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事例418:(複数の輸液ポンプ使用中のラインの誤接続)



事例418:(複数の輸液ポンプ使用中のラインの誤接続)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【土曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【10時〜11時台】  発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【38歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【助産師、看護師】
当事者の職種経験年数【当事者複数】
当事者の部署配属年数【当事者複数】
発生場面【末梢静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【接続間違い】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【観察が不十分であった】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【慌てていた、イライラしていた、思いこんでいた】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
ウテメリン6A30ml/H、マグネゾール10A25ml/H、側管からヴィーンD500mlを施行していた患者さんの清拭の際、寝衣交換時、ウテメリンとマグネゾールのルートを反対にポンプにつないでしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
二つのボトルを袖からはずそうとしたが、間違えて通してしまい、ルートが絡み合ってしまった。イライラした気持ちもあり、確認するのを怠ってしまった。他の患者さんのIVHの閉塞アラームが頻回になっていた。医師に来てもらうようにしていたため、医師が来る前に清拭を終わらせなければという気持ちがあった。

■実施したもしくは考えられる改善策
ルートとボトルに同色の印を付ける。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 まず間違いそのもの(「するべきことをしなかった」、「AとすべきところをBとした」)を先に書き、その後で補足情報を記入すると分かりやすくなります。過不足がなく、シンプルで分かりやすい記述ができるようになるためには、記入内容を他人に読んでもらって書き直す練習を繰り返すとよいでしょう。
【例】 寝衣交換後、外した2本の点滴ルートを確認せずにつないだ。これにより2本の点滴ルートが逆になってしまった。点滴内容はそれぞれ、ウテメリン6A30ml/hとマグネゾール10A25ml/hであった。

 「イライラしていた」というように本人の精神状態を記入してあるのですが、そのような精神状態を引き起こした原因が明らかではありません。文章内にある「ルートが絡み合ってしまった」ことや「医師が来る前に清拭を終わらせようと焦っていた」ことが原因であるならば、それが分かるように記述する必要があります。また、他に原因があったのならば、明記するようにしましょう。
 原因として、「2つのルートを間違えて袖から通した」、「ルートが絡み合ってしまった」ということが記述されていますが、どのようにすべきところをどう間違えたのか、それによって、なぜルートが絡み合ってしまったのかが分かりません。また、ルートの確認手順は、本来どのように行うようになっていたのかが分かりません。
 本来の手順、もしくは当日の手順に問題があるかもしれないのに、改善の機会を得ることはできません。手順は、「本来どうすべきところをどうした」という形式で書くようにしましょう。
 また、エラーの発生状況や実際の行動について具体的に記入しましょう。発生原因を分析し、マニュアル作成や、教育に生かすためには、具体的にエラーとなった行為を再現できる情報が必要です。下記に例示するような情報の記載があると、再発予防策を立てる上で参考になります。
  輸液ポンプあるいは輸液ラインへの薬剤表示はあったのか。
薬剤ボトルへの薬剤名表示とラインへの薬剤表示はあったのか。
この場合のケアは1人で行っていたのか、複数で行ったのか。また、それは通常と異なる体制かどうか。
2台の輸液ポンプから2種類の薬剤を同時に外して行ったのか。
どのように寝衣交換を行ったのか。点滴ボトルを袖に続けて通し、ポンプへのセット作業を連続的に行ったのか。


■改善策に関するコメント
 輸液ポンプ点滴中のライン管理は重要です。輸液ポンプは、強心剤や、微量でも大きな薬効を持つ重要薬剤に用いることが多いため、一つ間違うと重大な結果を招きます。この事例のように、2つの薬剤のラインが交錯して流量を誤ったために、重大な結果となった事例も報告されています。輸液ポンプの操作と共にラインの管理には十分事故防止対策が必要となります。

