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記述情報分析事例

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記述情報分析事例
(19事例)



  事例 4:(説明不足による胃チューブの自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【0時〜1時台】
発生場所【CCU】
患者の性別【女性】 患者の年齢【81歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年9ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年9ヶ月】
発生場面 【栄養チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【  】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【  】
発生要因-観察 【  】
発生要因-判断 【  】
発生要因-知識 【  】
発生要因-技術(手技) 【  】
発生要因-報告等 【  】
発生要因-身体的状況 【  】
発生要因-心理的状況 【  】
発生要因-システムの不備 【  】
発生要因-連携不適切 【  】
発生要因-勤務状態 【  】
発生要因-医療用具 【  】
発生要因-薬剤 【  】
発生要因-諸物品 【  】
発生要因-施設・設備 【  】
発生要因-教育・訓練 【  】
発生要因-患者・家族への説明 【説明が不十分であった】
発生要因-その他 【  】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
深夜との勤務交代時Mチューブが抜けているところを発見。いらないと思って抜いたと患者様は話す。本日抜管しており意識レベルは清明であった。自己抜去による外傷はなかった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
意識も清明で理解もありルートを触るなどの行為はなく、固定具などの使用はしていなかった。患者に必要性は説明していなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
患者に必要性の説明をした
再挿入の必要性を医師にコンサルトした
抜管のルート管理の配慮



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 自己抜去など予測していなかった事例のようですが、ルートを触るなどの行為がなかったため固定具などの使用はしていなかったとありますが、明確な判断基準はあったのでしょうか。また意識レベルも清明で理解力もある患者と判断しているにもかかわらずチューブの必要性が説明されてなかったのはどのような理由からでしょうか。

 ■改善策に関するコメント
 患者がチューブ類を自己抜去する時は、体動が激しい時ばかりとは限りません。なぜ抜くのか、どうした時に抜くのか、どうしたら抜かれなかったという事例を参考にして検討する必要があります。患者要因と看護管理上の要因双方考えるべきです。
 また、本当にそのチューブが必要なのか検討することは、チューブ抜去の危険性を減らすことにつながります。

【参考文献】
 ・ 医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリ・ハット事例収集等事業)報告事例情報分析集—事例351
 ・ 「ヒヤリハット11000事例によるエラーマップ完全本」、川村治子、医学書院、2003
 ・ 「医療エラー こうして防ぐ ガイド」、嶋森好子、別冊エキスパートナース、照林社 2004年8月



  事例24: (低出生体重児の挿管チューブの固定が浅すぎたための抜管)

  発生部署 (集中治療室)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【月曜日】曜日区分【休日】発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【NICU】
患者の性別【男性】 患者の年齢【0歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【9年8ヶ月】
当事者の部署配属年数【8年3ヶ月】
発生場面 【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【医師間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
低出生体重児の気管内挿管チューブ固定テープ交換時テープが指示に比較して浅く固定されていたため、抜管してしまった。速やかに再挿管した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
情報伝達の不備

 ■実施したもしくは考えられる改善策
具体的な指示を出す。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 「事例の具体的内容」は、事故抜管が起こった事実についてのみの記述に留まってしまい、この記述では事故が起こるに至った背景がわかりません。そしてこの文面からは、「再固定位置が浅かったため抜管した」のか「浅い固定であったためテープ貼かえ作業時に抜管した」のかいずれにも読むことが可能です。また、「発生した背景・要因」「実施した、もしくは考えられる改善策」についても、誰のどのような行動について指しているのかが分かりません。対策を具体的なものにするためには、誰のどの様な行為を指すのかを明確に記述してください。
 医療チーム内で挿管管理を行うに当たって挿入長などの情報をスタッフに周知する方法が設定されていない、あるいはチューブ挿入長の評価の時期の設定が不適切であった、など医療管理システム上の問題はなかったのでしょうか。また、抜管前の挿管チューブの管理(固定位置の確認など)、評価は適切なルールどおりに行われていたのでしょうか。さらに事後に、チューブが浅かったことが原因であると判断した根拠は何であったのでしょうか。これらが順に記載されると、管理上でどこに問題があったのか明確になるのではないでしょうか。
 報告書を書くに当たって、この児の呼吸器管理に関わったスタッフの役割と責任を明確にし、各人が把握している情報と業務、事象が起こった経緯を時系列に書き出してみると整理がつくでしょう。単なる処置時の声かけ−連携が悪かったことが原因か、それ以前に守られるべき事項が守られておらず、抜けるべくして抜けたという状況があったのかでは、改善策も異なってきます。

