労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  根岸病院(初任給)
事件番号  東京高裁平成19(行コ)23号(原審:東京地裁平成17年(行ウ)第572号(甲事件)・平成18年(行ウ)第50号(乙事件))
控訴人兼被控訴人(甲・乙事件1審被告) 国(処分行政庁 中央労働委員会)
被控訴人兼参加人(甲事件1審原告・乙事件参加人) 医療法人社団根岸病院
控訴人兼参加人(甲事件参加人・乙事件1審原告) 根岸病院労働組合
判決年月日  平成19年7月31日
判決区分  一部取消
重要度   
事件概要   病院が、組合に対し、①事前に協議することなく初任給を引下げたこと、②初任給引下げ後に行った3回の団体交渉の対応が不誠実であったことが不当労働行為であるとして争われた事件で、病院に対し、①初任給引下げに関する誠実団交応諾、②初任給引下げ後に採用された組合員に対し、引下げ前の初任給で計算した賃金額との差額の支払い、③文書掲示を命じた初審命令について、中労委は、初任給引下げに係る差額支給の支払いを命じた部分を取消し、その余の再審査申立てを棄却した。病院及び組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は病院の行為はいずれも不当労働行為に当たらないとして、中労委が初審救済命令を維持した部分を全て取り消した。これに対して、国及び組合が東京高裁に控訴したところ、同高裁は、原判決の国敗訴部分を取り消した。
判決主文  1 1審被告国の控訴に基づき、原判決中の1審被告国敗訴部分を取り消す。
2 1審原告病院の請求を棄却する。
3 1審原告組合の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、1,2審を通じ、甲事件によって生じた部分は1審原告病院が負担し、乙事件によって生じた部分は1審原告組合が負担する。
判決要旨  争点(1)(正当な理由のない団体交渉拒否の成否)について
① 労働者の団体交渉権(憲法28条)を実質的に保障しようとする労働組合法7条2号の趣旨に照らすと、義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた組合の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものと解するのが相当である。
 そして、非組合員である労働者の労働条件に関する問題は、当然には義務的団交事項にあたるものではないが、それが将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件との関わりが強い事項については、これを団交事項に該当しないとするのでは、組合の団体交渉力を否定する結果となるから、これも上記団交事項にあたると解すべきである。
② 組合が、病院に対し、春闘において賃金体系の確立及びそれに次ぐものとして初任給の明示・年齢ポイント賃金の設定等を毎年要求として掲げており、このことにより病院は組合が常勤職員の賃金のベースとなる初任給額に重大な関心を寄せていたことを認識し、回答書に初任給額を記載するといった措置をとってきたことが明らかである。
 また、本件初任給引下げが適用された平成11年当時は、新規採用者の少なからぬ者が短期間のうちに組合に加入していたと認められるから、本件初任給引下げは、短期間のうちに組合員相互の労働条件に大きな格差を生じさせる要因でもあるから労使交渉の対象となることは明らかである。
 そうすると、本件初任給与引下げは、大幅な減額で、将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、労働条件との関わりが極めて強い事項であることが明らかであり、義務的団交事項に当たるものと認められる。
③ 賃金抑制のための方策としては、初任給減額だけがその方策ではなく、他の方策も考えられたといえる。そして、病院が上記②のとおりの意識をもち、初任給額提示の運用をしてきたのであるから、初任給減額の当否につき、その必要性等について組合に具体的に説明し、予め意見を聞いて決定すべきであったといえる。しかし、本件は病院の対応からして、団体交渉を正当な理由なく拒んだものというべきである。
争点(2)(支配介入の成否)について
④ 組合は、本件初任給引下げには経営上の合理性がなく、病院が組合を嫌悪して、職員賃金の基礎的基準の決定から同組合を排除し、職員賃金に対する同組合の影響力を減殺し、もって組合の弱体化を図る意図で行った旨主張するが、病院は、本件初任給引下げ当時、赤字経営が続いており、経費を削減する必要があったところ、平成8年以降、初任給額を凍結したものの、なお支出のうち、人件費の占める割合が高く、経営状態を改善するため人件費の抑制が急務とされていたこと、人件費の抑制対策として複数考えられる方法の中で、当時の経営状況、雇用情勢、他病院の初任給との比較結果、方策の実現可能性等から在職者の賃金に直接影響しないものとして初任給引下げを選択したこと、初任給額の決定について病院と組合との合意ないしその承認を要する旨の協約や労使慣行が存在したとはいえないこと、平成11年度以降に新卒者の採用数が増え、その限りおいては、人件費の抑制に効果があったと考えられること等からすると、病院が組合の意見を聞いたり、その理解を得ようとする意向がなかったといえることを斟酌しても、本件初任給引下げが組合の弱体化を意図したものとまでは認めることは困難である。
⑤ また、本件初任給引下げが組合に対して団結権侵害等の具体的不都合を生じさせたことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、本件初任給引下げは、経営状況改善のための合理的な経営判断の下に行われたものと認めるのが相当であり、支配介入には当たらないと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない(支配介入に当たらないとした本件命令が違法であるとして、その取消しを求めた組合の請求には理由がない。)。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
東京都労委平成11年(不)第35号 全部救済 平成15年7月15日
中労委平成15年(不再)第43号 一部変更 平成17年11月18日
東京地裁平成18(行ク)第123号 訴訟参加申立ての却下 平成18年7月6日
東京地裁平成17年(行ウ)第572号、東京地裁 平成18年(行ウ)第50号 一部取消 平成18年12月18日
最高裁平成19年(行ツ)第310号及び第311号
平成19年(行ヒ)第339号及び第340号
上告棄却・不受理 平成20年3月27日
 
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