薬剤と輸液ポンプ(流量設定)を間違えないために
  1) それぞれの薬剤ボトル、ライン、輸液ポンプの三者に薬剤名を表示しましょう。(色を用いることも有効な方法ですが、ルートとボトルに同色の印を付けるだけでは不十分です。同色の印は輸液ポンプにも付けることが望ましいでしょう。)
2) ボトルハンガーに吊り下げられた薬剤の真下に薬剤名を表示した輸液ポンプが設置されるように、できる限り並列に設置しましょう。
3) 2台の輸液ポンプを取り扱う場合には、ラインが混乱しないように1つ終了してから、次のボトルをポンプから外すというように順番に行いましょう。
4) ポンプへのセットを行う際には、ラインを指差し、薬剤とラインの上流下流を確認して間違いがないか確かめましょう。
5) ポンプへのセットが終わったらスタートボタンを押す前に再度間違いないか、薬剤、ライン、ポンプの流量設定、予定量設定を指差し確認しましょう。

輸液ポンプによる薬剤の治療を適切に行うために
 2台の輸液ポンプからチューブを外してケアを行うことは、その間の薬剤注入をストップすることになります。適切な薬剤投与を維持するためにはストップする時間をできる限り少なくする必要があります。2つの薬剤を同時にストップしてしまうよりは、1つずつ作業し、どちらかが注入されているようにすることが望ましいといえます。そのため、2台の輸液ポンプで注入されている薬剤を止めてケアを行う際には、同時にストップして行わず、1つ済ませてスタートボタンを押してから、次の薬剤に取り掛かりましょう
 ボトルに指示量(ポンプの指定流量)と開始時間を記載する(病状によって指示量が変更になる可能性があるため)、定量筒であれば、紙テープを貼って各時間毎にチェックし点滴終了量(液面)をマーキングする工夫も必要でしょう。
 清拭については、平日と同様に午前中にしなければならない優先される業務であるのか見直しも必要でしょう。

評価懸念による違反とその防止
 確認ミスの原因は、他の患者のIVH閉塞アラームと医師の到着に対する懸念による焦りです。単純に考えれば、医師が来てしまっても、清拭中であることを伝え、待ってもらうことは可能だったと思います。
 しかし、人は誰でもテキパキと仕事のこなせるスマートな作業者でありたいと思っています。特に他の看護師や医師との連携の多い看護師の仕事は、他の看護師や医師に、モタモタした手際の悪い作業者と思われたくないという気持ちが生まれやすいものです。このような評価懸念が、日常の作業を効率化重視にシフトし、確認の省略など、大抵はうまくいく効率的な違反を生み出しています。
 このような評価懸念による違反や効率化の日常化を防ぐためには、個人と職場全体の安全意識を高めていく必要があります。
 個人の意識を高めるためには、個人個人が自分の日々の作業を振り返り、不十分な確認や効率化をしてしまっている箇所を意識化することが大切です。このような違反や効率化がまったくない人はいません。自分はできていると思った人ほど危険だと考えてよいでしょう。
 職場全体の安全意識を高めるためには、効率化の見直しと作業者同士のチェック機構が必要となります。管理者は、愚直に十分な確認や安全な作業を行うような医師や看護師こそ、日常の作業の中で積極的に評価しなければなりません。また、日々の作業場面の観察から、違反や不安全行動の種を発見し、それらをまともに行ったら、どのくらい効率に影響するかを再評価し、口先だけに終わらぬ安全の意識づけを検討していく必要があるでしょう。




事例483:(定量筒付輸液ポンプのルートセットミスによる過剰投与)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【20時〜21時台】  発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【82歳】
患者の心身状態【痴呆・健忘、床上安静】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【静脈注射】
(薬剤・製剤の種類)【その他の薬剤】
発生内容【投与速度速すぎ】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【機器誤作動】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
シグマ-ト48mg2V+生食96ccを4cc/Hで輸液ポンプにて投与のところ、定量筒内に薬剤を注入した5分後に全量滴下されてしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
輸液ポンプ作動させる際の点滴ルートセッティングミス。輸液ポンプの誤作動。

■実施したもしくは考えられる改善策
防止マニュアル行動の徹底。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 原因は、「輸液ルートセッティングの誤り」だったのか、あるいは「輸液ポンプの不良に伴う誤作動」だったのかが不明確です。まずは、これを整理して記述してください。この際、使用した輸液ポンプの種類や輸液ポンプ用回路の記入があると、要因分析や改善策の検討を行いやすくなります。要因にルートセッティングミスとありますので、それはどのようなセットミスだったのか、また、輸液ポンプの誤作動とセッティングミスとの関係はどうだったのか、詳しい記載をすると良いでしょう。


