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II 総務省「介護保険の運営状況に関する実態調査結果」について


○ 総務省(行政評価局)は、平成13年度に「介護保険の運営状況に関する実態調査」を行い、その結果、改善を講じる必要があると認められる事項について、平成14年4月9日、厚生労働省に対して勧告を行った。

※ 調査実施時期 平成13年4月〜14年4月
※ 調査対象機関 厚生労働省、都道府県(20)、市町村(87)、関係団体等

○ 総務省の実態調査結果は、別添のとおりであり、

示されているが、「勧告」として示されている事項には、都道府県、市町村に対して技術的助言を行うべきというものが含まれている。

○ これらは、要介護認定の適切な実施や、三原則の趣旨を踏まえずに保険料減免を行っている市町村に対する技術的助言など、これまで厚生労働省として取り組んできているものと重なるものであるが、今回、担当の各課により、技術的助言として、改めてお示しすることととしたので、総務省の実態調査結果も参考の上、それぞれの事項について、引き続き、適切な運用がなされるよう、お願いしたい。

<実態調査結果の概要>

※ 下線は、都道府県、市町村に対する技術的助言に係る事項
※ (→○○)は、今回の課長会議資料のうち、これに関係する部分

【勧告】

1.介護サービスの実施の適切化

(1)要介護等認定の適切な実施

(2)介護サービス及び居宅介護支援の適切化等

2.保険料の徴収等の適切化


【実態】

1.介護サービスの利用促進

2.居宅サービス計画(ケアプラン)費

3.介護保険施設(指定介護老人福祉施設)の整備に係る事業計画

4.有料老人ホームと入居者との間の介護費用に係る調整


介護保険の運営状況に関する実態調査結果に基づく勧告


平成14年4月

総務省


前書き

 我が国においては、本格的な高齢社会を控え、寝たきりや痴ほう性高齢者の増加、介護期間の長期化など、介護ニーズはますます増大することが見込まれている。その一方で、従来、介護を必要とする高齢者を支えてきた家族をめぐる状況も、核家族化の一層の進行、介護する家族の高齢化、子供の数の減少など大きく変わりつつあり、高齢者介護の問題が、家族にとって、身体的にも精神的にも大きな負担となっている。
 このような状況を背景に、加齢に伴って介護を要する状態になった者に対し、必要な保健医療サービス及び福祉サービス(以下、両サービスを併せて「介護サービス」という。)に係る給付を行うことを目的として、平成9年12月に介護保険法(平成9年法律第123号)が制定され、平成12年4月から介護保険制度が開始された。
 また、介護保険制度については、介護保険法の施行後5年を目途として、その全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする(同法附則第2条)とされている。
 介護保険制度は、市町村及び特別区を保険者と、また、40歳以上の者を被保険者とし、加齢に伴って生ずる疾病等により要介護状態となり、入浴、排泄、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等が、その能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、必要な介護サービスに係る給付を行うものである。
 平成13年8月末現在、加齢に伴って介護を要する状態になった者として認定(要介護等認定)された者は約275万人存在し、このうち約213万人が介護サービスに係る給付を受けている。
 しかしながら、介護保険制度の開始後において、1)痴ほう性高齢者に対する要介護等認定(一次判定)が実態を十分に反映していない、2)一部の市町村においては、保険料の徴収に当たり、介護保険制度の趣旨に反した軽減措置が講じられている等、介護保険の制度及びその運用に関して、様々な指摘がなされている。
 この実態調査は、介護保険制度の適正かつ円滑な実施に資する観点から、介護サービスの実施状況、保険料の徴収状況等介護保険の運営状況を明らかにするため実施したものである。
 その結果に基づき、厚生労働省が改善措置を講ずることが必要な事項については勧告として、また、今後、介護保険制度の充実・定着を図る上で参考となると考えられる事項については実態としてとりまとめた。


目次


〔勧告〕

1 介護サービスの実施の適切化

 (1) 要介護等認定の適切な実施

 (2) 介護サービス及び居宅介護支援の適切化等

2 保険料の徴収等の適切化


〔実態〕

1 介護サービスの利用促進

2 居宅サービス計画(ケアプラン)費

3 介護保険施設(指定介護老人福祉施設)の整備に係る事業計画

4 有料老人ホームと入居者との間の介護費用に係る調整


〔勧告〕

1 介護サービスの実施の適切化

(1) 要介護等認定の適切な実施

 介護保険は、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により介護を必要とする状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービス(以下、両サービスを併せて「介護サービス」という。)に係る給付を行う制度である(同法第1条)。
 介護保険の保険者は市町村及び特別区とされ(介護保険法第3条第1項。以下、広域連合等広域的に介護保険を運営しているものを含め「市町村」という。)、被保険者は、市町村の区域内に住所を有する1)65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)及び2)40歳以上65歳未満の医療保険加入者(以下「第2号被保険者」という。)とされている(同法第9条)。
 介護保険は、被保険者の要介護状態又は要介護状態となるおそれがある状態に関し、必要な保険給付を行うものである(介護保険法第2条第1項。以下、要介護状態に対する保険給付を「介護給付」と、要介護状態となるおそれがある状態に対する保険給付を「予防給付」といい、介護給付と予防給付を併せて「介護給付等」という。)。

(注)  要介護状態(この状態にある者を「要介護者」という。ただし40歳以上65歳未満の者については、特定の疾病に該当する者に限る。次の要支援者についても同様)とは、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、6か月間継続して常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める要介護1ないし5の5区分(要介護状態区分)のいずれかに該当するものをいう(介護保険法第7条第1項及び第3項)。

 要介護状態となるおそれがある状態(この状態にある者を「要支援者」という。)とは、身体上又は精神上の障害があるために、6か月間継続して、日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態であって、要介護状態等以外の状態をいう(介護保険法第7条第2項及び第4項)。

