労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ネグロス電工 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第361号 
原告  ネグロス電工株式会社 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  全国金属機械労働組合港合同 
判決年月日  平成24年3月19日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社が、①平成19年6月に定年を迎える組合員X1の雇用延長に係る団体交渉申入れに応じなかったこと、②同人の平成19年夏季一時金に関する団体交渉申入れに応じなかったこと、③同人に対し、定年後の雇用延長を認めず、再雇用契約を求めたこと及び平成19年夏季一時金を支給しなかったことが、不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、①X1の再雇用の具体的条件に関する誠実な協議の実施及び同人との再雇用契約書の締結に関して不利益取扱いがなければ支払われたであろう賃金相当額と既払額との差額支払、②文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、X1の再雇用の具体的条件に関する会社の対応は不当労働行為に当たらないとし、初審命令を一部変更し、①X1との再雇用契約書の締結に関して、不利益取扱いがなければ支払われたであろう賃金相当額と既払額との差額支払、及び差額支払の履行に当たり、会社は、同人の具体的な再雇用条件について組合と誠実に協議し決定すること、②文書手交を命じた。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 平成19年夏季一時金に関する対応の不当労働行為該当性(争点1)
(1) 組合は、X1の平成19年夏季一時金という義務的交渉事項に該当する労働条件に関する団交を申し入れたが、会社は応じず、団交開催に至らなかった。
 この点について、会社は、①組合が要求する同年夏季一時金は、定年退職後に再雇用される場合の夏季一時金であること、②これを不支給とする再雇用契約をX1との間で締結したことで、同年夏季一時金に関する交渉は終了し、団交の必要性はなくなったこと、③再雇用前の夏季一時金について、X1は支給要件を欠いており、被救済利益はないと主張する。
 しかし、①平成19年6月1日要求書は、前年と同様にX1の正社員としての平成19年夏季一時金を求めていると理解するのが自然であること、②再雇用条件は、同年6月8日に会社がX1に再雇用契約書を提示して初めて明らかにされた一方、同年夏季一時金に関する団交は、同日より前の19年6月1日要求書により具体的に求めており、両者は別個の事項として認識されていることからすれば、組合が要求する同年夏季一時金の内容は、X1の定年退職前の勤務を理由とした正社員としての同年夏季一時金と認めるのが相当である。
 そして、①X1の定年退職前の勤務を理由とした正社員としての同年夏季一時金について、再雇用契約締結前の19年6月1日要求書及び19年6月11日申入書で団体交渉を求めていること、②組合の事務局次長と会社の総務部長の19年6月8日電話会談で、再雇用契約書に対するX1の回答を待って会社が団交への対応を考えたいという総務部長の意向を、次長は了承していたことに照らせば、同月14日に、X1が、再雇用後には一時金不支給という文言のある再雇用契約を締結したからといって、この問題が解決したとは言え得ない。
 したがって、再雇用契約をX1が締結したことにより同年夏季一時金に関する交渉は終了したとも、団交の必要性が消滅したとも、組合の団交拒否との主張が信義則に反するとも、また、救済利益が失われているともいえない。
(2) 会社は、X1の社員としての同年夏季一時金については賃金規程の支給日在職要件を欠くことは明らかと主張する。
 しかし、①同要件が賃金規程に記載されているとしても、使用者としては団交の場で回答する義務があるし、②団交を求めている組合事務局次長が、19年6月8日電話会談で団交をしないと了解したとは到底認められず、そして、③団交により就業規則と別異の解決を行う余地がある以上、団交を求めることについて救済利益は失われていない。
(3) すると、会社は、組合からの同年夏季一時金に関する団交申入れに対し、必要性がなくなっておらず、救済利益も失われていないのに、正当な理由なく応じていないので、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
2 X1に対する再雇用契約書提示の不当労働行為該当性(争点2)