■改善策に関するコメント
 本例は、定量筒内の約100mlの薬剤が5分で注入されていることから、定量筒付輸液ポンプ用回路を用いていると想定されます。要因に輸液ポンプの誤作動とありますが、点滴ルートセッティングミスによりフリーフローが発生したと考えられます。
 フリーフローは、一般的にクレンメ等によりラインの閉塞を行わずに輸液ポンプから回路を取り外した際に発生しますが、ポンプと回路によっては回路のセットミスにより輸液ポンプの閉塞機構が働かず発生したり、輸液剤の交換時にポンプから回路が離脱しフリーフローが生じたりする場合があります。フリーフローは、米国でも重要視されており、JCAHO「2003患者安全目標」にも挙げられています。
 また、シリンジポンプは薬液を一定の速度で微量ずつ正確に持続投与する場合に使用されます。特に循環器用剤は少量でも循環動態に影響を及ぼすため、微量投与を確実に行うためには、シリンジポンプを使用されることを勧めます。


注入用機器の選択
 輸液ポンプの注入誤差は、±10%程度が通常です。また、輸液ポンプ用回路は、一般的に弾力性がありその内径も比較的大きく、閉塞や急な解放などで内部の圧力が変化すると回路内の容量が変化するため、微量の注入には適しません。このため10ml/hr以下の注入速度にはシリンジポンプを使用することが必要です。輸液ポンプを使用する際には、注入誤差5%以下のシリンジポンプと同等の精度を有し、使用する回路は圧力変化による容量の変化の少ない専用回路を使用したものを用いましょう。

安全な機器の選択
 輸液ポンプの中には、専用回路を用いアンチフリーフロー機構が装備され、不用意にポンプから回路が離脱した場合であっても自動的に回路の遮断を行い、フリーフローが発生しない機種があります。フリーフローの発生により重大な結果が危惧される薬剤の注入にはこの様な機器の選択も有効な対策です。

薬剤投与方法の工夫
 また、この際シグマート2Vを準備するのではなく、1V+生食48mlずつシリンジに準備し、1Vずつ投与する方法もあります。もし半量の準備であれば、この事例のように開始5分後に全量投与する結果は防ぐことができたかもしれません。循環器用剤のように急速投与を避けなければならない薬剤に対しては、このような「被害を最小限に食いとどめる視点」を培っていくことも大切なことです。

機器操作後の確認行為
 輸液ポンプ操作後の観察も重要です。輸液開始時の確認方法として、患者名、ルートの方向や接続、輸液ポンプの通常電源、時間流量、予定量、開始ボタンスタートなどがありますが特に、開始後の滴下状況の確認まで、「目で追い、指さし、声だして」確認する、指さし呼称をお勧めします。この点の手順も明確にされ、予防マニュアルに導入されると良いでしょう。

【参考資料】
  日本医師会ホームページ:「輸液ポンプ等使用の手引き(医療安全器材開発委員会)」
http://www.med.or.jp/anzen/index/manual.html
「輸液ポンプ等に関する医療事故防止対策について」、厚生労働省医薬局長、医薬発第0318003号、2003年3月
JCAHOホームページ:2003 National Patient Safety
http://www.jcaho.org/accredited+organizations/patient+safety/




事例511:(ボスミン使用時のチームエラーに関する事例)

発生部署(手術部門) キーワード(与薬(注射・点滴)、調剤)

