労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  白百合会 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第221号 
原告  社会福祉法人白百合会 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  穂高白百合荘労働組合
長野県医療労働組合連合会(以下「県医労連」という。) 
判決年月日  平成24年1月19日 
判決区分  棄却(主位的請求)・却下(予備的請求) 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 法人が、①団体交渉の実施日時又は場所を一方的に制限して団体交渉を拒否したこと、②組合らとの合意事項に係る労使協定書を取り交わすことを拒否したこと、③団体交渉において不誠実な対応をしたこと、④組合委員長に対し、デイサービスセンター(以下「デイセンター」という。)の介護職員との兼務を命じたこと、⑤同委員長をデイセンター専従介護職員に配置転換したこと、⑥介護職員に対し、寮母室で休憩するよう命じたこと、⑦組合員の契約更新に当たり実労働時間数を削減する等したこと、⑧県医労連を誹謗中傷する発言を行ったこと、⑨組合員全員の氏名の開示を求めたこと、⑩組合員と個別交渉を行ったこと、⑪就業規則の変更手続における労働者代表の選出投票を不公正な方法で行ったこと等が、不当労働行為に当たるとして、長野県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審長野県労委は、法人に対し、①組合らとの合意事項に関する労使協定の締結、②団体交渉の開催条件を一方的に制限して応諾を拒否することの禁止及び交渉ルールの制定、③団体交渉において主張の根拠となる資料を提示しない不誠実な対応の禁止、④組合らとの交渉事項に関する個別交渉の禁止、⑤組合らに対する誹謗中傷発言や組合員氏名の開示要求等の禁止、⑥組合委員長に対する異動命令の撤回及び原職復帰後における異動前の実労働時間の適用、⑦職員の休憩場所を寮母室に限定し、待機させることの禁止、⑧文書手交及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 法人は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、上記1④⑥⑦は不当労働行為に当たらないと判断し、初審命令を一部変更して、①日時又は場所を制限して団体交渉を拒否することの禁止、②団体交渉で確認された事項の書面化、③組合委員長の異動命令がなかったものとしての取扱い、④文書手交及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、法人が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、法人の請求を棄却ないし却下した。
判決主文  1 原告の主位的請求〔注;中労委命令の取消請求〕を棄却する。
2 原告の予備的請求〔注;中労委命令主文2項(団体交渉で確認された事項の書面化)及び3項(組合委員長の異動命令がなかったものとしての取扱い)に従う義務がないことの確認請求〕に係る訴えを却下する。
3 訴訟費用は、補助参加に要した費用も含めて、全部原告の負担とする。  
判決の要旨  1 5月勤務シフト団交に関する不当労働行為性(争点1)
 5月勤務シフト団交の議題が(平成19年5月)1日から実施予定で、緊急を要する問題であることは明らかにもかかわらず、法人は、(5月)15日の団体交渉で話し合うとして、何らの日程調整も行わなかったから、5月勤務シフト団交の申入れに対する法人の対応は、労組法7条2号の不当労働行為に当たると認められる。
2 口頭確認事項の書面化拒否の不当労働行為性(争点2)
 第3回団交(19年5月24日)での合意の存在を否定して書面化に応じなかった法人の対応は、労組法7条2号の不当労働行為に当たると認められる。
3 第5回団交での説明の不当労働行為性(争点3)
 第5回団交(19年6月22日)での法人の対応は、(19年夏季期末勤勉手当の)支給日が3日後に迫っているのに、事務長への電話確認を行わず、不確かな説明に終始したから、不誠実団交として労組法7条2号の不当労働行為に当たると認められる。
4 19年夏季一時金支給率等団交、19年秋闘団交、就業規則等団交、20年春闘団交に応じなかったことの不当労働行為性(争点4)
 法人は、19年夏季一時金支給率等団交、19年秋闘団交、就業規則等団交及び20年春闘団交に対し、いずれも土、日曜日又は祝日に、R会館で実施することに固執し、その余の日時又は場所での実施に応じようとしなかったことが認められる。このような法人の一連の対応は、正当な理由がなく団体交渉を拒むものとして、労組法7条2号の不当労働行為に当たると認められる。
5 本件専従配転の不当労働行為性(争点5)
 法人は、組合との対立を深める状況下で、組合委員長を閑職に追いやり、組合員との交流を制限し、経済的な不利益を与えることを企図して、本件専従配転を行ったものと推認できる。一方で、デイセンターに専従介護職員を配置することは県の指導によること、本件専従配転当時、デイセンターでの兼務を行っていたのは組合委員長のみであった事情は認められるが、組合委員長がデイセンターでの介護に多数回従事して経験が蓄積されていたものではないし、本件専従配転当時、デイセンターの利用者はおらず、具体的な利用予定もなかったから、それらの事情は、上記推認を覆すには足りない。
