概要情報
事件名 |
根岸病院 |
事件番号 |
東京地裁平成17年(行ウ)第313号(甲事件)・平成17年(行ウ)538号(乙事件) |
甲事件原告兼乙事件参加人 |
医療法人社団根岸病院 |
乙事件原告兼甲事件参加人 |
東京地方医療労働組合連合会 根岸病院労働組合 |
乙事件原告 |
個人X2 |
甲及び乙事件被告 |
国(裁決行政庁 中央労働委員会) |
判決年月日 |
平成19年4月18日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、Y病院が、①組合員2名の嘱託契約更新を拒否したこと、②定年延長・嘱託再雇用及び就業規則改定問題等にかかる団体交渉において誠実に対応しなかったことが不当労働行為であるとして、申立てのあった事件である。初審東京都労委は、Y病院に対し、①定年延長・嘱託再雇用及び就業規則改定問題等にかかる誠実な団体交渉、②文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却したところ、これを不服としてY病院及び組合から再審査の申立てがなされ、中労委は、初審命令主文のうち、文書掲示の部分を削るほかは再審査申立てを棄却した。Y病院及び組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社及び組合の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1.原告病院の請求を棄却する。 2.原告医労連、原告組合及び原告X2の請求をいずれも棄却する。 3.訴訟費用は、甲事件については参加によるものも含めて原告病院の負担とし、乙事件については参加によるものも含めて原告医労連、原告組合及び原告X2の負担とする。 |
判決の要旨 |
争点1(団交拒否の成否及び救済の利益の存否)について ① 組合は、平成8年8月15日にY病院に対し、X1を含めた満61歳超の高齢者従業員の嘱託再雇用の更新問題及び定年延長にかかる年次計画の策定・提示を議題とする団体交渉を申入れたが、Y病院は当該団体交渉には応じかねると応答した事実があり、団体交渉申入れ時点でこれらの議題に関して協議が尽くされたということもできず、団交拒否についての正当な理由はないので、当該議題に対するY病院の団交拒否は、労組法7条2号が禁じる不当労働行為に当たるとされた例。 ② 組合は、平成9年7月8日にY病院に対して、65歳定年制の施行、就業規則の改定、36協定の締結、介護休暇制度の施行を議題とする団体交渉を求めたが、Y病院は、交渉申入れ時点では、65歳定年制の議題についての協議は行き詰まっていたし、他の就業規則等のその他の議題については、労使間で対立している問題ではなく、議題として具体性を欠いていたので、団交拒否には正当な理由があったと主張するが、定年延長問題については協議が尽くされていたとはいえず、その他の各議題についも、組合の当該団交要求までに協議がされたことや何らかの対処方が講じられていたことを認めるに足りる証拠もないことから、これらの議題が労使間で対立している問題ではなかったとはいえず、Y病院の当該各議題に対する団交拒否は、労組法7条2号が禁じる不当労働行為に当たるとされた例。 ③ 組合は、平成10年5月1日、Y病院に対して、嘱託再雇用問題につき解決がされないまま、雇止めが強行されようとしているとして、この問題に関する緊急の団体交渉に応じるよう申し入れたが、Y病院はこれを拒否したことについて、Y病院は平成10年4月23日の団体交渉における組合からの再雇用の判断基準を明示するよう求められたことに対して、場所長の意見を聞いて多角的に判断すると回答するに止まっており、同月30日の団体交渉でも、これ以上に具体的な協議がされたことを認めるに足りる証拠もないことから、Y病院が当該団交要求を拒否したことは労組法7条2号が禁じる不当労働行為に当たるとされた例。 ④ Y病院は、定年延長問題についても経営に関する資料等と試案の提示及び嘱託再雇用問題についての更新の具体的基準の提示は既に履行しているので、本件命令が維持した初審命令の主文1項については救済の利益が消滅していたと主張するが、Y病院は団体交渉の場でこれらの資料等・試案についての説明・協議を全くしていないのであるから、この点についての救済の利益が消滅したとはいえないとされた例。 争点2(不利益取扱い・支配介入の成否)について ① Y病院は、組合員X2に対して平成10年4月30日付けの文書で、同年6月をもって雇止めとなる旨を通知したが、この雇止めの当時の嘱託再雇用の更新状況は、組合の組合員に特に不利になっているとまではいえず、X2の給与額は新規 採用者を2名採用できるほどの額であったことや平成8年春闘の場でY病院の理事が、Y病院の財政再建のために人件費比率を下げる必要がある旨述べていたことも勘案すると、雇用止めに当たっては「退職時の給与」が重要な判断要素となっていたとみるのが相当であって、X3以外の就業員が希望する限り嘱託再雇用が更新されているともいえない。さらには組合はそもそも組合名簿を公表しておらず、 X2が組合の活動家としてY病院に敵視されていたことを裏付けるに足りる的確な証拠もないことから、X2の雇止めは労組法7条1号の不利益取扱い、同条3号の支配介入に当たるとはいえないとされた例。 争点3(文書掲示命令の取消しの当否)について ① Y病院は、初審命令が発せられた後の平成12年4月5日から同月14日まで、同命令主文第3項の文書掲示を履行したが、組合はこの掲示がY病院の移転時期に行われたため、掲示としての機能を果たしていないと主張するが、この主張は抽象的で何ら具体性もなく採用できず、また、組合はY病院は文書による謝罪の趣旨を全うしていないとも主張するが、労働委員会が発する文書掲示は命じられた内容の文書を掲示するのみで足り、それ以上を要求するものではないから、組合の主張は失当であるとされた例。 |