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【木曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【14時〜15時台】
発生場所【手術室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【63歳】
患者の心身状態【麻酔中・麻酔前後】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【5年9ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年9ヶ月】
発生場面【皮下・筋肉注射】
(薬剤・製剤の種類)【循環器用薬】
発生内容【単位間違い】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【看護職間の連携不適切】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
術式名・乳房切除術。麻酔:全身麻酔。外回り看護師は看護師経験年数3年10ヶ月:手術室経験10ヶ月、器械出し看護師は、看護師経験5年9ヶ月、手術室経験:2年9ヶ月。手術中には術者は、器械出し看護師へ皮下注射用の「ボスミン生食」を依頼した。器械出し看護師は、そのため外回り看護師へ「ボスミン生食お願いします」と告げた。外回り看護師は、生理食塩水500ml×1本とボスミン1ml/1mg×5Aを準備し、器械出し看護師とその物品を確認し10万倍ボスミン生食を作製した。器械出し看護師は、術者へ「10万倍ボスミン生食ですが」と言い、一本目の注射器を術者へ渡し、2本目を渡すときに再度「10万倍ボスミン生食です」と注射器を手渡した。そのときに術者より「50万倍ではないか」と指摘され、10万倍と50万倍と間違えたことがわかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
術者は、ルーチンで50万倍ボスミン生食を乳房切除時に使用しており、希釈量を指示せず「ボスミン生食」としか、器械出し看護師に伝えていない。術者は、一本目の皮下注射時に、器械出し看護師の言葉を聞き逃した。器械出し看護師は、50万倍ボスミン生食ではと思っていたが、外回り看護師が10万倍ボスミン生食を作ったので、「違うのでは」と思ったが声に出して言わなかった。外回り看護師は、ボスミン生食は10万倍のみと思い込んでいた。形成外科・耳鼻科での手術時は10万倍ボスミン生食を多用する。また、手術室配属後は、形成外科や耳鼻科等の手術介助が多く記憶に頼った。術者の指示は、すべて口頭指示である。

■実施したもしくは考えられる改善策
手術申し込み用紙に、事前に希釈量、薬品名の指示をする。大きな声で、薬品名・希釈量を復唱してから渡す。「おや」と思ったら再度、指示内容を確認する。手術チーム内の雰囲気を良くし、コミュニケーションが良好に保たれ、確認しやすいように配慮する。外回り看護師も、術者へ薬品名希釈量を確認する。使用する薬剤に関して標準化する。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 まず間違いそのもの(「するべきことをしなかった」、「AとすべきところをBとした」)を先に書き、その後で補足情報を記入すると分かりやすくなります。
 また、それぞれの作業者が、何を想定しながら実際の依頼を行っていたのかが記述されていると間違いが明確になります。
  【例】術者は50万倍ボスミン生食のつもりで、器械出し看護師に「ボスミン生食(2つ)」と依頼した。器械出し看護師はこれを聞き、50万倍ボスミン生食のつもりで、外回り看護師に「ボスミン生食お願いします」と依頼した。外回り看護師はこれを聞き、10万倍ボスミン生食の材料を用意し、器械出し看護師とともに確認しあい、2人で10万倍ボスミン生食を2本準備した。このとき器械出し看護師は、どちらが正しいか迷ったが黙って作業を続けた。
 器械出し看護師が術者にこれらを渡すとき、まず「10万倍ボスミン生食ですが」といい1本目を渡した。術者はこれを確認せずに受け取った。次に同様に「10万倍ボスミン生食です」と2本目を渡したとき、術者は「50万倍ではないか」と自分が想定していたものと渡されたものが違うことに気づき指摘した。
術式名… など。

 要因に関して、受け渡し時に本来どのような手順で口頭確認すべきだったのかが、明示されていません。特に決まりがなかったのであれば、その旨が明記されていると手順が決められていなかったという問題が明確になります。
 また、なぜ器械出し看護師が「違うのでは」と思ったときに、それを指摘できなかったのかも記述されていると、これに対する改善策がより具体的に考えられます。


■改善策に関するコメント
 ヒヤリ・ハットの内容は経時的にまとまっていますが、要因が口頭指示やコミュニケーションエラーに関する要因にとどまっているので他の要因がないか検討してみましょう。また、対策が「コミュニケーションを良好にする」など抽象的であまり効果的ではありません。システム上の欠陥に関する側面から検討し、例えば、下記のような要因が考えられますのでこれらの事項について分析し、総合的な分析を実施し、対策に結び付けましょう。
 なお、ボスミンは循環作動薬であり、間違うと患者への侵襲は多大になる恐れがあり、希釈して使用するので商品名だけでは実際に使用したい量であるか同定できず曖昧になります。通常使用している薬剤でも循環作動薬の使用については管理・使用方法、教育・訓練についても対策を立てましょう。