 以上によれば、本件専従配転は、労組法7条1号、3号の不当労働行為に該当すると認められる。
6 組合委員長の実労働時間数削減の不当労働行為性(争点6)
 前記5のとおり、本件労働条件変更は、本件専従配転とともに企図されたものであり、労組法7条1号、3号の不当労働行為に当たると認められる。
7 県医労連に対する発言の不当労働行為性(争点7)
 施設長の発言は、(平成19年4月)3日の組合結成の通知から1か月以内に、組合委員長に対し、上部団体を批判し、距離を置くことを求めたものだから、組合と上部団体との関係に介入するものとして、労組法7条3号の不当労働行為に当たる。
8 4・25要求書を交付したことの不当労働行為性(争点8)
 4・25要求書〔注;平成19年4月25日付けで施設長が組合委員長に手交した要求書〕には、組合員を念頭に置いた記載が散見される上、労働組合の結成が就業規則の無視や上司の業務上の指示や命令に従わない等といった不当な行為と結び付くかのような記載がされており、4・25要求書が組合結成の通知から1か月以内に、法人からの組合員全員の氏名の開示要求を組合が拒絶した状況下で交付されたものであり、全項目に文書回答を要求していることを考慮すれば、4・25要求書を交付したことは、組合の活動を牽制するもので、労組法7条3号の不当労働行為に当たると認められる。
9 組合員全員の氏名開示要求の不当労働行為性(争点9)
 法人は、組合の結成及び活動に嫌悪感をいだいていたこと、合理的な必要性なく4・12回答書〔注;平成19年4月12日付けで施設長が組合委員長に手交した回答書〕で組合員全員の氏名の開示を求め、(平成19年)4月24日の第1回団交の時点でも組合員全員の氏名の開示を真に必要とする事情は存在しなかったことが認められる。
 すると、それからわずか1か月以内なされた同年5月15日の組合員全員の氏名の開示の要求についても、5・15書面〔注;平成19年5月15日付けで法人が組合に対し、再度、組合員全員の氏名の開示を求めた書面〕に記載された理由により組合員全員の氏名の開示が真に必要であったものと認めることはできず、法人が組合員全員の氏名を要求することに組合が警戒感を抱いていることを認識しつつ、組合の活動を牽制する意図で、4・12回答書による要求と近接した時期に再度同内容の要求を行ったものと認めるのが相当である。
 したがって、4・12回答書及び5・15書面により法人が組合員全員の氏名の開示を求めたことは、労組法7条3号の不当労働行為に当たると認められる。
10 組合員に対する個別交渉の不当労働行為性(争点10)
 第2回団交(19年5月15日)の翌日に、施設長が、組合委員長ら3名を個別に呼び出し、組合と団体交渉が継続している事項について組合を介さずに組合員から直接承諾を得ようとしたことが明らかである。
 すると、施設長の上記行為は、組合の団体交渉の実効性を失わせ、弱体化を図るものとして、労組法7条3号の不当労働行為に当たると認められる。
11 本件選出投票の不当労働行為性(争点11)
 本件職員代表者の選出投票は、各職員をして相談員が法人の意を汲んで立候補したことを認識させた上、施設長又は理事長と面接又は電話により話した後に、法人の意を汲んだ相談員と組合委員長のいずれに投票したかが直ちに分かる方法により行われ、各職員にいわゆる踏み絵を踏むような心境に陥らせ、組合委員長に投票することに躊躇を覚えさせる方法である。
 すると、本件選出投票は、組合委員長が本件職員代表者に選出されることを阻害することにより、同組合の組合員の労働条件に対する影響力を制限し、弱体化を図るものとして、労組法7条3号の不当労働行為に当たると認められる。
12 給料表及び経験年数換算表不開示の不当労働行為性(争点12)
 法人は、組合らが給与規程の変更に伴う就業規則等団交の申入れとともに給料表及び経験年数換算表の開示を求めたのに対し、複数回にわたり拒んだことが認められ、このような法人の対応は、就業規則等団交の基礎資料となるべき給料表及び経験年数換算表を組合に交付しないことにより、組合の団体交渉の実効性を失わせ、弱体化を図るものとして、労組法7条3号の不当労働行為に当たると認められる。
13 被救済利益の有無(争点13)
(1) 法人は、組合委員長を除く3名は、既に退職しているし、組合委員長は、訴訟係属中であるが、平成23年3月31日に定年退職したから、(本件命令)主文2項及び3項は、被救済利益は失われているとか、もはや拘束力はないから、訴えの利益がなくなったと主張する。
(2) 救済命令の取消訴訟は、救済命令の違法性の有無を事後的に審査するものだから、その違法性審査は、本件命令発令時(平成22年3月3日)を基準に判断すると解するのが相当である。そして、本件命令発令時に、組合委員長は、法人との雇用契約の終了を争っていたから、本件命令主文2項により第3回団交で口頭確認事項の書面化を拒否したことを、同3項により本件専従配転、本件労働条件変更をいずれも是正することについて、被救済利益が失われていたと解する余地はない。
(3) 救済命令は、団体交渉権(憲法28条)を実質的に保障するために、労働条件の交渉について、労働者が使用者と対等の立場に立つことを促進するため、不当労働行為によって生じた侵害状態を是正し、不当労働行為がなかったときと同様の状態を回復しようとするものであり、その具体的方法として、使用者に対して救済命令の内容による公法上の義務を課してその履行を強制することにより、不当労働行為による違法な侵害状態を是正して、適正な労使間の団体交渉が行われるように図ることを目的とした制度である。
