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事例5:(幻聴のある患者の車椅子からの転落)



事例5:(幻聴のある患者の車椅子からの転落)

発生部署(入院部門一般) キーワード(転倒・転落)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【日曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【14時〜15時台】 発生場所【その他病棟内】
患者の性別【女性】 患者の年齢【65歳】
患者の心身状態【薬剤の影響下】
発見者【他患者】
当事者の職種【准看護師】
当事者の職種経験年数【30年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【3年5ヶ月】
発生場面【移動中】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【転倒】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【観察が不十分であった】
発生要因-判断【判断に誤りがあった】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
「こっちにおいで、おいしい物がある」との幻聴により、洗濯室まで向かい車椅子から転落した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
看護者の観察不十分。

■実施したもしくは考えられる改善策
患者さまの状態把握に努め、行動予測をたてた関わり・観察を行う。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
具体的内容に関して
 この事例の患者になぜ幻聴があるのか、病名が記されていないのでわかりません。そしてなぜ車椅子を使用しているのか、これもよくわかりません。これらの情報は重要です。できる限り正確に記載することを勧めます。例として以下のように書くと分析するのに必要な情報が含まれると思います。
 例)老年期痴呆で入院中の患者Aが、14時頃、洗濯室の前で車椅子から転落しているところを発見する。「こっちへおいで、おいしいものがある」という幻聴に誘われてその場所まで行ったらしい。幻聴による行動化はいままでも時々みられていた。また車椅子は服用している向精神薬のためにふらつきがあるために先月から使用していた。今までに転倒はあったが、車椅子から転落はなかった。

発生要因に関して
 看護師が患者の転落に関する観察不十分だったという内容になっていますが、それだけではないように思えます。それだと、この事故が看護師個人の責任になってしまいます。発生の要因は以下の点を踏まえたほうがよいでしょう。
  患者の特性に関すること(理解度、性格、コミュニケーション能力、幻聴の程度など)
車椅子に関すること(安全性、ストッパーの状態、耐用年数など)
療養環境に関すること(洗濯室の構造、照明、看護室からの距離など)
治療に関すること(薬物療法の内容、薬物の幻聴に対する効果など)
転落に関すること(転落事故の既往、どのような防止策が採られていたかなど)


■改善策に関するコメント
 車椅子からの転落は非常に危険な事故と考えてください。なぜ車椅子を使用しているのか記載がありませんが、なんらかの歩行障害があるわけで、転倒及び転落の危険性が非常に高い状態だと考えられます。ましてや幻聴のある(病名不明)患者で、行動を予測することが非常に難しいです。ですからこの場合は、車椅子と精神症状の合併という二重のリスクが存在している、非常に危険な状態と考えて対策を立てることが必要です。

精神症状のある患者の予測不可能な転倒・転落について
 この患者の場合、幻聴となんらかの精神病を結びつけて考えることは危険ですので、一般論として考えることにします。精神病の患者はすべての側面でリスクの高い状態ですが、特に転倒転落に関しては非常に高いリスクがあると考えています。
 平成14年度の松沢病院の調査では、転倒転落がヒヤリ・ハット・アクシデントレポート全体に占める割合の約45%であったと報告されています。その要因として、向精神薬の影響、高齢化による筋力低下、予測できない行動化などがあげられます。このような患者に対しては、観察を強化することではなく、側に付き添うことが必要なケアだと考えます。
 松沢病院では、転倒転落のリスクの高い患者に関しては、患者氏名用ボード及びカルテの背表紙にリスクマーク(やや危険:黄色、非常に危険:赤)を付けてスタッフ全員が把握するようにしていますし、何かあればすぐに手が出せるようにしています。また向精神薬に関しても、転倒転落の既往、もしくはリスクが高い場合には、医師と相談して量や回数の調整を図るようにしています。