指示出し・受けに関する要因
明文化されたルールがあったか
通常のルールは守られていたか
通常のルールは守られていない(もしくはやりづらい)場合、その理由は何か
口頭指示に関する潜在的なリスク(言い間違い、聞き間違い、解釈間違い等)を明文化しているか
口頭指示に関する潜在的なリスクを回避する具体的な方法は決まっていたか

ボスミンの使用方法に関する要因
循環作動薬の安全な使用方法について明文化されたルールがあったか
希釈して使用する薬に関して起こりうるエラーへの対策は立てられていたか
ボスミンの希釈に関して、希釈する濃度、表示、呼称の方法等が施設内全体で標準化
統一化されていたか

医師・看護師への教育に関する要因
指示出し・指示受けに関する教育訓練はされているか
「おかしい」と感じたときに「発見」、「指摘」、「修正」するなど、チームエラー理論に基づいた、チームエラー防止の教育は実施されているか
ボスミン使用に関する教育はされているか

医師と看護師間、看護師間のコミュニケーションに関する要因
薬剤確認時、確認するモノ・方法が確立していたか
口頭指示時及び情報伝達時にはコミュニケーションエラーが発生するというリスク感性や安全文化があったか
権威勾配はなかったか
 また、コミュニケーションという観点から見ますと、「間違いの指摘」には、指摘する側にもされる側にも必ず感情的なものが伴います。よって、航空産業などで実施されているCRM訓練(仮想場面を設け、必ず指摘するような訓練)や、指摘週間のようなものを設けてOJTによる指摘訓練などを行い、感情的な問題の原因を「個人」から「手順」に帰属させ、人間関係の崩壊に対する不安を持つことなくお互い指摘しあえるような土壌を育むことが重要となるでしょう。

【参考資料】
「CRM(Crew Resource Management)の医療分野への応用について」、相馬孝博、Vol.62 No.7、2003年




事例512:(二層一体型の輸液バックの隔壁開通忘れ)

発生部署(集中治療室) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【木曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【ICU】
患者の性別【女性】 患者の年齢【11歳】
患者の心身状態【薬剤の影響下】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【7年10ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年10ヶ月】
発生場面【血液浄化療法】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【無投薬】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【判断に誤りがあった】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【その他】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【多忙であった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
先天性胆道閉鎖症・腎不全・肺出血でセデーション下人工呼吸器管理とCAVH?本日12:45に変更しCHFを開始していた。Naが130〜140台で経過していたが徐々に150台へ上昇、19:30頃に159まであがっていた。この時点でサブラット液が開壁しないで接続されているのを発見。CHFで補液のみだった為、Naが上昇してしまっていた。患児の状況は目立って変化は見られていない。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
新しいサブラットの輸液パックとなり使用に慣れが出てきて、忙しさのなかで流れ作業的になり確認作業が充分でなかった。判断に誤りがあった。確認が不十分であった。マニュアルを遵守しなかった。多忙であった。教育・訓練が不十分だった。

■実施したもしくは考えられる改善策
○月末から新しい形式のサブラットに変わって開壁して使うようになっていた。キチンと開通させる事を守る事。使用時は必ず確認する事を各自が意識して行う。又ダブルチェックを行うようなシステムを確立する。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 事例について、何がどのような因果関係で生じ、どのような結果を招いたのかを考察した上で事実関係を書くことは、医療事故を防止するためにどのような対策をとるのか、報告者が考える上でも有益であると考えます。このような整理方法として、WHY型特性要因図を使用することも良い手法であると思います。
 特性要因図は、1953年に石川馨氏(東京大学名誉教授)により、生産管理の方法として考案されたものです。海外に紹介されて用いられ、その図の形から Ishikawa Diagram、Cause and effect diagram、Fish-Bone diagramなどと呼ばれています。JCAHOでもSentinel Event Alertの分析手法としてこの手法を紹介しています。
 特性要因図には、HOW型とWHY型と呼ばれる2通りの分析手法、さらに分析結果を表現するための表現方法の3通りで用いられます。生産管理では、4M(Man Material Machine Method)に要因を大きく分類する方法が多く用いられますが、因果関係を分析する場合にはこの4Mが相互に関与する場合も多いため、要因の発生した時系列にそって分析する手法が適切です。