 要介護者と要支援者とを総称して「要介護者等」という。また、要介護1ないし5及び要支援の計6区分を「要介護状態等区分」という。

 介護給付等を受けようとする被保険者は、1)要介護者に該当すること及びその該当する要介護状態区分、又は2)要支援者に該当することについて、市町村の認定(以下、それぞれ「要介護認定」又は「要支援認定」と、また、要介護認定と要支援認定とを併せて「要介護等認定」という。)を受けなければならないとされている(介護保険法第19条第1項及び第2項)。
 市町村による要介護等認定の手続の概要は次のとおりである。

1) 被保険者の申請があったときに、当該被保険者に面接し、その心身の状況等について調査(以下「訪問調査」という。)を行う。

2) 当該被保険者の主治医に対し、当該被保険者の身体上又は精神上の障害の原因である疾病、負傷の状況等につき意見(意見書の提出)を求める。

3) 上記1)及び2)の結果を踏まえ、介護保険法第14条の規定に基づき市町村に置かれている介護認定審査会において、要介護者等に該当するか否か、要介護者等に該当する場合にはその該当する要介護状態等区分に関し審査及び判定を行う。

4) 認定結果を被保険者に通知する。

 今回、厚生労働省、87市町村及び介護サービス又は居宅介護支援を行っている事業者(以下「事業者」という。)193事業者における要介護等認定の状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 要介護等認定の判定基準等

(ア) 要介護等認定の基本となる訪問調査は、厚生労働省が市町村に示している「認定調査票」を用いて行われている。この認定調査票は、1)調査対象者(申請者)の過去の認定状況、現在受けているサービスの状況、住宅環境等を記入する「概況調査」、2)身体上又は精神上の障害の状況や特別な医療に関する85項目について申請者の状況を記入する「基本調査」、3)基本調査を補うために、要介護等認定を行う上で重要と考えられる事項を記入する「特記事項」により構成されている。
 要介護等認定は、一次判定及び二次判定により行われており、一次判定は、基本調査の結果をコンピュータ処理して要介護認定等基準時間(介護の必要量を図るための「ものさし」)を推計したものを用いて、市町村の担当者が機械的に行い、二次判定は、一次判定結果に認定調査票の特記事項や主治医の意見書を加味して、介護認定審査会が行う。

(イ) 認定調査票における調査項目は、平成6年度に、社会福祉法人全国社会福祉協議会が、厚生労働省の補助を受けて、特別養護老人ホーム等の入所者を対象として実施した介護サービスに関する実態調査(保健医療福祉サービス供給指標調査研究事業)の結果等に基づき、厚生労働省が定めたものである。
 しかし、この調査項目については、次のような問題がみられることから、調査した87市町村のうち64市町村及び193事業者のうち104事業者は、その改善を求めている。

1) 厚生労働省が認定調査票を作成するための検討を開始した平成6年度ころは、痴ほう性高齢者はそれほど社会問題化していなかったこともあって、これらの者に対する介護実態について必ずしも十分把握されていなかった。
 このため、調査した市町村の中には、一次判定では要介護2とされた痴ほう性高齢者が、二次判定では主治医の意見書等を加味した結果、要介護5となった例がみられ、また、市町村及び事業者の中には、一次判定では、痴ほう性高齢者の要介護状態等区分が低く出る傾向があるとしているもの等がある(42市町村及び71事業者)。
 また、市町村の中には、痴ほう性高齢者に対する一次判定による要介護状態等区分が低く出る傾向にあるとの判断から、二次判定において、例えば、痴ほう性高齢者については痴ほうに詳しい精神科医を含めて判定を行うなど工夫を凝らしているもの(2市町村)や、一次判定結果が要介護2以下の者を対象として、市町村独自の基準により得点を加算し、要介護状態等区分を見直すこととしているもの(1市町村)もみられる。

2) 認定調査票の調査項目は、上述のとおり、特別養護老人ホーム入所者等の介護状況を基に設定され、居宅の要介護者等に係る介護の実態を十分に踏まえたものとなっていない。そのため、調査した市町村及び事業者の中には、(i)身体上又は精神上の障害程度が同じであっても、バリアフリーの環境整備が図られ、かつ、専門職員の介護を常時受けられる施設入所者に比し、居宅において介護を受ける者の介護の必要量は高い、(ii)居宅において介護を受ける者であっても、家族による介護が受けられる者と受けられない独居者との間でも介護の必要量は異なると考えられるが、現行の一次判定ではこれらの点が十分勘案されていない、等としているものがある(37市町村及び45事業者)。

3) 調査した市町村及び事業者の中には、認定調査票の基本調査の項目について、不要と考えられるもの(片足での立位保持に関する項目)や、追加する必要があると考えられるもの(問題行動の有無・程度をより詳細に把握するための項目)がある等、その見直しが必要であるとしているものがある(46市町村及び75事業者)。
 ちなみに、厚生労働省が、平成12年6月末現在で、要介護等認定を受けた194万6,700人を対象に、一次判定での要介護状態等区分の二次判定での変更状況を調査した結果によると、21.9パーセントが変更されている(より高い要介護状態等区分に変更された者:16.3パーセント、より低い要介護状態等区分に変更された者:5.6パーセント)。
 このことは、二次判定制度が有効に機能しているものともいえるが、調査した市町村の中には、(i)認定調査票の特記事項及び主治医の意見書において、一次判定によって把握することが困難な身体上又は精神上の障害の状況が十分記載されていないものがあること、(ii)上記1)及び2)のとおり、基本調査の項目は、痴ほう性高齢者や独居老人に十分配慮したものとなっていないこともあり、二次判定に必要な申請者の状況に関する情報が不十分なまま、対応している例があるとしているものがある。

