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事例582:(処方箋の誤認発行)



事例582:(処方箋の誤認発行)

発生部署(外来) キーワード(与薬(内服・外用)、調剤)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【薬局・輸血部】
患者の性別【女性】 患者の年齢【73】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【患者本人】
当事者の職種【薬剤師】
当事者の職種経験年数【3年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年6ヶ月】
発生場面【内服薬調剤・管理】
(薬剤・製剤の種類)【循環器用薬】
発生内容【処方箋・注射箋監査間違い】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備【連絡・報告システムの不備】
発生要因-連携不適切【多職種間の連携不適切】
発生要因-勤務状態【多忙であった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【仮に実施されていた場合、患者への影響は中等度(処置が必要)と考えられる】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
処方箋の誤認発行(エンボスの間違い)でほかの人の調剤をした。
本人のものとおもいこんでいた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
処方箋記載時のDrのエンボス確認不足。
Drから直接患者様に処方箋がわたされた。
提出時、看護師の確認がされていない。

■実施したもしくは考えられる改善策
処方箋記載後の確認。
提出ルートの再確認を行う。
本人であることの確認をする。(交付時)



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 処方箋の発行がどのように行われたのかというプロセスが、この事例のポイントです。多職種が関与しているプロセスであること、誤認が発生した部署と発見した部署が異なっていることなどのため、他の職種・部署で行われた手順は認識しづらいと思いますが、なるべくプロセスの全体像を記述するようにしてください。


■改善策に関するコメント
処方箋発行の前工程(診察券の取り扱い〜エンボスでの印字)について
 患者Aに対し患者Bの名前の入った処方箋を発行し、薬剤交付時に患者本人が発見したケースです。処方箋に記載されている処方内容が患者Aのものか患者Bのものかで、処方箋の誤認が処方内容記載前のプロセスで起こっているのか後のプロセスで起こっているのかが変わってきますが、“処方箋記載時のDrのエンボス確認不足”とコメントされているので、(白紙の)処方箋にエンボスで印字する際に診察券を取り違え、それを十分確認しないまま、処方内容を記載し、発行したものと推察されます。したがって、診察待ち患者の診察券取り扱い手順に問題があり、何らかの理由で患者Aの診察時に患者Bの診察券が紛れ込んでしまい、気付かないままエンボスで印字してしまったものと思われます。外来等での業務手順の見直しと、医師をはじめ患者に接する職種での患者確認方法の再確認と教育が必要です。
 また、診察券のエンボスの内容についても見直しの余地があるかもしれません。例えば患者氏名がカタカナ表記の場合、間違いやすい要素が多いといえます。この場合は漢字表記のシステムに変更ができないかどうか検討する必要があります。

処方箋発行時点での確認行為の重要性
 さらに、発生要因のコメントからは、本来と異なる提出手順が行われていること、そのため本来なら看護師が確認すべきプロセスが機能しなかったことが示唆されます。
 処方箋に代表される各種の「伝票」は、患者本人から離れて流通する情報ですので、おおもとの伝票発行時にID情報の取り違えがあると、その後のプロセスで患者本人と照合・確認することが極めて困難です。また、その伝票に基づき他の患者に処方や検査が行われてしまうことになり、患者への影響度も大きいといえます。したがって伝票(処方箋)発行時が、氏名等のID情報が間違っていないかどうかを確認する唯一の機会であるということを認識し、確認手順を遵守する必要があります。今回の事例は手書き処方箋ですが、発行時確認が重要となるのは、オーダリングを導入している場合でも同様です。
 このケースでは幸いにして患者本人が気づいていますが、通常は後工程で確認をすることができません。ただし処方の内容に対し“性別が違う”、“年齢がまったく違う”などにより発見できるケースもあり得ますので、処方確認も必要です。さらに、患者に処方内容についてしっかりとインフォームド・コンセントをとることで、薬剤交付時の処方内容確認が有効になるでしょう。




事例585:(薬剤希釈倍率の間違いによる過量投与)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【扱いにくかった】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
患児(生後1ヶ月)は加療中であり、多剤併用療法(アラビアチン、カルバマゼピン、フエノバール、マイスタン)をしていたが、コントロール不良のため難治性痙攣に有効であるとされるピラセタム(ミオカーム)を使用することになった。本院採用薬でないため手書き処方箋での指示を行なった。指導医はミオカーム100mg分3と処方した。ミオカームは1000mg/3mlの水薬であるため1回内服量が0.1ml(33mg)になるため水で10倍希釈し、1ml/回となるように調剤してもらった。処方2日目、治療効果が認められないため増量した際に、主治医(研修医)は“ミオカーム6ml分3”と処方したためその後ミオカームが1日2000mgで調剤され内服を続けた。処方から約40日後、指導医が増量して12ml(400mg)と処方したため薬剤部より“処方量と力価が違う”との連絡が入ったが、それを受けた処方医でない主治医は「これまで通り」と返事をした。処方から約2ヶ月後、指導医が処方した際に再度薬剤部より“処方量と力価が違う”との薬剤部から連絡があり、指導医が対応したところ投与量が過量になっていることがわかった。約2カ月間、使用予定の10倍量が処方されたが、患者への影響としては、幸いに血液検査上の異常所見や、副作用とされる白内障の所見もなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
(1)処方の正しい記載方法が統一(認識)されていない。(2)指導医による研修医の処方指示に対するチェック体制が徹底されていないことによると考えられる。

■実施したもしくは考えられる改善策
1.薬剤部に対して、水薬・散剤など特殊な製剤について院内で正しい処方箋の入力、あるいは書き方が徹底していないことから“正しい処方箋の書き方について”再度薬剤部より指導していく。
2.診療科においては、(1)指導医は研修医の入力した処方箋をチェックし、確認サインをする。(2)看護師には指導医のサインのない処方箋は受け付けないことを制度化する。(3)処方箋の記載方法を見直し、薬剤部と協議し統一する。(4)水薬の希釈法について薬剤毎に薬剤部と協議して決定したものを明文化し、指導医は徹底して研修医に指導する。(5)研修医の達成度をリスクマネジャーが評価していく。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 先ず、ヒヤリ・ハットリポートは、自ら発生させた医療ミスを断つため(再発の予防のため)に存在することをご理解いただきたくことが重要であることを肝に銘じてください。ヒヤリ・ハット発生要因は、業務環境因子と個人因子それぞれ、あるいは双方が重なり発生することが過去の事例より判明しているからです。
 本報告は具体的内容については詳細に記述されていますが、事例の概要に関する情報がなく、しかも、どの医療職種の方の報告か不明であるため事例発生のバックグラウンドと事例そのものを合わせて考える要因分析、「改善」の企画・実施を困難にしています。少なくとも、何時、何処で、誰が、何を、何故、どうしたかが分かる業務環境を示していただくと宜しいと考えます。本報告に事例の概要に関する項目が網羅されれば、極めて有用で貴重な報告となるでしょう。


