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記述情報分析事例

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  事例174:(頻回な抜去があり予測していても静脈ラインの自己抜去を防止できない事例)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【月曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【22時〜23時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【78歳】
患者の心身状態【意識障害,歩行障害,床上安静,CO2貯留】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【2年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年11ヶ月】
発生場面 【末梢静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
2日前にも自己にて抜去していた。22時30分には、点滴問題ない事確認する。23時50分に訪室すると、酸素マスクも接続部やマスクをはずされており、点滴も自己にて抜去していた。本人に問うと、パニックになったとの事。点滴刺入部は、(寝衣、ベッド柵は血液汚染していたが)止血していた。SPO2が70まで低下していた。しかし、その時のレベル、血圧等変化なし。その後ゆっくりとSPO2上昇しだす。しかし、15分後には、再度自己にて酸素マスクはずしている。その後も頻回に訪室していくこととなる。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
COも高値であり、理解も十分にえられていない状態。また、長期間の点滴による、ストレスも考えられる。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
今後も頻回な訪室、ルート類の確認を行っていく。ルート、コード、ドレーン類は整理し、なるべく患者の気にならないような配置にする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 チューブ・カテーテルの管理として、まずは患者に挿入されているチューブ類の必要性についてアセスメントを行い、必要性が低い場合は挿入しない、不要なチューブはできるだけ早く抜去するという判断が必要です。
チューブ・カテーテルの適応について
 本事例は、末梢静脈ラインで「長期間の点滴による…」との記載がありますので、長期間持続的に点滴治療を行っていたことが考えられます。末梢静脈からの持続的点滴法を選択したのは何故でしょうか。間歇的方法の検討はされたのでしょうか。末梢静脈ラインを選択した経緯が分かるように、患者の病名、治療内容、点滴管理の目的を記載しておくことが必要です。一方、酸素マスクに関しては、患者がマスクをはずした後の「SPO270まで低下していた」ことから、呼吸器疾患がベースにあったと考えられ、酸素マスクによる吸入は必要な治療であったと推測します。
事故防止対策について
患者は2日前にも末梢静脈ラインを抜去していますが、以後、本事例の抜去事故が起きるまでチーム内でどのような対策が立てられ、計画が実行されていたのかを記載すると組織としての事故防止の取り組みについての評価につながると思います。

 ■改善策に関するコメント
チューブによる不快感を最小限にする
 患者は何度も酸素マスクを外そうとしているため、不快感を感じさせていないかどうかの観察を行い、マスクを外す要因となる不快のもとを除去する必要があります。マスクの装着用ゴムが耳や頬部を圧迫していないか、マスク内の汚れや異臭はないか等の注意が必要です。点滴治療については、動きの妨げになるような挿入部位や固定ではなかったかなど挿入方法や管理についても考える必要があります。例えば、消灯時間までに輸液が終了するように滴下調整をして、夜間はヘパリンロックで輸液を一時中止して、休息がとれるようにするのもひとつです。常に、治療の目的と方法の選択を含めたアセスメントが必要となります。
チームで情報を共有する
 「CO2が高値」であることは、代謝性障害をきたし、意識障害や認知機能の低下をまねく恐れがあります。さらに、「78歳」、「床上安静」、「長期間の安静によるストレス」などの情報も加えると、自己抜去や場合によってはベッドからの転落の可能性も考えられます。チューブ挿入中の患者に対し、その時々の病態にあわせて、チューブ挿入の必要性、治療に対する患者の認識、チューブの観察や固定方法などの管理のしかた、自己抜去が予想される患者に対する対策等、チーム内で情報を共有することが必要です。この場合のチームとは、医師と看護師を主としたその患者に関わる医療スタッフすべてのメンバーからなるチームのことです。特に、患者を観察する看護師は、観察した内容を医師に伝え、医師の判断のもとに治療内容をチームで共有するというそれぞれの役割を果たすことで、コミュニケーションの不足による事故が減少すると考えます。
監視の限界
本事例は、点滴の自己抜去や酸素マスクを外す行為が短期間に繰り返されています。患者が末梢静脈ラインを抜去して出血していたこと、酸素マスクを外してSPO2が70まで低下していたこと等から、今後も抜去行為の恐れは否定できず、予断を許さない状況であったことは推察がつきます。このような場合、再発防止に看護師は頻回に訪室して危険な状況を回避しようとします。しかし、訪室回数を増やしても抜去行為を未然に防げないことの方が多く、かといって危険行動の恐れのある患者をつきっきりで観察することは事実上不可能です。そこで、どんなに対策を尽くしても事故を未然に防ぐことができなかった事例について集積し、自己抜去のリスクの高い患者群を明らかにすることが重要です。さらに、事故のリスクが高い患者には、抑制や薬剤の使用もやむを得ないこととして、ガイドラインを作成するなどの整備が必要です。



 
事例178:(痴呆症状のある患者の末梢ルートのヘパリンロックの自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【月曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【87歳】
患者の心身状態【痴呆・健忘、歩行障害】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【3年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【3年11ヶ月】
発生場面 【末梢静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類) 【    】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【アセスメント不足】
発生要因-知識 【    】
発生要因-技術(手技) 【    】
発生要因-報告等 【    】
発生要因-身体的状況 【    】
発生要因-心理的状況 【    】
発生要因-システムの不備 【他のことに気をとられていた】
発生要因-連携不適切 【    】
発生要因-勤務状態 【    】
発生要因-医療用具 【    】
発生要因-薬剤 【    】
発生要因-諸物品 【    】
発生要因-施設・設備 【    】
発生要因-教育・訓練 【    】
発生要因-患者・家族への説明 【    】
発生要因-その他 【    】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
肺炎で入院され自宅でも痴呆症状あり、家族の希望で家族在院許可を出していた。訪室時右手にヘパロック中の点滴のルートを持ち、自己抜去されていた。家族はこの時自宅に帰っており不在。本人に行動の理由を聞くが不明。20分前に訪室したときはベット上臥位にて閉眼されており、体動みられず。ヘパロックの刺入部は包帯で巻いて包帯が取れないように両端をテープで固定、ガーゼとレテラタイで保護し、衣服で隠していた。主治医に報告するが、朝の検査結果良かったため、そのままとなる。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
1.痴呆があり、ルート抜去の可能性がありテーピングも強化していた。
2.家族が不在時は15分毎に訪室予定であったが、このとき、他患の処置と重なり、訪室が遅れた