(1) 再雇用条件は、1日3時間、週5日勤務、時給790円、月額賃金にすると約5万円で、平成19・20年度に再雇用契約を締結したほとんどの者が1日8時間、週5日勤務、月額賃金は20万円~約44万円に比べ著しく低く、また従前のX1の収入からも大幅に減額されている。
 この点に関して、会社は、再雇用条件は、大阪営業所の業務量に応じて決めたと主張する。
 しかし、①他の再雇用契約者は、定年時役職や定年時勤務地は異なるものの、概ね1日8時間前後、週5日前後で、勤務地ごとの差等は見受けられないのに、大阪営業所のみが、特に1日3時間、週5日と決定された事情は明らかではないし、②X1の定年退職前後で業務量が大幅に変化したことを窺わせる事情もない。すると、再雇用条件は、著しく低く、不合理である。
(2) 次に、会社が再雇用条件を提示した経緯をみると、通常、会社では、定年後の雇用延長に関する話合いは、遅くとも定年退職日の3か月前から行うことになっていたことに照らすと、会社がX1に対し、定年退職日の前日に初めて再雇用契約書を提示し、検討期間をわずか約1週間と設定したことは、性急な条件提示及び短い検討期間であり、検討期間が不十分であることを補うに足りる具体的説明もなかったことも考え合わせると、著しく不合理である。
 この点について、①組合は、団交の機会に、繰り返しX1の定年退職後の雇用延長に関する質問をしているから、会社は、X1が再雇用を希望していると認識し得る状況であり、また、②X1の定年退職日から2か月前の19年4月4日団交では、組合は会社に対し、再雇用の労働条件についてはX1に提示するよう述べ、会社は了承しているから、会社としては、上記団交の時点でX1の定年退職まで2か月と差し迫っていた以上、再雇用条件を決定した時点でできるだけ早くX1に提示することが期待されていたというべきで、再雇用条件についての組合との協議を避けるために定年退職日前日まで提示しなかったことを強く推認させる。
(3) なお、会社は、再雇用条件について、X1が異議なく同意して再雇用契約を締結しており、会社の条件提示部分のみから不当労働行為と判断すべきではないと主張する。
 しかし、再雇用条件提示の経緯が不合理であることに照らせば、最終的にX1が同意したことから、会社の再雇用条件の提示が不合理でないとも、不当労働行為性がなくなると判断する余地はないことにある。
(4) 以上によれば、会社が提示した再雇用条件の内容、提示までの経緯の不合理性に徴すれば、会社が、X1の定年退職後の再雇用にあたり、組合を嫌悪し、再雇用にあたり組合員であることを理由に不利益に取扱うことを意図したことが強く推認され、会社がX1に対して再雇用契約書を提示したことは、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当する。
3 本件命令の裁量権の濫用・逸脱の有無(争点3)
(1) 労働委員会は、事案に応じた適切な是正措置を決定し命令する権限を有するから、不当労働行為に対してどのような救済方法を命じるかは、労働委員会に裁量がある。もとより、労働委員会の裁量は無制限ではなく、救済命令の内容が不能であったり、不明確である場合は、その裁量の範囲を超えたものとして違法となる。
(2) 本件命令〔主文第Ⅰ項〕の趣旨は、X1の再雇用条件について、組合との間で賃金・労働時間を誠実に協議した上で、仙台営業所の再雇用者の月額賃金に大きく劣後しない範囲で、最終的には、会社が決定することを命じていると解釈できるから、このように解釈すれば、救済命令の内容が不能であるとも、不明確であるともいえないと考えられる。すると、本件命令は、上述した意味での裁量権の濫用・逸脱の問題はない。
(3) 会社は、本件命令主文第Ⅰ項は、私法的な法律関係との整合性に問題があると主張する。
 しかし、本件命令は、会社・X1間で、再雇用条件の賃金・労働時間に従った再雇用契約が締結されたことを前提として、再雇用条件の賃金・労働時間に照らして、再雇用後のX1の賃金月額が著しく低額であることが、不利益取扱いであると判断した上で、これを事実上是正するために、仮に不利益取扱いのない再雇用条件の賃金・労働時間が決せられていた場合の差額を支払うことを、公法上の義務として会社に課しているから、私法的法律関係から著しく乖離しているとはいえない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成19年(不)第32号 一部救済 平成21年3月24日
中労委平成21年(不再)第15号 一部変更 平成22年5月12日
東京地裁平成22年(行ク)第314号 緊急命令申立ての認容 平成24年3月19日
東京高裁平成24年(行コ)第154号 棄却 平成24年7月26日
最高裁平成24年(行ヒ)第428号 上告不受理 平成25年9月20日
 
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