■改善策に関するコメント
 報告内容を考える以前に、報告書記載の医療用語あるいは単語、特に医薬品と医療器具・機器の名称を確認することが重要と考えます。この時点で誤りがあるとすれば、「ヒヤリ・ハットは勿論、良くアクシデントにならなかった」、あるいは、「良くヒヤリ・ハットにならずにすんでいるな」ということになります。医薬品名に「アラビアチン」とありますが、「アレビアチン」と記載したかったのでしょうが、本報告書を書かれる机の前に「アラビアノリ」が置いてあり、うっかり「アラビアチン」と書かれてしまったのかもしれません。薬品名の間違いは致命的です。「サクシン」と「サクシゾン」、「ウテメリン」と「メテナリン」、「タキソテール」と「タキソール」など既に生命の維持に重大な薬取り違え事故の教訓がありますので、薬品名称記載に間違いの無いようにしなくてはなりません。

事象のステップ分類
 要因を分析するためヒヤリ・ハット事例の内容をステップごとに整理してみましょう。
  1) 生後1ヶ月の患児がアレビアチン、カルバマゼピン、フェノバールそしてマイスタンにて多剤併用薬物療法にて療養中であった。
2) 痙攣のコントロールができず、難治性痙攣に有効とされるピラセタム(商品名 ミオカーム;以後本名称を使用する)を併用することとした。
3) 指導医はミオカーム 100mg分3と処方。この際、ミオカーム製品が1000mg/3mLの水薬であり1回の内服量が0.1mLとなるため水で10倍希釈し1mL/回となるように調剤してもらった。
4) 処方2日目、ミオカームの増量が必要となり主治医(研修医)はミオカーム6mL分3と処方した。
5) ミオカーム 2000mg/日で調剤され内服が、40日間、継続された。
6) 指導医が更に増量し、12mL(400mg)と処方。この処方に対し薬剤部から「処方量と力価が違う」と連絡が入った。
7) 「これまで通り」と処方医でない「主治医」が返事した。
8) 処方から2ヶ月後、指導医が処方した際に再度薬剤部より「処方量と力価が違う」との連絡があり指導医が対応したところ投与量が過量となっていることが分かった。
 以上、事実を8つの行程に分けると、それぞれの事項のつながりが分かりやすくなります。

時系列による事例発生要因の確認
 本事例の発生要因は、治療に関わる全ての医療人が共有していなければならない情報が、個人に帰結している点にあります。ステップ3の表現を重要視しなければなりません。もし、ミオカーム製品をそのまま使用する場合、1回に0.1mLの使用となります。処方医、つまり、指導医は臨床現場で1回の服用ごとに0.1mLを計る精度の確保が難しく、かつ、煩雑すぎると判断し、1回に1mL服用できるよう薬剤部に10倍希釈を依頼し、薬剤部も了解しミオカーム10倍液を調製したということが分かりました。
 「調製を受諾した薬剤師」が、薬剤部内で当該患児に使用される未採用医薬品「ミオカーム」を10倍希釈して調製しなければならないことを薬剤部内に周知し、当該患児への処方がなされた場合の対応を徹底しておいたのでしょうか。製品原液で調製するのか10倍希釈して調製するのか、使用される患者にとっては極めて重大なことであるのに、薬剤部内のことについては全く触れられていないことに問題があるのではないでしょうか。ここにおける結論は、「指導医が10倍希釈にて調製を依頼したことを主治医に伝えていないこと、10倍希釈調製を受けた薬剤部側が個人の情報として隠匿してしまったこと」の2点であると考えられます。
 ステップ4にあるように、3mLから6mLに増量した際、主治医はミオカーム原液と考え処方していたこと、薬剤部側も原液と考え調製していたことが明確となっています。この両者のピットフォールは何でしょうか? 主治医は、ミオカームが痙攣をコントロールするために必要な医薬品で前日に3mLで処方されているのだから、まさか前日の処方が10倍希釈されたミオカーム液であるなどとは思わず、単純に増量し6mLと記載したことがうかがえます。
 一方、薬剤部側はどのような対応であったのでしょうか? 薬用量に関し、何ら問い合わせの無いまま6mL分3をミオカーム原液で調製しています。ミオカーム添付文書によれば、「小児への投与」に関して「低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していません。[国内では使用経験がない]」と記載されており、処方医は処方時に、薬剤部側は処方を受けた時に少なくともミオカーム適正使用のため、特に生後1ヶ月という乳児に使用するのであるから、用量の確認は必須の業務と考えなければならないでしょう。
 ステップ5では、6mLに用量変更後、薬剤部で1ヶ月、2ヶ月の乳児であるにもかかわらず、用量に何の疑問も抱かず40日に渡り数回調製していたことは薬剤師として大きな問題と考えなければなりません。薬剤師業務の処方監査、調製済み薬剤の最終監査の充実が望まれます。医療機関管理者の教育システムの欠落と医療従事者個人の自己研鑚不足によるエラーと結論づけられます。勿論、上記ステップ3の事項の継続によるものであることは否めない事実であり、業務運用管理システムエラーと考えざるを得ません。
 ステップ6および7において、薬剤部と指導医、指導医と主治医の3者間で患児の薬用量について共通認識が全く欠落しており、個々の思い込みに基づき行動しているため、用量過量のチェック機構が働かなくなっています。薬剤部は指導医に処方量と力価が異なると問い合わせしたのですから、指導医に問い合わせ内容を確認すべきであり、また、主治医が「これまで通り」と回答したとしても「ミオカーム製品の濃度が1000mg/3mLであり1ヶ月の乳児には過量となることを伝え、主治医も添付文書を確認し適正な用量を再度考慮すべきであったと考えます。
 ステップ8は、ミオカームの増量から2ヶ月が経過して初めて指導医が薬剤部から直接「処方量と力価が違う」との問い合わせに対応できたことから、薬剤部から何故もっと早く指導医に連絡できなかったのかが悔やまれることとなります。

