労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  高見澤電機製作所外2社
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第295号
原告  全日本金属情報機器労働組合(以下「X組合」という。)
全日本金属情報機器労働組合長野地方本部
全日本金属情報機器労働組合長野地方本部高見沢電機支部(以下「X支部」という。)
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会)
参加人  富士通コンポーネント株式会社(以下「FCL」という。)
株式会社高見澤電機製作所(以下「高見澤」という。)
富士通株式会社(以下「富士通」という。)
判決年月日  平成23年5月12日
判決区分  棄却
重要度  重要命令に係る判決
事件概要  1 A事件(長野地労委平成11年(不)第2号関係)
(1)高見澤及び富士通が、組合との合意なく、①高見澤の信州工場にあったデバイス技術部を移転したこと、②信州工場の業務の一部をZ通信に営業譲渡したこと及びZ通信への転社者、希望退職者の募集並びにX支部組合員に対する人事異動を行ったこと(以下「本件事業再建策等」という。)、(2)高見澤が、③転社者、希望退職者の募集に際し、併存組合の幹部組合員を使いX支部組合員に対する宣伝と恫喝を行ったこと、④信州工場内に仕切り壁を設置する等して、支部機関紙の配布を妨害したこと、⑤デバイス技術部移転等、事業再建策等、11年度賃上げを交渉事項とした団体交渉において、不誠実な対応をしたこと、(3)富士通が、⑥高見澤の事業再建策等を交渉事項とした団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 B事件(長野地労委平成13年(不)第3号関係)
(1)高見澤が、持株会社(FCL)の設立、高見澤の上場廃止、グループ会社全体を統括する管理・営業・技術部門の持株会社への営業譲渡(以下これらを併せて「本件持株会社設立等」という。)が高見澤及び信州工場の事業の将来構想及び労働者の雇用・労働条件に与える影響並びにその悪影響の回避措置・救済措置についての団体交渉において、不誠実な対応をしたこと、(2)富士通が、本件持株会社設立等を交渉事項とした団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
3 C事件(長野地労委平成14年(不)第1号関係)
(1)高見澤が、信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画及び当該計画の下での信州工場の労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策を交渉事項とした団体交渉において、不誠実な対応をしたこと、(2)富士通及びFCLが、上記事項を交渉事項とした団体交渉を拒否したこと、(3)高見澤、富士通及びFCLが、X支部組合員の賃上げ、一時金等の労働条件を、FCLに転籍した労働者より下回らないようにしなかったことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
4 初審長野県労委は、A事件については、上記1の①~⑥のうち②の本件事業再建策等に係る高見澤の一部行為が支配介入に、⑤の本件事業再建策等に係る団体交渉での高見澤の態度が不誠実団体交渉に当たるとして、高見澤に対し誠実団交応諾及び文書手交を命じ、また、富士通の団体交渉上の使用者性を認めた上で、⑥の団体交渉での富士通の態度が不誠実団体交渉に当たるとして、富士通に対し誠実団交応諾及び文書手交を命じた(17年3月23日)。B事件については、上記2の(1)(2)のいずれについても不当労働行為の成立を認めず、申立てを棄却した(17年3月23日)。さらに、C事件については、上記3の(1)~(3)のうち(1)の団体交渉での高見澤の態度が不誠実団体交渉に当たるとして、高見澤に対し誠実団交応諾及び文書手交を命じ、また、FCLの団体交渉上の使用者性を認めた上で、(3)のFCLの団体交渉の拒否が不当労働行為であるとして、FCLに対し誠実団交応諾及び文書手交を命じた(平成17年9月28日)。