 ■改善策に関するコメント
 平成15年度厚生労働省科学研究「医療安全に資する標準化に関する研究 新生児看護の標準化に関する検討委員会報告」の調査結果によると、新生児医療連絡会に所属している施設の55機関への質問紙調査において、調査された事故全体の10.8%が呼吸器の管理関連であり、そのうちもっとも多いのが抜管(30.2%)でした。事故全体の割合から見ると必ずしも多いとは言えませんが、新生児の医療現場では繰り返し起こっている問題です。
 新生児〜幼児の気管内挿管には、その気道の特性から通常カフ無しの挿管チューブが用いられます(気管切開カニューレも同様)。従って、頸部の動きや口元のテープ固定のゆるみによって容易にチューブ先端の位置が移動します。挿管チューブが浅めの固定であった場合、児の体動によっても容易に抜管がおこります。 新生児〜幼児までの気管内挿管管理においては、常に適切な固定位置でチューブ管理が安全に行われるような評価・管理体制をとること、「抜管しやすい」状態での呼吸器管理であることを十分に認識すること、そして処置時の安全な作業環境に配慮することと、がポイントとなってきます。
管理基準の見直し
 挿管チューブの位置が浅くなっていた原因として、
挿管チューブ固定位置についての判断が甘かった
児の成長にともない至適な固定位置が変化したにもかかわらず、定期的な評価をしていなかった
情報が共有されていないことにより、固定位置にズレが生じていた
といったことが無かったか、また、これらを原因とする事故抜管を防ぐために十分な基準をもっているか検討が必要です。
 根本的な対策として、「成長する」という特性を考慮して、挿管管理中はどの程度の間隔や頻度でチューブの固定位置を再評価するかという基準を明確にする必要があります。チューブの位置が浅い、ということが分かれば即座に適切な位置において管理できるよう修正することが重要です。
 日々の業務に置いては、看護師、医師はシフト毎に必ずテープ固定位置がチューブ挿入長と一致しているか、陽圧時の胸上がりや肺呼吸音の聴取によって適切に管理されているかの確認は業務化すべきです。長期に呼吸器管理が必要な患者には、「週に1回」など定期的に胸部レントゲンを撮り、呼吸管理の評価並びに気管内チューブ先端が適切な位置にあるかを評価する機会をもつべきです。
 また、チューブの固定位置に関しては、児のケアに当たるメンバー全員に周知できる情報提示の方法を決めておく必要があります。情報共有の方法として、厚紙のハガキ程度の大きさのカードに「チューブのサイズ」、「固定位置」などの重要な情報を、遠目でも見える大きさにマジックで書き、保育器やベッドサイドの見やすい場所に貼っておく、という方法があります。挿管チューブに直接マーキングする方法は、固定テープでマークが隠れたり、固定位置が変わったときに複数のマークが存在することになり、混乱が生じる可能性があるためあまり優れた方法とはいえません。
「子どもの挿管管理は事故抜管のリスクが高い」ということの認識を高める
 新生児の呼吸器管理を難しくする要因として、
肺の未成熟期間や障害の程度に応じて、比較的長期の呼吸器管理が必要となってくるため、その間の身体的成長によって挿管チューブの至適な固定位置が変化してくる
新生児への薬剤の安全性が保証されていないことにより、非鎮静下で挿管管理が行われることが多い
発達上の特性として患者に治療の必要性の認知や同意が得られず、協力が得られない
気道の形態的特長から、カフなしのチューブやカニューレを使用しており、口元の固定テープにのみ頼った固定となっている
皮膚が脆弱であることや多くの医療機器は児よりも大きく重いため、行き過ぎた抑制やテープ固定は二次的で重大な損傷を招く可能性があり、「強固な固定」は行えない
ということが挙げられます。
呼吸管理の勉強会や抜管事例の教育的活用を通じて、子どもの挿管管理を行っている現場の医療スタッフの「子どもの挿管管理は事故抜管のリスクが高く、よりいっそうのこまやかな観察、評価が必要である」という認識を高めていく必要があります。
共同作業を行うにあたって「阿吽の呼吸」に頼らない
 危険を伴う処置に複数の医療スタッフで協働してあたることは原則ですが、「暗黙の了解」として打ち合わせなく作業に入っているような状況はないでしょうか。処置者−介助者の「テープを剥がし位置を確認して再固定する役割」「チューブ位置を維持することに専念する役割」といった役割分担や注意事項を、「分かり切ったこと」とせずに必ず口頭で申し合わせしてから処置を始めましょう。
 最後に補足的なことですが、小さな低出生体重児へ処置を行う場合、手の大きな処置者や不慣れな人、指先の器用でない人が行うことで、視野が妨げられたり必要以上に時間がかかったりすることで児に負担を与えることになります。また、狭い保育器内での処置を行わざるを得ないなど、操作が行いにくいことでもエラーが起こりやすくなります。より安全に操作を行うために、処置者の利き手による介助位置や方法の相談、操作面の高さの調整といった「作業環境」にも目を向け、これらを整えて作業に入ることも大切なことです。



 
事例91:(麻酔覚醒途中での管理不足によるチューブの自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【12時〜13時台】
発生場所【その他の集中治療室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【46歳】
患者の心身状態【意識障害、床上安静、薬剤の影響下】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【3年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年11ヶ月】
発生場面 【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【     】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-勤務状態 【     】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
麻酔覚醒途中段階であり、健側上下肢に抑制帯を使用していた。常に見守りをしていたが、処置台で注射薬を作っているときにアラームが鳴り訪室すると抑制帯は外れ自己抜管されていた。主治医に診察してもらい呼吸状態は安定していたので再挿管はしなかった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
麻酔覚醒段階で、チューブ類も多く存在していたので十分な注意が必要だったが、抑制帯を使用していることで大丈夫だろうという思いがあった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
麻酔覚醒段階では少しでも目を離さないよう危険認識ををもつ。
また、スタッフへの協力依頼をする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
麻酔覚醒途中段階にあった患者が抑制帯をはずしたことが自己抜去の直接的な原因と考えられますが、患者の意識状態や身体運動の具体的な状況、抑制帯がはずれた状況が分かれば、自己抜去に至った原因をより詳細に分析できるのではないでしょうか。また、発生時のスタッフの勤務状況や他の勤務者との連携状況が記載されていると、目を離せない状態の患者から目を離さざるを得なかった背景が分析可能になるでしょう。

