障害福祉最前線障害福祉最前線

社会福祉法人 元気村就労系サービス 生活支援員

障害福祉の業界で活躍するプロフェッショナルたちが、仕事の苦労ややりがい、失敗や成功のエピソードを、等身大の言葉で語る『障害福祉最前線』。登場した3人の皆さんは、時に立ち止まり、またある時は悩んだり落ち込んだりしながらも、信念をもってこの道を歩んできました。真摯な思いと仕事の魅力を届けます。

所属:社会福祉法人元気村障害福祉サービス事業所夢工房翔裕園

職種:生活支援員(就労継続支援B型)

資格:精神保健福祉士

木村きむら里香りかさん

心身に障害をもつ皆さんの継続的な社会復帰を目指して、二人三脚で歩みます。心身に障害をもつ皆さんの継続的な社会復帰を目指して、二人三脚で歩みます。

さまざまな生産活動の作業を通して、利用者さんの働く意欲を支援するさまざまな生産活動の作業を通して、利用者さんの働く意欲を支援する

私の勤務先である「夢工房翔裕園」(以下、夢工房)は、通所型の障害福祉サービス事業所として運営されています。施設を利用されているのは精神や身体にさまざまな障害をもつ方たちで、心身の体調や服薬の影響で気分に波が生じるなどして、一般的な就職が難しい状況になっています。そうした皆さんの就労支援を目的に、夢工房は多様な事業を展開しています。冷凍生餃子の製造・販売専門店「元気餃子」は、利用者さんたちが餃子のあんを手作りして皮に包み、素材のにんにくも畑で自家栽培をしています。農業といえば農福連携で行っている観光福祉農園「元気ファーム」も人気があり、利用者さんが育てたいちごやブルーベリー、玉ねぎ、にんにく、さつまいもなどの収穫体験を目的に、地域の方が四季折々にご来園くださっています。また受託業務では、高校野球のチームなどから赤い糸が傷んだ硬球を預かり、修繕するエコボール作業もあります。利用者さんはこうした生産活動の作業を通して就労訓練を積み、社会復帰や継続的な就労を目指しているのです。私の仕事も就労支援であり、一般企業と雇用契約を結ぶことが難しい方を対象にした「就労継続支援B型」(以下、B型) 事業に臨む利用者さんに対して、「生活支援員」という立場で深く関わっています。

慎重に言葉を選んで話すことが信頼関係の構築につながる慎重に言葉を選んで話すことが信頼関係の構築につながる

私が担当するB型の就労支援で大事な1歩になるのは、利用者さんが夢工房へ定期的に通所して生活リズムを整える、ということであり、通うこと自体が社会復帰に向けた訓練になります。そして実際の作業を通して、挨拶の仕方や言葉遣い、作業能力や指示の理解度、手先の器用さなどを見極めたうえで、一人ひとりに「個別支援計画」を作成しています。計画には、利用者さんと一緒に考えたスモールステップも記して、半年に1度、目標の達成度を振り返りながら、「次は挨拶を頑張ろう」とか、「欠席の電話をお母さんではなくて、自分でかけてみよう」などと話し、次なる目標を設けます。時には「働くためには何が必要だと思う?」と質問を投げかけ、自分の力で目標を達成することも支援します。こうした支援の取り組みは根気強さが必要ですし、利用者さんの気持ちに寄り添いながら、二人三脚で頑張って行くことが大切だと思っています。
そしてこの仕事で私が特に気を使っているのは、信頼関係の構築です。利用者さんの調子が悪そうな時にポジティブな言葉を言い過ぎると、プレッシャーを感じて体調を崩してしまう場合があります。そのため表情や態度の微妙な変化には、常に目配り・気配り・心配りが必要ですし、慎重に言葉を選んで話すことが大事だと痛感しています。ただB型を利用される皆さんたちは、障害や知能に個人差が大きくあるため、誰に対しても丁寧に優しく接すれば良い、という訳ではありません。あくまで目標は社会復帰や継続的な就労ですから、自立に向けた厳しさも時には必要です。この支援の方法が本当に難しく、いつも苦労をしているところです。障害福祉の世界で、生活支援員は役者だ、などと言われることがありますが、一人ひとりに合わせた柔軟な対応が本当に大切で、それが信頼関係の構築につながるのだと思っています。