 ■実施したもしくは考えられる改善策
1.家族が不在時は、患者をスタッフルームに来てもらうか、頻回の訪室を励行する



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
事例の発生状況等が簡潔にまとめられています。他の患者の処置で訪室が遅れた際に事例が発生していますが、当時の勤務状況や他のスタッフとの連携状況についての記載があれば、さらに深く背景要因を分析することが可能でしょう。

 ■改善策に関するコメント
 観察によって自己抜去を完全に防止することは不可能です。チューブトラブルが発生しやすい状況では、必要のないチューブ類は早期に抜去することが重要です。

観察の問題
 痴呆症状のみられる患者は、チューブトラブルが発生しやすい状態と考えられるため、家族についてもらうことや、家族不在時にスタッフの目の届きやすいところに移動することは対策の一つであると考えられます。しかしながら、患者から全く目を離さないことは現実的には不可能であるため、これらの対策だけでは不十分でしょう。また、頻回に訪室して患者の様子を確認することは重要ですが、他の患者の状態などによっては時間通りに訪室できない状況も発生し得ます。事実、本症例では、他の患者の処置と重なって訪室が遅れたときに自己抜去が起こっています。したがって、観察を強化することによって自己抜去を防ぐことには限界があるとの認識が必要です。

適応の問題
ドレーン・チューブ類に関するヒヤリ・ハット事例の中で、「自己抜去されたあとに再留置を行わなかった」という事例がみられます。言い換えれば、不必要なチューブ類が留置されていたことになります。チューブ類が留置されていると自己抜去のリスクは高くなるので、「適応のないチューブ類は留置しない」ことが重要です。また、時期尚早で抜去できないドレーンがある場合、それら短くカットすることも自己抜去を防止するための方策の一つです。手術部位感染予防の観点からは「ドレーンの短カット」は推奨されませんが、「リスク(手術部位感染)」と「ベネフィット(自己抜去の防止)」のトレードオフという発想に立てば、取りうる対策の一つと考えられます。



  事例186:(挿管チューブの適応が疑問視される患者の挿管チューブの自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】患者の年齢【65歳】
患者の心身状態【下肢障害、歩行障害、麻酔中・麻酔前後】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師 】
当事者の職種経験年数【 年 ヶ月】当事者複数
当事者の部署配属年数【 年 ヶ月】当事者複数
発生場面 【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【     】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【アセスメント不足】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【     】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【看護職間の連携が不適切】
発生要因-勤務状態 【休憩中であった】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【説明が不十分だった、看護師と患者のコミュニケ^ション不足】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【  】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
患者は当日の朝10時頃より人工呼吸器をはずし、Tピースを装着していた。挿管チューブの必要性は十分説明しており、本日よりTピースとし、来週明けに抜管予定であることは説明していた。11時半まで固定に問題なし。11時半より当事者は休憩中であった。スタッフの半数が休憩中であり、病棟内の人手が不足していた。他スタッフは頻回訪室しており、12時20分にも訪室し、特に危険行動やチューブを触る様子等はなかった。12時30分、当事者が訪室すると、患者が挿管チューブを自己抜管し、握っていた。Sao2は94%へ低下していた。酸素マスク10Lにて吸入開始し、Sao2は100%へ上昇した。主治医へ報告、来棟し、ミニトラックを挿入された。ミニトラック挿入後、呼吸状態変化なく、レントゲン上も問題みられず。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
・看護師の観察が不十分であった。
・意識レベルがクリアであり、体動も激しく、自己抜管するリスクが十分にあったが、その危険性への配慮が足らず、抑制を行っていなかった。
・他スタッフへの引き継ぎの際、自己抜管のリスク、注意が必要であること等を申し送れていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
・自己抜管のリスクをアセスメントし、注意して観察、頻回訪室を行う。リスクが高いと考えられる時は、抑制を行う等事故防止策を実行する。
・他スタッフへの引き継ぎの際、注意して観察が必要であること等、具体的に申し送りを行う。
・挿管中の患者は、特に注意して観察を行う。頻回訪室を行う。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
挿管チューブ適応の検討
 患者が挿管チューブを抜いた時のSaO2値は94%でした。これに対し、週明けまでの3日間、Tピースを装着しておくという医師の指示には疑問が残りますが、疾患や病期の記載がないため十分な解釈ができません。呼吸状態は刻々と変化するため、患者の病状に対するチーム内での活発な情報交換と治療方針の共有がリアルタイムで必要であると考えますが、情報の共有は十分行なわれていたのでしょうか。「自己抜管のリスクをアセスメントし、注意して観察、頻回訪室を行う」と記載されていますが、自己抜管のリスクをアセスメントする以前に、そもそも挿管チューブは必要か否かを十分検討することが重要です。必要性が低ければ、抜管するという判断も必要です。まずは挿管チューブの必要性をアセスメントすることからはじめましょう。