 以下、改善策に関するコメントで示した図は、特性要因図そのものではありません。事故の可能性を含んだ問題点(ハザード)である輸液をバッグ未開通のまま投与したことを中間点に記しています。例示した図では、ハザードがもたらすどのような結果を防ぐべきかまでは踏み込んでいませんが、個々の医療機関での事故防止を実現するためには、防ぐべき結果がどのようにしてハザードを介して生じてくるのかを検討する必要があります。


■改善策に関するコメント
背景
 サブラッド−BD [キット製品]は、2002年6月に薬価収載された、血液浄化療法中に輸液として用いられた新しい医薬品です。この製品の発売前は、2種類の輸液製剤が別々のバッグとして供給され、現場で使用する際に同時に混合しながら輸注されるというものでした。この操作を簡便にし、輸液の調整時の汚染を防止するために、2つの薬液を一つの製剤の異なる2つの区画として封じ、使用時にこの2つの区画の隔壁を開通し混和する形としたものです。

影響の大きさ
 サブラッド−BDで、2つの区画の隔壁を開通せず投与すると、一つの区画の薬液のみが投与されることとなります。このように2つの区画に区分された製剤で開通せず投与することで浸透圧による溶血が生じ、患者が死亡したと考えられる事例が、過去に報告されています。

分析
 この事案について、ハザードの発生前後での因果関係を特性要因図を模してまとめると、図のようになると考えられます。このなかで「?」を付したものは、この報告ではどのような状況であったかが不明確である要因であり、「×」を付したものは、一般的には考えうるがこの報告の事案では該当しない要因です。

対策案の考察と選択
 このように整理すると、
  (a) 製剤の性質とその構造
(b) 新規医薬品採用時の教育・訓練
(c) 手順からの逸脱(開通しない状態)の検出を実現するための製剤の構造、手順、遵守管理
(d) 影響の早期発見と対処のための教育と手順の設定
がとるべき対策の候補としてあげられます。これらの対策の候補のうち、費用(人間の手間も費用換算します)と効果(リスクの削減率)を勘案し、有効性の高いものを組み合わせて、実際に実施する対策としますが、費用と効果は各医療機関によりことなると考えられるので、それぞれの医療機関で費用および効果を概算でも試算して採用する対策を決定することになります。
 対策は、出来る限り個人の資質や努力に依存しないように立案するのが、逸脱・失念による再発を防ぐのに役立ちます。
 また、健康を回復することを目的とする製品である医薬を製造する製薬会社にとって、製剤の性質として、開通混合しないで投与することで患者に重篤な傷害を与える可能性のある薬剤の設計にあたり、混合しなければ投与できないような構造としたうえで、さらに混合されているか否かが一瞥で区別できるよう製剤を開発することは、目的に合致した製品を設計・製造・供給するという企業の倫理的義務に合致することであるといえます。

遵守管理
 手順の策定と実施のみでは、人の行動を統制することはできません。遵守管理は、このような一連の改善された業務フローが正常に機能していることを点検するために必要な最低限の管理点を定め監視し続けるとともに、業務の結果が正しいかを随時検査することにより実現されます。