イ 訪問調査の実施状況

(ア) 訪問調査は、原則6か月ごとに行う要介護等認定の際に市町村の職員が行うこととされているが、これを指定居宅介護支援事業者(居宅の要介護者等に必要な介護サービスが提供されるよう、居宅サービス事業者等との連絡調整その他の便宜の提供等を行う者)又は介護保険施設に委託することができるとされている(介護保険法第27条第1項等)。これについて、厚生労働省は、平成12年1月に開催した「全国介護保険担当課長会議」等において、訪問調査を指定居宅介護支援事業者等に委託している場合には、訪問調査は本来市町村が行うものであることを踏まえ、数回に1回は市町村職員が直接調査するよう、市町村に対し技術的助言を行っている。

(イ) 調査した87市町村における要介護等認定に係る訪問調査の実施状況をみると、自らすべての調査を実施しているのは5市町村のみであり、残る82市町村は、訪問調査の全部又は一部を事業者に委託している。
 これら82市町村における各市町村内・外の居住者に係る訪問調査の指定居宅介護支援事業者等への委託状況をみると、(i)市町村内・外ともに委託しているものが61市町村(一部の者のみについて委託しているものを含む。以下同じ。)、(ii)市町村外を委託しているものが10市町村、(iii)介護保険施設入所者分のみ委託しているものが3市町村等となっている。
 また、この82市町村における職員による訪問調査の実施状況をみると、57市町村は、市町村内・外を問わずこれを励行しているが、残る25市町村は、職員による調査は数回に1回であっても体制上負担が大きいとしており、当省の調査時点では、1)10市町村は市町村内・外とも調査を全く行っておらず、2)15市町村は市町村外については調査を全く行っていない。
 ちなみに、施設入所者に対する職員による訪問調査を全く実施していない市町村の中には、市町村から訪問調査を受託した施設が申請者の要介護状態等区分が実態よりも高くなるよう調査結果に虚偽の記載をし、このことが都道府県の指導監査において発見され、再調査の実施を求められている事例がみられる。

 したがって、厚生労働省は、要介護等認定を適切に実施する観点から、次の措置を講ずる必要がある。

1) 要介護等認定の一次判定に係る調査の項目について、市町村等の意見を聴取するなどして、申請者の身体上又は精神上の障害の状況を的確に反映するものとなるよう見直しを行うこと。
 また、二次判定において加味される認定調査票の特記事項及び主治医の意見書について、申請者の身体上又は精神上の障害の状況が的確に記載されるよう、市町村に対して技術的助言を行うこと。

2) 訪問調査を指定居宅介護支援事業者等に委託して実施している市町村に対し、おおむね3回ないし4回に1回は職員による直接調査を行うよう技術的助言を徹底すること。


(2) 介護サービス及び居宅介護支援の適切化等

 介護サービスは、1)訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴ほう対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護又は福祉用具貸与を行う「居宅サービス」と、2)介護福祉施設サービス、介護保健施設サービス又は介護療養施設サービスを行う「施設サービス」とに大別される(介護保険法第7条第5項及び第20項)。
 また、居宅介護支援は、居宅の要介護者等が居宅サービス等を適切に利用することができるよう、居宅介護支援事業者が居宅要介護者等の依頼に基づき、居宅サービス事業者等との連絡調整等を行うものである(介護保険法第7条第18項)。
 介護サービス及び居宅介護支援は、原則として、都道府県知事の指定を受けた事業者が行うこととされている(介護保険法第41条第1項等)。

ア 重要事項説明書

 介護保険法第74条等の規定に基づいて定められた、指定居宅サービス、施設サービス及び居宅介護支援の各事業に係る人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生労働省令第37号等。以下、総称して「人員・設備等基準省令」という。)では、指定居宅サービス事業者、指定居宅介護支援事業者及び介護保険施設は、介護サービス又は居宅介護支援の提供の開始に際し、あらかじめ利用申込者等に対し、事業運営に関する規程の概要、訪問介護員等の勤務の体制、その他の介護サービスの選択に必要と認められる事項を記した文書(以下「重要事項説明書」という。)を交付して説明を行い、同意を得なければならないとされている。これに関し、厚生労働省は、「介護保険施設等の指導監査について(通知)」(平成12年5月12日付け老発第479号厚生省老人保健福祉局長通知)により、介護保険施設等に対して都道府県、指定都市、中核市、保健所設置市及び特別区が行う指導監査(以下、指導監査の実施主体を「都道府県等」という。)における主眼事項及び着眼点として、事業者が、サービスの提供を行うに当たり重要事項説明書を交付して説明を行い、利用申込者等の同意を得ているか確認を行うよう、都道府県等に示している。

 今回、193事業者における重要事項説明書の交付状況等を調査した結果、14事業者は、重要事項説明書を作成しておらず、その理由として、1)介護保険制度の理解が不十分で、交付義務を知らなかったこと(8事業者)、2)契約書の裏面に重要事項の一部を記載しており、これで足りると誤解していたこと(4事業者)、3)多忙により作成が間に合わなかったこと(2事業者)を挙げている。また、11事業者は、重要事項説明書は作成しているものの、一部の者に対しこれを交付しておらず、その理由として、1)介護保険制度施行以前からサービスを利用している者であり、重要事項の内容を承知していると判断していたこと(6事業者)、2)当初は利用者全員に交付していたが、その後多忙のため、交付を怠っていたこと(5事業者)を挙げている。

イ 福祉用具貸与

 介護保険法第7条第5項において、居宅サービスの一つとして「福祉用具貸与」が挙げられている。福祉用具は、同条第17項において、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障がある要介護者等の日常生活上の便宜を図るための用具及び要介護者等の機能訓練のための用具であって、要介護者等の日常生活の自立を助けるためのものとされている。
 貸与の対象となる福祉用具の範囲については、「厚生労働大臣が定める福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」(平成11年厚生省告示第93号)により、車いす、特殊寝台等の「種目」が定められ、「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」(平成12年1月31日付け老企第34号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)により、福祉用具の種目ごとに、具体的な機能が定められている。例えば、車いすのうち、「普通型電動車いす」の機能については、「日本工業規格(JIS)T9203?1987に該当するもの及びこれに準ずるものをいい、方向操作機能については、ジョイスティックレバーによるもの及びハンドルによるもののいずれも含まれる。ただし、各種のスポーツのために特別に工夫されたものは除かれる」等とされている。