患者の反応と自己抜管の予測
 「挿管チューブの必要性は十分説明しており…」とありますが、この時の患者の反応はどうだったのでしょうか。説明を十分理解した様子が見受けられたのでしょうか。治療の説明に対する患者の反応は認知力の把握のために必要な情報です。また、「11時半より当事者は休憩中であった」、「他スタッフは頻回訪室しており」と記載されており、自己抜去までの医療者側がとった行動はよく分かりますが、その間の患者の言動や行動などの記載が不足しています。他のスタッフからの観察内容も加え、事故に至る過程を整理し、抜去行動に関連する患者の要因を明らかにすることが必要です。

改善策について
「リスクをアセスメントし注意して観察」、「他スタッフへ注意して観察が必要であること等、申し送る」、「挿管中の患者は、特に注意して観察」と記載されていますが、どれも具体的ではありません。スタッフ間での情報の共有のしかた、協力体制や連携の取り方についての見直しが必要になると考えます。

 ■改善策に関するコメント
挿管チューブの必要性をアセスメントする
 気管チューブの自己抜去報告では、挿管チューブ抜去にむけてのウィーニング中に、患者に抜かれてしまう事例が少なくありません。しかしながら、再挿管の必要な事例は半数で、残りは再挿管されず、抜去の時期をもう少し早めても良かったと考えられる事例です。本事例は、挿管チューブの必要性についてもっと十分な検討がされるべきだったのではないかと考えます。自己抜管のリスクをアセスメントする以前に、そもそもこの挿管チューブは必要があるのかどうかのアセスメントをする必要があったと考えます。不必要なラインは早期に抜去して、少しでも患者が感じる拘束感を取り除くことが何よりもトラブルを回避するために重要です。

患者の状態の観察
本事例のように、気管内挿管されている患者は、言語的コミュニケーションがとれず意思が伝えられないこと、一人で動けないこと、昼夜関係なく行われる気管内吸引による身体的・精神的苦痛は大きいことが考えられ、それらは不穏の要因となることも考えられます。チューブ挿入中の患者の違和感や不快感の訴えのサインは注意深く観察し、抜去事故を未然に防ぐ必要があります。

人員配置
 本事例は「スタッフの半数が休憩中であり、病棟内の人手が不足していた」、「金曜日」の「12時から13時」、「病室」で発生しています。平日の日勤帯ですので、通常のスタッフの人数が確保されていたと想像します。一般病棟のようですが、挿管中の患者に対応する人員確保は十分だったのでしょうか。人手が不足ならば、スタッフの増員を検討するか、受け入れ患者の重傷度および人数を見直す必要があると考えます。まずは、病棟内の半数が一斉に休憩をとるのではなく、少人数ずつ時間差で休憩するなど工夫はできないでしょうか。



  事例207:(胃ろうの構造を理解していない職員によるチューブの誤接続)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【20時〜21時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【26歳】
患者の心身状態【意識障害】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年10ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年10ヶ月】
発生場面 【ドレーンに関する処置】
(薬剤・製剤の種類) 【    】
発生内容 【減圧チューブの挿入】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【    】
発生要因-知識 【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技) 【技術が未熟だった】
発生要因-報告等 【報告相談が遅れた】
発生要因-身体的状況 【    】
発生要因-心理的状況 【    】
発生要因-システムの不備 【    】
発生要因-連携不適切 【    】
発生要因-勤務状態 【    】
発生要因-医療用具 【    】
発生要因-薬剤 【    】
発生要因-諸物品 【    】
発生要因-施設・設備 【故障していた】
発生要因-教育・訓練 【    】
発生要因-患者・家族への説明 【    】
発生要因-その他 【    】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
医師の指示にて14:30から19:00まで胃瘻から経管栄養を注入し、19:00から20:00まで1時間クランプをした。20:00持続的に、胃内容物の減圧するために、経管栄養用の連結チューブをウロバックにつなげた。挿入時、チューブ内にも排液はなかった。その旨を夜勤の看護師に申し送った。1/21朝8:00まで排液が全くなく、他の看護師が疑問に思い、接続部を観察すると、経管栄養の連結チューブ接続しており、減圧されていないことが分かった。チューブを減圧用の連結チューブに付け替え、その後排液見られたため、様子観察する。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
・胃瘻の構造を理解していなかったため(胃瘻には逆流防止弁が、ついており、胃内容物の逆流を防ぐようになっている)経鼻栄養の場合と同じ様に、経管栄養用の連結チューブをウロバックに接続し、排液がなかったが、胃内容物が溜まっていないのだろうと思い込み、チューブの接続が間違っているか疑問に思わなかった。
・減圧用の連結チューブがあることを知らなかった。
・胃瘻からの減圧は始めてであったが、他の看護師に相談しなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
自分が不安な援助や処置について、自己判断するのではなく、相談する。また、再度、胃瘻について学習し直した。今後、すべての援助に対して、あいまいな知識で行うのではなく、根拠を持った上で行わなければ事故につながることを再認識した。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
職種経験・部署配属年数が1年10ヶ月となっていますが、胃瘻からの減圧は初めての経験との記入があります。胃瘻を増設した患者の少ない病棟だったのでしょうか。また、減圧用の連結チューブの保管場所は決まっていたのでしょうか。発生要因に具体的に記入されるとよいでしょう。
 事例の概要の発生要因・施設・設備欄に「故障していた」とありますが、何が故障していたのかが不明です。具体的内容に記入されると改善策を検討しやすくなるでしょう。