ハザードの発生前後での因果関係の特性要因図

【参考資料】
  「現場長のQC必携」尾関和夫編、日本規格協会 、1987年




事例534:(コミュニケーションミスによるインスリン誤薬)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
7時訪室、採血がある事、本日は禁食ある事、血糖値200以下であればインスリンは休みになり、いつもとは違う事を説明する。7時30分から配膳に入る。その頃、早出ナースに採血をしてもらいにナースステーションに来られていた。採血時に血糖測定も施行。血糖値が200越えていたため、ヒューマログを早出ナースは本人へ渡した。早出ナースからは血糖値が200を越えている事は伝えられていたが、ヒューマログを渡している事は伝えられていなかった。配膳途中であり残り4人ほどであったた、配膳を済ませて患者の部屋へ向かった。ナースステーション内を通る時に早出ナースよりヒューマログを渡したことを聞いた。急いで行くが打ち終えていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
本人への説明が不充分だつた。早出ナースへ詳しく伝えていなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
本人への説明を充分におこなう。重要なことは口頭で申し送るとともに、詳しく紙に書いておく。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 「血糖値200以下であればインスリンは休みになり、・・・。血糖値が200越えていたため・・・。」の部分だけを見ればインスリンを打ってもよいのではないかととれます。患者や早出看護師にどのように説明し、本来はどのような指示だったのか記載が必要です。いつもと違うとはどんなことですか。患者へヒューマログを渡していますが、何故、早出看護師は渡したのですか。この患者、インスリン自己注射を行っている方でしょうか。患者が何の検査予定であり、インスリン療法ではどのような状況か書いてあると具体策が見えてきます。
 また、以下に示した文章に主語や目的語がないため、状況を把握しにくく、どのように分析して良いか分からなくなってしまったのではないでしょうか。複数人が関与する情報伝達のエラーは複雑なので、記述を確実にしましょう。
  「7時訪室、採血がある事、本日は禁食がある事、血糖値200以下であればインスリンは休みになり、いつもとは違う事を説明する。」というのは、いつ、誰が、誰に対して説明したのでしょうか。
また、7時30分から配膳に入ったのは誰ですか
「その頃、早出ナースに採血をしてもらいにナースステーションに来られていた。」のは誰が来ていたのでしょうか。
「早出ナースからは血糖値が200を越えている事は伝えられていたが、ヒューマログを渡している事は伝えられていなかった。」これは、誰に伝えられなかったのですか。
「配膳を済ませて患者の部屋へ向かった。」誰が患者の部屋へ向かったのですか。
「ナースステーション内を通る時に早出ナースよりヒューマログを渡したことを聞いた。」のは誰が聞いたのですか。


■改善策に関するコメント
コミュニケーションの重要性
 日常習慣化している行動は、指示変更によって関わる人が多くなればミスを起こす確率は多くなることをしっかり覚えておいてください。今回のミスは指示を伝える看護師も、受けた看護師も両方中途半端です。
 指示がいつもと違う場合、介在する看護師には指示を受けるルール同様、指示内容を5W1Hで伝えること。受けた看護師ももちろん5W1Hで確認するのが原則です。コミュニケーションの基本は誰が、いつ、何を、どこで、なぜ、どのように(5W1H)を徹底することです。また、医師の指示に関しては指示書(簿)原本で必ず確認することを徹底しましょう。
 患者は看護師にインスリンを渡されれば安心して日頃の行動を行うものです。患者教育の一環としても、何が、どのようにいつもと違い、どうしなければならないか伝えておく必要があります。指示変更がある場合、担当看護婦は、危険を予測し行動する必要があります。
  例えば;
  ○患者へ いつもと違う状況の詳細(禁食とインスリンの関係)説明、指示内容の変更点を伝える。
○早出看護師へ 患者の見える位置(オーバーテーブル等)に変更点を見やすく表示する 。

システム及び患者教育の見直し
 日頃より、インスリンを自己管理している患者にはヒューマログを渡しているのでしょうか。インスリンに関するヒヤリ・ハット報告は大変多く報告されています。
 入院中は特に日常生活とは違い、検査等で禁食になる場合が多くあります。糖尿病でインスリン治療を受けている患者の場合、そのときの患者の血糖値によって、インスリン投与量は大きく変動し、誤薬してしまうと患者の生命の危険性が高くなる事考えられます。日常、インスリンを自己注射し自立していたとしても、変更があるにもかかわらず看護師が安易にインスリンを渡すのは、看護師の教育を含め、入院患者のインスリンの取り扱いについては院内で検討し、標準化しておくことが必要です。
 また、食事をしないときの血糖値とインスリンの量をどうするかなど、医師とともに取り決め、患者教育としての充実も再検討してください。
 下記についての貴院での再確認と再教育を検討してください。
  1) 指示出し、指示受けに関する取り決め
2) 不確実な内容の時、「おや?」と感じたときに、聞きなおす、確認する、指摘するなどチームエラー理論に基づいたチームエラー防止教育の実施
3) インスリン使用に関する取り決めと教育

【参考資料】
「特集:エラーを防止できるチーム体制をめざして」、看護管理 Vol.12、 No.11、2002年11月




事例539:(不適切な確認手段(呼名)による誤薬)