車椅子使用患者への安全対策
 車椅子使用の患者の転落事故の報告は、多くの場合、結果としてなんらかの傷害を負っています。
トイレに行こうとして、立ち上がった時に前に倒れて、前額部を打った。
後ずさりをしてひっくり返り、後頭部を強打したが、CT上の異常はなかった。
外に行こうとして階段からそのまま転げ落ち、上腕骨折と頭部外傷を負った。
 このように車椅子に乗車しているから絶対的に安心とはいえません。患者にはストッパーをかけることや体重のかけ方など、車椅子使用時の注意や取り扱い方を十分に説明することが必要です。そしてそれが十分に理解できて実行しているかを確認します。もしもそれが不十分であった場合は、再度指導するか、車椅子不適とするなどを考えます。車椅子を使用しているから安心と考えるのではなく、車椅子で起こる事故を想定して対策を考えるようにしてください。

【参考資料】
 ○東京都病院経営本部ホームページ:「転倒転落防止対策マニュアル」
  http://www.byouin.metro.tokyo.jp/




事例152:(睡眠剤内服後の転倒)

発生部署(入院部門一般) キーワード(転倒・転落)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
同室者よりナースコールあり訪室すると、アモバン内服され入眠していた患者が同室者とのベッドの間で左側臥位にて倒れていた。ベッド柵は4本立ったままであった。レベルクリア、バイタルサイン・四肢の運動問題なし。起き上がれないが、支えると立位可能。患者本人にどうして下に下りたか聞くが、覚えていないと。同室者はベッド柵を触っている音を聞いてナースコールしてくれ、特に大きな物音はなかったと思うと。当直師長に報告し、当直医に診察してもらうが特に問題なく経過観察となった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
眠剤服用・健忘・視力低下・難聴・脳梗塞の既往。

■実施したもしくは考えられる改善策
頻回な訪室・観察。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 患者の情報として、年齢、性別、病名、治療内容(手術前、後など)認知力、現在のADLと具体的な身体機能障害・感覚障害の程度、ベッドの高さ、周辺環境の情報、発生時間や患者の生活パターンなどが解ると問題を明確にしやすいでしょう。
 また発生した要因の中に、“眠剤服用、健忘、視力低下、難聴、脳梗塞の既往”とありますが、予め転倒・転落を予測できる情報が含まれていると考えます。発生要因を明確にし、今後の具体的な改善策を考えていくためには、起きた事象に焦点を当てるのではなく、患者情報から転倒・転落の危険性を予測し、予防につながる看護計画を立案し、チームで実践することが重要です。
 特に睡眠剤を使用する場合は、危険性がない患者であっても注意が必要となります。患者の生活パターンを考慮し内服時間を設定します。睡眠剤にもよりますので使用する薬剤の効能・副作用を患者と共に熟知し、内服することによるリスクを共有し、対策を講じる必要があります。


■改善策に関するコメント
 施設内で起こる転倒・転落事故の多くが患者の自発的かつ自力の行動によるものと言われています。患者が転倒・転落すると受傷のリスクも高く、回復遅延やADLの低下などのQOLに大きな影響を及ぼすため、組織的に防止策に取り組むことが重要です。

転倒・転落アセスメントスコアシートの活用
 転倒・転落は動作に関して全体として調和が取れないことが原因で起こりますが、患者個々によって転倒・転落の危険因子は異なります。患者個々の要因と患者が起こすであろう事態を予測し、不測の事態に備える必要があります。看護介入においては、それぞれの患者の危険度を継続的にアセスメントし、発生の可能性を把握すること、患者個々に合った環境整備と転倒・転落を防止するための教育・指導が重要です。
 要因は、加齢や慣れない入院環境、治療による行動制限等の「状況因子」、運動機能低下や感覚障害、認知力低下による「病態生理因子」、睡眠剤や利尿剤、抗がん剤などの「薬剤」の影響、夜間の頻尿や排泄介助を要する等の「排泄」に関することと、大きく4つのカテゴリーに分類されます。
 特に睡眠剤を使用することのリスクは高く、他の因子がなくても睡眠剤服用後には、中途覚醒時のふらつき、一過性前向性健忘が生じることなどから、暗がりの中での動作は注意が必要です。患者の生活パターンから睡眠剤内服時間を決め、内服前には排尿を済ませることや、中途覚醒時の動作について事前に薬剤の効能、副作用を説明し、対策を指導・教育しておくことが重要です。
 また、睡眠剤の使用の必要性についても検討する必要があります。日中は散歩や運動リハビリ等を計画して患者の活動性を高める運動プログラムを実施し、できるだけ睡眠剤を使用しなくても済むようなケアを行い、夜間は転倒・転落の危険を回避する計画が重要です。
 患者情報をチームで共有し、患者の危険度に応じて必要な介助や援助を行うなど、患者個々への対処の方法を看護チームで統一して行うことが重要です。そのためには、アセスメントスコアシート等を用いて、患者の転倒・転落のリスクを客観的に評価し、リスクに応じた対応を実施することが必要となります。さらに慣れない入院環境が患者の及ぼす影響についても、患者および家族に説明して、支援していく関わりが大切です。

