自然毒のリスクプロファイル:ツキヨタケ(Omphalotus guepiniformis)キシメジ科ツキヨタケ属

ツキヨタケ(Omphalotus guepiniformis)キシメジ科ツキヨタケ属

特徴:
地方名
つきよ、くまべら、わたり、どくもたし、どくきのこ(岩手県)、 つきよんだけ、つきよだけ、どくあかり、きかりきのこ、ひかりだけ(秋田県)、 ひかりごけ(新潟県)、くまべら、こうずる(富山県)、ぶなたろう(福井県)
傘の大きさ 大型で10~20cm程度
形と色 傘 :初め黄褐色で、成熟すると紫褐色~暗紫褐色。半円形、まれに円形で濃色の小鱗片
         を有する。
ひだ:白から薄い黄色で幅は広い。
柄 :太く短い柄が傘の側方に付くものが多いが、中央に付くものもある。ひだの付け根
         につば様の隆起帯がある。色は傘より淡色。肉の内部は暗紫色~黒褐色のしみがあ
     る。このしみは不明瞭なもの、ないものもある。
肉   :厚い。
発生時期 夏~秋(特に秋)
発生場所 ブナ、イタヤカエデなどのに重なり合って発生する。
その他 目がかなり慣れれば、暗い場所ではひだが青白から蛍光緑にかすかに光る。
間違いやすい
食用キノコ
ヒラタケ、ムキタケ、シイタケ
症状 食後30分~1時間程で嘔吐、下痢,腹痛などの消化器系の中毒症状が現れる。
幻覚痙攣を伴う場合もあるが、翌日から10日程度で回復する。
毒性成分 イルジンS , イルジンM ,ネオイルジン
 
ツキヨタケの写真1
ツキヨタケの写真2
似ている食用きのこの写真1
1-1 毒性成分
    *1)
( 成分名 )
illudin S 、 illudin M  (=胃腸系の中毒)
dehydroilludin M, neoilludin A,B  (=細胞毒)など

illudin S の IUPAC 名 [(1R,2S,5R)-1,5-dihydroxy-2-(hydroxymethyl)-2,5,7-trimethylspiro[1H-indene-6,1'-cyclopropane]-4-one]
Molecular Weight (分子量) : 264.32 (g/mol)
Molecular Formula (分子式) : C15H20O4

illudin M の IUPAC 名
[(1S,5R)-1,5-dihydroxy-2,2,5,7-tetramethylspiro[1H-indene-6,
1'-cyclopropane]-4-one]
Molecular Weight:248.32 (g/mol)
Molecular Formula:C15H20O3

(構造式)
化学式1
 
化学式2
 
化学式3
 

Illudin M, illudin S には嘔吐作用がある。
illudin 類は細胞毒性も強いと考えられており、そ の毒性を低減したアナログ体
irofulven は抗がん剤として検討されている。 DNA 合成阻害作用があり、固形癌
などに対しても 幅広いスペクトルの抗癌作用を示す。
 

化学式4
1-2 食中毒の型

胃腸など消化器系の中毒で、下痢、嘔吐が中心である。
死に至ることは少ない。
毒性について、 LD50 = 30 mg/kg (mouse, i.v. 静脈内投与 )*
                              = 15 mg/kg (mouse、投与法不明 )
*CRC Handbook of Antibiotic Compounds," Vols.1- , Berdy, J., Boca Raton, FL, CRC Press, Vol. 6, Pg. 113, 1981
Antibiotics: Origin, Nature, and Properties," Korzyoski, T., et al., eds., Washington, DC, American Soc. for Microbiology,
Vol. 3, Pg. 2037, 1978.

(ツキヨタケ中の主要毒成分 illudin S の含量)
illudin S : 1.9-318 m g/g
煮物として摂取(汁 180 ml、キノコ本体 1 本 30g として)した場合, 813 m g/g
と推定される。 illudin S は汁中にもキノコ本体にも検出される。
1 mg 程度以上で中毒が起きるのではないかと推察される、 100 ℃, 15 分加熱で 15% 分解する( *4 )。

(毒性発現機構)
illudin S および illudin M はシステイン( cystein )やグルタチオン( glutathione )など S 含有分子と反応すると考えられる。 HL60 細胞を低グルタチオン条件下で培養すると illudin S による細胞毒性が増強される( *5 )。

求核体(電子が豊富な置換基、N、S、O、Cなど)によるシクロプロパン環の開環と芳香環形成を経て M1、 M2 の代謝物が報告されている( *6 )。

 
化学式4
1-3 中毒症状

摂食後数時間(摂食後 30 分 -3 時間)で発症する。
嘔吐、腹痛、下痢などの典型的な胃腸など消化器系中毒を起こす。
ひどい場合は、痙攣、脱水、アシドーシスショックなどを起こす。