 今回、厚生労働省、87市町村及び170指定居宅介護支援事業者における福祉用具貸与等の状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

(ア) 調査した市町村及び事業者の中には、次の福祉用具貸与の対象とされていない用具について、貸与対象用具に含めることを求める意見がみられた。

1) 電動立上がり座いす(15市町村及び42事業者)

2) 車いす用段差解消リフト(22市町村及び59事業者)

3) 体の前部のみに把手(手で握り、又は肘を載せるためのフレーム)が設けられている歩行器(13市町村及び40事業者)

(イ) 福祉用具は、同一の種目・機能であっても、各メーカーにより多様な製品が製造・販売されており、事業者や要介護者等が貸与を望む製品が貸与の対象となるか否かを容易に判断することが困難となっている。
 このため、介護保険制度導入時の福祉用具貸与に係る混乱を避けることを目的に、福祉用具製造メーカーを中心に設立された公益法人(財団法人テクノエイド協会)等では、貸与対象の福祉用具をカラー写真で例示したガイドブック等を作成し配布している。
 しかし、調査した事業者の中には、貸与対象とされている登坂能力に優れた四輪駆動の電動車いすについて、ガイドブック等の確認や市町村への確認を行っていないため、対象とされていることを承知していないことから、要介護者等から貸与要望があったにもかかわらず、対応しなかった例がある。
 なお、この事例を契機として、当省が170指定居宅介護支援事業者に対し、登坂能力に優れた四輪駆動の電動車いすが貸与対象とされていることを承知しているか否かを聴取した結果、33事業者は承知していなかった。

ウ 身体的拘束等

 介護保険施設や指定短期入所生活介護事業所等において介護サービスを行うに当たっては、人員・設備等基準省令及びその解釈通知(「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(平成12年3月17日付け老企第43号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)等人員・設備等基準省令ごとの通知)により、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならないとされ、また、緊急やむを得ず身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録しなければならず、その記録は、身体的拘束等の完結の日から2年間保存しなければならないとされている。厚生労働省は、平成13年3月に作成した「身体拘束ゼロへの手引き(高齢者ケアに関わるすべての人に)」により、1)身体的拘束等禁止の対象となる具体的な行為、2)身体的拘束等に関する説明書・経過観察記録に係る参考様式、記録事項等を示している。

 今回、施設サービスを行っている介護保険施設、居宅サービスとしてグループホーム(痴ほう対応型共同生活介護)を行っているもの等の計84施設等における身体的拘束等の状況等を調査した結果、33施設等(39.3パーセント)は、緊急やむを得ない場合において身体的拘束等を行っているとしている。
 このうち、6施設等は、身体的拘束等の態様及び時間、緊急やむを得なかった理由等を記録していないこともあり、それぞれの身体的拘束等が緊急やむを得ないものであったかどうかを確認できなかった。これら6施設等は、記録を残していない理由について、1)危険防止のためであっても、車いすから落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルトを着用すること等については、身体的拘束等に該当すると認識していたが、軽度の身体的拘束等についてまで記録を残しておく必要があることを認識していなかったこと(3施設等)、2)介護サービス計画書に身体的拘束を行う旨を記載することで足りると誤解していたこと(2施設等)、3)記録する必要があることは承知し、記録様式や記録担当者を検討することとしていたが、多忙のため未検討のままとなっていたこと(1施設等)を挙げている。

 したがって、厚生労働省は、介護サービス等の適切化等を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。

1) 都道府県に対し、事業者の指定を行う際には、重要事項説明書の作成・交付の必要性について十分周知するよう、技術的助言を行うこと。
 また、都道府県等に対し、事業者に対する指導監査等あらゆる機会を通じて重要事項説明書の交付状況を確認するとともに、同説明書の交付の励行を図るよう、技術的助言を行うこと。

2) 貸与対象となる福祉用具について、メーカーにおける新製品の開発状況や要介護者等のニーズを把握した上で、適切に対象機器の見直しを行うこと。
 また、事業者に対する研修の実施等により、貸与対象となる福祉用具の周知徹底を図るとともに、必要に応じ、関係団体に対して、ガイドブック等によるきめ細かな情報提供に努めるよう協力要請を行うこと。

3) 介護保険施設等において身体的拘束等を行うことは原則として禁止されていること及びその趣旨について周知徹底を図ること。
 また、都道府県に対し、介護保険施設等において、身体的拘束等を「緊急やむを得ない場合」として行う場合は、その記録の作成・保存を励行するとともに、身体的拘束等の廃止に向け、これら記録を積極的に活用する旨指導するよう、技術的助言を行うこと。


2 保険料の徴収等の適切化

 介護に要する費用の負担については、介護サービスの利用者が負担することとされている介護に要する費用の1割以外の費用(介護給付費)は、介護保険法第121条等において、その100分の50は公費で負担するとされている(国が100分の25、都道府県が100分の12.5、市町村が100分の12.5)。残りの100分の50は、介護保険法第125条及び第129条において、第1号被保険者と第2号被保険者の保険料で負担することとされており、このうち、第2号被保険者の保険料については、全国一律の基準により定められ、各公的医療保険制度の仕組みを利用して徴収され、これを社会保険診療報酬支払基金が市町村に交付することにより納付される。
 一方、第1号被保険者の保険料については、介護保険法第129条第2項において、政令で定める基準に従い市町村の条例で定めるところにより算定され、市町村が直接徴収するものとされている。また、その保険料の徴収については、同法第131条において、原則として特別徴収(年金からの天引き)により行うこととされているが、例えば、支給される年金の種類が遺族年金、障害年金、老齢福祉年金である場合や年額18万円未満の場合などには、市町村が、第1号被保険者又は当該第1号被保険者の世帯主若しくは配偶者から普通徴収により行う(納入通知による徴収)こととされている。