不眠患者への対応
 眠剤を使用しているからといって、常に不眠状態にあるとは限りません。不眠は病的に眠れないのか、不安要因から眠れないかによって対応が異なります。不眠の状況をアセスメントして対策を考えてください。後者の場合は、不安の解消や体内の時間間隔リズムを取り戻すことによって不眠を解消することができます。
 また、本事例のように、身体的運動能力が保持され、認知判断能力が低下している患者では、全周にわたるベッド柵の使用が、患者のベッド上での起立を誘導することになります。その結果、ベッドから降りようとした場合、高低差が高くなり、衝撃の大きな(ある時は致死的な)転倒・転落を引き起こすことが考えられます。JCAHOのSentinel Event Alertにおいても、全周ベッド柵の使用は回避すべきとされていますので、その観点からベッド柵の使用を見直すことも考えられます。

体動コール・離床センサーの設置
 夜間の転倒は、排泄行為に関連して起きやすいものです。また、予測できない行為のため看護師の介入が絡まない転倒・転落に分類されます。このように看護者等の介入が不可能であり、患者が立体保持できない状態の場合は、体動によってセンサーが作動する“体動コール”、 “離床センサー”を設置することも有効な方法です。ただし、使用前提として患者・家族の同意を得る必要があります。

【参考資料】
看護協会ホームページ:アセスメントスコアシート
http://www.nurse.or.jp/
JCAHO、Sentinel Event Alert
http://www.jcaho.org/about+us/news+letters/sentinel+event+alert/sentinel+event+alert+index.htm
「医療・高齢者施設におけるベッドの安全使用マニュアル」、三宅祥三監修、医療・介護ベッド安全普及協議会、2003年




事例267:(カフエアー確認後の挿管チューブの自然抜管)

発生部署(入院部門一般) キーワード(チューブ・カテーテル類)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【22時〜23時台】
発生場所【その他の集中治療室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【42歳】
患者の心身状態【意識障害、床上安静】
発見者【その他】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【自然抜去】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【観察が不十分であった】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
患者の挿管チューブのカフ圧調整、吸引後、体位交換をしたところ挿管チューブが抜けてしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
体位交換時のチューブ固定の確認が不足した。固定が不充分だった。危険を予測しなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
防止マニュアル行動の徹底。固定の強化。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ヒヤリ・ハットが発生した要因が体位変換時のチューブ固定の確認不足とありましたが、カフ内圧の量調整不足で自然抜管してしまったのか、体位変換時の観察不足により挿管チューブに牽引力が働き抜けてしまったのか、あるいは固定の問題で抜けてしまったのか状況が不明です。どのような状況から発生要因を導き出したのかについての記載もあると要因が明確になり改善策が立てやすくなります。
 具体的には、以下のような情報が記載されていると良いと思います。
  そもそも患者はどのような状態にある人なのか(病態、自発的な運動の有無)
挿管チューブはどのように固定され、使用していたテープの種類は何か
最終のチューブ固定から、どのくらいの時間が経過していたのか
唾液や鼻汁、発汗が多い等のテープがはがれやすい状況となる要因はなかったか
体位変換の際にチューブと蛇管とも接続をはずして行うことがルール化され守られていたか
看護師はどのようなボディ・メカニックスを使って体位変換をしたのか
看護師は気管内挿管中の患者のケアに関して、どのような教育を受け、どの程度熟練していたのか