 これを不服として、A事件初審命令に対し、X組合ら、高見澤及び富士通がそれぞれ再審査を申し立て、また、B事件初審命令に対し、X組合らが再審査を申し立て、さらに、C事件初審命令に対し、X組合ら、高見澤及びFCLがそれぞれ再審査を申し立てたところ、中労委はA事件及びC事件に係る初審命令主文の救済部分を取り消し、これらの事項に係る救済申立てを棄却し、X組合らの本件各再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、X組合らが東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁はX組合らの請求をいずれも棄却した。
判決主文  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、参加によって生じた費用も含め、原告らの負担とする。
判決の要旨  1 富士通(本件各事件)及びFCL(C事件)の使用者性(争点1)
 労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にある場合には、その限りにおいて、同条の「使用者」に当たると解するのが相当である。
 富士通は、資本関係及び出身の役員を通じ、子会社ないし孫会社としての高見澤に対し、経営に一定の支配力を有していたとみることができるし、FCLは、資本関係及び兼務する役員を通じて、子会社である高見澤に対し、経営に一定の支配力を有し営業取引上優位な立場を有していたとみることができるものの、FCLの人事権が高見澤に及んでいるということも、FCLが高見澤の資産を取り上げ、収奪している関係にあるとの評価もできないし、労働者の基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったというだけの根拠は存在しないから、富士通及びFCLは、労組法7条の使用者には当たるということはできず、本件各事件について不当労働行為責任を負う者には該当しない。
2 高見澤による本件デバイス技術部移転等が不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点2)
(1) 全面解決協定との関係
 全面解決協定の文言の意味するところは、主として労働時間、賃金、勤務形態を内容とする労働条件の変更を労使の事前協議及び合意の対象とするものであり、これらの労働条件に影響を与える可能性のある経営施策そのものを労使の事前協議及び合意の対象としたとまで解することはできない。
 全面解決協定は、主として企業の経営についても使用者側の独断専行を避け、労働組合と協議してその意見を十分に使用者側に反映せしめるとともに、他方使用者の趣旨とするところを労働組合側に了解させ、できる限り両者相互の理解と納得の上に事を運ばせようとする趣旨を定めたものと解すべきである。
 そうすると、少なくとも、労働条件の変更を含む当該経営上の措置が使用者にとって必要やむを得ないものであり、かつ、これについて労働組合の了解を得るために使用者として尽くすべき処置を講じたのに、労働組合の了解を得るに至らなかったような場合に、使用者が一方的に当該経営措置を実施することを妨げるものではないと解するのが相当である。
 当時、デバイス技術部の移転が、直ちに信州工場での労働条件の切り下げ及び人員整理を認められ易くするものとはいえず、かえって、X組合らの組合員の労働時間、賃金、勤務形態等の労働条件が変更されたとは認められないことからすると、本件デバイス技術部移転等は全面解決協定の対象になるというX組合らの主張を認めることはできない。
(2) 本件デバイス技術部移転等の必要性
 当時の高見澤において、経営は極めて厳しい状況にあり、経営改善策を行う必要性に迫られていたものと認められ、相応の合理性を有すると認められる本件デバイス技術部移転等を行う必要性があったものと認められる。
(3) X支部委員長の処遇
 X支部は、デバイス技術の移転自体について同意せず、委員長の人事異動についても同意は得られなかったことから、高見澤は、委員長を引き続きデバイス技術部所属のまま信州工場を勤務地とし、業務量は減少したが、委員長の賃金、労働時間等の労働条件が変更される等の不利益取扱いがあったとは認められないし、委員長の組合活動に支障が生じ、組合運営が弱体化したと認めるだけの根拠はない。
(4) 以上のとおり、本件デバイス技術部移転等又は委員長の処遇は、X組合ら組合員の労働条件を変更するものではないから全面解決協定の対象にはならない上、高見澤の経営上の必要性から実施されたものであって、信州工場の業務と機能を縮小してX支部の壊滅をねらったものとは認められないから、不利益取扱い及び支配介入に該当するとは認められず、不当労働行為には当たらない。