改善策に関するコメント
 報告者は、おそらく、処方箋に「ミオカーム 10倍液 3mL 分3」との記載があれば間違いは起こらなかったと考えられ、改善策1.を挙げられたと推察致します。
 また、改善策2.診療科に於いては、
  (1) 指導医は研修医の入力した処方箋をチェックし、確認サインをする。
(2) 看護師には指導医のサインの無い処方箋は受けつけないことを制度化する。
(3) 処方箋の記載方法を見直し、薬剤部と協議し統一する。
(4) 水薬の希釈法について薬剤毎に薬剤部と協議して決定したものを明文化し、指導医は徹底して研修医に指導する。
(5) 研修医の達成度をリスクマネージャーが評価していく。
とあります。
 報告されている改善策は的を射ているでしょうか?
 改善策のほとんどが「処方箋の記載不備による」ことを示唆しているものの、ヒヤリ・ハットの具体的内容に「処方箋の記載内容」についての情報が見当たりません。また、使用する、あるいは使用が予定されている医薬品の内容を確認する最も基本的な業務手順の逸脱である旨の記載がありません。従いまして、本改善案が当該医療機関の具体的改善策となる裏付けを考察することができません。
 報告者が掲げた改善策は、およそ当該医療機関で実施可能な具体方法であろうことより実施していただくべきと思います。診療科における改善策の(2)の内容は意味不明ですが他の事項については有用です。しかし、本報告で最も気づかなければならないことは、診療科—薬剤部間の連携のあり方、つまり、患者を頂点とした医療職種間の情報の共有化が基本的に欠落していることだと考えます。医師、薬剤師、看護師の間で十分にコミュニケーションをとり、共有された情報に基づいて業務を行うことが必要です。医療機関の管理者は、医療各部門の業務を把握し運用における連携を含めた医療システムを構築することが肝要となります。
 今回の事例を例として、当該医療機関の職員を総動員し、職域を超えた全職員が参加する小グループをいくつか作り、「本事例を繰り返さないための改善策」について「ワークショップ」を行い、職員全員のコンセンサスを得た「改善実施方法」で改善を図るというのは如何でしょうか。大いに効果が上がると思います。




事例698:(異動1ヶ月後の看護職の難聴患者への与薬忘れ)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【18時〜19時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【68歳】
患者の心身状態【聴覚障害】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【3年10ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年1ヶ月】
発生場面【内服】
(薬剤・製剤の種類)【その他の薬剤】
発生内容【無投薬】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【その他】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【夜勤だった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【説明が不十分であった】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【情報収集が不十分だった】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
検温に入る前に、Ns配薬になっている患者の内服を、整理してあるカゴの中から取り出し、確認した。手術前日の指示であったプルゼニド1錠とアジャストA1錠の夕食後の内服を確認する際、カルテには「薬はそのつどNs配薬でして下さい」との記載があったにもかかわらず、見落としてしまう。患者は、難聴のため筆談でコミニュケーションをとっており、その時も患者に「クスリハノミマシタカ」と筆談で確認すると、大きくうなずいたため、内服したと思い込んでしまった。その後、同勤務の看護師に内服薬が残っている事を指摘された。手術は15時からの予定であること、また病室に行くと患者が起きていたことから、その時点で(23:45)内服してもらうことにした。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
検温前に、Ns配薬の患者の内服を確認する際、カゴの中から1つずつ出さないまま確認するという方法で、行ってしまったこと。また、情報収集の際に、Ns配薬と記載があったことを見落としてしまったこと、Ns配薬がどのような患者に必要かが把握できておらず、患者の情報と結びつけられなかったことが挙げられる。また、患者に内服確認する際に、内容と量と内服時間を正確に確認しなかったこと、患者への確認方法が誤っていたことが考えられる。

■実施したもしくは考えられる改善策
内服確認の際は、薬剤の内容、量、内服時間まで正確に確認し、確認方法が患者に適しているかを判断して行なう。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的な内容や発生要因が詳しく書かれています。しかしながら、患者の配薬業務は誰が責任を持ち実施するルールだったのかが明確に記載されていません。たとえば、検温前に看護師が内服確認を実施していますが、これは薬剤部から必要な薬が病棟に払い出しされているかの確認だったのでしょうか。医師の指示受けから与薬までの患者に関わる全てに責任を持つプライマリー方式の体制をとっているのか、あるいは、機能別の看護方式をとっているかが不明です。通常の与薬業務はどのように業務分担がされているのか記載があると要因が明確になり改善策が立てやすくなります。


■改善策に関するコメント
責任体制の明確化
 この事例では「薬はそのつど看護師が配薬する」となっていますが、この患者の薬は誰が責任をもって実施することになっていたのか不明です。また、もし、機能別の看護方式にて与薬係が実施することになっていたのであれば、その与薬係は、患者の状態を把握した上で配薬出来る体制になっているかの検討も必要だと考えます。あるいは、看護方式の見直しが必要かもしれません。ここで重要なのは、常に、処方箋と薬と与薬する患者は共に動く体制がとれているかということです。医師の指示が出てから、看護師は指示と処方箋の確認、そして薬局から払いだされた薬品と処方箋の確認、最終的には患者のベッドサイドで処方箋と薬品と患者が一致していることを確認し、与薬を実施します。さらに与薬後の実施サインは責任体制を明確にするためにも必ず実施するようルール化することが必要です。

情報提供と確認方法
 改善策として「内服確認の際は、薬剤の内容、量、内服時間を確認しなかったこと、患者への確認方法が誤っていたことが考えられる」とあります。この事例では、確認の方法に加え情報の伝え方にも問題があったかもしれません。この患者の術前オリエンテーションはどのようになっていたのでしょうか。薬剤の内容、量、内服時間を口頭(筆談)で確認するだけではなく、『目で見て確認できる薬の説明書』を薬剤部門で作成するなど、看護師—患者が相互に薬を飲んだことを確実に確認できる方法をとることでこのようなヒヤリハットを防止できるでしょう。
 さらに、この事例では、手術前日の指示であり通常の朝昼夕食後の内服とは異なっています。このように手術の前投薬や検査前処置など定時薬に臨時薬の与薬が重なった際に、どのような体制をとれば正確に患者に与薬ができるかについてもチームで検討する必要があるでしょう。

異動後の看護師でも間違わない手順の標準化
 この事例では、自己管理が不可能だと判断し「看護師による配薬管理」とカルテに記載されたようですが、周知徹底することができなかったようです。当事者である看護師は異動後1ヶ月とあります。このように新人や異動して間もない看護師も事故を起こさずできるような院内で統一した確認方法や表示方法等の標準化について検討することも有効でしょう。病棟毎の自己管理薬と看護師管理薬の確認方法の違いはないか等、再度安全管理の視点から与薬業務の院内での標準化について検討しましょう。

【参考資料】
  難聴患者に対するヒヤリ・ハットについて、第5回報告分の事例集でもコメントされておりますので、参考にしてください。
厚生労働省医療安全対策ホームページ
http:/www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/1/syukei5/8.html




事例722:(医師・看護師間のコミュニケーション不足)

発生部署(入院部門一般) キーワード(人工呼吸器)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【月曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【16時〜17時台】 発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【78歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【      】
当事者の部署配属年数【      】
発生場面【人工呼吸器】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【機器の不適切使用】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【判断に誤りがあった】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
呼吸器を止めたため、患者のSAT低下、レベル低下になってしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
呼吸器を止め気切部より吸入を開始した後、傍を離れてしまった。呼吸器を止めている事を忘れてしまった。状況の予測がつかなかった。同時の複数の作業を行った。