 ■改善策に関するコメント
胃瘻の管理
 病棟での胃瘻についての管理方法は周知徹底されていたのでしょうか。頻度の少ない処置が必要な場合には、患者カルテに看護手順を入れるなど、いつでも情報が共有できる状況にしておきましょう。経管栄養用の連結チューブと減圧用の連結チューブはチューブの先端が異なります。区別しやすいように、チューブにテープを貼り経管栄養用・減圧用と記入したり、製品説明書を患者カルテに入れることも情報の共有になります。2種類のチューブが必要なので、チューブの置き場所を統一しましょう。
 勤務交代時、申し送りを受けた内容を含めて患者の観察をしているでしょうか。患者は意識障害があり、苦痛を訴え難い状況にあります。胃瘻チューブや排液量の観察だけでなく、腹部の観察も必要でしょう。
 知識や手技の不備が生じないように、新しい処置や頻度の少ない処置は情報が共有でき、いつでも取り出せる状況にあるとよいでしょう。

【参考資料】
「ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全読本」、川村治子、医学書院、2300年7月
「医療エラー「こうして防ぐ」ガイド」、嶋森好子、照林社、2004年8月



  事例208:(抑制していたが数秒間目を離した隙に自己抜去された胃管チューブ)

  発生部署 (集中治療室)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【2時〜3時台】
発生場所【ICCU】
患者の性別【男性】 患者の年齢【76歳】
患者の心身状態【床上安静,せん妄状態】
発見者【男性】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【4年9ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年6ヶ月】
発生場面 【胃管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自然抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分だった】
発生要因-観察 【観察が不十分だった】
発生要因-判断 【アセスメント不足】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【技術が未熟だった】
発生要因-報告等 【発見後すぐに行った】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【他のことに気をとられていた,大丈夫と思った】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【夜勤だった】
発生要因-環境 【照明が暗かった】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【そのたの対応に関する問題】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
患者は術後不隠状態にあり何度も挿管チューブやルートに手を伸ばし、自己抜去をしようとしており、予測はしていた。そのため、上肢抑制し、繰り返し患者に説明していたが、数秒目を離したすきに自己抜去してしまった。上肢の抑制をしていたため手が届かないと考えていたが、患者の体幹自体が下方ヘずれ降りてしまったためにチューブに手が届いてしまった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
頻回に目を配っていたが予測できない患者の動きに対応できていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
手が届かない位置に上肢の抑制を行うだけでは体動の激しい患者には不十分であり、体幹の位置もこまめに確認し、必要であれば体幹や下肢の抑制も行う。頻回に観察しどうしても離れなければいけないときは他のスタッフに見てもらう。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
チューブは必要か否か
 患者は術後不穏状態と記載されていますが、これだけでは患者像が把握できません。病名、病期、治療内容、挿入されているチューブの種類・目的などを記載することで、チューブの挿入の必要性が明らかになります。しかし、本事例の記載内容からはチューブの種類およびそれらの挿入の必要性について推察することができません。
事実を正確に
 「自己抜去をしようとしており」と記載されていますが、この時点では実際に自己抜去にいたっていないので、ふさわしい表現ではありません。患者が挿管チューブ等を触っている状況をみてそのように考えたのかもしれませんが、事故の検証は経過の記述から行なわれるため、客観的事実を正確に記してください。「〜と思われる」「〜のようだった」というあいまいな表現は避けましょう。
抜去を予測した理由
 「(自己抜去の)予測はしていた」と記載されていますが、予測にいたる諸々の事実の記述と、どんな状況が揃ったときに自己抜去すると予測を立てるのか患者要因を明文化し、今後の教訓として生かして欲しいです。
事故対策について
 自己抜去を予測して「上肢抑制」を行っていますが、貴院(ICU)における抑制を行う判断基準とその方法について整理しておくことが必要です。病床環境の要因を明らかにするため、ベッドの配置、部屋全体の見通しについて、各勤務帯の看護人員、受け持ち患者数、業務量などの分析も必要です。
事故対策の評価
 観察方法として、チーム内でどのように連携をとっていたのか、また、上肢の抑制はどのように施行されていたのかを具体的に記載することで、事故対策の改善につながると考えます.

 ■改善策に関するコメント
 本事例は、上肢を抑制し、頻回に目を配っていたにもかかわらず、ほんの数秒目を離したすきに自己抜去がおきています。病棟と比較してスタッフの目が届きやすいICUという環境でも、患者の一瞬の動きに対応できないケースが多くあります。ここに抜去事故の対策の困難さが表れています。本事例では上肢の抑制を実施していますが、患者・家族の同意下、患者の安全を守るために効果的であると判断されたならば、抑制もひとつの選択であると考えます。

身体抑制を行う際のポイント
1. 環境、時刻、疼痛、その他の活動等の要因が、不適応行動を引き起こしているかどうかをアセスメントする。
2. 不適応行動を引き起こしている要因を取り除いたり、緩和したりするなど試みる。
3. これらの要因を取り除く努力をしても、患者自身に危害を及ぼすような行動が続く場合は身体抑制をする。
4. 必要な場合には、患者や患者の家族、患者の代理人等が抑制実施を決定するプロセスに参加する。
5. 抑制について、患者の家族に情報提供・教育をする。



