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自然毒のリスクプロファイル:テングタケ(Amanita pantherina) テングタケ科テングタケ属

テングタケ(Amanita pantherina) テングタケ科テングタケ属

特徴 傘の大きさ 6~15cmの中型である。 
形と色 

傘 : 灰褐色~オリーブ褐色。表面には白色のいぼが多数散在し,ふちには条線がある。

ひだ:白色で,やや密。 古くなっても変色しない。

柄 : 表面は小鱗片~基部は球根状に膨らみ,つぼの名残がえり状になっている。 
発生時期  初夏~秋 
発生場所  広葉樹林の地上に発生する(針葉樹に生えるのはイボテングタケ)。  
その他  地方名:ゴマナバ,ハエトリ(長野,東北) 
テングタケの仲間

イボテングタケ  ( 学名 Amanita ibotengutake )

2002 年にテングタケと区別された。古い図鑑ではテングタケとあってもイボテングタケであることがある。どちらも毒キノコである。  
症状   食後30分程で嘔吐,下痢,腹痛など胃腸消化器の中毒症状が現れる。そのほかに,神経系の中毒症状,縮瞳,発汗,めまい,痙攣などで,呼吸困難になる場合もあり,1日程度で回復するが,古くは死亡例もある。イボテングタケよりも毒性は強い。 
毒性成分  

イボテン酸,ムシモール

スチゾロビン酸,ムスカリン類

アマトキシン類,アリルグリシン,プロパルギルグリシン150 

 

 
テングタケ(上の2つ)はテングタケ属を代表するキノコで,広葉樹に生え,茶色のに白色のいぼが付いているが,取れて脱落しやすい。の基部にはつぼの名残りが襟まき状に残る(白く囲んだ)。つばが柄の中央から上部に残る(赤矢印)。

イボテングタケ ( ) は,アカマツなど針葉樹に生える。大型( 20 cm 前後)で,の基部にはつぼの名残りが何重にも環状に残る(白く囲んだ)。つばは消失してないことも多い。

下左から 3 番目のものは,いぼが脱落しているが,つばは残っている。 

 1

(1)毒性成分

イボテン酸 (ibotenic acid)

ムシモール (muscimol)

スチゾロビン酸

ムスカリン類 (muscarine)

アマトキシン類

アリルグリシン

プロパルギルグリシンなどの報告がある。

 

( 参考 )

イボテン酸は NMDA 受容体の,ムシモールは GABA 受容体のアゴニストである。

(2)食中毒の型

胃腸系

交感神経系

副交感神経系
中枢神経系 

(3) 中毒症状

胃腸系では、腹痛、嘔吐、下痢。

副交感神経系では、流涎、発汗、縮瞳。

交感神経系では、頻脈、散瞳、心拍数増加、腸閉塞。

中枢神経系では、めまい、錯乱、運動失調、幻覚、興奮、抑鬱、痙攣など。

ひどい場合は、昏睡、呼吸困難となるが大抵は一日程度で回復する。

症状が相反するのは毒成分の量の違いによると思われる。 

 

(4)発症時間 食後 30 分後~4時間程度で発症する。 
(1)発症事例
 
(症例1)

昭和 11 年( 1936 8 22 日、福島県田村郡夏井村大字湯沢字岩蔵の炭焼業の家族 3 ( 男性 37 歳、長男 10 歳、 3 6 歳)が、自宅付近の山林からテングムタシ ( 方言 ) を採取し、味噌汁に入れて摂食。 4~5 時間後 ( 午後 12 時ごろ ) より全員悪心、嘔吐を頻回に訴え徐々に意識不明、夜になっても症状が強くなるばかりで主婦は驚いて隣家に助けを求めた。隣家の主人はすぐに山路を一人ずつ背負って、近くの医院へ午後 11 30 分頃入院させた。医師の所見では長男は顔面蒼白、意識不明、眼筋麻痺 ( 眼球は上方、蔑視 ) 、瞳孔縮小、対光反応喪失、嘔吐、下痢、失禁を認めた。脈拍細少、チェーンストーク呼吸の状態より、間歇的に全身痙攣をきたし四肢強直性麻痺著明、呼吸停止を繰り返す。直ちに下剤投与、強心剤、解毒剤、栄養剤などの多種の注射を施行するも 3 30 分死亡。父親と 3 男は回復した。