■実施したもしくは考えられる改善策
同時に複数の作業はしない。看護師間の連携強化。USN施行時はトラキオマスクにて酸素を流す。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 記載量が少なく、ヒヤリ・ハットした状況を理解するのが難しい事例です。ヒヤリ・ハット状況が十分把握できれば、より具体的改善策が考えられます。また略語は院内で決められているものでしょうか。同じ略語でも診療科や看護単位によって意味が違うという現状があります。ここでは、SATはSpO2(動脈血酸素飽和度)、UDNは超音波ネブライザーとして理解します。
 この記述では、何故人工呼吸器を止めたのか分かりません。対策に、トランキマスクで酸素を流すとありますから、人工呼吸器を止めたこと自体が誤りではなかったと思われますが、ヒヤリ・ハット情報が正確に把握されませんと適切な対策が考えられませんので、下記のような記述をすると良いでしょう。

患者状況
 患者は何故、人工呼吸器を装着しているのか。何故、人工呼吸器を止めて超音波ネブライザーをしているか(「On-off法によるウィーニング中で、人工呼吸器を止めている10分間超音波ネブライザイーする指示により・・・」等です)。患者の疾患、人工呼吸器設定条件、人工呼吸器装着期間、型式等も必要です。

当事者状況
 経験年数・配属年数の記載が必要です。、また、人工呼吸器装着患者看護経験、病棟の状況などが記載されているとよいでしょう。人工呼吸器を使う患者数は年間何例か、急性呼吸不全の患者が多いのか、慢性呼吸不全の患者が多いのかなどです。また、看護師が同時にしなければならなかった作業は何であったのかも具体的に記載されるといいでしょう。
 上記の情報があれば、知識・技術・判断・教育・訓練などの発生要因が分かり、より具体的な対策が考えられます。

ネブライザー実施状況
 超音波ネブライザー施行の具体的指示はどのようになっていたのでしょう(16時だったのか、何かの事情で遅れたのか等)。「傍を離れてしまった」とありますが、超音波ネブライザー施行中、或いは、人工呼吸器停止時は、患者の傍にいることを決められていたでしょうか。
 このような情報があれば、ルールが遵守できなかった要因を考えられるでしょう。


■改善策に関するコメント
看護師間の連携
 看護師間の連携強化とありますが、具体的にはどのようなことなのか。実行できるような改善策を挙げるようにしましょう。例えば、超音波ネブライザーをするときは、タイマーなど警報になるような道具を使い、可能なら患者・家族に知らせてもらう。
 タイマーをナースセンターに置いて、時間になったらその場にいる人が行く。或いは、タイマーをもって他の作業をする等が考えられます。

医師との連携
 連携は、看護師間だけと限ることではありません。この事例では、超音波ネブライザーの指示に関して、医師と連携(話し合い)が必要だったのではないでしょうか。例えば、16時の指示は、他の業務と重なる時間であることは十分予想されることです(記載されていませんから遅れだったかもしれませんが)。患者に対して、安全に確実に指示を実施する為には、その点を医師と話し合うことも必要ではないでしょうか。さらに、超音波ネブライザーの目的は、もちろん加湿・排痰誘発と思いますが、人工呼吸器装着中の患者に、他の方法(人工鼻など)がないのか、医師と話し合うこともできるのではないでしょうか。超音波ネブライザーは、「加湿効果はすぐれているが、過加湿になりがちと言われています。また、気道抵抗を高める、気管支痙攣を誘発する、感染の機会が増す」などの問題があります。患者状況によっては、医師と一緒にヒヤリ・ハット分析をすると良いでしょう。

教育・訓練
 当該者の背景が分かりませんが、新人看護師・配置換え者等でしたら、それぞれの対策が考えられます。もし新人看護師なら、機械の取扱いは出来ても、経験した症例数によっては、患者の病態と照らし合わせて考えられないこともあります。或いは、配置換え者の場合は、一応経験もあり、新人と比較し教育が疎かになることがあります。また、本人も、分からなくても聞きづらいこともありますので、それぞれに対応した教育・訓練を対策として考える必要があります。

医療用具・諸物品の改善・整備
 人工呼吸器装着中の事故は、繰り返し起こっています。平成13年には、「生命維持装置である人工呼吸器に関する医療事故防止対策」に関する厚生労働省医薬局長通知(医薬発第248号平成13年3月27日)が出され、「警報機能付きパルスオキシメータ」等の生体情報モニターの併用等が示されています。この事例では、使用されていたか分かりませんが、上記のような情報を現場スタッフに周知徹底、また、必要な機材の整備も必要です。

【参考資料】
  協会ニュース:医療・看護安全管理情報No4「人工呼吸器による医療事故を防ぐ」、日本看護協会、2000年2月15日
    http://www.nurse.or.jp/anzen/anzenjoho/
  呼吸管理、チーム医療、沼田克雄編、1984年
  エキスパートナース 「人工呼吸器の使い方」、小学館、 1986年




事例726:(酸素ボンベの残量確認ミス)

発生部署(入院部門一般、放射線部門) キーワード(酸素吸入)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【放射線撮影室・検査室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【74歳】
患者の心身状態【意識障害、床上安静、その他】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【      】
当事者の部署配属年数【      】
発生場面【酸素療法機器】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【機器の点検管理ミス】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
CT出床時、酸素ボンベを携帯していったが、残量がなくなり、患者が努力呼吸となってしまった。急きょ、医師が中央配管より酸素を供給し処置する。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
酸素ボンベの残量を確認しなかった。検査中に中央配管へ接続しなかった。機械使用時の知識が不足していた。

■実施したもしくは考えられる改善策
検査出床時、酸素ボンベ携帯する場合の確認の徹底。検査中は中央配管へ接続する事を徹底。検査中の全身状態の把握。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容の中で、酸素の流量、モニターの有無、搬送時の状況を記入すれば事例の分析がしやすくなります。また、検査搬送時におけるスタッフの配置、職種、人員等を記入しましょう。発生要因の書き方は、原因がはっきりしているのでこの書き方でよいでしょう。
 改善策に関しては、確認の徹底事項、具体的な手順を記入した方が、もっとよい改善策につながります。検査に搬送した時にするべきことを項目で挙げた書き方も良いでしょう。


■改善策に関するコメント
酸素ボンベを携帯する場合の酸素使用可能時間の確認
 医療機関で使用される可搬式酸素ボンベの1500Lと500Lの酸素使用可能時間の数式は、次のとおりです。(ただしMPa表示の場合,残気圧×10.197を入れる)
  (1)1500Lボンベの場合 使用可能時間=((ボンベ容量10.3)×残気圧)÷酸素流量(l/分)
  (2)500Lボンベの場合 使用可能時間=((ボンベ容量3.4)×残気圧)÷酸素流量(l/分)
 上記数式の意味は、150 kgf/平方センチメートルに圧縮されている圧縮酸素の残気圧により、どのくらいの時間にわたり、必要な酸素が投与できるかを求める数式の意味を示したものです。
 酸素ボンベの使用可能時間を求めるのに、患者の検査や手術の搬送などが無事に終了するまでの時間、必要な酸素量が不足せずに供給されることを求めた使用可能時間を確認し、酸素不足が生じないようにすることが大事です。したがって、余裕ある酸素量を持参させるために、搬送距離、搬送時間を考慮して残量の確認をしてください。
 また、これらを自動で計算できるフリーソフトウェアとしてもインターネットで公開されていますので、利用してみるのも良いでしょう。