 ■改善策に関するコメント
 麻酔覚醒段階のように患者の意識が清明ではない状態では、自己抜去の危険性が高くなると考えられますが、改善策に記載されているような「少しでも目を離さない」ことは可能でしょうか。現実には、少しでも目を離さないようにすることは不可能であり、このような実施不可能な対策では問題は解決しないでしょう。本事例の問題点は、「患者から目を離した」ことではなく「抑制帯がはずれた」ことであり、さらに、「本当にチューブの留置が必要であったか」という根本的な問題が含まれています。
抑制の問題
 抑制帯を使用していたにもかかわらず自己抜去が起こる理由として、固定後の可動域の確認不足、体幹の不十分な固定を挙げている報告があり1)、また、川村2)は1万を超える事例の分析の結果、緩めの拘束により自己抜去に至った事例も多かったと述べています。したがって、自己抜去の危険性が高い患者に対して、やむを得ず抑制を行う場合には、確実に実施することが重要です。またそのための方法や患者・家族へのインフォームド・コンセントについても基準を定めておくことが必要と考えられます。
適応の問題
 本事例は麻酔覚醒途中であったことから、当然チューブの留置が行われていたと考えられます。しかし、チューブが自己抜去された後も患者の呼吸状態が落ち着いていたため、チューブの再留置は行われなかったようです。このことから自己抜去する時点では既にチューブ留置の適応がなくなっていた可能性があります。チューブトラブルの可能性が高く抑制帯を使用するような状況であれば、適応のないチューブ類は早期に抜去すべきです。「抜かれる前に抜いておく」という姿勢が大切ではないでしょうか。

〈参考文献〉
1) 「安全・安楽を考慮し、チューブ類の自己抜去を防ぐ抑制帯の作成」、鳥羽幸子ほか、地域医療、488−491、2000年
2) 「ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本」、川村治子、医学書院、2003年



  事例102:(眠っているのでかわいそうと抑制の緩みを放置して自己抜去した事例)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】 発生曜日【土曜日】 曜日区分【休日】 発生時間帯【4時〜5時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】患者の年齢【67歳】
患者の心身状態【痴呆・健忘】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【25年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年6ヶ月】
発生場面 【中心静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【     】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【     】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-勤務状態 【     】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
夜間の不穏が強く体幹ベスト両手の抑制をしてチューブ類の自己抜去を予防していた患者。4時前の巡視では静かに眠っていたので抑制が多少ゆるくなっていたが、かわいそうだと思って締めなおさなかった。4時過ぎの巡視でIVHラインが不自然だったので刺入部を確認すると自己抜去されていた。先端の破損はなく、出血もなかった。医師に報告し、日中に再挿入してもらった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
看護師が抑制をしていた紐の緩みを眠っているのになおすのはかわいそうと思って抜かれる危険性を承知していながら閉め直さなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
眠っていても抑制をしっかりおこなって大切な治療が受けられるようにする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 抑制の紐に緩みがあり、なおかつ抜かれる危険性を承知しながら閉め直さなかったのは、かわいそうだからという思いであったとありますが、再挿入が必要であったほどに重要なIVHラインを管理することをどのように考えていたのでしょうか。また抑制のゆとりに対するアセスメントがありません。眠っていても抑制をしっかり行うという対策をたてても、同じことをする恐れがあります。
 夜間の不穏が強いとありますが、夜間の不眠をきたさないような働きかけ、睡眠覚醒のリズムをつけるための環境調整などは行われていたのでしょうか。

 ■改善策に関するコメント
 治療上患者の安全を守る上でやむを得ず抑制を実施する際には、標準化されたマニュアルやガイドラインに基づき、適切なアセスメントと安全な方法による実施が必要です。個人の感傷で判断することはかえって危険を招くことになります。抑制をするときはゆとりも、緩みも必要ありません。統一した判断ができるようなシステムをつくりあげることが大切です。
 また、睡眠覚醒のリズムをつけるための環境調整として、日中起座位にて過ごす時間をつくる、環境をかえる(ホールに移す)、テレビ鑑賞など日中における覚醒時間の延長をはかるなどがあります。

【参考資料】 
 ・ 「ヒヤリハット11000事例によるエラーマップ完全本」、川村治子、医学書院、2003
 ・ 「医療エラー こうして防ぐ ガイド」、嶋森好子他、別冊エキスパートナース、照林社、2004年8月



  事例114:(挿管再固定時の咳そう刺激による抜去に対する対応)

  発生部署 (集中治療室)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【0時〜1時台】
発生場所【ICU】
患者の性別【男性】 患者の年齢【69歳】
患者の心身状態【睡眠中】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【1年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年 0ヶ月】
発生場面 【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自然抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技) 【技術が未熟だった】
発生要因-報告等 【不十分であった】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【慌てていた】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【医師と看護師との連携不適切、看護職間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【夜勤だった】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【 】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
挿管チューブが2センチ抜けかけているのを発見し、主治医へ連絡し、主治医が再固定を行うためカフを除圧し、位置の確認後カフ圧を注入後に患者の咳嗽刺激でチューブが抜けてしまった。再挿管の事前準備を行っていなかったため急いでリーダーに連絡し、患者のセデーション量を増加し、刺激を少なくして再挿管を行い呼吸器に接続した。患者は自発呼吸があったので低酸素状態には陥らなかった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
気管チューブの取り扱い技術未熟
医師との連携不足
異常時の連絡・報告不足

 ■実施したもしくは考えられる改善策
気管チューブ取り扱い技術教育
事前準備の重要性を認識させる。
夜間急変時の連絡・報告の必要性を教育する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
気管チューブの位置修正を行う際に発生した事故抜去事例ですが、事前に再挿管の準備がされていなかったことが問題です。なぜ、事前の準備がなされていなかったのでしょうか。背景要因まで掘り下げて分析するためには、このような処置を行う際のルールの有無、ルールがあった場合それに従っていたかどうか、従っていなかった場合なぜ従わなかったのか、などについての記載が不可欠です。