 
事例214:(術後せん妄による胃チューブの自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【木曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【20時〜21時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【88歳】
患者の心身状態【痴呆・健忘,せん妄状態】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年 10ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年 10ヶ月】
発生場面 【栄養チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【     】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-記録等の記載 【     】
発生要因-勤務状態 【夜勤だった】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
舌癌摘除術後1日目の患者である。1/15の朝からマーゲンチューブより流動食が開始になっていた。夜勤前の情報収集時に夕方マーゲンチューブを自己抜去したと聞いていた。10時間勤務者からもマーゲンチューブを気にしておりテープが気になると発言があることを申し送りされていた。20時30分頃バイタル測定に訪室する。テープをさわっていたが説明すると納得された。マーゲンチューブはフィクソムルで鼻から頬へと固定されていた。21時過ぎ再度訪室する。入眠されていた。21時40分頃眠前巡視で訪室する。端座位の姿勢になっておりマーゲンチューブが抜去されているのを発見する。
準夜師長に報告した。主治医来棟時、状況を報告して再度マーゲンチューブを挿入してもらった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
患者が術後せん妄になっていたこと。
訪室する間隔が短かったこと。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
訪室の回数を増やす。チーム全体で観察していく。
患者に必要性を説明しつづける。
固定を強化する。
カンファレンスで話し合い対策について検討した。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
自己抜去が起こった背景や要因を分析するために、以下の視点で情報を整理します。
チューブ挿入の必要性についてのアセスメント
 チューブ挿入中の患者の自己抜去対策として、不必要なラインは早期に抜去して少しでも患者が感じる拘束感を取り除くことがあげられます。この事例のチューブ挿入は必要か否かについては「舌癌摘除術後1日目」であり創部の安静、感染防御の目的のために胃チューブが挿入されていたと考えられ、必要な治療であったと推測します。
患者の状態把握および自己抜去対策
 報告者(当事者)は前勤務時間帯のスタッフから「夕方、胃チューブを自己抜去した」、「胃チューブを気にしておりテープが気になると発言がある」との申し送りを受け、患者の状態を把握したうえで勤務に臨んでいたことが記述により分かります。さらに、自己抜去が予測される場合、その対策はチーム内(医師と看護師の連携を含む)で共有されていたのか、この組織の取り組みは日頃どのように行われていたかなどについても記載しておくとよいでしょう。
自己抜去対策の実行
 自己抜去の可能性を予測し、20時30分、21時過ぎ、21時40分に訪室していますが結果的に抜去に至っています。事前に事故対策の計画がされていたにもかかわらず、それが遂行できなかったのであれば、計画していた内容とできなかった理由をあげておくことが必要です。
評価
 実施した内容の評価について「チーム全体で観察していく」、「カンファレンスで話し合い対策について検討した」と記載されていますが、検討内容や今後の方策について具体的に記すことで具体策の検証や事故対策の構築に役立ちます。
分かりづらい表現について
 報告を記述する際の留意点として、生じた事例を多角的に検証するために、誰が見ても分かるような表現で正確に記載することが必要です。以下に分かりづらい表現をあげます。
「10時間勤務者からもテープが気になると発言がある」の“10時間勤務者”とは、どのような立場の人を指しているのでしょうか。引継ぎ等で人手が不足する時間帯をカバーする人なのでしょうか。受け持ち以外のスタッフとの情報の共有のあり方や業務の依頼の方法等を考えるうえで、このスタッフの存在を明確に表現すると良いと思います。
「訪室する間隔が短かった」というのは、30分という間隔が短かったということでしょうか。この表現ではどのような意図を持って要因としたのかが分かりづらいです。

 ■改善策に関するコメント
 チューブの自己抜去の予測をしていたにもかかわらず結果的に抜かれてしまったという本事例は、当事者個人の問題だけではなく、患者要因や組織の問題も含め総合的に捉え、解決策を導くことが重要です。
事故対策は患者に関わる全てのスタッフで検討する
 看護師経験が1年10ヶ月(部署配属年数10ヶ月)である当事者一人の判断で、抜去事故の再発防止の対策や計画の実施を任されていたのならば、経験不足から確認や観察が不十分であったことも否めません。経験の浅い看護師への教育的関わりも念頭に置き、患者に関わる全てのスタッフで事故対策を考え、計画を実行することができるよう、管理者の働きかけが必要です。患者の状態を把握するためには、時間帯による活動の違いや、関わり方の違いによる患者の反応の違いなど、多くのスタッフから情報を集めることが必要です。多くの情報をもとに、事故にいたる患者の要因を明らかにすることが自己抜去対策を講ずるうえで重要です。
 本事例では「主治医来棟時、状況を報告して、再度、胃チューブを挿入してもらった」と記載されていますが、再挿入の如何について、医師、看護師で情報を共有することが必要です。抜去後、すぐに医師に報告すべきか、そのまま次の食事時間まで様子観察でよいのか等、看護師の対応について明確にしておくとよいでしょう。
せん妄状態にある患者への対策
 本事例では患者要因として「術後せん妄になっていた」と記載されており、改善策に「患者に必要性を説明しつづける」とあげられています。この場合、せん妄状態にある患者に対して理解を求めることは困難であると考えます。また、患者の心身状態に「痴呆・健忘」とも記されています。せん妄や痴呆等、患者の精神的な変化に対する評価は容易ではなく、スタッフにより意見の違いも考えられ、起こりうる事故の予測にも影響します。本事例は病室(一般病棟)で発生していますが、例えば、このような患者に多く関わっているICUの看護師やリエゾンナース、精神科医等に患者の評価に参加してもらうことも必要であると考えます。
連携して患者を観察する
 本事例では、20時30分、21時過ぎ、21時40分に訪室していますが結果的に抜去に至っています。約30分毎の訪室が就前の業務の重なる時間帯に、限界だったのではないかと推測します。特に夜勤帯では、看護師一人が担当する患者の数が日勤帯の約3〜4倍になります。危険行動の恐れのある患者に対して、一人の看護師が常時観察することは不可能です。経験不足のスタッフをカバーできる人員配置や、患者の重傷度に合わせた受け持ち患者の割り振りを考えるなどの管理体制が必要になります。また、危険行動の恐れのある患者に対して、複数のスタッフの目が行き届きやすい環境や、異常に気づいた時にすぐに駆けつけることができるような部屋に移動するなど、病床環境を臨機応変に変更することも必要です。