就職という最良のかたちで利用者さんを送り出したい就職という最良のかたちで利用者さんを送り出したい

最初は通所すら難しかった利用者さんが、訓練を積むことでできる作業が増え、喜んでいらっしゃる姿を見ると、この仕事をやっていてよかったなと思いますね。作業をすると工賃も稼ぐことができ、それが自信につながります。ある利用者さんは2人の娘さんのために、成人式の費用を貯金することを目標にしていました。見事にそれを達成した後、「木村さん、私はこれから何を目標にしたらいい?」なんて、嬉しそうに笑って話してくれました。ご家族で食事や旅行に行った、という報告をして下さる方もいらっしゃいます。夢工房へ継続的に通うことで精神的に落ち着き、服薬量が減って心身が快方へ向かえば、人生は豊かに広がり、就労も目指すことができます。
そうした意欲のある方が「就労移行支援」という事業へステップアップし、2年間の就労訓練を積めば、一般企業への就職も実現可能です。就職される方を1人でも多く送り出すことが私の務めだと思っています。

精神保健福祉士の知識とデザイン力が現場で活きる!精神保健福祉士の知識とデザイン力が現場で活きる!

私は学生時代にデザインの勉強をしていて、デザイナー兼事務職として働いていました。そして結婚・出産とライフステージが変わるなか、地元に福祉施設ができたということで転職したのです。障害福祉の業界は未経験からのスタートでしたが、働きながら介護福祉士実務者研修を受講しました。そして、利用者さんに精神疾患の方が多いため、精神科領域を深く理解したいと思い、精神保健福祉士の資格も取得しました。仕事と子育て、そして通信での勉強は非常に大変でしたが、頑張って学んだ知識が現場でとても役立っています。そして今、デザイナーだったころのスキルを活かして、「元気餃子」のキャラクターも作っているのです! このように私自身が夢工房の仕事を楽しみ、いつも明るく笑顔でいれば、利用者さんも安心して私を頼ってくださると思います。そして福祉の世界では、当事者自身が自分の力で自分を支援する、エンパワーメントの考え方が大切にされているのですが、利用者さんと私も日々を積み重ねるなか、エンパワーメントの視点をもって、一緒に成長していきたいと思っています。

メッセージメッセージ

私のように、最初は未経験で資格をもたない人でも、福祉に興味があって人と接することが好きな方なら、障害福祉の仕事にチャレンジしてほしいです。就労支援は、障害を持たれた皆さんが社会参加の手がかりとして何らかの活動に参加し、徐々に自己肯定感や有用感を覚え、承認欲求を満たしていく、といったプロセス自体も重要です。そしてこのプロセスの延長線上に「就職」があるという視点をもち、就労支援のあり方を検討したいと思っています。障害の有無に関わらず、誰もが地域で暮らしやすい環境を一緒に構築していきましょう。

製造した餃子をお客さんが買ってくれるので、仕事が楽しくなりました製造した餃子をお客さんが買ってくれるので、仕事が楽しくなりました施設利用 Oさん

今は餃子だったり、野球のボール修繕の仕事をしています。餃子は製造したものをお客さんが買ってくれることがやっぱりうれしくて、仕事が楽しくなりました。野球は西武ファンで、見るのもやるのも好きですから、ボール修繕も面白いです。最初は全然慣れなかったのですが、今はボールの皮の状態を見て、引っ張りどころと縫い加減を調整しながら仕上げています。夢工房は2年ぐらい毎日通っています。すごく気に入っているし、仲が良い人もいるので、楽しく通えています。

社会福祉法人 元気村障害福祉サービス事業所 夢工房翔裕園社会福祉法人 元気村障害福祉サービス事業所 夢工房翔裕園

夢工房翔裕園では、心身の障害などのために思うように働けない方を対象にした就労支援事業を行っている。主軸となるのは、利用者自身が体調に応じて職業訓練に取り組む「就労継続支援B型」と、一般企業への就職を目指して2年間の職業訓練に取り組む「就労移行支援」になる。夢工房では多彩な作業メニューが用意されており、利用者の働く喜びや達成感が、地域社会としっかり結び付いていることが大きな魅力になっている。