■改善策に関するコメント
 ここでは、ひとつひとつの段階に分けて確認していきましょう。

チューブ固定の標準化
 点滴のルート固定と同様に、挿管チューブのテープ固定も院内で標準化をはかることが事故防止の観点から重要でしょう。各医師によりテープ固定が異なることは、その後の管理や観察においてばらつきが生じ、ヒヤリ・ハット発生の予測が難しくなります。院内でテープ固定の標準化を行い、誰もが同じテープ固定ができ、なおかつその固定方法の弱点を知り、安全に適切に管理することが出来るようにしましょう。
 さらに、患者の状況により皮膚湿潤の程度や鼻汁や唾液分泌あるいは流延等のテープが剥がれやすい因子をアセスメントし、テープ交換の頻度や吸引の頻度について検討しケア計画に組み入れると良いでしょう。また、テープの情報を関係団体と共有することが製品改良のためにも必要です。

人工呼吸器装着中の患者の体位変換
 改善策に「テープの固定不十分」とありますが、体位変換の方法は適切だったのでしょうか。体位変換は循環動態に変化をもたらす行為であり、急変をもたらす可能性もあります。特にこの事例のようにリスクの高い患者の体位変換には、あらゆる状況の変化に対応できるように、体位変換は2名で実施し安全を確認することが必要です。この事例は発生時間帯が22時〜23時ですが、夜勤体制においても2名で行える時間に体位変換を行う等の体制の見直しをしましょう。
 また、人工呼吸器装着中の患者の体位変換についての技術を再確認しましょう。体位変換や頭部の位置を変える場合、用手換気法を用いて十分な換気を行った上で、挿管チューブと本体側の蛇管との接続を離して、挿管チューブへの牽引力が働かない状態で行うことが重要です。さらに、発生時間帯が22時〜23時ということですが、安全な作業ができる十分な照度があったかについても検討する必要があります。
 いずれにしても、医療安全の視点から体位変換、吸引、呼吸管理に関してどのようなリスクが潜在しているのかを明らかにした上で、安全なケアを実施するためのマニュアルの整備と、チーム全体に対する再教育が必要だと思われます。今回、「防止マニュアル行動」が遵守されなかった原因を追究して、必要時にマニュアルを修正することも重要だと思われます。

カフ内圧の確認
 カフ内圧の確認とありますが、どのように行われたのでしょうか。カフ圧の確認はカフ内圧が十分でないと胃液が逆流してくるとか、口腔内の細菌がカフ上部に貯留することがあります。よって2時間ごとにカフ内圧の確認を実施することが重要です。その際、吸引をせずにカフ圧を抜くと肺炎を起こすことがあるので注意が必要です。通常、カフ内圧計を使用して15〜22cmH2O以下に保持していきます。カフ内圧計がなければ、カフを入れていって漏れないぎりぎり最低の量を入れておくということになります。カフ内圧について、ベッドサイドに表示して分かりやすくしておくことも大切です。

注意喚起の表示
 発生要因に「危険を予測しなかった」と記載されています。この事例では明らかではありませんが、あまり挿管中の患者の看護になれていない部署であれば、注意を喚起するような表示も取り入れてはどうでしょうか。例えば、ベッドサイドに「体位変換の前に確認しよう。チューブの固定とカフ圧を!」というような、よく生じるトラブルに対する注意喚起表示を貼付しておくことも有効です。そうすることにより、頻度の少ない職場でのヒヤリ・ハットも未然に防げるのではないでしょうか。

【参考資料】
  「看護実践シリーズ6 呼吸器系のケア/消化器系のケア」、Vicki L,Buchda、大西和子監訳、照林社、1994
「EXPERT NURSE 臨時増刊号<ナース必携>最新基本手技A to Z」、高橋章子編集、照林社、1994




事例275:(経管栄養中の胃管カテーテルの自己抜去)

発生部署(入院部門一般) キーワード(チューブ・カテーテル類)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【日曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【8時〜9時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【77歳】
患者の心身状態【上肢障害】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【栄養チューブ(NG・ED)】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【自己抜去】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【観察が不十分であった】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【仮に実施されていても、患者への影響は小さかった(処置不要)と考えられる】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
経管栄養中に患者がマーゲンチューブを抜いてしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
ルートにゆとりがなかった。マーゲンチューブが不適切だった。