 
事例215:(挿入後固定されなかったために自然抜去した胸腔ドレーン)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【木曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【22時〜23時台】
発生場所【その他病院内】
患者の性別【男性】 患者の年齢【64歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【患者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【0年10ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年10ヶ月】
発生場面 【胸腔ドレーン】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自然抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【技術(手技)を誤った】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【     】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-記録等の記載 【     】
発生要因-勤務状態 【     】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【  】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
患者は日勤帯でドレーンを3cm程抜いてドレーン先端の向きを変える処置を受けていた。20時頃に観察した時、胸腔ドレーン刺入部にマーキングなく、ドレーンがズレているかどうかの確認ができなかった。しかし管内の排液及びチェストドレーンバッグの水封部が呼吸に合わせて上下していた為、しっかり入っているものと判断した。23時頃患者本人が詰所までドレーンが抜けたこと報告しに来た。洗面室にお茶を入れに行ったところ、特に何もしていないのにスルッと抜けたとのことだった。創部のガーゼは排液で黄色くなっていた。創部をガーゼの上から圧迫し、当直医師に連絡した。当直医師に診察してもらったところ、固定具はナートされていたがドレーンチューブ自体はナートされていたなかったことが分かった。アスピレーションキットを入れていたので創部が小さい為、空気が入るようなことはないだろうと診断され、厚めのガーゼをあてておくよう指示された。指示通り厚めにガーゼをあて、バイオクルーシブで留めた。また排液でガーゼが汚染されるようであれば交換するので報告してほしいことを患者に伝えた。以後患者入眠し、異常認めないまま現在に至る。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
マーキングがされていなかった
ドレーン自体がナートされていなかった
夜勤者は刺入部の状態を自分の目で確認していなかった

 ■実施したもしくは考えられる改善策
ドレーンを留置したら必ずマーキングし、ズレがあれば 一目瞭然となるようにする
必ずドレーン自体もナートするよう医師に声をかける
マーキングされていないのなら刺入部の状態を確認する



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
時間経過にそって分かりやすく記述されていると思います。以下のような情報があれば、知識・技術・判断・教育・訓練などの発生要因が分かり、より具体的な改善策が可能になるでしょう。
 ・ 患者の病名、病状
 ・ 当該病棟ではよくある処置であるか否か
 ・ 当該看護師の胸腔内吸引に関する教育内容、同様の処置の経験の有無、卒後教育の現状
 ・ 処置基準等のマニュアルの存在とその内容
 ・ 処置を実施した医師の胸腔内吸引に関する教育内容、同様の処置の経験の有無、卒後教育の現状、
 ・ 観察項目のルール化
 ・ 同シフトの勤務者間で、この情報は共有されていたか否か

 ■改善策に関するコメント
1.院内における安全管理にかかる医師の診療手技の統一
 改善策に「必ずドレーン自体もナートするよう医師に声をかける」とありますが、処置や治療に関する責任は医師にあります。チーム医療において相互にチェックを行うことは重要ですが、各自が自分の役割と責任をきちんと行いミスを予防するしくみをつくることが必要です。スタンダードな診療行為ができるよう手順を院内で統一する必要があるかもしれません。処置についた看護師個人の注意にゆだねるのではなく院内で統一した安全管理のための診療マニュアルやルールを策定し、それぞれの責任を明確にしましょう。まず、看護部だけでなく、院内安全対策委員会等において安全管理の観点から診療マニュアルやルールが必要か検討するような組織体制づくりが必要です。
 また改善策にも記載されていますが、ドレーン留置の際は体の動きにより固定がずれる可能性があるので、油性マジックでドレーンと皮膚の両方に固定位置の印をつけ、固定がずれた際の早期発見につながるような対策と観察項目もルール化していくことが必要でしょう。

2.新人看護師の教育の徹底と環境の整備
 「3cm程抜いてドレーン先端の向きを変える処置を受けていた。20時頃に観察した時、胸腔ドレーン刺入部にマーキングなく、ドレーンがズレているかどうかの確認ができなかった。」とあります。看護師には「診療の補助業務」として、患者の呼吸状態を初めとする全身状態の観察と、治療の効果と危険の兆候を観察し判断するという役割が期待されていると思います。但し、当事者の経験年数が10ヶ月ということから、まだまだ多くのことを覚えながら実践している状況であり、適切な判断が出来るのか否か、同シフトで働く者が把握し確認しておくことも重要なことでしょう。そして、必要に応じて、勤務者間での役割や業務分担の調整も重要となります。今回は新人看護師の事例でありますが、ローテーションしてきた看護師であっても同様のことがいえると思います。

3.メーカーへの提言
 今回の事例から、メーカーに安全の観点から商品改善等の余地はないか提言してみる必要があるでしょう。例えば、ドレーンにナートする際の固定具が備わっていれば、ナート忘れ等のミスを未然に防止できるかもしれません。また、メーカーにはこのようなリスクがあることの広報や具体的な対策の実施を行っていただきたいと思います。



 
事例234:(挿管時の抑制不足による自己抜去)

  発生部署 (集中治療室)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【木曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【0時〜1時台】
発生場所【ICU】
患者の性別【女性】 患者の年齢【 歳】不明
患者の心身状態【薬剤の影響下】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【12年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【6年 7ヶ月】
発生場面 【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【大丈夫と思った】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-勤務状態 【     】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【  】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
夜間プロフォロール使用していたが幻覚などあるとのことで本日からハルシオンに変更となり睡眠状況観察していた。21:50ハルシオン0.375mg腸瘻から注入その後入眠できていた。23:00吸痰施行時開眼、手を挿管チューブの方にもってくるが終わると再び入眠していった。24:00起きあがってくる。挿管チューブを抜いて欲しいとジェスチャーで訴えあり。チューブの必要性を話し、ここまでのことを励まし臥床促し体位整える。10分後側臥位となりベット柵に足をかけているため両上肢抑制する。病棟の申し送りをしICUへ入っていったところ深夜勤務者が自己抜管を発見したところであった。(座っており、挿管チューブ8cmのところでぶらさがっていた。右の抑制が輪となって抜けていたとのこと)