 今回、厚生労働省、20都道府県及び87市町村における保険料の減免、徴収状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

(1) 保険料の減免

ア 第1号被保険者に係る保険料については、介護保険法施行令(平成10年政令第412号)第38条第1項及び同条第2項において、事業運営期間(市町村介護保険事業計画の初年度以降3か年間)ごとに、保険料収納必要額を予定保険料収納率(注1)で除して得た額を補正第1号被保険者数(注2)で除して得た額(以下「基準額」という。)に、被保険者の所得に応じて、4分の2(第1段階)、4分の3(第2段階)、4分の4(第3段階)、4分の5(第4段階)又は4分の6(第5段階)を標準として市町村が定める割合(標準割合)を乗じて得た額を保険料とするとされている。

(注1)  予定保険料収納率とは、事業運営期間における各年度に賦課すべき保険料の額の総額の合算額に占めるこれらの年度において収納する保険料の見込総額の合算額の割合として厚生労働省令で定める基準に従い算定される率
(注2)  補正第1号被保険者数とは、所得段階別の第1号被保険者見込み数(過去の各所得段階別の人数を基に見込んだ数)に、各所得段階の基準額に対する割合(0.5〜1.5)を乗じた数の合計

 なお、介護保険法施行令第39条では、市町村の判断により、6段階設定として標準割合の変更等を行うことも認められている。
 また、市町村は、介護保険法第142条において、条例で定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができるとされている。さらに、厚生労働省は、各市町村における介護保険条例の策定の参考に供するため、「介護保険条例参考例」(平成12年1月26日付け厚生省老人保健福祉局介護保険制度施行準備室長事務連絡)を示しており、その第24条では、市区町村長は、第1号被保険者等が死亡、長期入院、失業等により収入が著しく減少した場合や、災害により住宅等の財産に著しい損害を受けた場合等において、必要があると認められる者に対し、保険料を減免するとされている。
 厚生労働省は、全国介護保険担当課長会議(平成12年11月16日、13年9月28日等)において、市町村に対し、低所得者に対する保険料の減免について、「最近、一部の市町村において、災害など被保険者固有の特殊な事情の場合以外に、介護保険の高齢者(第1号被保険者)の保険料を減免する動きがあるが、これについての考え方」として、1)保険料を全く払わないことは、助け合いの精神を否定することとなるので、保険料の全額免除は不適当であること(以下「第1原則」という。)、2)保険料を収入のみに着目して一律に減免する措置を講ずることは、正確な負担能力を個々具体的に判断しないまま減免を行うこととなり不公平であるので、収入のみに着目した一律減免は不適当であること(以下「第2原則」という。)、3)市町村の意見を踏まえ、一般財源からの繰入れが常態化しないよう財政安定化基金を設けている経緯にかんがみると、保険料の減免分を一般財源からの繰入れにより補てんすることは不適当であること(以下「第3原則」という。)、の3点(以下「三原則」という。)について技術的助言を行っている。また、厚生労働省は、この三原則の趣旨を踏まえたものであれば、地域の実情に応じて保険料の減免措置を独自に講ずることは差し支えないとしている。

イ 厚生労働省の調査によると、平成13年10月1日現在、全国3,247市町村のうち309市町村が、低所得である第1号被保険者を対象として、保険料を減免している。当該調査では、これら309市町村のうち、118市町村(38.2パーセント)は、厚生労働省の技術的助言を遵守せずに保険料を減免しているとされており、その内訳は、1)第1原則の趣旨を踏まえていないものが83市町村、2)第2原則の趣旨を踏まえていないものが24市町村、3)第3原則の趣旨を踏まえていないものが74市町村となっている。

ウ 当省が調査した87市町村のうち、7市町村は三原則のいずれかを踏まえておらず、その内訳は、1)第1原則の趣旨を踏まえていないものが5市町村、2)第2原則の趣旨を踏まえていないものが2市町村、3)第3原則の趣旨を踏まえていないものが6市町村となっている(このうち三原則すべての趣旨を踏まえていないものが2市町村)。
 第1原則の趣旨を踏まえていない5市町村では、免除制度を設けた理由として、例えば、生活保護に該当するような低所得者からは保険料の徴収は事実上困難であることを挙げている。また、5市町村における保険料免除の内容をみると、1)生活保護法(昭和25年法律第144号)による扶助開始前の年度の未納保険料の免除を行うこととしているもの(1市町村)、2)世帯収入が生活保護の最低生活費の5割未満である世帯について免除を行うこととしているもの(1市町村)、3)保険料設定の第1段階に属する者で、老齢福祉年金の受給権を有するとともに市町村民税非課税であるものを対象として免除することとしているもの(1市町村)、4)3)に該当する者について、保険料は徴収するものの当該保険料相当額を助成金として支給(保険料の実質的な免除)することとしているもの(1市町村)、5)低所得者について、保険料は徴収するものの、当該保険料相当額を介護福祉金として支給(保険料の実質的な免除)することとしているもの(1市町村)となっている。
 一方、厚生労働省は、保険料の免除に対する考え方を三原則として示しているほか、保険料の支払いを含め、最低生活の維持が困難な者については、生活保護により対応することとしている。
 なお、これら5市町村のうち、平成12年度において免除実績がある4市町村における第1号被保険者数(平成12年4月末現在)は約5万6,000人、介護保険特別会計予算額は約93億円となっており、一方、保険料の免除対象者は16人で、合計免除額は約5万8,000円となっている。
 次に、第2原則の趣旨を踏まえず保険料を一律に減免している2市町村についてみると、いずれも、市町村民税が非課税であり、かつ、老齢福祉年金を受給している者を減免の対象としている。2市町村では、これら低所得者について、具体的に該当する基準を設ける場合には申請者が要件を満たしているか否かを確認する必要があり、そのための事務量が膨大になることからこれを一律に対象としているとしている。
 さらに、第3原則の趣旨を踏まえず一般財源からの繰入れを行っている6市町村について、その実施理由をみると、1)平成12年度の免除実績は4件で約1万6,000円であるなど、一般財源から繰り入れても財政上の大きな負担とはならないこと(4市町村)、2)介護保険法第147条に基づく財政安定化基金からの借入れは可能であるが、いずれ返済することとなり、そのため、結果的には保険料の引上げにつながる恐れがあること(2市町村)となっている。