 

(文献3より)

27 才と 47 才の母親と娘が誤って摂取,約 2 時間後に,抑鬱,運動失調,知覚の鈍麻,幻覚が現れた。

入院後,対症療法や下剤と一緒に活性炭投与により回復。

ムシモールの致死量は, 12 mg と言われている。

また,このキノコには 0.3 % 程度のムシモールを含有する。
(2)患者数
※厚生労働省発表

テングタケ

/ 年度

発生件数

摂食者総数

患者数

死者数

2015

3

5

4

0

2014

2

4

4

0

2013

1

1

1

0

2012

0

0

0

0

2011

2

7

7

0

2010

1

1

1

0

2009

1

2

2

0

2008

3

7

6

0

2007

1

1

1

0

2006

1

2

1

0

2005

1

3

3

0

2004

5

9

9

0

2003

3

4

4

0

2002

1

2

1

0

2001

0

0

0

0

2000

1

3

2

0

イボテングタケ

/ 年度

発生件数

摂食者総数

患者数

死者数

2015

1

1

1

0

2014

0

0

0

0

2013

1

4

3

0

2012

1

2

2

0

2011

3

4

3

0

2010

0

0

0

0

2009

0

0

0

0

2008

2

3

3

0

2007

0

0

0

0

2006

0

0

0

0

2005

0

0

0

0

2004

0

0

0

0

2003

0

0

0

0

2002

0

0

0

0

2001

0

0

0

0

2000

0

0

0

0

 
(3)中毒対策 胃洗浄や下剤と共に活性炭投与が有効と考えられる。 
(1)毒性成分の分析法

イボテン酸,ムシモールは蛍光標識 LC 分析と LCMS による確認検査により信頼性の高い分析ができる。

イボテン酸,ムシモールともに,水溶性が高く, C18 などのカラムへ保持しないことから,塩化ダンシルなどで誘導体化して分析( LCMS による確認分析を併用)を行う。 

(1)諸外国での状況   

(1)その他の参考になる情報

古くから認識されてきたキノコで、傘の表面の模様が豹柄に見えることから、昔は「ヒョウタケ」とも呼ばれていた。

また、長らくイボテングタケと混同されてきたが、最近 , 両者は異なる種であることが明らかとなった。 
間違いやすいキノコ   
一般名  ガンタケ 
学名 

Amanita rubescens Pers.:Fr. 

区別できる特徴 

ヒダは白色。古くなると赤褐色のシミができる。

傘に条線は無い。

全体に赤味をおび、特に根本は濃い色

傷つくと徐々に赤変する

生食すると中毒を起こすので注意(ガンタケの含有する一種の酸性蛋白質は界面活性剤的作用を有し、赤血球の溶血を起こす。) 
引用・参考文献 1)

長沢栄史「フィールドベスト図鑑  14  日本の毒きのこ」   ( ) 学習研究社 

 

2)

Satora L, Pach D, Ciszowski K, Winnik L.

Panther cap Amanita pantherina poisoning case report and review.

Toxicon , 47, 605-607 (2006)

 

Michelot D, Melendez-Howell LM.

Amanita muscaria : chemistry, biology, toxicology, and ethnomycology.

Mycological Research 107 (2), 131-146 (2003)

 

3)

編著者・奥沢康正、久世幸吾、奥沢淳治 「毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-」(株)思文閣出版

 

4)

Tsujikawa K, Kuwayama K, Miyaguchi H, Kanamori T, Iwata Y, Inoue H, Yoshida T, Kishi T.

Determination of muscimol and ibotenic acid in Amanita mushrooms by high-performance liquid chromatography and liquid chromatography-tandem mass spectrometry.

J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. ,852, 430-435 (2007)

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