酸素ボンベの残圧計の工夫
 最近、SI単位*1の変更に伴い、MPa表示に変わってきました。そこで、新しい残圧計には、残圧不足の事故事例を回避する為に、赤(0〜2)、黄(2〜4)、緑(4〜14)のカラーリングが入ったものも出回っていますので、残圧計を交換して、赤、黄色の場合は予備ボンベを持参するなどの対策を考えましょう。また、残圧計(ゲージ圧)が0になっても酸素の容量が0になったわけではなく、大気圧に等しくなったことを指しますのでこの点も間違えないようにしましょう。大切なことは、残容量の確認方法は「指差呼称」などを行い、確実に容量があることを確認することです。
 *1 SI単位  1MPa =10.197kgf/平方センチメートル

モニターの併用
 酸素吸入を行っている患者には、必ず、経皮酸素飽和度計(パルスオキシメータ)などでモニタリングを行い、搬送中、検査中の全身状態の把握に努めましょう。

搬送時の確認事項の院内ルール化及び徹底
 移動用ベッド等に患者を移す場合、酸素の残量は基より、各種ポンプのバッテリー量、全身状態を把握して安全に搬送できるように心がけましょう。特に、今回の事例のようにCT等の長時間の検査時間が予測されるものは、検査室の中央配管に酸素をつなぎ替えることを院内統一のルールとしましょう。ルール化(文章化)することで、各々の職種がどの点でどう確認し合い、どう協働して速やかにかつ安全に検査を施行するかが明確になります。さらに、急変時に対応できるよう、ストレッチャーであれば搬送は一人で行わず二名以上の人数で行いましょう。


【参考資料】
  クリニカルエンジニア Vol.11、秀潤社、2000年

※ボンベの刻印について:刻印の読み方

ボンベの刻印について:刻印の読み方

 コード番号E029会社所有の酸素ボンベでボンベの容量3.4L、重さ5.0Kgで2002年10月に24.5MPaで耐圧試験を行って合格しており、最大充填量は14.7 MPaである。




事例730:(医療機器過剰使用によるブレーカー遮断)

発生部署(入院部門一般) キーワード(機器一般)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【14時〜15時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【74歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【15年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【15年11ヶ月】
発生場面【施設・設備】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【施設・設備の管理ミス】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【医師と看護婦の連携不適切】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【電気系統】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
当該病棟では人工呼吸器2台が稼動中であった。その日は透析の機械を病棟内で3台使用予定であった。透析機械3台のうち1台は清掃専門コンセントを使用し、2台は非常用電源を同時に使用したところ、使用電気容量オーバーにてブレーカーダウンしてしまい呼吸器2台と透析機械2台が停止してしまった。復旧までの間、呼吸器の患者にはジャクソンリースで対応し、透析を一時中断し、主治医間で協議し透析機械の使用時間の調整を行い対処した。*当院では重症患者で透析センターに移動できない患者は病室で主治医監視下で行っている。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
当該病棟は、病棟編成後重症患者が増加し、医療機器を使用する頻度が増した。しかし、使用できる電気容量は一般病棟と変わらない容量であった。透析機械を使用する電気量が、予想以上に多かった。透析機械を使用する時間の調整が医師間で不足していた。看護師と医師の医療機器使用に関する情報交換・連携が不足していた。様々な医療機器の使用電力量の把握がなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
病棟の電気容量拡充工事施行。透析機械使用台数が3台以上の時には、主治医間で使用時間の調整をする。看護師は病棟の電気容量の制限量を把握し、医療機器を使用する際医師と透析センター、医療機器センターと連携をはかる。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容、要因共に詳細に記入されていて良いと思います。参考情報として、次のような事項を付記されると、具体的改善案を立案でき良いでしょう。
  (1)ブレーカーの容量
  (2)ブレーカーダウンしたときの各機器の機種及び消費電力量
  (3)復旧までの時間
  (4)透析を一時中断した時間
  (5)ジャクソンリースで対応するまでの時間
  (6)治療が中断したときの患者への対応と説明内容
  (7)医療機器センターの役割と対応
  (8)復旧までの伝達方法

 要因分析と改善策の検討には、実情把握が重要です。ヒヤリ・ハットを分析する際には、常に、予測可能性、回避義務、発生後の対応等訴訟時に、通常論点となる過失に関する事項も記述しておくことが望ましいと考えます。


■改善策に関するコメント
 本例は、設備されている電気容量を使用容量が上回りブレーカー遮断が発生した例です。このような事例は、あまり表面化しませんが、施設・設備面のヒヤリハット事例として重要な事例といえます。


合計消費電力量の把握
 重症例の病室では、多くの機器を使用するため機器の合計消費電力に注意する必要があります。日頃から病室の最大使用可能電力量を把握しておきましょう。また、施設の設計によっては、コンセントのブレーカーが数部屋に連なることがあり、この様な場合には、遮断が数部屋にわたるため注意が必要です。さらにブレーカー遮断には、許容量を超えた場合の他にも漏電等の短絡による過負荷が原因である事があり、安易な再通電は危険なことがあるので注意を要します。

消費電力について
 透析装置は、1.2kw〜1.6kwの消費電力ですから12〜16A必要です(※)。このため通常安全を考え20A単独コンセントを使用します。また人工呼吸器は、加温加湿器も含め2.5A〜6Aと機種により消費電力幅が広いのが特徴です。本例の場合、透析装置2台、人工呼吸器2台を使用していますので、消費電力量は少なく見積っても30A程度だったと思われます。さらに、輸液ポンプやモニターが使用されていた事が想像され、最大容量を超えたものと思われます。
 機器には必ず裏面等に消費電力の表示があります。この表示を合計して、各コンセントや病室の許容量を超えないよう注意する必要があります。もしもわからないときには、施設設備担当者や臨床工学技士に確認してから使用するようにしましょう。
 ※ 電力(W)=電圧(V)×電流(A)

清掃専門コンセント使用の危惧
 透析機械3台のうち1台は清掃専門コンセントを使用とありますが、一般に清掃用コンセントは、医療用コンセントを使用していない事があります。清掃専門コンセントは、接地(アース)極付コンセント(3Pコンセント)を用いていないことも多く、これに医療機器を接続すると、漏電や機器故障の恐れがあり危険です。また、2P-3P変換プラグを使用して2Pコンセントに接続し、アースは機器背面等に付いている保護接地端子(アース端子)に保護接地線(緑色で黄色の縞模様)を繋いで別途にとる方法もとられていますが、これは本来正しい方法ではありません。3Pコンセントへの変換工事を行いましょう。