エ 厚生労働省の調査によると、低所得者の保険料負担に配慮して、保険料額の設定を6段階としているものが10市町村あり、これら市町村における第1段階の保険料額は保険料基準額の46.5パーセントないし25.0パーセントとなっている。
 しかし、当省が調査した第1原則の趣旨を踏まえていない5市町村は、いずれも、このような6段階制を採っておらず、第1段階の保険料額を保険料基準額の50パーセントとしている。


(2) 保険料の徴収

 保険料の普通徴収については、保険料を直接市町村に納付するほか、地方自治法第235条及び地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第168条において、市町村長が指定する銀行、郵便局等の金融機関において取り扱わせることができるとされている。
 なお、普通地方公共団体の長は、保険料を納付しない者に対しては、地方自治法第231条の3第1項において、期限を指定してこれを督促しなければならないとされている。
 普通徴収の収納率は、厚生労働省による112市町村の調査結果では、平成12年度において92.8パーセントとなっている。
 当省が調査した87市町村における、平成12年度の普通徴収の収納率は、平成13年3月末現在で、最高が100パーセント、最低が71.5パーセントとなっているが、普通徴収の収納率が70パーセント台となっている2市町村についてみると、1市町村は口座振替制度を導入しておらず、他の1市町村では口座振替率が10パーセント未満となっている。一方、普通徴収の収納率が95パーセント以上となっている34市町村の中には、口座振替率が40パーセント以上となっているものが18市町村(52.9パーセント)みられる。また、調査した87市町村の中には、地方自治法に基づく督促を行っていないものが6市町村みられる。

 したがって、厚生労働省は、保険料の減免、徴収等の適切化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。

1) 低所得者について、三原則の趣旨を踏まえずに保険料減免を行っている市町村に対しては、6段階制の導入や料率の変更の検討も含め、保険料の減免の適正化を図るよう技術的助言を行うこと。

2) 保険料の普通徴収について、納付相談の実施や口座振替の推進により収納率向上を図るよう、市町村に技術的助言を行うこと。


〔実態〕

1 介護サービスの利用促進

 要介護等認定を受けた被保険者が、都道府県知事の指定を受けた事業者の行う居宅サービスや施設サービスを受けるか否かは被保険者の意思に委ねられているが、被保険者がこれらのサービスを受けたときは、市町村は、介護保険法第41条第4項及び第48条第2項において、当該費用のうち100分の90に相当する額を支給するものとされている。

 今回、87市町村における介護保険の受給状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 介護サービス未利用者の未利用理由

 平成13年8月現在、要介護等認定を受けている被保険者の数は全国で約275万人となっているが、このうち約62万人(約23パーセント)は介護サービスを利用していない。
 また、10市町村では、要介護等認定を受けている被保険者で介護サービスを利用していない者(以下「未利用者」という。)に対するアンケート調査を行っており、その調査結果によると、未利用の理由は次のとおりとなっている(いずれのアンケートでも複数回答が認められている。)。

1) 「家族からの介護で対応できる」とした者が10市町村2,903人のうち1,136人(39.1パーセント)

2) 「介護サービスを受ける必要がない」とした者が6市町村2,376人のうち613人(25.8パーセント)

3) 「現在入院している」とした者が5市町村1,654人のうち376人(22.7パーセント)

4) 「利用したいサービスがない」とした者が3市町村367人のうち33人(9.0パーセント)

5) 「サービスの内容や利用手続が分からない」とした者が9市町村2,754人のうち215人(7.8パーセント)

6) 「他人を家に上げたくない」とした者が6市町村1,086人のうち77人(7.1パーセント)

7) 「一割の利用料が負担である」とした者が9市町村2,822人のうち161人(5.7パーセント)

イ 広報活動

 上記の市町村が行ったアンケート調査において、「サービスの内容や利用手続が分からない」としているものが一部みられる。
 また、当省が調査した87市町村のすべてが、1)介護保険の概要、2)保険料の設定・徴収の概要、3)要介護等認定の受け方等をまとめた広報誌等を被保険者に配布しており、また、要介護者等に対し、要介護等認定時に、介護サービスの内容、利用手続等を記載した冊子を配布している。このうち79市町村は、これらに加え、被保険者に、介護サービス提供事業者名及びその連絡先を記載した冊子を配布している(このうち1市町村は、介護サービス提供事業者を評価し、その結果をホームページ等で公表)。

 介護サービスの内容や利用手続が分からないためにこれを利用することができない者が発生することは、たとえ一部の者であっても介護保険制度の信頼性を損なうおそれがある。また、要介護者等は、相当の高齢者となっている。
 このようなことから、引き続き、要介護者等が置かれている状況や環境をも考慮し、きめ細かな工夫をこらした周知方策を講ずることが求められる。


2 居宅サービス計画(ケアプラン)費

 介護保険制度においては、居宅要介護者等が、日常生活を営むために必要な介護サービスを適切に利用することができるよう、当該居宅要介護者等の依頼を受けて、1)その心身の状況、その置かれている環境、当該居宅要介護者等及びその家族の希望等を勘案し、利用する居宅サービス等の種類及び内容、これを担当する者等に関する事項を定めた計画(以下「居宅サービス計画」という。)を作成するとともに、2)当該居宅サービス計画に基づく居宅サービス等の提供が確保されるよう、指定居宅サービス事業者その他の者との連絡調整その他の便宜の提供等を行う仕組み(居宅介護支援)が設けられている(介護保険法第7条第18項)。この居宅介護支援は、都道府県知事による指定居宅介護支援事業者の指定を受けた者が行うものとされており、居宅要介護者等が当該事業者から居宅介護支援を受けたときは、市町村は、当該居宅要介護者等に対し、その費用(以下「居宅サービス計画費」という。)を支給することとされている(同法第46条第1項及び第58条第1項)。
 また、指定居宅介護支援事業者は、介護保険法第81条第1項において、介護支援専門員を事業所ごとに厚生労働省令で定める員数以上置くこととされている。
 さらに、居宅サービス計画費の額は、居宅介護支援に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める基準(この基準を定めるに当たっては、社会保障審議会の意見を聴くこととされている。)により算定した費用の額とされている(介護保険法第46条等)。

