労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  高見澤電機製作所外2社  
事件番号  東京高裁平成23年(行コ)第215号  
控訴人   全日本金属情報機器労働組合(以下「X組合」という。)
全日本金属情報機器労働組合長野地方本部
全日本金属情報機器労働組合長野地方本部高見沢電機支部(以下「X支部」という。)  
被控訴人   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
参加人   富士通コンポーネント株式会社(以下「FCL」という。)
株式会社高見澤電機製作所(以下「高見澤」という。)
富士通株式会社(以下「富士通」という。)  
判決年月日   平成24年10月30日  
判決区分   棄却  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 A事件(長野地労委平成11年(不)第2号関係)
(1)高見澤及び富士通が、組合との合意なく、①高見澤の信州工場にあったデバイス技術部を移転したこと、②信州工場の業務の一部をZ通信に営業譲渡したこと及びZ通信への転社者、希望退職者の募集並びにX支部組合員に対する人事異動を行ったこと(以下「本件事業再建策等」という。)、(2)高見澤が、③転社者、希望退職者の募集に際し、併存組合の幹部組合員を使いX支部組合員に対する宣伝と恫喝を行ったこと、④信州工場内に仕切り壁を設置する等して、支部機関紙の配布を妨害したこと、⑤デバイス技術部移転等、事業再建策等、平成11年度賃上げを交渉事項とした団体交渉において、不誠実な対応をしたこと、(3)富士通が、⑥高見澤の事業再建策等を交渉事項とした団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 B事件(長野地労委平成13年(不)第3号関係)
(1)高見澤が、持株会社(FCL)の設立、高見澤の上場廃止、グループ会社全体を統括する管理・営業・技術部門の持株会社への営業譲渡(以下これらを併せて「本件持株会社設立等」という。)が高見澤及び信州工場の事業の将来構想及び労働者の雇用・労働条件に与える影響並びにその悪影響の回避措置・救済措置についての団体交渉において、不誠実な対応をしたこと、(2)富士通が、本件持株会社設立等を交渉事項とした団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
3 C事件(長野地労委平成14年(不)第1号関係)
(1)高見澤が、信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画及び当該計画の下での信州工場の労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策を交渉事項とした団体交渉において、不誠実な対応をしたこと、(2)富士通及びFCLが、上記事項を交渉事項とした団体交渉を拒否したこと、(3)高見澤、富士通及びFCLが、X支部組合員の賃上げ、一時金等の労働条件を、FCLに転籍した労働者より下回らないようにしなかったことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
4 初審長野県労委は、A事件については、上記1の①~⑥のうち②の本件事業再建策等に係る高見澤の一部行為が支配介入に、⑤の本件事業再建策等に係る団体交渉での高見澤の態度が不誠実団体交渉に当たるとして、高見澤に対し誠実団交応諾及び文書手交を命じ、また、富士通の団体交渉上の使用者性を認めた上で、⑥の団体交渉での富士通の態度が不誠実団体交渉に当たるとして、富士通に対し誠実団交応諾及び文書手交を命じた(平成17年3月23日)。B事件については、上記2の(1)(2)のいずれについても不当労働行為の成立を認めず、申立てを棄却した(平成17年3月23日)。さらに、C事件については、上記3の(1)~(3)のうち(1)の団体交渉での高見澤の態度が不誠実団体交渉に当たるとして、高見澤に対し誠実団交応諾及び文書手交を命じ、また、FCLの団体交渉上の使用者性を認めた上で、(3)のFCLの団体交渉の拒否が不当労働行為であるとして、FCLに対し誠実団交応諾及び文書手交を命じた(平成17年9月28日)。
 これを不服として、A事件初審命令に対し、X組合ら、高見澤及び富士通がそれぞれ再審査を申し立て、また、B事件初審命令に対し、X組合らが再審査を申し立て、さらに、C事件初審命令に対し、X組合ら、高見澤及びFCLがそれぞれ再審査を申し立てたところ、中労委はA事件及びC事件に係る初審命令主文の救済部分を取り消し、これらの事項に係る救済申立てを棄却し、X組合らの本件各再審査申立てを棄却した。
 X組合らは、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、X組合らの請求をいずれも棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、X組合らが東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、X組合らの控訴を棄却した。
判決主文  1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、富士通及びFCLがX組合らや高見澤の従業員との関係で使用者に当たるとは解することができず、また、各事件における富士通らの行為がいずれも不当労働行為に当たるとは解することができないから、中労委のした本件命令は適法というべきであり、その取消を求めるX組合らの本訴請求には理由がないと判断する。その理由は、次項において、当審におけるX組合らの主張に対する補足的な判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第3の1ないし9において認定判断するとおりであるから、これを引用する。
2 当審におけるX組合らの主張に対する補足的な判断
(1) 富士通及びFCLの使用者性について
 ア 当裁判所も、労組法7条所定の使用者とは、労働契約における雇用主ないしは基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定できる地位にある者をいうと解するのが相当であると判断する。