 ■改善策に関するコメント
 気管チューブを抜去する場合や位置修正を行う場合、通常、再挿管の準備を整えた上で実施するはずですが、なぜ事前の準備がなされていなかったのでしょうか。

ルールの有無
 まず、このような処置を行う場合に事前に再挿管の準備を行うことがルールとして定められていたかどうか確認する必要があります。ルールとして定められていなかったのであれば、新たにルールとして定め、スタッフに周知する必要があります。ルールとして定めされていたにもかかわらずそのルールが守られていなかったのであれば、なぜ守られなかったかについて検討する必要があります。

ルールが守られなかった場合
 なぜルールが守られなかったかについて検討し、その原因に応じた対応が必要です。
教育
 担当者が、ルールの存在と事前準備の重要性を認識している必要があります。スタッフへのルールの周知、特に、本事例の当事者のような経験年数の浅いスタッフに対する教育が必要です。
配置
 担当者の経験や能力に問題はなかったでしょうか。経験年数の浅いスタッフがヒヤリ・ハットの当事者となる割合が高いので、担当者の経験や能力に応じた配置を検討するとともに、経験年数の浅いスタッフに対するバックアップ体制についても考慮する必要があります。
連携
再挿管の準備が整う前に医師が処置を始めてしまったということはなかったでしょうか。また、当事者が経験のあるスタッフに応援を求めにくい状況はなかったでしょうか。ルールが守られなかった場合、スタッフ間の連携の悪さに起因していないか検討する必要があります。



  事例116:(忙しく実現不可能な観察計画が実施できず、気管カニューレとフレックスチューブがはずれた事例)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【1月】発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【36歳】
患者の心身状態【その他:ダウン症候群】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【23年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年 3ヶ月】
発生場面 【気管チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【接続はずれ】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【他のことに気をとられていた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【多忙であった】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【          】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
人工呼吸器のアラームが鳴っているので看護師が駆けつけると、カニューレとフレックスチューブが外れ、患者がチアノーゼを呈し、ぐったりとしているのを発見した。すぐにアンビューで蘇生対応し、数分でチアノーゼ消失、SPO2も90%台に回復した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
当日は、入浴日で忙しく、手薄であった。個室の患者は15分毎の観察というルールはあったが、守られていなく観察不充分だった。又、カニューレとフレックスチューブの接続部を固定する対策をとっていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
接続外れ防止の対策を行う。ルールを守る。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
患者の意識状態、体動の有無、姿勢の保持、人工呼吸器の設定等についての患者側の状況が具体的に記述されていると具体的な対策が立てられ良いと思います。
 また、発生要因に「教育・訓練が不十分であった」とありますが、どのような対象(当事者経験23年目の看護師、あるいは処置を実施した医師)にどのような教育訓練が必要なのか記述されているとよいと思います。

 ■改善策に関するコメント
1.管理体制の見直し
 ヒヤリ・ハットの発生した要因に「当日は、入浴日で忙しく、手薄であった。」、「個室の患者は15分毎の観察というルールはあったが、守られていなく観察不充分だった。」とありますが、業務分担はどのようになされていたのでしょうか。また個室の患者の観察時間の間隔は実行可能なルールだったのでしょうか。
(1)患者アセスメントの必要性
 入院時あるいは術前に、現疾患や人工呼吸器装着患者、術後のせん妄、不穏あるいは転倒転落の可能性の程度等患者の病態や状態に応じたアセスメントを各種ツールを用いておこなうこと、またその結果から観察時間の設定がルール化されているとよいでしょう。
 また、発生要因に「カニューレとフレックスチューブの接続部を固定する対策をとっていなかった。」とありますが、外れた原因に人工呼吸器による呼吸のリズムが患者の呼吸に合わなかったり、患者が人工呼吸器に合わせて呼吸することを拒否した等の他の要因は考えられなかったのでしょうか。
(2)実行可能なルール作りの評価と管理体制の見直し
 患者の意識状態や体動の有無等患者側の要因はなかったのかの記載がなされていないのでわかりませんが、ルール化した場合、そのルールが実行可能なものかどうか評価する機会を持つ必要があるでしょう。例えば、入浴等の多忙な状況の中でも15分毎の観察が必要である場合、ルールを守れる業務分担等の体制を同時に整えていくことが必要だと思います。15分毎の観察の必要な人工呼吸器装着患者と入浴可能な患者が同一看護単位に混在している状況についてのリスクとその改善策について各看護単位でなく幹部職員も含めた院内全体で検討する必要があるでしょう。少なくとも、15分毎の観察の必要な患者を受け持つ看護師が入浴介助も行うというような業務分担は直ちに見直す必要があるでしょう。
2.人工呼吸器の警報装置の音量設定について
 「患者がチアノーゼを呈し、ぐったりとしているのを発見した。」という記述がありますが、人工呼吸器の警報アラームが感知してからどのくらいの時間が経過していたのでしょうか。その際、アラームの音量は十分だったのでしょうか。 これまでにも、人工呼吸器の警報アラームの音量を通常の60%に下げていたことで医師や看護師らがアラーム音を聞き逃し対応が遅れた可能性をあげた医療事故が報告されています。
 人工呼吸器の動作音や警報音が常に看護師の詰め所等で確認できることが重要です。一般病棟の場合、人工呼吸器の警報アラーム音が他の入院患者さんにとっては騒音となることがあります。その場合、アラーム音量を下げる等の対応が取られがちですが、同時に、人工呼吸器無線遠隔アラーム機の使用や看護師が携帯する院内PHSやナースコール等との連動で警報アラームを聞き逃さないような対策(警報通知システム)をとることが重要です。これらの対策を取らずに、看護師の詰め所でアラーム音を確認できない病室での人工呼吸器の使用は禁止するなどの体制が必要でしょう。
 また、人工呼吸器装着患者の観察項目にはアラーム音量についての確認も盛り込んでおきましょう。チェックリストによる定期的な安全確認は必須事項です。
 さらに、他のパルスオキシメーターやカプノメーター等の生体モニターの併用による重複チェックシステムをとることも有効でしょう。また、観察項目にはアラーム音量についての確認も盛り込んでおきましょう。

