に履行することは想定し難い。
(2) 分会及びA1委員長と法人との間で対立が激化していく中で、A1委員長の正当な組合活動を嫌悪し、分会とA1委員長の関係を分断することなどを意図した上での行動に出、これが功を奏さないと見るや、本件各処分を行うことで、A1委員長を組合らの組合活動から排除する目的を有していたとみることができる。そして、その態様は、A1委員長を、さしたる理由もなく運転手業務へ配置転換するというものであり、他の従業員の一般的な認識に照らして左遷と受け取らざるを得ないから、A1委員長に与える精神的苦痛は顕著なものであったということができ、経済的損失についても軽視することができないし、組合らの組合活動に及ぼす心理的影響も相当のものであるということができる。
  このように、本件各処分は、組合ら、ことに分会の組合員を強く萎縮させるものといい得るから、本件各処分の組合らの団結権侵害の程度も、顕著なものといえる。
(3) 加えて、法人において、初審命令発令後から現時点までの間に、次のアないしエに認定した出来事が発生しており、法人において、いまだ組合らの組合員を嫌悪していることが強くうかがわれることも併せ考慮すると、本件申立てを認容することにより法人が被るであろう不利益の程度や、現時点でもA1委員長が特別養護老人ホームの設備を使用するなどして組合活動を行うことができていることがうかがわれることを考慮してもなお、かかるA1委員長及び組合らへの侵害を除去、是正して正常な集団的労使関係秩序を回復、確保する必要性があると認められるから、A1委員長を原職に復帰させるとの緊急命令を発する必要性及び相当性があるというべきである。
ア 初審命令発令後に、法人の再建という見地から労使交渉により解決する道を探るよう要望した法人の事務局長を、些末な理由により解雇した。なお、法人は、B5事務局長に対し、「普通解雇理由書」と題する書面を送付し、数々の業務命令違反行為等の問題とする行為を指摘しているが、B5事務長が法人を相手として申し立てた仮処分命令申立事件において、法人が解雇理由として就業規則18条2号、8号に当たると主張した出来事のいずれについても、これらの条項に該当するような事実の疎明はなく、解雇に客観的に合理的な理由は認められないと説示している。
イ 分会の組合員である、A4が権限なく、ホーム長への報告もせず利用者の通帳を一時的に預かったことについて、当該通帳は小口現金等の保管用倉庫に収納されたため、実際上の問題が生じるおそれは乏しかったにもかかわらず、A4の行為は悪性が高いと評価した注意指導書を交付した。
ウ 基本事件等の裁判日程等を記載したビラを分会にて法人の職員用掲示板に掲示したところ、分会に対してではなく、敢えてA1委員長個人宛に、虚偽の事実を掲示することをやめるよう求める通知書を交付した。
エ 法人は、従前、分会は腐敗しており信用するに値しないから、職員の代表者を中心とした職員の構成が必要だと考えている、と職員に表明していたところ、法人代表者の了解の下、被告の従業員において、「新労働組合」を設立する旨のビラを掲示するなどした。
(4) 他方、本件解任がなかったならば支給されるべきであった職務手当相当額に年率5分相当額を加算した金員を支払わなければならないとの緊急命令の申立てについては、A1委員長がいまだ法人に在籍しており、当該職務手当の支給がなくとも、法人からの給与によりさほどの困難なく生計を維持していると一応認められることに照らして、緊急命令を発する必要性は認められない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神労委平成23年(不)第18号 全部救済 平成25年3月12日
中労委平成25年(不再)第17号 棄却 平成26年3月12日
東京地裁平成26年(行ウ)第189号 棄却 平成27年11月27日
東京高裁平成28年(行コ)第3号 棄却 平成28年4月21日
最高裁平成28年(行ツ)第255号、平成28年(行ヒ)第295号 上告棄却・上告不受理 平成28年9月29日
 
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