3 高見澤及び富士通による本件事業再建策等が、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点3)
(1) 全面解決協定との関係
 Z通信への営業譲渡及びその際の転社者、希望退職者の募集は、転社への応募又は退職希望を前提とし、本件事業再建策等の実施後に引き続き信州工場で勤務している労働者の雇用関係及び労働条件の変更を伴うものではないから、転社者、希望退職者の募集自体が直接的に全面解決協定の対象となるとは認められない。
 次に野沢分工場のX支部組合員10名に対する異動命令については、勤務場所の変更、業務内容の変更等の労働条件の変更を伴っていることから、全面解決協定の対象となり、具体的事情に照らし、必要やむを得ないもので、かつ、X組合らの了解を得るために使用者として尽くすべき処置を講じたかどうかを検討し、不当労働行為該当性を判断すべきである。
(2) 本件事業再建策
 当時の高見澤の経営状況及び経営改善策を行う高度の必要性に鑑みれば、相応の合理性を有するものと認められることから、本件事業再建策を行う必要性があったものと認められる。
 高見澤は、会計情報、予測損益計算書等を提示し、経営状況の悪化、信州工場のコスト、現状体制のままでは収益回復は見込めないとの結論を説明した上で本件事業再建策を提案し、その後、団体交渉を開催し、深刻な経営状況について繰り返し説明して理解を求めるなど、合意形成のために尽くすべき措置を講じており、全面解決協定の趣旨に反するものとは認められない。
(3) 野沢分工場のX支部組合員10名に対する異動命令
 本件事業再建策の実施については、その必要性が認められるから、異動命令についても、その必要性が認められる。
 高見澤は、X支部組合員の人事異動に関し、団体交渉及びX支部三役折衝を開催し、業務移管及び人事異動の必要性について説明するなど、合意形成のために尽くすべき措置を講じており、全面解決協定に反するものとは認められない。
(4) 以上のとおり、本件事業再建策等は、全面解決協定に反するものとはいえず、その他本件事業再建策等の実施が不利益取扱い及び支配介入に該当することを認めるだけの根拠は存せず、不当労働行為に当たらない。
4 高見澤が、転社者及び希望退職者の募集に際し、従業員組合の幹部組合員を使いX支部組合員に対する宣伝と恫喝を行った事実の有無及び当該事実が肯定された場合に支配介入に該当するか(争点4)
 従業員組合の機関紙の「『残った者の扱いは、さらなる厳しいお願いをする』になってしまいます」等の記載内容自体、本件事業再建策の実施に伴い予想される事態を記事にしたものに過ぎず、X支部組合員に対する宣伝と恫喝を内容とするものとは解されないし、高見澤の指示や関与を認めるだけの証拠もないことから、高見澤が、X支部組合員に対する宣伝と恫喝を行った事実を認めることができない。
5 高見澤が、信州工場内に仕切り壁を設置する等してZ通信・高見澤間の自由な往来を禁止し、X支部機関紙の配布を妨害したことが、支配介入に該当するか(争点5)
 ①一般的に、同一の建物内に法人格を異にする複数の企業が入居する場合に、境界を仕切り壁で区切ること自体には一定の合理性が認められること、②高見澤は、同工事に先立ち、説明会を開催し事前に説明しており、X支部から異議や変更要求が出された事実は認められないこと、③高見澤とZ通信との境には2箇所の通用口が設けられ、通行できるようにされていたこと等から、仕切り壁の設置等について、高見澤がX支部組合員とZ通信への転社者との分断を意図したとか、X支部の影響力をZ通信に波及させないように意図したものとは認められず、支配介入に該当するとは認められない。
6 高見澤による、デバイス技術部の移転を交渉事項とした団体交渉、本件事業再建策等の提案を交渉事項とした団体交渉、11年度賃上げを交渉事項とした団体交渉での対応が、不誠実団体交渉に該当するか(争点6)
(1) 本件デバイス技術部移転等に関する団体交渉における高見澤の態度
 デバイス技術部の移転に伴うX支部委員長の人事異動は、義務的団体交渉事項に当たる。団体交渉の中で、高見澤は、デバイス技術部の移転の必要性等について説明するとともに、委員長の人事異動問題について、労使で合意するまでは信州工場を勤務地とする等説明しているなど、高見澤の団体交渉での態度が不誠実であったと認めることはできない。
(2) 本件事業再建策等に関する団体交渉における高見澤の態度