 今回、厚生労働省及び170指定居宅介護支援事業者における居宅介護支援の実施状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 介護支援専門員の配置については、「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年厚生労働省令第38号。以下「居宅介護支援基準省令」という。)第2条において、事業所ごとに、常勤の介護支援専門員を1人以上(利用者数50人又はその端数を増すごとに、1人を標準)置かなければならないこととされている。
 また、居宅サービス計画費の額は、「指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第20号)において、 一月につき、要支援は6,500円、要介護1及び2は7,200円、要介護3ないし5は8,400円と3段階に区分されている。
 これについて、厚生労働省は、介護保険制度の導入前に、居宅介護支援と同様の業務を行っていた在宅介護支援センターの人件費、管理費等の実績から、常勤専従介護支援専門員一人当たりの経費を年間670万円と設定し、これを基に、介護支援専門員の兼務率が65パーセント、その場合の一人当たりの担当者数が50人という前提の下、一月一人当たりの報酬の平均を7,200円と算出し(要介護1及び2に適用)、要介護状態等区分が高くなるに従いサービスの種類や量が多くなり、これに伴う業務が複雑・多量になるとの考え方から定めたものであるとしている。

イ 介護保険制度の導入後における介護支援専門員の業務の実態をみると、指定居宅介護支援事業者においては、給付管理業務(居宅サービスに基づき給付管理票を作成し、これを居宅サービス計画費の請求書とともに都道府県国民健康保険団体連合会に提出する業務)及び要介護等認定の更新手続に係る業務並びに居宅サービス計画の変更に係る業務(利用者の都合等による介護サービスの変更に伴う利用者と介護サービス事業者のスケジュール調整等)の量が当初の想定以上に増大したとしている。
 また、当省が調査した常勤専従の介護支援専門員のみを配置している53指定居宅介護支援事業者における介護支援専門員一人当たりの平均担当利用者数は、41.1人となっている。

ウ 一方、上記53指定居宅介護支援事業者のうち、平成12年度の居宅介護支援事業の収支が把握できた21事業者の収支状況をみると、16事業者が赤字となっている。これら16事業者は、居宅介護支援事業以外の居宅サービス事業等も併せて行っているが、このうち、介護サービスに係る収支を含めた全体の収支状況を把握することができた10事業者のうち、7事業者は全体の収支が黒字となっている。ちなみに、全体の収支が赤字となっている3事業者の内訳は、1)介護保険制度が開始された平成12年度から事業を行っていることもあって初年度は赤字となっているが、13年度は収支が好転する見込みであるとしているもの(2事業者)、2)居宅介護支援事業と併せて行っている訪問介護について、12 年度は予想どおりに利用者を確保できなかったが、13年度は利用者数が伸びてきており収支が好転する見込みであるとしているもの(1事業者)、となっている。

エ 居宅サービス計画費の額は、要介護状態等区分により3段階に設定されているが、これについて、調査した170指定居宅介護支援事業者のうち118事業者(69.4パーセント)は、要介護状態等区分によって 費用の額に差を設ける必要性は乏しいとしており、その理由として、1)居宅サービス計画の作成に当たっては、介護サービスに対する利用者の要望の有無、利用者の置かれている状況(独居・同居、介護者の状況)等を的確に把握した上で検討する必要があり、計画作成に係る業務量は、要介護状態等区分に左右されるものではないこと、2)要介護状態等区分の低い利用者の方がむしろ自己都合による介護サービスの変更等が多く、手間(要介護支援に係る物理的時間)がかかっていることを挙げている。

 居宅サービス計画費の算定をめぐって、多くの事業者からコストに見合ったものとなっていないとする意見が聴かれたが、当省の調査では、そのことが事業経営上どのような影響を与えるのかについて明確にすることはできなかった。
 介護保険制度が円滑に運営されるためには、その一翼を担う事業者の健全かつ安定した経営が不可欠である。そのため、事業者における居宅介護支援に係るコストの実態が明らかにされることが求められる。


3 介護保険施設(指定介護老人福祉施設)の整備に係る事業計画

 市町村は、介護保険法第117条第1項において、3年ごとに、5年を一期とする当該市町村の介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画(以下「事業計画」という。)を定めるものとされている。
 この事業計画においては、介護保険法第117条第2項において、各年度における介護給付等対象サービス(居宅サービス、居宅介護支援及び施設サービス)の種類ごとの量の見込み、当該見込量を確保するための方策等を定めるものとされ、また、同条第3項において、事業計画は、当該市町村の区域における要介護者等の人数、要介護者等の介護給付等対象サービスの利用に関する意向その他の事情を勘案して作成されなければならないとされている。

 今回、87市町村における事業計画について、指定介護老人福祉施設の利用者見込数の設定状況等を調査した結果、63市町村は、入所希望の充足を図るため、事業計画の目標年度である平成16年度における指定介護老人福祉施設の利用者見込数を、把握した指定介護老人福祉施設の入所者数に入所希望者数を加えた人数(以下「必要者数」という。)又はこれを若干上回る人数としているが、残りの24市町村は、16年度の指定介護老人福祉施設の利用者見込数について、必要者数を下回る人数としており、中には、次のとおり、100人以上下回っているものが3市町村みられる。