 したがって、組合員である労働者が退職し、現に雇用される労働者である組合員が労働組合に1人もいなくなった場合で、当該労働組合が消滅したとか、不当労働行為の直接の対象となった労働者との労働条件に関する紛争が解決したというような事情が存すれば別論として、不当労働行為の直接の対象となった組合員たる労働者が退職したというだけの理由で、当該組合員が労働組合による団体交渉により使用者と交渉する権利が消滅すると考えることは不当で、退職以前から申し入れていた未解決の問題に関する団体交渉に応諾する義務が存続するのはもちろん、当該未解決の問題に係る重要な事項に関しては、使用者の不当労働行為を排除する義務が履行されたという状況下で団体交渉を行わなければならないと解するのが相当である。
(4) 法人は、組合委員長ら4名の組合員の、平成19年5月分以降の実労働時間数等(これにより、賃金額等の労働条件に違いが生じる。)に関して、団体交渉拒否の不当労働行為をし、その後、一貫して不誠実な団体交渉を繰り返し、今日に至っても、少なくとも組合委員長については、民事訴訟が係属し、上述の団体交渉拒否ないし不誠実な団体交渉については、紛争が解決しているとは認められない状況にある。そのような状況下において、少なくとも組合委員長に関しては、上記の団交拒否ないし不誠実団交については、労働条件について未解決な問題が存し、法人に団体交渉応諾義務がある。そして、合意事項の書面化は、未解決の問題の団体交渉において、重要な意味があると考えられる。
 すると、救済命令の履行が救済命令による救済の手段方法としての意味を失ったとは考え難く、本件命令主文2項について、訴えの利益がないとの法人の主張には理由がない。
(5) 次に、本件命令主文3項について、法人による本件専従配転命令及び本件労働条件変更は、不当労働行為に該当し、法人と組合委員長間には、団体交渉拒否ないし不誠実団体交渉による未解決の問題に関して、本件専従配転命令及び本件労働条件変更による影響が生じ得るものである。その中にあって、本件命令主文3項は、法人に対して、本件専従配転命令がなかったものとして取り扱うことを強制する内容であるから、団体交渉のテーマとして未解決の問題に関して、組合員であった委員長との紛争解決に至るまで、団体交渉による解決が期待できるテーマに影響を及ぼすものである。
 すると、本件命令主文3項は、救済命令の履行が救済命令による救済の手段方法としての意味を失ったとは考え難く、本件命令主文3項について、訴えの利益がないという趣旨の法人の主張もまた理由がない。
14 本件命令主文1項の違法性の有無(争点14)
 本件命令主文1項は、その理由と併せて読めば、正当な理由もないのに自ら申し入れた日時又は場所でないことのみを理由として、団体交渉申入れを拒否することを禁止していると合理的に解釈でき、組合指定の日時又は場所で団体交渉に応じることを常に強制するものと見ることはできない。
 したがって、これが過度に広範な行為を一般的包括的に禁止したものとして、中労委の救済方法に関する裁量権を逸脱して違法であるとの法人の主張には理由がない。
15 本件命令主文2項の違法性の有無(争点15)
 本件命令主文2項は、その理由と併せて読めば、口頭確認内容の書面化を命じ、さらに細部を詰めるために、用語及び表現について協議することを命じたものと合理的に解釈でき、前段と後段との間が矛盾しているともいえないし、一義的明確性を欠くともいえず、この点の法人の主張も採用できない。
16 予備的請求に係る訴えの確認の利益の有無(争点16)
 法人は、本件命令主文2項及び3項の取消を求める訴えの利益がないとして訴えが却下された場合には、法人は労組法28条による刑事罰を問われかねない不安定な地位に置かれることになるから、「予備的に」本件命令主文2項及び3項に従う義務がないことの確認を求める利益がある旨主張する。
 しかし、上記判断のとおり、本件命令主文2項、3項の取消を求める部分の訴えは却下されないから、法人の主張はその前提を欠く。また、従う義務がないことをあらかじめ確認しなければ、回復し難い重大な損害を被る虞れがあるとも、その他確認の利益を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があるともいえないから、法人の予備的請求に訴えの利益があるとは考えられず、その訴えは不適法である。
17 結論
 以上によれば、本件命令は適法であり、法人の主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求に係る訴えは不適法であるから却下する。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
長野県労委平成19年(不)第1号 一部救済 平成21年1月28日
中労委平成21年(不再)第8号 一部変更 平成22年3月3日
東京地裁平成22年(行ク)第224号 緊急命令申立ての認容 平成24年1月19日
東京高裁平成24年(行コ)第51号 一部変更(却下・棄却) 平成24年6月26日
東京高裁平成24年(行タ)第24号 緊急命令の一部取消・却下 平成24年6月26日
東京高裁平成24年(行タ)第119号 却下 平成24年7月20日
最高裁平成24年(行ヒ)第391号 上告不受理 平成24年11月27日
 
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