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
挿管による苦痛、ストレス
睡眠が得られていない
物音などしても目がとどかない状況にあった

 ■実施したもしくは考えられる改善策
抑制は確実に行う



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
薬剤名の正確な表記を行うこと
プロフォロール → プロポフォール ではありませんか?
薬剤について十分に知っていましたか?医師の治療計画の意図を十分に理解していましたか?
 ヒヤリ・ハット報告の中で「夜間プロポフォールを使用していたが、幻覚などあるとのことで本日からハルシオンに変更となり睡眠状況観察していた。」とありますが、文中にはいくつかの矛盾がみられます。正しく薬剤の用途、薬効、副作用を理解していたのでしょうか?
 プロポフォールは全身麻酔・鎮静用剤です。効能・効果は、(1)全身麻酔の導入および維持 (2)集中治療における人工呼吸中の鎮静となっています。「麻酔・鎮静用剤」であり、意識活動を鎮静する機能を持っている薬剤です。したがって、プロポフォールを使用することが原因で、「幻覚」の訴えがあるということにはやや疑問を感じます。また「挿管管理中」の患者のどのような訴えを持って「幻覚」症状があると判断されたのでしょうか?
 ハルシオン(トリアゾラム)は睡眠導入剤です。前者が全身麻酔・鎮静用剤であるのに比して、こちらは「睡眠導入剤」であり、「入眠時間を短縮する」薬剤です。ハルシオンは「睡眠導入剤」ですので、文中でも患者は覚醒しているように、疼痛刺激を与えれば覚醒レベルが上がります。また途中覚醒時の一過性の健忘など「患者が自分のやることに責任を持てない状態」となる可能性もあると添付文書上で忠告がなされています。さらにハルシオンの半減期は3時間と短く、効果発現時間の短い向精神薬であるのですが、このような呼吸器管理下の患者に対しての薬剤選択として適切だったといえるのでしょうか。
 医師は何を意図してこの処方を行ない、患者をどの意識レベルで管理しようとしていたのでしょうか。また看護師は、この2者の薬剤の違いは把握していたのでしょうか?また、この処方の変更の意味を十分に理解し、起こりうる状況に対する予測はできていたのでしょうか?
患者の意識状態、認知レベルの評価について
 患者の意識状態、認知レベルの評価は適切に行うことができていたのでしょうか。
 「幻覚」があったと書かれていますが、挿管下で鎮静薬投与を受けている患者の「幻覚」症状はどの様に確認し、評価していたのでしょうか。また、呼吸器管理下、「幻覚がみえる」などの訴えがあれば、不安や意識変容状態があることは推定可能だったと思われますが、睡眠導入剤でこれらの症状の緩和ができたと評価されたのでしょうか。処置時の途中覚醒、チューブをさわる、また挿管中に自分で体位を変える様子が見られる、などは、いずれも自己抜去の予兆となる重要なサインだと捉えるべきでした。これらのサインを見たうえで、薬理的な知識があれば、医師に追加の処方や他の鎮静方法の要求などができたかもしれません。
 抜管を発見した時、患者は「座っていた」とありますが、麻酔薬による中枢神経への抑制が解除されれば、充分これらの体動が可能であり、上肢の抑制だけでは「体動を抑制」するには不十分だと判断はできなかったのでしょうか。事例を振り返って、患者の状態に関して「挿管による苦痛・ストレス」「睡眠が得られていない」といった要因が挙げられていますが、これらに関して患者への影響をどのように評価していたのか、またそれらの緩和のための具体的かつ個別的援助が計画されていたのでしょうか。問題が問題のまま放置され、対策が「観察・監視」のみになっていないか見直す必要があります。
管理上の問題について
 また、患者がICUにいながら、短時間でも観察の目が届かなくなる状況があることには問題があります。
勤務交代の申し送り時には担当者が部屋を出て行かなくてはならないといった病棟の構造上の問題
申し送り時の観察・監視体制についての状況
にも視点を向けて記載すると、この事象に関連している管理上の問題がより明確に認識できるのではないかと思います。

 ■改善策に関するコメント
申し送り時のスタッフ間の連携強化
 発生時間が0−1時と言うことで申し送りのために観察が粗になったことが影響していると考えられます。また、この事例では、申し送りのためにICUを離れなければならないような構造上の問題があるようです。病棟に併設されているICUの場合には看護師が病棟と兼務となることがありますが、生命維持に関わる治療処置を受けている患者がいる場合には、他のスタッフにその間ICUでの観察を依頼し起こりうる事について注意喚起するなど意識的な観察がとぎれないような体制を確立する必要があります。
患者の意識状態、認知レベルからのリスクの評価と介入計画
 患者の覚醒状況や精神神経症状についてのアセスメントを強化して下さい。必要であれば勉強会をもつなどして、患者の精神神経症状のアセスメント技法や薬剤の知識の普及をはかる必要があります。また、医師と看護師の間で、患者の状態についての情報交換、情報共有を密にして、患者の治療管理計画について見解を一つにしておく必要があります。
 患者の安静を保つための薬剤の使用に関しての基準、目的の共有をする手順の検討を行って下さい。
 鎮痛・鎮静に関連した薬剤を使用する上では、「夜間鎮静目的」「苦痛の除去」など、その薬剤の使用目的と管理目標を医師は明確に記述すべきです。また看護師は、その薬剤の効果、管理目標を意識して情報を収集し、評価につなげていくようにします。
 担当医師は、薬剤の使用に関して十分な知識が無いときには、薬剤師や麻酔科医師、精神科医師などの専門家に相談して十分な情報を得た上で管理に当たるべきです。
 看護師は、薬効、作用時間、投与方法等の薬剤の情報をもとに、患者の状態やリスクを予測し、適切に治療管理の遂行に努めるべきです。
 医療チームでの総合的な対策を立てるべきです。
鎮静を充分行わずに、侵襲的治療管理を行う場合には、担当看護師の責任でなく医療チームとしてリスクの程度を把握し、患者を継続的に見守るような態勢が必要になります。とくに意識障害の患者は「自分の安全を自分の責任で守れない状態」「ときには治療や看護に抵抗して自分に害を引き起こす可能性のある状態」であり、その点に関して介入が必要な状態である、と言う認識を持ってください。介入には、薬剤によるコントロール、人の配置、抑制などがあります。それぞれの認識や活用可能な資源で見解は異なると思いますが、患者のリスクを十分にアセスメントし、安全を確保するために必要な人員配置や体制を整えるべきです。管理者は、スタッフから十分に患者の情報を得てこれらの調整を行う義務があります。