【参考資料】
・「医療スタッフのための人工呼吸療法における安全対策マニュアル」Ver.1.05,日本臨床工学技士会,2001年11月
http://www.iijnet.or.jp/JACET/
・協会ニュース:医療・看護安全管理情報No4「人工呼吸器による医療事故を防ぐ」、日本看護協会、2000年2月15日
http://www.nurse.or.jp/anzen/anzenjoho/
・日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケール(NEECHAM Confusion Scale)



 
事例137:(新生児の酸素吸入のチューブを吸引側に誤接続した事例)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【その他病棟内】
患者の性別【男性】 患者の年齢【0歳】
患者の心身状態【新生児】
発見者【同職種者】
当事者の職種【助産師】
当事者の職種経験年数【1年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年11ヶ月】
発生場面 【酸素チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【吸引チューブと酸素チューブ使用間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【     】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【慌てていた】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-記録等の記載 【     】
発生要因-勤務状態 【     】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【     】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
帝王切開後新生児室に収容された30分後から鼻翼呼吸をはじめたため、エア入り良好と肺雑の有無を確認し、酸素フローを必要と判断した。酸素チューブより酸素を投与すべきところを、クルクルになっていたチューブを酸素排気口からつながれているものと思い込み、吸引に接続している吸引チューブから酸素を投与したつもりでいた。5分弱後、上司に間違いを発見され酸素チューブを酸素排気口より接続し、酸素を投与した。その後、ベビーに支障はなかった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
酸素と吸引が合体になっている機器にチューブが接続されているものは、酸素チューブということを確認せずに思い込みだけで判断し、確認せずに使用してしまったこと。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
急いでいる時は特に思い込みやすい自分を自覚して行動する。いかなる時にも確認を怠らないで、治療や処置を行う。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
1. 新生児室の状況と酸素と吸引の機器がどのようになっているのか記載内容からは判断ができません。
新生児は新生児室に収容されたと記載していますが、保育器に収容されていると考えてよいのでしょうか。それとも新生児用のベッドでしょうか。 
酸素と吸引が合体している機器とはどういうものでしょうか。インファウォーマと考えてよいのでしょうか。
直接酸素吸入をしようとしたのか、保育器の酸素流入口に接続したのでしょうか。
酸素吸入用のチューブと吸引用のチューブは同様の物を使っているのでしょうか
2. 鼻翼呼吸なので酸素を必要と判断したということですが、その指示はルチーン化されたものですか。どのくらいの酸素濃度あるいは流量が必要だったのでしょうか。それをいつ確認しましたか。
3. 酸素を接続した後新生児の観察はどうされていたのでしょうか。
4. どうして慌てていたのですか。
以上についての記載があると何をどう改善すべきかの判断が容易になります。

 ■改善策に関するコメント
酸素と吸引の合体した機器とは、酸素と吸引器が並んだ状態でパイピングされている、あるいはベッドに取り付けられていると想定してコメントします。 
1. 酸素吸入についてマニュアルの遵守
新生児の酸素吸入に対するマニュアルに基づいて業務を行うことが肝心です。
(1)準備
 酸素吸入も吸引も緊急を要する場合が多いので常時使用できるように準備しておく必要があります。接続部の口径が同じであれば口径を変えるという工夫は必要ですが、これはメーカーに提言する必要があると思います。
 補助的には酸素と吸引のチューブを色分するという方法がありますが、これも院内で標準化するとともに、抜本的な改善策を検討することが必要です。
 新生児の酸素吸入の場合は、保育器に収容するか、専用のカテーテルやマスク(医療者が手に持って)を使う場合が想定されますが、接続チューブを使用する場合は、必ず手にとって伸展させ、接続すべき箇所に接続されているかを確認してください。
(2)酸素流量計のフロートと酸素流出の確認
 酸素を流した場合、流量計が装着されているものであれば指示の酸素流量を確認するために必ずフロートをみることが必要です。ただし流量計*には大気圧式と恒圧式があり、ガスが流れなくともフロートが浮く場合がありますので注意が必要です。
 また、酸素流出口を開いてもチューブが目的の場所に正確に接続されていないと酸素は空中へ放出されるはずですから、保育器であれば酸素濃度の表示が出ない、あるいは患者の状態は良くならないなど、気づくチャンスがあるはずです。
 重要なことは、新生児に限らず、適用する前に、酸素が流れているかを酸素の流出口の先端(チューブの先端)に自分の手などを当てて確認することが必要で、その手順も院内で決めておくと良いでしょう。
2. 患者の観察を怠らないこと
新たな処置を行ったときは必ず患者さんを観察する習慣をつけましょう。
数分間でもそばにいて患者さんを観察し、安全か否か、患者の反応を確認したうえで次の行動に移るように日常の業務遂行の中で習慣化する必要があります。特に新生児などは経過時間によっては対応ができなくなる事態も想定されますので観察は極めて重要と考えます。
3. 遠慮なく応援を要請すること
「慌てていた」ということが記載されていますが、新生児の急変時の対応は難しい場合が多々あります。無抵抗である新生児であればこそそばで見守る時間が必要でしょう。業務の優先度を考えて行動をする必要がありますが、1人で対応できない時は、即応援を要請すること。人の命を守る上で重要な行動であると思います。
4. 教育体制の整備と適正な人員配置
新生児の救急時の対応は経験の浅い看護職員にとって適切な対処は難しい場合があります。管理者は責務として、酸素吸入に関する業務基準・手順の作成、特に救急対応など系統的な教育訓練の機会を作ること、上位者とペアで業務を行うなどの対策をとることが必要です。
また、分娩件数の夥多等が想定される場合には必要に応じて勤務者増員を図るなどの配慮も必要と考えます。