電源設備管理対策の強化
 本例のようなトラブルではなくても、部署や病室単位における電源遮断や医療機関全体に及ぶ停電に対し備えることも重要です。停電など電源遮断時における非常時の対応マニュアルを整備し、周知徹底しましょう。特に生命維持管理装置においては、装置毎の対応をあらかじめ決めておくことが重要です。
 本例の場合には、改善策も透析装置の稼動のやり取りに終始しており、他の視点を含めた総合的な対策が考えられていないと思われます。実際、心臓外科手術時の停電(落雷、無停電回路遮断、天災)は数多く発生しています。特に人工心肺中は深刻であり、ローラーポンプの手回し、バッテリー搭載など対策は万全でなればなりません。洗濯機など家庭用電気機器と異なり、患者への影響を未然にするための作業がいかに重要か、医療機器センターをはじめとする組織的な管理に対する認識を持つ必要があります。また、透析予定者の「実施計画表」を作成し、それに基づく計画的な透析の実施も必要です。
 以下に改善策の具体例を挙げます。
  1. ブレーカー容量をランクアップする(例:15A⇒20A)
  2. 同一のブレーカー回路に大容量機器の接続を集中をさせない(分散を徹底)。
  3. 停電時の対策を構築する(スタッフにブレーカーの位置、取り扱い方法を徹底する)
   これについては、より発展的な対策として、次のような方策が考えられます。
  (1) 人工呼吸器はバッテリー搭載型に変更する。
  (2)医療機器センター職員が病棟でのME機器使用時のコントロールを行う。
  (3)停電など非常時の対応マニュアルの策定及びトレーニング(患者安全対策と復旧作業)を定期的に行う。
  (4)各職種間での治療計画に沿った意見交換の場を院内システムとする。

非常用電源の管理
 医療機関内の電源には、一般電源、一般医療用電源、非常電源、特別非常電源、瞬時特別非常電源等数種類の電源コンセントがあります。通常は、一般電源は白、非常用電源系は赤のコンセントが用いられ特別非常電源、瞬時特別非常電源は赤コンセントの近傍にその旨明記してあります。非常用電源には通常、商用電源よりも多くの電気が供給されておりますが、商用電源が遮断された場合には、自家発電設備やバッテリーにより電源供給される仕組みになっています。このため非常用電源は、日頃からその供給能力を超えないように注意する必要があり、これらの各電源コンセントに接続する機器をあらかじめ決めておき徹底することが重要となります。
 また、施設の設備によってはそれぞれの電源系における使用量を監視できる場合があり、このような場合には、常に監視し供給能力を超えないようにすることが可能となります。非常用電源の安全使用におけるシステムづくりには、施設設備担当者、臨床工学技士、看護師の連携が重要となります。

【参考資料】
  日本工業規格JIS T0601-1「医用電気機器—第1部:安全に関する一般的要求事項」




事例824:(血液型検査の採血に伴う患者取り違え)

発生部署(入院部門一般) キーワード(検査・採血、輸血)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【6時〜7時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【16歳】
患者の心身状態【上肢障害】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【4年、月数不明】
当事者の部署配属年数【4年、月数不明】
発生場面【採血】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【患者取り違え】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【知識に誤りがあった】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【慌てていた、思いこんでいた】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【多忙であった、夜勤だった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
手術当日に患者にAB型の血液型プレートを持っていき本人に確認したところO型だという。検査室に再度検査を依頼した結果O型に間違いが無かった。輸血部で確認したところ採血ラベルもA氏の分であった。同室者の血液型を確認したところ退院した患者B氏がAB型だったため患者間違いだったことがわかった。部屋別に並べておいたスピッツ中からA氏のスピッツを取りB氏に採血ですというと直ぐにはいと言って手を出したためそのまま採血をした。本来取るべき患者は隣のベッドの人であった。同室の術後の患者2人が採血がありB氏の採血を不思議に思わなかった。TELがかかってくるまで全く気づかなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
患者確認不足/患者確認不十分。慌てていた。思いこんでいた。知識に誤りがあった。患者の外見(容貌・年齢)・姓名の類似。夜勤だった。多忙であった。

■実施したもしくは考えられる改善策
採血時など処置時は必ず患者さんに名乗って貰い確認する。声に出して確認する。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 記述が不充分なため、事実と背景要因の把握が困難です。5W1H(何時、何処で、誰が、誰に、何を、どのように)の要素を盛り込んで、事実を時系列で具体的に記述するとよいでしょう。そうすれば、プロセスのどの段階で、どんなエラーが何故発生したかが浮彫りになり、具体的な予防策を打ち出すことが可能となります。この報告においても、以下のような情報が提示されていると問題の所在が明らかになると思われます。
  スピッツは、誰が、何時、どのようにして準備したのか。
スピッツの準備に関して慣例やルールが存在するのか。
スピッツを準備した者と採血実施者は同一人物か、別人か。
スピッツのラベルにはどんな情報が記載されていたのか
スピッツの並び方、A氏とB氏、同室の他の採血患者のベッド配置。実際に行われた採血の順序。
採血者は患者A氏についてどの程度把握していたか。
採血を行ったナースは、スピッツを手にしたときラベルを黙視したか。
ナースは患者の名前を呼びかけたのか。
間違いが発生したとき、他の勤務者はどんな仕事をしていたのか。
間違いが発生した前後の、採血をしたナースの仕事の内容。
病歴の情報と検査結果との照合は、何時、誰が、どのように実施するのか。
等々


■改善策に関するコメント
 事例そのものは採血時の患者取り違えですが、この間違いが『異型輸血』につながるという結果の重大性から、重要な事例と位置づけられます。すべての医療スタッフが、出された判定を信頼して医療行動を起こすわけですから、輸血実施段階でいくらダブルチェックを励行しても、そもそも血液型の判定自体が間違っていたのでは、何の意味も為しません。