■実施したもしくは考えられる改善策
ルートの長さは適切にする。適切なチューブの使用。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
具体的内容について
 胃管カテーテルが抜かれて発見された状況、看護師や患者の状況を含めた場面に関しては、是非記入してください。事故状況がイメージしやすくなります。さらに、患者の病状、理解力、上肢の、どこの何が、どの程度障害があるか、発見時の患者の体位などが詳細に記載されていると、より具体的な改善策の立案につながります。
 当事者の経験年数や部署経験年数の記載も、教育的取り組みを考える上で必要です。

発生要因に関して
 「ルートにゆとりがなかった」とありますが、カテーテルそのものの長さなのか、または栄養点滴セットのルートの長さが足りなかったのか明確ではありません。胃管カテーテルおよび経管栄養剤注入時の管理の実際、胃管カテーテルの固定状況はどうであったか詳細な記述があるとよいでしょう。
 どうしてルートにゆとりがなかったという理由で患者は胃管カテーテルを抜いたのでしょうか。患者からの訴えがあったのか、あればどのような事柄か、場面をイメージしやすい内容があれば、よりわかりやすい改善策が立てられます。
 また、確認不足とありますが、どの時点でどのような確認が不足していたのか、記載があるとよいでしょう。


■改善策に関するコメント
 本事例に関しては詳細な要因は不明ですが、意識状態と関連して、ルートが短かったために単純な行動で抜去してしまったのか、不適切なチューブを選択したことによる違和感や苦痛が強かったために抜去されたのか、固定法や固定位置に問題があったのか、あるいは複数の要因が重なったのかなどにより、安全対策は異なります。また、ヒヤリ・ハットの影響度「なし」と判断されていますが、経管栄養中というのが注入中であれば、抜去のタイミングや長さによっては誤嚥を招く危険性があります。基本に戻り、患者の行動レベルを予測しながら、患者につながれているカテーテル、チューブ等ルート類を扱う時、ベッドサイドを離れる際、もう一度、安全で安楽な固定ができているか確認してください。

経管栄養チューブ類の注意
 改善策で立てた対策から推測すると、経管栄養中とあるため、胃管カテーテルと栄養剤を注入する時の安全管理の徹底が必要と考えます。貴院の看護手順とも照らし合わせ、具体的な改善策を検討されることが重要です。
 下記について参考にしてください。
  何のために胃管カテーテルが必要か
患者の状態はどうか、胃管カテーテルを使用してもよいか
患者は経管栄養の必要性を理解できるのか
適切な胃管カテーテルが選択(種類と長さ)されたか
適切に患者に挿入され、安全と安楽を加味し固定されているか
栄養点滴セットと接続時、充分の長さがあるか
経管栄養剤をつなげた後、ルート類は安全に固定されているか
ベッドから離れる前の患者の状態はどうか(安全か)

教育、管理について
 発生時間が日曜日の8〜9時とあります。ちょうど申し送り等、朝の調整の時間ではなかったでしょうか。
 各勤務で、勤務者が申し送り等で重なる時間帯のケア責任の所在を明確にする必要があります。受け持ち以外のスタッフへ、危険性を予測し業務を一時依頼する内容や方法等の取り決めも重要です。また、患者の苦痛の訴え(サイン)も見逃さない観察方法の再教育も必要です。

【参考資料】
  「ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本」、川村治子、医学書院、2003年6月




事例391:(観血的動脈ラインの自己抜去)