* 酸素流量計には恒圧式と大気圧式がある。
(1) 酸素の流量を調整する弁は、恒圧式は流量計のガス出口が下流にあり、大気圧式は上流にある。(2)ガス入り口に圧をかけると流量計のフロートが、恒圧式は一瞬あがる。大気圧式はまったく変化しない。(3)流量計のガス出口より先でガスの流れが妨害された場合(加湿瓶内の加湿装置の目詰まり、酸素流量計から出ているチューブの閉塞など)大気圧式ではフロートで表示された流量の酸素が供給されなくなる。恒圧式ではこのようなことは起こらない。(http://mm.ahs.kitasato-u.ac.jp/~ce00703/daikouiti7.html)



 
事例147:(「自己抜去時はそのままでよい」と指示のあるチューブの自己抜去事例)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【木曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【0時〜1時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【78歳】
患者の心身状態【意識障害、視覚障害、構音障害、上肢障害、歩行障害、床上安静、発熱中】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【4年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【4年11ヶ月】
発生場面 【栄養チューブ】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【寝不足だった】
発生要因-心理的状況 【大丈夫と思った】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-記録等の記載 【     】
発生要因-勤務状態 【多忙であった、夜勤だった】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【説明が不十分であった】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
経口摂取が困難となりEDチューブを挿入していた。夜間自己抜去せぬようテープ固定を大き目のテープにて行っていたが、入眠時自己抜去している所を巡視時発見。日中医師より自己抜去時はそのまま様子を見るように指示あり。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
意識レベル??10???3でありEDチューブの必要性が理解できなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
必要時抑制の施行。固定テープの強化。チューブ固定の際、ループはなるべく造らない。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
「事例が発生した背景・要因」に関して、
 この患者が「十二指腸チューブ管理」適用となっている理由、必要性
 精神活動レベルの評価はどのように行われていたのか
について、看護師はどのような認識をもっていたのでしょうか。そしてこのケースの自己抜去は予測していたのか、前兆となるサインはあったのか、そしてそれに対して必要な対策が立てられ実行されていたのか、といった流れに沿ってふりかえりをしていくと、このケースの自己抜去を防ぐために、何をすべきだったのか見えてくるのではないかと思います。また、自己抜去の起こった時間帯が0−1時であり、勤務交代時の申し送りなど、観察や夜間の看護体制による影響はなかったのかについても記述されるとより良いと思います。
 「日中に、自己抜去時はそのまま様子観察との医師の指示」ということですが、医師はチューブの必要性をどのように判断していたのでしょうか。また「自己抜去時…」という指示から、自己抜去の可能性は認識されていたと思われます。これは「必要性のあまりないチューブを留置していて、患者自身が不快のため無意識にチューブを抜去した」事例であって、「抜かれた」ことよりも、「抜かれることが充分予測できたのに、必要性の高くないチューブを留置していた」事の方が問題ではないでしょうか。
「実施したもしくは考えられる改善策」に関して、
 「必要時抑制の施行」という対策のみを記述されていますが、チューブの必要性の評価や、患者の安全を守るために必要なマンパワーの検討を行わずに、「チューブを抜かれないように患者側を物理的に押さえつける」ことを優先するというやり方は社会的に受け入れられるものではありません。現実的に考えて、病棟で一人の患者に看護師がつきっきりになることはできないとしても、どのような基準にそって患者の意識障害を評価し、どのように抑制の必要性を判断して実施するのか、といったルールを組織内で検討する必要があります。
 また、固定テープのサイズや、ループを作らないといった対策は、チューブ固定時の基本に添って行うべきであって、実施されていたことに問題が無ければ、改めてここで記述する事項ではないと考えます。