1-4 発症時間 食後 30 分~ 1 時間
2-1 発症事例

(症例1)
平成元年 10 月 19 日、惣菜店の店主が宮城県でシイタケだと思い採ってきたツキヨタケを、弁当の中にひじきと煮付けして 19 個販売した。摂食したものは 12 人。摂食後全員 2 ~ 2 時間 30 分の間に悪寒、激しい嘔吐を頻繁に繰り返した。嘔吐は多いもので 12 回、少なくでも 4 回起こし、このうち生後 11 ヶ月の乳児は摂食後 2 時間で 12 回もの嘔吐を繰り返す。 3 家族 6 人は中毒症状が激しいため病院で治療を受けた。
( 症例 2)
平成元年 10 月 28 日、山で採ってきたきのこを炒め物にして 3 切れ摂食。摂食 1 時間 30 分後、冷汗が出現、腹痛、軟便のため医療機関へ受診。初診時、所見は顔面蒼白、悪心、嘔吐、腹痛、鼻水、冷汗などが認められた。催吐により症状は軽快、外来処置のみで自宅療法となった。その後 4 ~ 5 日間は胃部不快感が持続したが、肝および腎機能に異常は認めなかった。
(その他)
平成 18 年 10 月 8 日 、採取したキノコを飲食店で焼いたり、スープにしたりして摂取した。キノコを食べた 15 人中 13 人がすぐに嘔吐した。平成 21 年 10 月 18 日、 60 代女性が高知県で採取したキノコ1本を焼いて食べたところ、摂取約1時間半後に嘔吐など食中毒症状を示した。病院で治療後、回復。平成 21 年 10 月 14 日 鯖江市山中で採取したキノコを家族4名で食し、全員が嘔吐など食中毒症状を示した。

2-2 患者数
※厚生労働省発表

 

ツキヨタケ

発生件数

摂食者総数

患者数

死者数

2015

11

36

32

0

2014

14

66

62

0

2013

11

46

43

0

2012

23

85

74

0

2011

13

46

49

0

2010

18

64

62

0

2009

19

67

61

0

2008

19

78

70

0

2007

15

63

59

0

2006

17

65

61

0

2005

15

70

63

0

2004

16

53

52

0

2003

11

39

36

0

2002

19

110

91

0

2001

3

45

45

0

2000

13

61

67

0

2-3 中毒対策

<処置>
激しい下痢症状のため下剤の投与は一般に行なわない。特に嘔吐、水溶性下痢が極度の場合、体液喪失による脱水、電解質異常に対する補液に十分気をつける。催吐・胃洗浄、吸着剤投与、対症療法:補液、重症例には血液灌流( DHP:direct hemoperfusion )が有効。早急に医療機関で治療を受けるべきである。

3-1 毒性成分の
分析法 *3)
(1)イルジン S の分析方法
化学式5
3-2 毒性成分の
分析法 *4)
(1)Illudin 類が有機溶媒にも水にも溶解することから、溶媒抽出に代わり、固相抽出を用いた方法ある。
メタノール抽出 2 ml + 水添加試料( 20 ml )
                                  ↓
                                  ↓ Oasis HLB (500 mg)
保持後、 20% メタノール 5 ml で洗浄
                                  ↓
          5mlで溶出
                                  ↓
LC/MS/MS を用いて、 MRM モードで、 m/z 265 à 247 をモニターする。
4 諸外国での
状況
ヨーロッパ、北米、朝鮮半島、ロシア極東地方、中国東北部などに分布している。ヨーロッパでは、 Omphalotus olearius 北米では Omphalotus illudens (アメリカ東部)や Omphalotus olivascens (アメリカ西部)のほか、見た目も異なるがオーストラリアには Omphalotus nidiformis がツキヨタケのように発光するキノコとして知られている。いずれも、 illudin を含有している。
5 その他の参考
になる情報
    *3)
・ツキヨタケはヒダが暗所で蛍光黄緑色を発する特徴がある。以前は、このキノコに多く含まれるイルジン S やランプレオールと呼ばれる物質が発光体であるとされていた。しかし、現在ではこの蛍光体はランプテロフラビンであることが判明した。ランプテロフラビンは生物発光によってツキヨタケのヒダの外部に放出されること、またヒダの外部は弱酸性で中性のときよりは発光が強い、中性付近では同時に放出される加水分解酵素により、ランプテロフラビンは速やかにリボフラビンに返還される。