発生部署(集中治療室) キーワード(チューブ・カテーテル類)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
脳血管バイパス術後の患者さまがICCU泊り収容となった。術中からAライン、末梢ルート、バルンが挿入されていた。ICCU収容時意識レベル30であったが、徐々に改善し2になっていた。夜間も入眠せず、体動があり起き上がるなどの危険行動があった為ライン類や安静度の説明を行った。説明後も同様の行動がみられた為頻回に観察していたが23:40体動があり様子を見に行くとAラインが自己抜去されていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
危険行動があったにも関わらず、説明を理解されているのではないか、理解されているのに抑制するのはよくないのではないか、頻回に観察することで事故は防げるのではないかと思い込んでしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
刺入部を圧迫、観察し、主治医に報告した。カルテからも危険行動の情報があり、ICCUでの危険行動も術後のレベルから予測できた。危険であると気づいた時に先輩看護師に相談し、患者に安全で、安楽な看護を考えて行っていく。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 記入情報に不足があると、実際に行われた行為のどこに問題が存在していたのか、つまり「観察によって防止しようとしたという判断の誤りなのか、観察を実施するための方法の誤りなのか」を明らかにできません。もちろんここが曖昧であれば、適切な改善策も導けないことになります。
 一度記載したあとに、何らかの枠組みに基づいて情報を確認すると、不足情報を明確化することができます。用いる枠組みは何でも構いません。ここでは一例として、SHEL分析を用いて不足情報を洗い出してみましょう。SHEL分析では、職場の慣習やマニュアルなどの【ソフトウェア】、器材や機器設備などの【ハードウェア】、仕事や行動に影響を与える【環境】、当事者のほか患者や同僚などの関係者を含めた【人間】について情報を整理します。この例では、
   ソフトウェア これまでこうした患者に対して、どのような対処を行っていたのか、対処ルールやマニュアルは存在したのかなど
ハードウェア 観血的動脈ラインの固定には、どのようなものが使用されていたのかなど
環境 部署のレイアウト、ベッドの配置と当該患者の位置、部屋の見とおしの良さ、看護師の配置状況と夜間の体制、当日の繁忙度、業務分担など
   人間(当事者) 経験年数、部署への配置年数、アセスメント能力など
人間(他人) チームメンバーの経験年数、部署への配置年数、患者側の意識レベルに関するJapan Coma Scale以外の情報
などが不足していると考えられます。


■改善策に関するコメント
患者の意識レベルの判定
「医学大辞典(医歯薬出版)」によれば、「意識」とは、「目覚めていて、周囲の状況と自己自身に注意をはらい、自己自身、自己の精神的な活動、周囲の世界の事を知ると言う精神活動を成り立たせるための基盤となる精神的な働き」と定義されています。このような意識の働きである知覚・注意・認知・思考・判断・記憶などの精神活動の障害が意識障害で、一過性ないし持続性の障害です。意識には意識内容と覚醒レベルが含まれているので、この両方を評価していく必要があります。現在広く使用されている意識障害のレベル分類評価法として、ジャパン・コーマ・スケール(いわゆる3−3−9度方式)とグラスゴー・コーマ・スケールがありますが、これらはいずれも覚醒障害と意識内容障害を数量化したものです。これらの評価法の問題点として、意識の覚醒度を中心に評価しているため、意識内容障害の細かな判定が反映しにくく、軽度意識障害患者の評価尺度としては適切でないことが挙げられます。
 この事例では、入室時が意識レベル30(呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する)、その後、意識レベル2(見当識障害がある)まで回復していたと言うことですが、危険行動も見られていました。見当識は、現在の自己および自己がおかれている状況についての認識のことで、一般にそれぞれの人間がおかれている時、場所、周囲の人及び状況を正しく認識しているかどうかによって判断されます。見当識障害があるということは、その場では説明を理解しているように見えたとしても、自分の状況について理解するという認知機能が充分でない場合もあるわけです。患者のその他の反応と併せて、総合的な判断をする必要があります。この患者の場合、夜間も入眠せず、体動があり起き上がるなどの行動が見られていたこと、術後でICCU入室後間もなかったこと、見当識障害の所見があることを総合すると、観察による対応では予防は困難であったと考えられます。また、この事例の場合はチューブ類の自己抜去のほかに転落の可能性も検討されるべきでしょう。

自己抜去の予防策
 周手術期など、急性期にある患者には、一般的に点滴チューブ・挿管チューブ・ドレーン類など様々な挿入物が挿入されています。こうした挿入物の多くはこの時期の生命維持や健康の回復に不可欠なものですが、患者にとっては異物以外の何物でもなく、場合によっては違和感や不快感、拘束感をもたらします。意識が清明であれば、その必要性を理解してこうした挿入物が抜けることのないように注意したり協力したりすることができますが、意識障害が存在する場合、それは困難です。チューブ類の自己抜去は一瞬のうちに行われることが多く、場合によっては看護師や付き添っている家族の目前で抜去されることもあります。「チューブ類の自己抜去はある意味では当然の反応」であることを理解し、抜かれることを予測して対処しなければなりません。
 方法として、
  (1) 不要なチューブは出来る限り早く抜去する
(2) 必要なチューブについては簡単に外れたり抜けたりすることのないように固定する
(3) 患者が自分で抜くことが出来ないように身体拘束(一般的に抑制と呼ばれる)を行う
の3つが考えられます。
 場合によっては身体拘束ではなく薬物による鎮静(セデーションと呼ばれることが多い)を図ることも重要ですが、生体機能への影響が少なくないため、回復過程を見極めながら必要な手段を選択する必要があります。これらの判断については、医療チームの中で充分な話し合いがなされなければなりませんし、緊急の場合に備えてあらかじめプロトコル・マニュアル類を用意しておくことが望まれます((2)の固定方法なども、用具・固定方法を検討し統一・マニュアル化することが有効です)。
 患者に対する説明や(1)(2)を行なってなお自己抜去の可能性が存在するなら、患者の安全確保のために、身体拘束を検討するべきでしょう。