血液型判定プロセスで発生するエラーと防止策
 血液型判定のプロセスで発生するエラーには、次のような場合が予測されます。
  (1) 採血の段階で患者を取り違えて別人のサンプルで血液型を判定してしまう場合
(2) 検査室での判定作業の行程でサンプルを取り違えてしまう場合
(3) 血液型の判定結果を入力・記述する際に、違う型を入力したり、別の患者のデータとして入力したりする場合、等
 対策としては、(2)の場合では、極力、検体と当該患者の情報(患者名が明記された検体容器)を一体として扱う他、判定を2者以上で行って、間違いの発生にいち早く気づく手順を整える以外ありません。
 (3)についても、判定からデータ入力までの流れを一連の作業として位置づけ、割り込みによる寸断が起きないようにしたり、一連の作業を独立して別々に行う監査体制を設けたりするなどして、人間の手による事故防止とエラーの早期発見の作業システムを確立することが、極めて重要となります。
 あらゆる検体の扱いについて言えることですが、一度患者の身体から分離された瞬間、その検体が当該患者の物であるかどうかを確定する術はありません。このケースでは、血液型判定用の血液採取時の患者の取り違えが、異型輸血に繋がるという危険性に焦点を当てましたが、他の検査においても、検体採取時に患者の取り違えが起きてしまうと、「診断⇒治療」が全く異なる方向へ動き出す致命的なきっかけを作ってしまうので、この段階でのエラーの防止は重要な意味を持ちます。そこで、(1)については、検体採取時の患者取り違えとしてスタンダードな防止策を検討してみましょう。
検体採取時の患者取り違え防止策(A)
 個別の対策としては、最終行為者となる医療者は、自分が医療過誤の加害者とならないために、基本的な確認作業を怠らないこと、および、個別の意味ある医療・看護介入として位置づけることが重要です。
  検体ラベルの患者氏名とベッドのネームプレートを見比べ、さらに患者自身に「○○××さんですね」と、声に出して復唱確認することを習慣化する。
ルーチン化された作業として採血業務をこなすのではなく、ラベルの検査項目を見て、患者の病状との関連で検査の意味を確認するなど、その患者への医療・看護の一環として採血を位置づけることを習慣化する。
「採血です」という声かけではなく、「手術の前なので血液型を調べるための採血をします」など、その患者に実施される医療の一環として位置づけ、医療行為の実施ごとに具体的な説明を行い、患者に理解と納得に基づく同意を得るかかわりを習慣化する。
 このように、個々の患者の医療問題と関連させて意味ある行動をとることは、行為者が自らエラー発生を防ぐ機会を作り出すという点で重要です。また、意味ある情報を患者と共有し、インフォームド・コンセントに基づく医療行為を実施することは、患者の権利を守り、安全で質の高い医療を行う基本でもあります。医療行為ごとに行われる確認行動が定着していれば、患者自身が疑問を持つことで、エラー発生を防ぐチャンスが広がると考えられます。
 もちろん、安全策の防波堤としての安易な“患者への依存”は、患者をあてにした新たなリスクを生む危険を孕んでいることは言うまでもありません。

検体採取時の患者取り違え防止策(B)
 このケースのように、同時に複数の患者のニーズへの対応が求められる状況は日常茶飯事です。このような状況下では、確認のプロセスを無意識にスキップしてしまうことがしばしば起きてしまい、個々人の注意喚起だけでは完全な対応は不可能でもあります。そこで、組織面の対策として、根本的な解決策は、人間の注意能力のムラをカバーし、人間の認知能力に頼らない、防波堤としてのチェック・システムの導入が必要です。

バーコードシステムの導入
 患者が身につけている名札やリストバンドに印字された患者固有のバーコード情報と、検体のバーコードラベルをチェックして、当人であることを確認するシステムです。ただし、このシステムは事故防止の目的だけで導入するには、経済的効果の面からも課題が大きいと思われます。SPD(Supply Processing Delivery)医療材料データ一元管理ネットワーク・システムを電子カルテと連動させて、オーダー入力データと実施入力データとをバーコードの読み取りでチェックするシステムを導入すれば、最終医療行為のエラーが確実に発見できるだけでなく、請求漏れがなくなり、医薬品や材料の管理も効率化されるので、病院の経済効果は抜群です。病院の経営戦略と連動して、安全なシステムを構築していくことも重要と考えられます。

【参考資料】
 バーコードシステムについては、重要事例No.539の参考資料を参照してください。




事例872:(食事用フォークのコンセントへのさしこみ)

発生部署(入院部門一般) キーワード(環境調整)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【8時〜9時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【1歳】
患者の心身状態【不明】
発見者【家族・付き添い】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【29年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【8年11ヶ月】
発生場面【経口摂取】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【その他給食・栄養のエラー】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【施設構造物に関する問題】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【仮に実施されていた場合、身体への影響は大きい(生命に影響しうる)と考えられる】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
朝食時、1歳2ヶ月の患者がフォークで食事中、それをふりまわし、ベッドランプコンセントへフォークをさしてしまった。フォークはプラスチック製の柄だったため、患者に影響なかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
母と食事中、ベッド隅に座って食事。コンセントに近いところにいたため、用意に触ることが出来た。

■実施したもしくは考えられる改善策
コンセント全てにキャップをつけた。また手が柵より出ないような予防板をとりつける。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 周囲の環境やベッドと壁との距離等が記載されていると良いでしょう。ベッドランプコンセントへフォークを挿したとの事ですが、ベッドランプはコンセントにささっていなかったのでしょうか。もう少し詳しい記載があると分析が行いやすくなります。


■改善策に関するコメント
安全が基本の療養環境
 一般的に、子どもの周辺では、安全・遊び・教育的視点などを盛り込んだ環境については様々な工夫がされていると思われますが、特に、子どもの療養環境においては、安全がベースに成り立つべきと考えます。
 今回は、柄がプラスチック製のため感電等の影響が無かったようですが、食事中でもあり、柄が濡れていて体の他の部分が接地面に触れていた場合には、感電していたものと思われます。コンセントにものをさし込む事は、患者が感電するばかりではなく、短絡(ショート)した場合にはブレーカーが遮断され、その系列に接続されている医療機器が全て停止してしまいます。
 改善策に、コンセント全てにキャップを取り付けたとあります。このキャップを取り付けるのは有効な方法ですが、キャップの形状や取り付け方法によっては、小児の興味を引き注意を要します。また、コンセントの位置を小児の手の届かない高さに設定するのも有効な手段ですし、逆に低い位置に設定することも、ベッドからの死角に入り手が届かなくなるため有効です。
 理想を述べると、小児病棟は設計の段階から安全性を盛り込んだ療養環境の視点からコンセントの位置の工夫等が盛り込まれることが必要です。また、病棟で使われる医療用具等や子どもが使う日常の道具(例:スプーン、フォークなど)も、このような安全の視点で選択されることが重要です。

子どもの特徴を踏まえた事故予防の視点
  1. 家族に対しては十分な監視の必要性や環境整備および、危険行為を禁じるだけでなく、それに代わる安全な遊びへの導入、安全なおもちゃの選択など、子どもの安全な行為を褒めることの効果についての理解を促す。
2. 子どもの特性や発達段階を考慮に入れて対策を立てる必要がある。特に、乳児期から幼児期前半にかけては未熟で、まだ自分自身に危険を避ける能力が備わっていないので、環境整備に重点を置くことが大切。幼児期後半から学童期にかけては、理解力や判断力がつき、生活の場も広がるので、安全教育が重要。
3. 子ども自身の性格として、落ち着きがなく依存的、動作が速い、衝動的・攻撃的な行動が多い、家庭における保護的情愛の乏しい等の場合には事故を繰り返すことが多い。また、疲労や情緒不安定、眠い時も事故が多くなる。
4. 性差があり、男児は女児よりも冒険心が強く、行動範囲が広いため事故が多い。
5. 事故を恐れるあまりに子どもの行動を規制し、正常な成長・発達を阻害することのないよう努めることが大切。また、安全教育の最終目標は子どもが自分自身を守るだけではなく、他の人の生命を守り尊ぶ人間に育つことにある。
等です。