発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(注射・点滴))

■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【  】曜日区分【  】発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【    】
当事者の部署配属年数【    】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【          】
発生要因-観察【          】
発生要因-判断【          】
発生要因-知識【          】
発生要因-技術(手技)【          】
発生要因-報告等【          】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【          】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
2003年○月○日、点滴を実施するため訪床したが、2人部屋であったが1人しかいなかった。そこで空床の名前を確認することを怠り、その部屋にいた方に氏名を確認したところ、「はい」と返事されたので本人であると認識し、点滴実施したが誤りであった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
御本人氏名を確認したが、この方は日本語が不自由であった。そのため、何を問われても「はい」と返事されるとの事である。その事を知らずに本人への声かけで確認が出来たと考え、ベッドの名札を確認することを怠った。

■実施したもしくは考えられる改善策
声かけによる氏名確認と、ベッドの名札双方での確認を怠らない。



専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
与薬時の患者と薬剤の照合につて
 何故通常の確認事項・手順に従って投薬がなされなかったかということが、この事例を分析する上では役に立つのではないでしょうか。この事例の場合、必要な確認作業を行ったのでしょうか。行うことができなかったとすればその理由は何でしょうか。
 与薬にあたっては、例えば「複数のスタッフによる処方箋、カルテの確認」、「点滴ボトルには部屋番号と患者氏名を記載」、「ベッドの名札により患者氏名を確認」、「患者に呼びかけ」という方法がとられていると思われますが、与薬業務での確認事項・手順は標準化されているのでしょうか。標準化されていれば、その手順を記載すると有効な改善策の立案につながります。
 ベットネームの配置や点滴ボトルへの記名方法については、確実な確認ができるようになっているでしょうか。ベッドの名札が確認しにくい場所にあれば、業務を標準化してもベッドの名札は確認には役に立たないということも考えられます。
 改善策を検討するには事例の背景に関する情報が不足しています。5W1Hで具体的に記載し、有効な改善策が立案できるよう訓練しましょう。

患者に関する情報の伝達について
 この事例では、発生要因を「患者のコミュニケーション能力を当事者となった看護師が把握していなかったため」としています。日本語によるコミュニケーションが十分に行えない場合であれば、コミュニケーション可能な方法について情報を共有することが必要ではないかと思われますが、通常、スタッフ間では患者のコミュニケーション能力をどのように収集し、共有しているのでしょうか。この事例では、共有情報を通常のとおりに確認したのかどうかの記載が要因の中にありません。当事者となった看護師が、事例発生後に患者のコミュニケーション能力に関する情報を得ているとすれば、何故与薬の前に情報の伝達が行われなかったのか不明ですが、この点を明らかにすることにより、情報の共有方法についての改善策が得られると考えます。

 これらの視点から情報を加えると、業務の標準化を含めた管理上の問題、情報伝達について等が明らかになり、対策が立てやすいと思われます。


■改善策に関するコメント
 呼名に対して、患者は正確に応答しているとは限りませんので、患者自身から氏名を述べてもらうなども一つの確認方法になると思います。また、確認事項と方法をルール化(標準化)することが必要でしょう。ルールを実行しやすい環境を作っていくことも大切です。「複数のスタッフによる処方箋、カルテの確認」、「点滴ボトルには部屋番号と患者氏名を記載」、「ベッドの名札により患者氏名を確認」、「患者に呼びかけ」という方法のほかに、併せて「リストバンド」による確認や、与薬の前に訪室し患者の顔を確認する方法、また患者に服用する薬剤名・内容等を伝えておくなどといった方法が、誤薬を防ぐためには有効であると考えられます。
 また、人間が確認する以上、認知エラーが生じるという限界がありますので人間と機器による確認が必要ではないでしょうか。患者確認に関しては、「患者のID番号をバーコードで認識すること」が根本的な解決策として有効です。

【参考資料】
「Marking Health Care Safer: A Critical Analysis of Patient Safety Practices」
Chapter43. Prevention of Misidentifications、Agency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)、1999年
 ※http://www.ahcpr.gov/clinic/ptsafety/よりダウンロード可能


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