急性期の身体拘束を適切に行なうための方法
 抑制は患者の人権侵害の可能性だけでなく、不適切に実施すると運動機能の低下や皮膚の損傷をもたらす可能性があります。従って使用に際してはあらかじめそれぞれの医療機関で次のような内容に関するガイドラインを検討しておくことが望まれます。
  (1) 抑制適応の基準
(2) 抑制に関する家族や本人への説明と同意書
(3) 抑制期間や抑制方法の選択の基準
(4) 用具の使用方法や使用時の観察項目
 注意しなければならないのは、抑制自体が刺激となって患者の不穏行動を引き起こす可能性があることです。このため、抑制と同時に、睡眠のための援助、外部からの刺激に関する環境調整、リアリティオリエンテーションなどの介入を行ない、出来る限り早く抑制を中止できるように働きかけることも大切です。

【参考資料】
  「身体拘束ゼロへの手引き」、厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議、2000年6月
  


介護保険施設等に向けて示されたものですが、身体拘束の問題点や
「緊急やむをえない場合の対応−例外規定」の項などは身体拘束を
考える上で参考になります。


「抑制フローチャート」、Expert Nurse Vol.17, No.12, pp28-38、2001年




事例395:(両上肢抑制中の経管栄養チューブの自己抜去)

発生部署(入院部門一般) キーワード(チューブ・カテーテル類)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【18時〜19時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【35歳】
患者の心身状態【意識障害、視覚障害、下肢障害、床上安静、せん妄状態】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年11ヶ月】
発生場面【栄養チューブ(NG・ED)】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【自己抜去】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【観察が不十分であった】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技)【技術(手技)が未熟であった】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【他のことに気を取られていた】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【多忙であった、夜勤だった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【説明が不十分であった】
発生要因-患者・家族への説明【患者・家族の理解が不十分であった、その他】
発生要因-その他【アセスメント不足、看護職員と患者とのコミュニケーション不足】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
17時30分に体位変換を行い、両上肢を抑制する。18時より他患者の食事介助のため約40分間訪室しなかった。次に訪室するとEDチューブが抜去されていた。すぐに主治医に報告し再挿入となるが、再び抜去されているのを発見する。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
両上肢を抑制帯にてべッド柵に固定していたが、体のずれなどによって、有効ではなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
患者への十分な説明。抑制方法の検討。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 経管栄養チューブを自己抜去したその場の現象のみが記載されていますが、自己抜去に至った経緯がわかりません。ただ両上肢を抑制していますので、自己抜去の危険性の予測はされていたと推測します。加えて病名、入院期間、治療内容、経管栄養チューブ挿入の目的、チューブ固定方法、経管栄養チューブ挿入による違和感・不快感の訴えの有無、経管栄養チューブ挿入目的に対する患者の理解度、意識レベル、せん妄状態に対する対処法などが記載されていると、起きた事象の根本原因のアセスメントが可能になると考えます。根本原因に対して対策を講じない限り、有効な対策といえず、再発防止は困難になります。
 また、患者の状況から、疾患自体による、あるいは治療過程におけるせん妄状態と推測され、安全管理上のプランとして両上肢抑制が実施されていたと考えますが、看護計画の全容がわかりません。看護上患者の身体損傷の可能性がある場合、それを予測して具体的プランを立て、チームで共有して実践することが重要です。この場合のチームとは、医師、看護師、患者、家族となります。患者による身体損傷のリスクが高い場合、患者の行動抑制は最終手段であり、他に方法がない場合に一時的に行うものです。情報の中になぜ両上肢抑制に至ったのか、選択の根拠が明確ではありません。抑制によって逆に患者は興奮することもあります。組織として事故防止マニュアルに抑制の基準を位置付け、抑制の考え方、抑制時の看護を提示し、看護師の判断の指標とすることも重要と考えます。
 患者を一人にした時間帯に自己抜去が起きていることから、看護管理上の問題と考えます。発生要因として勤務状態が多忙であったと記載されていますが、多忙の中身とこの事例の関係性がはっきりしません。組織的な要因を分析するためにも、この勤務帯の看護人員、患者の担当看護師の受け持ち患者数や、このときの業務量なども記載するように、管理者が指導するべきです。