補足
 療養環境だけでなく、家庭や地域に視点を移すと、少子化社会の中、母子保健の2010年までの国民運動計画である、「健やか親子21」においても、4つの課題の中の1つに「小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備」を提言し、指標の中で、子どもの不慮の事故を取り上げ、2010年までに半減させるという目標を掲げています(http://rhino.yamanashi-med.ac.jp/sukoyaka/index_001.htm)。そのため、地域自治体等において、子どもの事故防止に対する様々な取り組みが行われています。東京都の池袋保健所では、子ども事故防止センターを設け、実際の体験を通じて子どもが自ら学べる工夫を盛り込んでいます(http://home1.catvmics.ne.jp/~mura54/2gatu-4.htm)。また、子どもの安全ネットワーク・ジャパンはホームページ等で広く情報提供を行っています(http://safekids.ne.jp/)。
 このように、社会環境として子どもの事故予防に取り組む流れが少しずつ出来てきています。

【参考資料】
  小児看護学(看護学全書31):メジカルフレンド社、2002年11月
新 子どもの事故防止マニュアル:田中哲朗、診断と治療社、2003年6月




事例1022:(ポータブル撮影時の患者氏名取り違え)

発生部署(放射線部門) キーワード(検査・採血)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【その他の集中治療室】
患者の性別【患者複数】 患者の年齢【患者複数】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【他職種者】
当事者の職種【診療放射線技師】
当事者の職種経験年数【年数不明、月数不明】
当事者の部署配属年数【年数不明、月数不明】
発生場面【ポータブル撮影】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【患者取り違え】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【その他】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【その他】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【大丈夫だと思った、看護職と技術職の連携不適切】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
救命センターICU内で朝のポータブル撮影を行った。現場にて追加の撮影を担当看護師から聞き、X線撮影を行った。現像後、オーダーの数とX線撮影した写真の枚数が合わなかったが、取り急ぎ、別の技師によりX線フィルム上で名前が確認できるもののみ、救命センターにフィルムをまわした。フィルムが救命センターに届き、患者間違いがある旨の電話連絡があった。撮影担当の技師がX線フィルムの確認に行き、フィルムの名前を差し替える事で、適切な患者本人のX線画像を届ける事ができた。また、主治医および担当看護師さんの確認を得た。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
撮影時、患者の名前の確認ミス。現像時、患者の名前の確認ミス。必要な人に必要なX線撮影検査が行われたが、病棟での急な撮影の追加および、その追加の撮影オーダーが現像時に存在しなかった事、また複数の技師が携わっての一連の処理によって、確認すべき点で確認不足があった。

■実施したもしくは考えられる改善策
救命センターなどでの人数が多いポータブル撮影などでは、撮影から現像、フィルムの確認までを担当技師が一貫して行う。看護師などから、現場で追加のポータブル撮影の連絡を受けるが、オーダー内容およびオーダーが存在しているのか(医師の指示)の確認と、担当技師間での名前および検査内容の確認を、今一度行う。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 記載後に、何らかの枠組みに基づいて情報を確認すると、不足情報を明確化することができます。ここでは、一例としてSHEL分析を用いて不足情報を洗い出してみましょう(SHEL分析の概要については事例391をご覧ください)。
 この例では、
   ソフトウェア 写真撮影の指示はどのように処理されているのか(伝票なのか、オーダリングなのか)、臨時の場合の撮影依頼はどのようなシステムになっているのか、追加指示が出た場合の対応方法、オーダリングの入力者または伝票の記載者は誰でいつ行なうことになっているのか、ポータブル撮影の患者氏名を入れる方法・手順、など
ハードウェア フィルムに患者氏名を入れるために使用されるもの、など
環境 当日のポータブル撮影人数と枚数、入れ替わった患者同士の位置関係や撮影順、当日の繁忙度、業務分担など
   人間(当事者) 経験年数、写真撮影時の患者確認の方法など
人間(患者) 名前や撮影部位など混乱させる要因がなかったか、など
が不足していると考えられます。


■改善策に関するコメント
 この事例では、以下の2点に問題発生の原因があります。
   (1) 指示が第三者にも確認可能な形で伝達されていない
(2) 撮影時に、フィルムに誤って他の患者の氏名をつけた
 まず第一に、追加や臨時の指示を口頭で伝達しています。これまでも、さまざまな事例で指摘されている通り、口頭による伝達はエラーの発生頻度が高いのですが、緊急の検査や処置ではまず口頭で伝える場合が少なくありません。
 次に、このために患者の氏名や撮影部位などの情報とフィルムが一緒に動いていません。情報とモノが離れてしまうと誤りが起きやすいことは、これまで、他のヒヤリ・ハット事例でもしばしば指摘されていることです。撮影するフィルムと伝票など患者に関する情報が一緒に動いていれば、エラーの防止、早期発見が容易になると思われます。
 電子カルテやオーダリングシステムをとっている場合、あらかじめ、その日ポータブル撮影する患者のリストを出すことが出来れば、それを確認しながら撮影することでエラーを防げます。緊急の追加に関しては、あらかじめポータブル撮影に関するオーダー入力の締め切り時間を決めておき、それ以降のリストは病棟側で打ち出して技師に渡せばよいでしょう。オーダリングシステムや電子カルテを使用する利点の一つは、必要な情報を利用者ごとにカスタマイズできる点にあります。従って、必要なときに必要な情報を取り出せるようなシステムをデザインすること、利用する側も積極的にシステムを活用することでエラーを防ぐことが出来ます。一方、電子カルテやオーダリングシステムを用いていない場合は、放射線撮影の伝票があるはずですから、技師が来た時点で、臨時・追加分の撮影伝票を渡すことで口頭の伝達を避けることが出来ます。ただし、いずれの方法も技師が来るまでに、入力する、あるいは伝票を書くという作業が完了している必要があります。
 繰り返しになりますが、現在の方法は、看護師→撮影技師、撮影技師→現像技師の間でエラーを引き起こしやすい状態を作っているだけでなく、確認を行ないにくい状態を作り出しています。関係者だれもが、その場で、或いは、後から確認できる形で情報が共有できることが必要です。
 すぐにオーダリングシステムを取り入れることが難しいとすれば、患者確認の方法に関して、撮影時に患者本人とフィルムの氏名が一致していることを確認する手順を作業工程として標準化することをお勧めします。


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