労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ネグロス電工 
事件番号  東京高裁平成24年(行コ)第154号 
控訴人  ネグロス電工株式会社 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  全国金属機械労働組合港合同 
判決年月日  平成24年7月26日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社が、①平成19年6月に定年を迎える組合員X1の雇用延長に係る団体交渉申入れに応じなかったこと、②同人の平成19年夏季一時金に関する団体交渉申入れに応じなかったこと、③同人に対し、定年後の雇用延長を認めず、再雇用契約を求めたこと及び平成19年夏季一時金を支給しなかったことが、不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、①X1の再雇用の具体的条件に関する誠実な協議の実施及び同人との再雇用契約書の締結に関して不利益取扱いがなければ支払われたであろう賃金相当額と既払額との差額支払、②文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、X1の再雇用の具体的条件に関する会社の対応は不当労働行為に当たらないとし、初審命令を一部変更し、①X1との再雇用契約書の締結に関して、不利益取扱いがなければ支払われたであろう賃金相当額と既払額との差額支払、及び差額支払の履行に当たり、会社は、同人の具体的な再雇用条件について組合と誠実に協議し決定すること、②文書手交を命じた。
 これに対し、会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に説示するとおりであるから、これを引用する。
(1) 〔原判決の〕「〔平成〕19年6月1日要求書は----X1の正社員としての平成19年夏季一時金を求めていると理解するのが自然であること」の後に、次のとおり〔要旨〕加える。
 「なお、組合が原審で提出した準備書面には、19年6月1日要求書が、X1が定年退職後に再雇用される場合の労働条件としての夏季一時金に関するものであるという会社の主張に沿うかのような記載も見られる。しかし、準備書面を全体としてみれば、組合の言わんとすることは、会社の賃金規程で夏季一時金につき支給日在職要件が定められていることを前提としつつも、定年退職後に再雇用される者について、支給日在職要件を根拠に、夏季一時金を不支給とすることは酷であるとして、定年退職前の夏季一時金の支給を求める趣旨であることが明らかであるから、会社の上記主張を採用できない。」
(2) 〔原判決の〕「団交により就業規則と別異の解決を行う余地がある以上、団交を求めることについて救済利益は失われていない」の後に、次のとおり〔要旨〕加える。
 「(この点、会社は、従業員1000人以上の株式会社で、組合員であることを理由に実質的に賃金規程に反して夏季一時金を支給したり、これを不支給とする代わりに別の便宜を図ることを想定するのは非現実的な理屈であり、誤りであると主張する。
 しかし、上記判示は、就業規則(賃金規程)と別異の解決を会社に義務づけるものではなく、団交を通じてそのような別異の解決が図られる可能性も皆無とはいえない以上、そのような可能性等を模索するために団交を求めることについて、救済利益は失われていないとすることが不合理であるということはできない。)」
(3) 〔原判決の〕「以上によれば、会社が提示した再雇用条件の内容、提示までの経緯の不合理性に徴すれば、----組合を嫌悪し、再雇用にあたり組合員であることを理由に不利益に取扱うことを意図したことが強く推認され、会社がX1に再雇用契約書を提示したことは、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当する」を次のとおり〔要旨〕改める。
 「また、会社において、平成19年4月に、再雇用制度を創設し、「定年者の再雇用基準」で「自宅もしくは自己の用意する住居より通勤ができる者」を再雇用の条件の一つとして掲げ、その上で、会社が、X1に対し、繰り返し食堂棟2階1室からの退去を要求しており、このような会社の対応は、従前交わされた覚書や確認書で、X1の労働条件等は団交で決定するとされていたにもかかわらず、X1の定年退職に伴う再雇用問題が生じたことを契機として、組合との交渉を経ることなくX1を退去させることを企図したと認められる。
 この点、会社は、「自宅もしくは自己の用意する住居より通勤ができる者」という条件は、厚生労働省作成に係る「継続雇用制度の対象者に係る基準事例集」にも記載されており、他の社員が退去した旧社宅施設である食堂棟2階1室に定年退職後の一人居座り続けるX1に会社が退去を求めることは、株主の利益のために企業財産の有効利用を図る会社の対応として当然であるとして、上記再雇用条件の定めを設けたことやX1に対する退去要求を会社の不当労働行為意思と結びつけるのは誤りである旨主張している。
 しかし、上記基準事例集では、例示されたものについて厚生労働省が指針として示しているものではなく、基準を策定する際には、労使で十分に協議して各企業の実情に応じた基準の策定をする必要がある旨の注意書もされているから、上記事例集に例示されている基準を採用したからといって直ちに不当労働行為意思がないとはいえないところ、会社と組合又はX1との間で生じた事実経緯に鑑みれば、上記再雇用条件を定めたこと及び組合との交渉を経ずにX1の退去を企図したことは会社の不当労働行為意思を表すものといわざるを得ない。
 以上のとおり、①会社がX1に提示した再雇用条件の内容、提示までの経緯の不合理性に加え、②組合との交渉を経ることなくX1を食堂棟2階1室から退去させることを企図していたことも考え合わせると、会社が、X1の定年退職後の再雇用にあたり、組合及び会社内での唯一の組合の組合員であるX1を嫌悪し、それを理由にX1を意図的に不利益に取り扱い、ひいては組合の弱体化を企図したと評価するのが相当であり、会社がX1に再雇用契約書を提示したことは、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当する。」
2 会社は、X1に再雇用契約書を提示したことが不当労働行為に当たらないとして、また、本件命令が私法上の権利義務関係から大きく乖離するから、同命令には裁量権の逸脱、濫用があるとして縷々主張するが、いずれもそれらに関する原判決の認定、判断を左右するには足りない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成19年(不)第32号 一部救済 平成21年3月24日
中労委平成21年(不再)第15号 一部変更 平成22年5月12日
東京地裁平成22年(行ウ)第361号 棄却 平成24年3月19日
東京地裁平成22年(行ク)第314号 緊急命令申立ての認容 平成24年3月19日
最高裁平成24年(行ヒ)第428号 上告不受理 平成25年9月20日
 
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