 ■改善策に関するコメント
患者の「いま」の状態をどのように治療管理に活かしていくか
 患者をベッドサイドで継続的に見てゆく看護師は、その時の患者の意識状態、全身状態の変化をリアルタイムに把握することができます。患者に状態変化が生じて治療オーダーに対して期待される結果が得られないときや危険が予測されるときには、医師に情報提供をして調整をはかることが可能です。「自己抜去したらそのまま様子観察」という程度の必要性のもとで行われている治療処置を維持するために、多大な労力を要している状況はないでしょうか。患者の状態変化によっては、十二指腸チューブ適用について再評価して抜去することも可能だったのではないでしょうか。
 チームが機能を活かしてゆくためには、「患者のその時の状態にいちばん見合った医療を提供しよう」と言う前提の元で、医療スタッフが協働する必要があります。看護師は、正しく医師の指示の意図を理解できているか、意図の分からない指示については確認をとっているか、自分の観察した状況は予測された経過をたどっているのかを確認しながら業務を行うことが必要です。医師は、看護師の指示に対する問い合わせに責任を持って対応し、必要であれば自ら足を運んでベッドサイドで状況を確認する必要があります。
抑制以外の具体的対策
 体幹・四肢の抑制はあくまで患者の安全を守るための最終手段であり、管理計画に基づかないまま安易かつ無制限に施行すべきではありません。おなじ患者の行動を制限する方法でも、ミトン(チューブ把持ができないようになっている製品がある)の使用など、患者にとってより拘束感のない方法を選択すべきです。
 また、チューブの固定テープの面積を大きくする、看護師による観察頻度を高くするといった対策は、ごく短時間の一時しのぎの対策にすぎません。強固なテープ固定は外観を損なうばかりでなくスキントラブルの原因になります。自己抜去予防のための対策によって新たなトラブルの発生を招いてしまわないように、方法は慎重に選択すべきです。
 栄養管理のみの目的でチューブ留置を行うのであれば、患者の不快感を考慮に入れて胃管に変更し、栄養以外の時間は抜去するという方法をとることも考えられます。また、胃食道逆流など嘔吐や誤嚥のリスクのある患者であり、長期にわたり改善が望めないときには、早めに胃瘻造設を行うことも視野に入れて方針を決定するべきです。特にこのケースのように、意識障害のある患者に対しては、より拘束感や不快感を伴わない、ストレスをためない治療管理方法の選択が必要となってきます。
患者管理体制の再評価・見直し
 「不快感のためにチューブを抜きたい」という強い思いに突き動かされている患者に関して、自己抜去を防ぐことはかなり難しいことです。チューブ・カテーテル管理など、不快感を伴う治療処置の継続には、自己の治療処置の必要性や安全のための方策を理解得て協力して頂くことが不可欠です。しかし、せん妄など意識障害があり、チューブ留置の必要性を理解することが難しいケースでは、患者の協力が得られ難いばかりか、チューブを積極的に排除しようとします。そのため看護師は患者のチューブの維持や管理に相当のエネルギーを必要とすることになります。このケースにおいても、患者の年齢、心身状態だけをみても、チューブ留置を継続してゆくことは困難なことは予測できます。またチューブ、カテーテルは身体にとっては異物であり、外部から挿入・留置しているものである以上、非侵襲的に「抜けないように」固定することは不可能であると言っても過言ではありません。チューブ・カテーテルは「抜けるもの」であることを前提に、意識障害のある患者に事故抜管させてしまわないための方策を考えるならば、個人の注意に頼らない、以下のような視点からの多面的な対策が必要です。
人員配置などの管理上の取り組み
患者の精神的ストレス緩和策や起こりうる行動を予測しての具体的で実行可能な事故防止対策の計画
「“念のため”という意味合いの治療・処置は行わない」「抜かれる前に評価して抜けるものは抜く」といった視点での治療適用基準の再検討
情報発信、相談窓口などの情報共有のシステムの構築
チューブおよびカテーテルの自己抜去事例において、高齢者や術後の意識障害のある患者が関わっている事例は非常に多いと考えられます。他施設での有効な取り組みや介入事例の紹介など、情報の共有化、情報発信システム作り(情報センター化)などもこのような各病院での取り組みを支援する上で有用と考えられます。



 
事例158:(夜間帯でのリスクの高い患者への注意不足による自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【3月】 発生曜日【月曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【0時〜1時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【 歳】不明
患者の心身状態【床上安静】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【2年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年11ヶ月】
発生場面 【尿道カテーテル】
(薬剤・製剤の種類) 【     】
発生内容 【自然抜去】
発生要因-確認 【     】
発生要因-観察 【     】
発生要因-判断 【     】
発生要因-知識 【     】
発生要因-技術(手技) 【     】
発生要因-報告等 【     】
発生要因-身体的状況 【     】
発生要因-心理的状況 【     】
発生要因-システムの不備 【     】
発生要因-連携不適切 【     】
発生要因-記録等の記載 【     】
発生要因-勤務状態 【夜勤だった】
発生要因-医療用具 【     】
発生要因-薬剤 【     】
発生要因-諸物品 【     】
発生要因-施設・設備 【     】
発生要因-教育・訓練 【     】
発生要因-患者・家族への説明 【説明が不十分であった】
発生要因-その他 【     】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
急性心筋梗塞で2月28日準夜で緊急入院し、緊急PCI。危険行動なく過ごせていた。左下肢スワンガンツ抜去後圧迫帯で止血・安静中。勤務交代直後、点滴チェックのために行くと、上半身起こしており、床にバルーンカテーテルが抜けて落ちている。「おしっこしようと思って」と話される。多弁で興奮気味。尿道口より出血あるが、すぐに止血、バルーン再挿入する。アモバン内服しその後入眠され、危険行動なし。準夜帯では意味不明な発言が一度聞かれたと申し送りあり。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
入院後危険行動はなかったが、準夜帯でおかしな発現あり、緊急入院や高齢、床上安静中等からもリスク高く、注意する必要があった。勤務交代時で看護師の眼が離れていた。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
日中刺激あたえ、安定剤投与するなどし、入眠できるよう援助。夜間は特に常に看護師の眼が届くようにし、スクリーンで隠さない。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
具体的内容に関して
 事例は簡潔に要点が記載されていると思います。
発生要因に関して
 リスクの高い患者に対しての注意が不足していたとありますが、緊急入院、緊急処置、高齢、床上安静等の状況から、術後譫妄に関する知識と対策が周知できていたのでしょうか。準夜帯で意味不明な発言が一度聞かれたとの情報はどのように生かされたのでしょうか。
改善策に関して
 夜間は特に常に看護師の眼が届くようにし、スクリーンで隠さない。となっていますが、病室の状況が判断できませんが、どのような状況にしても夜間の限られた人数で、常に看護師の眼が届くようにすることは不可能ではないでしょうか。改善策は可能な方法でなければなりません。