化学式5
ランプテロフラビンの構造式

・ツキヨタケは食用のムキタケと同じ場所に混生して生えていることがあり、そのときに誤認して摂食してしまうことがある。

<ツキヨタケ同定の呈色反応>
・グアヤクチンキ反応
グアヤク脂 1g を 70 %エタノール 5ml に溶解し、試薬を調整する。
食用のムキタケは青緑色に変色するが、有毒のツキヨタケは変色しない。

・硫酸バニリン反応
蒸留水 3ml に濃硫酸 8ml を加え、バニリン 1g を溶解し、試薬を調整する。
食用のムキタケは赤紫になるが、有毒のツキヨタケは変色しない。

6 間違いやすい
キノコ
一般名 ムキタケ(キシメジ科ワサビタケ属) ヒラタケ(ヒラタケ科ヒラタケ属) シイタケ(キシメジ科シイタケ属)
学名 Panellus serotinus Pleurotus ostreatus Lentinula edodes
発生場所 ブナ、ミズナラ林、トチなど広葉樹の枯れ木や倒木に多数重なり合って発生する。 広葉樹の古木、切株 広葉樹の倒木、切株
発生時期 秋~春 春、秋
形態 傘 :粘性があるが、細毛に覆われている。ツキヨタケに比べて表皮がむけやすい。
肉 :厚く、白い。
ヒダ:黄色~黄土褐色 ( ツキヨタケは茶 )
柄 :太く短い
傘 :はじめは黒色→灰青色→灰白色と傘が開いていくとともに色が薄くなる。
肉 :白色
ヒダ:はじめ白色→淡黄褐色をおびる。
柄 :白色、多数の個体が基部で融合する。根本には白毛状の菌糸が多数付く。
傘 :はじめ傘の周縁部に白い綿毛状の鱗片をつけるが、成長するにつれて鱗片が消失し、傘にひび割れが生じることが多い。
肉 :白色で弾力がある。
ヒダ:白色
柄 :上部は白色で下部に向かって褐色

 

引用・
参考文献
( References )
1)
Tada M, Yamada Y, Bhacca NS, Nakanishi K, Ohashi M.
STRUCTURE AND REACTIONS OF ILLUDIN-S (LAMPTEROL).
Chem Pharm Bull 12, 853-855 (1964).

Matsumoto T, Shirahama H, Ichihara A, Fukuoka Y, Takahashi Y, Mori Y, Watanabe M.
Structure of lampterol (illudin S).
Tetrahedron .21, 2671-2676 (1965).

Mcmorris TC, Anchel M.
FUNGAL METABOLITES. THE STRUCTURES OF THE NOVEL SESQUITERPENOIDS ILLUDIN-S AND -M.
J Am Chem Soc . 87, 1594-600 (1965).

笠原 義正,板垣 昭浩,久間木 國男,片桐 進
ツキヨタケの胃腸管毒性及び塩蔵による減毒
食品衛生学雑誌 , 37 , 1-7 (1996).

Kuramoto M, Tsukihara T, Ono N.
Neoilludins A and B, New Bioactive Components from Lampteromyces japonicus.
Chemistry Lett.28, 1113-1114 (1999).

Jaspers NG, Raams A, Kelner MJ, Ng JM, Yamashita YM, Takeda S, McMorris TC, Hoeijmakers JH.
Anti-tumour compounds illudin S and Irofulven induce DNA lesions ignored by global repair and exclusively processed by transcription- and replication-coupled repair pathways.
DNA Repair ,1(12), 1027-1038 (2002).

Baekelandt M.
Irofulven (MGI Pharma).
Curr Opin Investig Drugs,3(10), 1517-1526 (2002).

Kelner MJ, McMorris TC, Taetle R.
In vitro and in vivo studies on the anticancer activity of dehydroilludin M.
Anticancer Res . 15, 873-878 (1995).

2)編著者・奥沢康正、久世幸吾、奥沢淳治 「毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-」(株)思文閣出版

3)
編著者・水野卓、川合正充、「キノコの化学・生化学」(株)学会出版センター

4)
笠原 義正 , 伊藤 健
LC/MS/MS によるツキヨタケおよび食中毒原因食品中の illudin S の分析 .
食品衛生学雑誌 , 50 , 167-172 (2009).

5)
McMorris TC, Kelner MJ, Wang W, Moon S, Taetle R.
On the mechanism of toxicity of illudins: the role of glutathione.
Chem.Res.Toxicol.,3, 574-579 (1990).

6)
Tanaka Km Inoue T, Kadota S, Kikuchi T.
Metabolism of illudin S, a toxic principle of Lampteromyces japonicus, by rat liver. I.
 Isolation and identification of cyclopropane ring-cleavage metabolites.
Xenobiotica , 20, 671-681 (1990).