1) 必要者数を7,406人と把握しているが、事業計画における平成16年度の指定介護老人福祉施設の利用者見込数を7,053人としており、事業計画どおりに施設整備が図られても、353人は入所できないもの

2) 必要者数を1,444人と把握しているが、事業計画における平成16年度の指定介護老人福祉施設の利用者見込数を1,266人としており、事業計画どおりに施設整備が図られても、178人は入所できないもの

3) 必要者数を2,653人と把握しているが、事業計画における平成16年度の指定介護老人福祉施設の利用者見込数を2,532人としており、事業計画どおりに施設整備が図られても、121人は入所できないもの

 これら3市町村は、利用者見込数が必要数を下回っている理由として、必要者数を満たせるだけの指定介護老人福祉施設を整備することとした場合、多額の介護給付費が必要となり、その結果、保険料の引上げにつながり住民の合意が得られないおそれがあること等を挙げている。

 指定介護老人福祉施設については、現在でも多くの入所希望者が存在するといわれているが、一方においては、その施設整備を急ぎ、これら入所希望者をすべて入所させ介護サービスを行うには膨大な介護給付費が必要となり、ひいては保険料の引上げにつながることが予想される。
 受益と負担のバランスをどのようにとっていくかについて、関係者の合意形成に向けた努力が求められる。


4 有料老人ホームと入居者との間の介護費用に係る調整

 居宅要介護者等に給付される居宅サービスとして、特定施設入所者生活介護がある。これは、有料老人ホーム及び軽費老人ホーム(以下「有料老人ホーム等」という。)の入居者である要介護者等が、その施設において、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって厚生労働省令で定めるもの、機能訓練及び療養上の世話を受けるものである(介護保険法第7条第16項等)。
 有料老人ホーム等が特定施設入所者生活介護を行う場合には、指定特定施設入所者生活介護事業者として都道府県知事の指定を受けるものとされている(介護保険法第41条第1項及び第70条第1項)。また、介護保険法第41条第6項の規定に基づき、市町村は、サービスを行った指定居宅サービス事業者に費用(介護給付)を支払うことができる。
 有料老人ホームが、入居者との契約により、介護費用を一時金等により前払いで徴収している場合には、介護保険がなければ徴収済み(入居者にとっては支払い済み)の一時金等により賄われる予定であった介護を目的としたサービスの全部又は一部について、介護保険から給付が行われることとなる。このため、有料老人ホームが、介護保険法第41条第6項の規定に基づき介護給付を入居者に代わり受領(代理受領)する場合には、代理受領した介護給付と前払いにより入居者から徴収している介護費用との間で重複が生じ、その調整が必要となる。
 これについて、厚生労働省は、都道府県に対して、次のとおり技術的助言を行っている。

1) 「介護保険法の実施に伴う有料老人ホームの介護費用の調整について」(平成12年2月14日付け老振第6号厚生省老人保健福祉局老人福祉振興課長通知。以下「指導通知」という。)により、有料老人ホームと入居者との合意を基本として、介護費用の調整が適切に実施されるよう、(i)介護費用の算定の考え方、介護サービスの実績等について、入居者に対し十分な説明を行うこと、(ii)話合いの経緯及び 結論を入居者とホームが確認の上で文書により記録として残す必要があること等につき、有料老人ホームを指導すること。

2) 上記指導通知により、例えば、保険料と利用者負担分(1割)の合計額に相当する額を、有料老人ホームが肩代わりするという内容を含む調整案も可能であるが、その場合には、各入居者に係る調整対象額とその考え方を明らかにするとともに、この調整対象額と、返還する額となる保険料と利用者負担分の合計額の推計との関係を入居者に十分に説明する必要がある旨、有料老人ホームを指導すること。

3) 「有料老人ホームの介護費用の調整方法に関する確認調査及び指導 について」(平成12年6月12日付け老振第36号厚生省老人保健福祉局振興課長通知)により、介護費用の調整手続に関する説明資料や議事録の提出を有料老人ホームに求めるなど適切な方法により調整方法を確認調査するとともに、手続面において不適切であると認められる場合は、入居者に改めて十分な説明等を行うよう、有料老人ホームを指導すること。

 今回、厚生労働省、9都道府県及び9有料老人ホームにおける介護費用の調整状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 厚生労働省は、平成12年2月に都道府県を通じ、有料老人ホームについて、特定施設入所者生活介護事業者の指定状況、介護費用の調整の必要性の有無及び介護費用の調整の進捗状況について全国規模での調査を実施している。
 この調査結果では、介護費用の調整が必要な98有料老人ホームのうち、1)調整の考え方及び調整対象額について説明しおおむね合意に至った有料老人ホームは35ホーム、2)調整の考え方を説明しおおむね合意を得、調整対象額について説明済みの有料老人ホームは6ホーム、3)調整の考え方及び調整対象額について説明済みの有料老人ホームは52ホーム、4)調整の考え方のみを説明し、調整対象額について入居者に説明していない有料老人ホームは5ホームとなっている。
 当該5ホームについて、厚生労働省を通じてその後の状況を確認した結果、平成14年2月現在、4ホームは、調整対象額についても説明しおおむね合意に至っている(残る1ホームについては、平成12年2月時点では特定施設入所者生活介護事業者として指定を受ける意向を有していたことから、調整が必要なホームに含めていたが、その後、同ホームは指定申請を行っていない。)。

イ 今回、当省が把握した、介護費用を一時金等により前払いで徴収している9有料老人ホームについて、平成13年7月末現在における入居者の介護費用の調整状況をみると、1)8有料老人ホームは、調整の考え方及び調整対象額について説明しおおむね合意に至っており、また、2)残る1有料老人ホームは、調整の考え方については合意を得ていたが、調整対象額について入居者に説明していなかった。
 なお、上記2)の1有料老人ホームについては、平成14年2月に、調整の考え方及び調整対象額について説明し、おおむね合意に至っている。



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