概要情報
事件名 |
根岸病院(初任給) |
事件番号 |
東京地裁平成17(行ウ)572号(甲事件)、平成18(行ウ)50号(乙事件) |
甲事件原告兼乙事件参加人 |
医療法人社団根岸病院
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甲事件参加人兼乙事件原告 |
根岸病院労働組合 |
被告 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
判決年月日 |
平成18年12月18日 |
判決区分 |
一部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
病院が、組合に対し、①事前に協議することなく初任給を引下げたこと、②初任給引下げ後に行った3回の団体交渉の対応が不誠実であったことが不当労働行為であるとして争われた事件で、病院に対し、①初任給引下げに関する誠実団交応諾、②初任給引下げ後に採用された組合員に対し、引下げ前の初任給で計算した賃金額との差額の支払い、③文書掲示を命じた初審命令について、中労委は、初任給引下げに係る差額支給の支払いを命じた部分を取消し、その余の再審査申立てを棄却した。 病院及び組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は病院の行為はいずれも不当労働行為に当たらないとして、中労委が初審救済命令を維持した部分を全て取り消した。 |
判決主文 |
1 中央労働委員会が、中労委平成15年(不再)第43号事件につき、平成17年10月5日付けでした不当労働行為救済命令主文第3項を取り消す。 2 甲事件参加人兼乙事件原告の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、甲事件の参加によって生じた部分及び乙事件によって生じた部分は甲事件参加人兼乙事件原告の負担とし、その余の費用は被告の負担とする。 |
判決の要旨 |
① 労働組合法7条2号の趣旨に照らすと、同条同号により使用者に誠実な団体交渉が義務づけられる対象、すなわち義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものと解するのが相当であり、そうだとすると、非組合員に関する事項については、それが当該労働組合やその構成員である組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情がない限り、原則として義務的団交事項には当たらず、使用者がこのような事項について団体交渉に応じなかったり、任意に応じた団体交渉における態度が誠実さを欠いていたとしても、同条同号が禁止する団体交渉拒否ないし不誠実団交には当たらないものと解するのが相当であるとされた例。
② 本件初任給引下げは、平成11年3月1日以降の新規採用者に対し適用されるものであり、それ以前に病院との間で雇用契約を締結していた者、換言すると、本件初任給引下げについての団体交渉申入れの時点で組合に加入していた職員には適用されないことが認められ、組合は、非組合員の労働条件について、病院に対し、団体交渉を申し入れていたというべきであり、本件初任給引下げは、特段の事情が存在しない限り、病院と組合との間の義務的団交事項には当たらないところ、上記のとおり、本件初任給引下げが適用されるのは、同日以降に入職する職員であって、同日現在組合に加入している組合員には適用がないこと、病院と組合との間にはユニオン・ショップ協定の締結はなく、新規採用者が必ず組合の組合員となるとはいえないこと、新規採用者は病院から提示された賃金額等の雇用条件に合意して雇用契約を締結していること、病院における賃金体系では、新規採用者の初任給額を引き下げたからといって、それが直ちに既採用者である組合員の賃金額に連動して不利益が及ぶような仕組みにはなっておらず、それぞれ別個の賃金体系として存在し得るものであることなどを考慮すると、本件初任給引下げは、組合及びその組合員の労働条件に直接関連するなど特段の事情は認めることはできず、義務的団交事項に当たらないから、病院の本件団体交渉申入れに対する対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらないとされた例。
③ 病院は、本件初任給引下げ当時、赤字続きの経営状況において更なる経費削減の必要があったところ、平成八年度以降初任給額を凍結したものの、なお支出の七割以上を占める人件費の圧縮を急務としていたこと、病院は、複数考えられる経営改善方法の中で、当時の経営状況、雇用情勢、他病院との初任給の比較結果、実現可能性、在職者に対する配慮等から初任給引下げを選択したこと、本件初任給引下げは組合員、非組合員の別なく及ぶものであること、病院において初任給額の決定について組合との合意ないし承認を要する旨の協約、労使慣行が存在したことや本件初任給引下げにより、組合において不調和や団結侵害等の具体的不都合が生じたことを認めるに足りる証拠はないことの各事実に照らすと、病院の本件初任給引下げは、組合の影響力を減殺し、組合の弱体化を図る意図で行われたものというより、経営状況改善のため合理的な経営判断の下行われたものと認めるのが相当であり、本件初任給引下げは、組合に対する支配介入には当たらないとされた例。 |