 希望退職者及び転社者の募集、並びにX支部組合員に対する人事異動は、義務的団体交渉事項に当たる。高見澤は、団体交渉において、合意形成のために尽くすべき措置を講じたというべきであり、結果として両者の主張は平行線をたどったが、その経緯に照らし、高見澤の態度が不誠実であったとまでは認められない。
(3) 11年度賃上げに関する団体交渉における高見澤の態度
 高見澤は、団体交渉で収益の悪化等極めて厳しい経営状態について説明し、11年度賃上げを凍結したい旨の回答に終始することも一定の合理性があると認められること、団体交渉は合計19回行われ、議題の重要性に相応する期間及び回数の団体交渉を経ていると認められることから、高見澤の態度が不誠実であったとまではいえない。
7 高見澤による、本件持株会社設立等が高見澤及び信州工場の事業の将来構想及び労働者の雇用・労働条件に与える影響並びにその悪影響の回避措置・救済措置についての団体交渉での対応が、不誠実団体交渉に該当するか(争点7)
 ①本件持株会社設立等が高見澤及び信州工場の事業の将来構想に与える影響等は、高見澤の経営方針に属する事項であるから、それ自体が義務的団体交渉事項に当たるということはできないが、②本件持株会社設立等が高見澤及び信州工場の労働者の雇用・労働条件に与える影響並びにその悪影響の回避措置・救済措置は、雇用及び労働条件に関する事項として、義務的団体交渉事項に当たる。
 高見澤は、団体交渉等において、本件持株会社設立等実施後の高見澤の状況や、本件持株会社設立等により信州工場の従業員の労働条件は変更されないこと等について、繰り返し説明するなど、本件持株会社設立等が高見澤及び信州工場の労働者の雇用・労働条件に与える影響並びにその悪影響の回避措置・救済措置に関し、当該時点での見通しに基づく説明を一定程度行い、相応の努力をしていたというべきである。
 よって、団体交渉の際の高見澤の態度が不誠実であったとまではいえず、不当労働行為があったとは認められない。
8 高見澤による、本件持株会社設立等を経た信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画及び当該計画の下での信州工場の労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策を交渉事項とした団体交渉での対応が、不誠実団体交渉に該当するか(争点8)
 ①今後の経営計画・事業計画は、高見澤の経営方針に属する事項であるから、それ自体が義務的団体交渉事項に当たるとはいえないが、②同計画の下での「労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策」は、雇用及び労働条件に関する事項として、義務的団体交渉事項に当たる。
 高見澤は、団体交渉で損益計算書及び貸借対照表を示して回答し、経営状況等について説明するなどの事情に、今後の経営計画・事業計画の下での「労働者の雇用の確保と労働条件の維持・向上のための方策」が、交渉事項として抽象的な事項であり、使用者の説明内容等が抽象的になることもやむを得ないことも勘案すれば、団体交渉での高見澤の対応が、不誠実であったとまでは認められず、不当労働行為があったとは認められない。
9 富士通、FCL及び高見澤が、信州工場のX支部組合員の賃上げ、一時金等の労働条件を、FCLに転籍した労働者より下回らないようにしないことで、労働条件に格差を生じていることが、不利益取扱い及び支配介入に該当するか(争点9)
 高見澤で平成14年度~16年度の賃上げ並びに15年度夏季及び冬季の一時金の支給がなかった原因は、当時の経営が極めて厳しい状態にあったことにより、賃上げ及び一時金に係る団体交渉でも合意に至らなかったためであると認められ、組合員であることでX支部組合員を不利益に取り扱ったり、又は組合弱体化を企図したものとは認められない。よって、不利益取扱い及び支配介入に該当するとは認められない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
長野地労委平成11年(不)第2号 一部救済 平成17年 3月23日
長野地労委平成13年(不)第3号 棄却 平成17年 3月23日
長野地労委平成14年(不)第1号 一部救済 平成17年 9月28日
中労委平成17年(不再)第23号外(26・27・28・71・72・73) 一部変更 平成20年11月12日
東京高裁平成23年(行コ)第215号 棄却 平成24年10月30日
 
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