■改善策に関するコメント
 治療過程でストレスフルな状態が続くことによって、一時的にせん妄状態が発生することがあります。せん妄を引き起こす要因は、治療内容、処置などの外的要因と患者の年齢、ストレスコーピングスタイルなどの内的要因が考えられます。従って治療前に上記の情報を収集し、チームでアセスメントを行い、治療過程でせん妄状態が起きることを前提に、予測した計画を立案しておく必要があります。また立案した計画は、事前に患者・家族と共有しておくことが重要です。

経管栄養チューブ挿入中の患者の看護
  1) チューブの必要性を検討する。24時間持続挿入の必要性を検討する。
2) チューブの必要性を患者・家族に説明する。
3) チューブの固定方法と定期的確認時間、再固定の期間設定。

患者の行動パターンの把握
 不隠だからチューブを抜いたのではなく、経管栄養チューブを不快と感じたから抜いてしまったと考えます。日頃不快である言動、行動などがありませんでしたか。危険行動の徴候を見逃さず、先回りして対策を考える必要があります。患者の行動の基にあるニードや行動パターンの分析を行いましょう。

事故防止マニュアル―抑制の基準
1.抑制の考え方
  1) 抑制の目的
2) 抑制の対象患者
3) 抑制を開始する判断
4) 抑制を中止する判断
5) 抑制を施行する時の同意
家族がいることで鎮静に繋がる場合は、家族に協力を要請します。家族の協力が得られない場合、または家族の協力のみでは患者の生命や身体を守れない場合は、原則として医療チーム(医師、看護師)で同意した上で、患者および家族に抑制を施行しない場合の危険性、抑制をした場合の危険性を説明し、同意を得ます。

2.抑制時の看護
  1) 抑制の必要性を明確化する・判定する
2) 合意を得る
3) モニタリングする
4) アセスメントする
5) 患者の機能に支障を与えず、廃用続発症を予防する

3.抑制用具と適正な使用方法を掲示し、指導教育する

4.管理者は抑制用具の管理をする
 両上肢抑制の方法として、ベッド策に紐を継ぐと横にスライドするため紐に余裕ができて固定性に欠けます。必ずベッド本体に可動性のないように固定すること、身体がずり落ちても紐に余裕が出ないように固定する方法を提示し、指導教育することが重要です。

夜勤における対応
 夜勤は少ない人員で患者の安全を確保しなければなりません。互いのチームの協力だけでは解決は難しいと考えます。どのように対応するか、夜勤帯で優先される業務は何か、勤務者の多い日勤帯に移行できる業務はないか、必要な業務・必要でない業務など業務全般を見直してみることも必要でしょう。

治療過程におけるせん妄に対する対応
 この事例は、年齢35歳、意識障害、視覚障害、下肢障害、せん妄状態という情報から治療行為が主体となることが考えられ、また意識障害がある場合は、せん妄に対して鎮静剤の使用ができないことが予測されます。そうなると看護師がどれだけ観察の目を向けても、チューブ類の自己抜去のような不快感による事故は避けようがありません。ましてや患者はせん妄状態で、意思の疎通が図れない状態です。抜かれることによるリスクが高くなければ、どこかで割り切って治療を優先させることが必要だと考えます。いずれにしても、せん妄状態に対する対応は看護師だけの問題ではありません。医療チームで検討することが重要です。

【参考資料】
 抑制については重要事例No.391のコメント、参考資料を参照してください。


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