  事例244:(異なるメーカーのコネクター使用による接続部のゆるみと外れ)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【1時〜2時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【 歳】不明
患者の心身状態【睡眠中,障害なし】
発見者【患者本人】
当事者の職種【助産師】
当事者の職種経験年数【1年10ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年10ヶ月】
発生場面 【中心静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類) 【    】
発生内容 【接続はずれ】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【アセスメント不足】
発生要因-知識 【情報が不十分であった】
発生要因-技術(手技) 【確認が不足】
発生要因-報告等 【    】
発生要因-身体的状況 【    】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【    】
発生要因-連携不適切 【看護職間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【夜勤だった】
発生要因-環境 【照明が暗かった】
発生要因-医療用具 【    】
発生要因-薬剤 【    】
発生要因-諸物品 【    】
発生要因-施設・設備 【    】
発生要因-教育・訓練 【    】
発生要因-患者・家族への説明 【    】
発生要因-その他 【    】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
2時の巡視時にはルートの接続と輸液ポンプでの滴下を確認したがしっかり接続部が固定されているかどうかまでは確認していなかった。3時45分患者本人より血液が逆流しているとナースコールあり訪室する。フィルター内まで逆血みられた。またマイクロインフュージョンマニュフォールドとフィルターセットとの接続部がはずれていた。すぐに接続し直し滴下確認するも滴下みられず血液はフィルター内で凝固していた。当直医に報告しCVC挿入部確認していただき凝固しているため4時にCVC抜去となった。本日化学療法予定であり8時30分に主治医に報告して末梢からルート確保し化学療法施行となった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
ルート接続していることと滴下確認したもののネジがしっかりしまっているかまでは確認していなかった。鼠径部からCVC挿入されていたため体動時ルートがひっかかりやすい。喫煙等で移動が多い患者でありネジがゆるむ可能性があった。点滴セットが違うメーカーであり接続部がゆるい。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
接続部は全てテープで固定する。全ての患者のルートの接続部をテープ固定することをルチーン化する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 発生した要因に点滴セットの組み合わせ・固定方法は通常の方法であったかなどが記入されていれば、適切な改善策に結びつくでしょう。また発生した要因を複数分析されているので、個々の要因について改善策を検討されるとよいでしょう。

 ■改善策に関するコメント
輸液ラインの接続部確認
 記入されている発生した要因から、(1)ネジがしっかりしまっているかまでは確認していなかった。(2)鼠径部からCVC挿入されていたため体動時ルートがひっかかりやすい。(3)喫煙等で移動が多い患者でありネジがゆるむ可能性があった。(4)点滴セットが違うメーカーであり接続部がゆるい。という4つの要因を検討する必要があります。実際に考えられた改善策は、「全ての患者の接続部をテープ固定する」ということのみになっています。今回の事例では、医療側と患者側に分けて要因の改善策を立てるとよいでしょう。
医療側の要因
 輸液ライン確認の看護手順を活用しているでしょうか。輸液ラインのチェックリストを点滴スタンドにセットし、リスト順に確認するとよいでしょう。
 CVCを挿入する部位は患者の行動範囲に合わせて検討するとよいでしょう。移動が多い患者であれば、鼠径部からのCVC挿入は接続部のゆるみ・はずれなどを起こしやすいでしょう。また、CVC抜去後は末梢ルートから化学療法を施行しているので、CVC挿入の必要性も検討できるとよいでしょう。
 輸液ラインの固定方法は接続部位の固定だけでなく、ひっかかりなどでゆるみ・はずれないように直接輸液ラインが抜けない固定方法が必要になります。例えば、固定の際にループをつくるなどがあります。
 点滴セットの組み合わせについては規格が異なる物品の使用は避けるべきでしょう。初めからゆるみが予測される部品の使用は危険です。通常は使用しない組み合わせであったかは不明ですが、多くの種類の組み合わせがあるのもエラーに繋がりやすくなります。また、ロック式の三方活栓や閉鎖式輸液回路の導入も有効でしょう。
患者側の要因
 今回の事例の患者は心身状態の障害はなく、喫煙等で移動をしているので、患者や家族へのCVC挿入中のオリエンテーションをするとよいでしょう。また、夜間の看護師による輸液ラインの安全確認の協力もオリエンテーションしておくとよいでしょう。患者や家族の協力を得ることは危険防止に繋がります。

【参考資料】
「ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全読本」、川村治子、医学書院、 2003年7月
「医療エラー「こうして防ぐ」ガイド」、嶋森好子、照林社、2004年8月


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