 ■改善策に関するコメント
 術後譫妄を引き起こす要因は、手術・処置等の外的要因や、患者の年齢・生活背景等の内的要因が考えられますが、明らかな根拠をもって、特定できるものではありません。従って術後譫妄状態は起きることを前提に予測した計画を立案しておくことが必要です。立案した計画は家族と共有しておくことは重要です。緊急入院・緊急処置を受ける患者に対して事前の説明は不可能ですが、時期をみて行うことは必要です。
看護師の観察の視点
 様々なリスクが考えられ、その一つ一つに観察の目を向けなければなりません。譫妄・不穏の状態、患者の覚醒状況、チューブ類の不快の程度、患者の体動の範囲と程度など。一つ一つの予測を立てておくことが必要です。対策は標準化しまとめておくことが必要です。
夜勤における対応
 病室とスクリーンの配置が不明ですが、少ない人数の夜間において常に緊急入院・緊急処置を受ける状況にある病棟であるならば、スクリーンを取り除くことだけでは解決しないと思われます。病棟の業務全般の見直しや、患者の配置、モニター設置による監視など全体的な見直しが必要でしょう。
術後譫妄の対策
 日中の覚醒を促すための家族の支援、尿道カテーテルが睡眠を著しく障害していることから、その留置期間についての検討、睡眠を確保するための適切な眠剤の投与など、医師や薬剤師を交えた検討が必要でしょう。

【参考文献】
「ヒヤリハット11000事例によるエラーマップ完全本」、川村治子、医学書院、2003
「医療エラー こうして防ぐ ガイド」、嶋森好子他、別冊エキスパートナース、照林社、2004



  事例159:(高齢、術後患者のバルーンカテーテルの自己抜去)

  発生部署 (入院部門一般)  キーワード(チューブ・カテーテル類)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【2月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【22時〜23時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【85歳】
患者の心身状態【構音障害、痴呆・健忘、下肢障害、歩行障害、床上安静、麻酔中・麻酔前後、発熱中】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【15年11ヶ月】
当事者の部署配属年数【 0年 3ヶ月】
発生場面 【末梢静脈ライン】
(薬剤・製剤の種類) 【    】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【    】
発生要因-観察 【観察が不十分であった】
発生要因-判断 【アセスメント不足】
発生要因-知識 【    】
発生要因-技術(手技) 【    】
発生要因-報告等 【    】
発生要因-身体的状況 【    】
発生要因-心理的状況 【    】
発生要因-システムの不備 【    】
発生要因-連携不適切 【    】
発生要因-勤務状態 【    】
発生要因-医療用具 【    】
発生要因-薬剤 【    】
発生要因-諸物品 【    】
発生要因-施設・設備 【    】
発生要因-教育・訓練 【    】
発生要因-患者・家族への説明 【    】
発生要因-その他 【    】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
手術後の観察のために訪室すると、インサイトを自己抜去していた。刺入部のテープのところだけを剥がし、抜去していた。(テープは全部剥がれておらず)

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
手術後、トイレに行くと何度も訴えられ、その都度バルンカテーテルが入っていることを説明しても不快感が強いのか訴えは変らなかった。訪室時はいつもバルンカテーテルやルートを触っている様子はなかった。しかし手術後、麻酔の影響や年齢から考えルートに対する認識が十分なかったことが考えられる。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
訪室を頻回にし、ルート類が気になっている時は視界に入らないようにしたり、触れないようにする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 起きた事象が記載されていますが、要因分析を行い根本的な対策を立案するために、さらに詳細な患者情報が必要です。患者の年齢、病名、術式、ストレスーコーピングパターン、また事象が起きた時間、場所などは、患者の行動に対する分析の際に有効となる情報です。
また、夜間勤務帯の出来事でありますが、担当看護師が患者の自己抜去のリスクを他の看護師に注意喚起していたのかどうか、何人の者がどのくらいの業務を分担していたのか、重症患者や処置の必要な患者が何人いたのかについて記述されていれば、適切な人員配置や業務分担に関する要因の有無もみていくことができます。

 ■改善策に関するコメント
○患者アセスメントの必要性と精神科医等も含めた医療チームでの対策の検討
 ヒヤリ・ハットが生じた要因の中に「アセスメント不足」とありますが、この点が改善策に活かされていると良いと思います。「訪室を頻回にし、ルート類が気になっている時は視界に入らないようにしたり、触れないようにする。」と改善策にありますが、患者の状況をアセスメントした上での改善策の対応が必要でしょう。
 患者の心身状態に「高齢、痴呆・健忘・手術後」とありますので、術後のせん妄状態に陥る可能性も要因として高かったかもしれません。まずは、術前にアセスメントツール等を用いて患者の情報を十分にアセスメントし、術後対策を講じることが重要です。情報が少ないため分かりませんが、今回の事例は、抑制が必要なケースかもしれません。抑制の使用にあたっては、抑制ガイドライン等の使用により安全に適切に実施することが重要です。事例391も参考にされてください。抑制また、安全対策は、充分に計画しておき、医師、看護師、患者、家族と合意を得ておくことが必要と考えます。
 さらに、このような痴呆・健忘を呈する患者の場合、主治医以外に精神科医の診察を受け協議を行った上で、薬物治療による対策が必要かもしれません。主治医と看護師の患者カンファレンスの場に精神科医も同席、あるいは緊急時でもコンサルトができるようなしくみや体制を整えていくことも重要です。

【参考資料】
・日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケール(NEECHAM Confusion Scale)
・「精神科医からみた術後せん妄の診断と治療」消化器外科NURSING vol.4 No6:546-554、1999年、水野雅文、鹿島晴雄
・「米国精神医学会治療ガイドライン:せん妄」American Psychiatric Association、医学書院、2000年


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