 この点について、X組合らは、親子会社(グループ会社)の事案である本件においては、「労働契約上の使用者又はこれに準ずる者であり、現実的に具体的な支配力又は影響力を有する者」については使用者性を肯定すべきと主張する。
 しかし、労働契約における雇用主ないしは基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定できる地位にあるからこそ、労働組合との間の団体的労使関係の当事者となり得るのであり、また、労組法7条所定の使用者は、団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として禁止され、正常な労使関係を回復するために労働委員会による救済命令の名宛人とされ、その違反行為に対しては罰則も予定されていることに照らしても、使用者性については、X組合らが主張するようなあいまいで不明確な判断基準によることは相当でない。
 イ また、X組合らは、本件における使用者性の有無の判断に当たっては、企業再編に伴う労働者の雇用と労働条件に対する支配力の問題を重視すべきであり、労働者の雇用基盤に関係する労働条件の場合には、その使用者性の要件についても実質的かつ柔軟に判断されるべきと主張する。
 しかし、労働者の賃金、労働時間等の基本的な労働条件等に対する支配力がないにもかかわらず、労働者の雇用基盤に関係する労働条件に対する支配力がある場合を想定できるとするX組合らの主張の前提自体についても疑問があるが、その点は措くとしても、使用者性の有無の判断に当たっては、あくまでも労働契約における基本的な関係の存在を前提とすると解するのが相当であり、前述したとおり、X組合らが主張する判断基準はあいまいで不明確なものといわざるを得ない。
 ウ したがって、富士通及びFCLの使用者性については、原判決も適切に認定判断しているとおりであり、本件における事実関係(資本関係、役員の状況及び営業取引関係、労働条件面における支配力、その他の事情)のもとにおいては、富士通らが、その資本関係や役員派遣等を通じて、高見澤の経営に対する一定の支配力を有しており、また、本件事業再建策等や本件持株会社設立等について一定の関与をしていたものとはみることができるものの、これらの支配ないし関与は、親会社ないし持株会社が子会社等に対して行う管理監督の域を超えるものではなく、日常的な労働条件に関する問題についても、また、本件事業再建策等に伴う労働条件に関する問題についても富士通らが現実的かつ具体的な支配関与をしていたとは認めることができず、基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定できる地位にあったとも解することはできないから、富士通及びFCLは、本件において労組法7条所定の使用者には当たらず、また、各事件について不当労働行為責任を負う者にも当たらないと判断するのが相当である。
 エ よって、富士通及びFCLの使用者性に関する争点1についてのX組合らの主張は理由がなく、また、その使用者性が肯定されることを前提とする争点7(本件事業再建策等の提案を交渉事項とする団体交渉申入れの拒否)、争点9(本件持株会社設立等を交渉事項とする団体交渉申入れの拒否)及び争点11(「信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画と、その計画のもとでの信州工場の労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策」を交渉事項とする団体交渉申入れの拒否)についてのX組合らの主張も理由がなく、同様に、争点2(デバイス技術部移転等についての不当労働行為の成否)、争点3(本件事業再建策等についての不当労働行為の成否)及び争点12(信州工場のX支部の組合員とFCLに移籍した者との労働条件の格差等についての不当労働行為の成否)のうち富士通及びFCLに係る部分についてのX組合らの主張も理由がない。
(2) 各事件の不当労働行為の成否について
 富士通及びFCLが本件において労組法7条所定の使用者には当たらず、また、各事件について不当労働行為責任を負う者にも当たらないのは前述のとおりであるところ、高見澤についてのX組合らが主張する不当労働行為の成立を認めることができないことは原判決においても適切に認定判断されているとおりである(A事件関係の争点2のデバイス技術部移転等と全面解決協定との関係等、争点3の本件事業再建策等と全面解決協定との関係等、争点4の従業員組合の幹部による宣伝等、争点5の信州工場内の仕切り壁の設置等、争点6のデバイス技術部移転等を交渉事項とする団体交渉、本件事業再建策等の提案を交渉事項とする団体交渉及び平成11年度賃上げを交渉事項とする団体交渉における対応、B事件関係の争点8の本件持株会社設立等が高見澤及び信州工場の事業や労働条件等に与える影響等を交渉事項とする団体交渉における対応、C事件関係の争点10の「信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画と、その計画のもとでの信州工場の労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策」を交渉事項とする団体交渉における対応、争点12の信州工場のX支部の組合員とFCLに移籍した者との労働条件の格差等)。
 したがって、高見澤についてX組合らが主張する不当労働行為の成立を認めることができないことを前提とする本件命令の認定判断も相当というべきである。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
長野地労委平成11年(不)第2号 一部救済 平成17年 3月23日
長野地労委平成13年(不)第3号 棄却 平成17年 3月23日
長野地労委平成14年(不)第1号 一部救済 平成17年 9月28日
中労委平成17年(不再)第23号外(26・27・28・71・72・73) 一部変更 平成20年11月12日
東京地裁平成21年(行ウ)第295号 棄却 平成23年5月12日
 
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