障害福祉最前線障害福祉最前線

(有)ケアサポートモモ 訪問系サービスホームヘルパー

障害福祉の業界で活躍するプロフェッショナルたちが、仕事の苦労ややりがい、失敗や成功のエピソードを、等身大の言葉で語る『障害福祉最前線』。登場した3人の皆さんは、時に立ち止まり、またある時は悩んだり落ち込んだりしながらも、信念をもってこの道を歩んできました。真摯な思いと仕事の魅力を届けます。

所属:(有)ケアサポートモモ

職種:ホームヘルパー(居宅介護・重度訪問介護)

資格:介護福祉士

山田やまだ江里えりさん

私を待っていてくださる利用者さんの生活に、諦めない心で寄り添います。私を待っていてくださる利用者さんの生活に、諦めない心で寄り添います。

住み慣れた家で生活できるよう、重度訪問介護で医療的ケアを担う住み慣れた家で生活できるよう、重度訪問介護で医療的ケアを担う

「おばさんのケアをやってみない?」。母からそう声をかけられ、ALS (筋萎縮性側索硬化症)を患っていた方のお世話を始めたのが、介護職との出会いでした。私を孫のように可愛がってくれたおばさんのケアでしたから、入口はわりと気楽な感じでしたね。母が訪問介護事業所「ケアサポートモモ」の登録ヘルパーとして働いていたため、私もモモに所属し、おばさんの自薦ヘルパーとして働きながら、必要な資格を取得。今は、重度な障害をもった方たちが住み慣れた家で生活できることを目指した、重度訪問介護の仕事に就いています。
利用者の皆さんはALSやSMA(脊髄性筋萎縮症)に罹患していたり、あるいは重度心身障害児であったりします。身体的には気管切開をして人工呼吸器を装着しているので、経管栄養や喀痰吸引等の医療的ケアが必要であり、そこを担えるのが、重度訪問介護ヘルパーの特徴です。例えば気管内の喀痰吸引など、一番に気にしなければならないのが気管内吸引なので、利用者さんの身体症状を見ながら慎重に行います。痰が詰まると呼吸苦になったり、痰が硬くなると吸引しづらくなりますから、身体症状の観察と見守りは常に重要であり、笑顔で応対しながらも、緊張感をもって仕事に取り組んでいます。

根気強く、諦めないこと!これが仕事のモットーになった根気強く、諦めないこと!これが仕事のモットーになった

ある利用者さんの場合は24時間体制のケアが組まれ、そのうち10~17時を私が担当し、医療的ケア、身体介護、見守り、訪問看護師のケア準備・サポートなどを行います。利用者さんとのコミュニケーションには、視線入力の文字盤を使用する場合があり、経管栄養の味を選ぶときは、利用者さんが「この味で」と文字盤で意思表示をしてくれるのです。ただ、目の動きが弱まると文字の判別が難しく、私の読み取りに時間がかかってしまいます。それでもご本人が諦めずに何度も伝えようとしてくれるので、「ごめんなさい、私も諦めないから!」とお声がけをし、複数ある文字盤の種類を交換するなどして、試行錯誤を繰り返します。この時は「バナナ」3文字の読み取りに20分を要しましたが、何よりご本人が一番頑張っていらっしゃいますから、私も根気強く、諦めない気持ちで寄り添いたいと思っています。そして、今できることをやりながら、次の段階でどういうケアを行っていくかを考えることも私たちチーム・モモの役割であり、関係各所と情報共有しながら、これからの最善の道を探っていきます。

「あなたがいると安心」のひと言が今も鮮明に私の心に残っている「あなたがいると安心」のひと言が今も鮮明に私の心に残っている

利用者さんがお子さんの時は、賑やかな交流も生れますね。あるお子さんは私を友だちのように思っているらしく、呼吸器越しの発声で「一緒に遊ぼう!」と快活に話しかけてくれます。時には、勉強を教えたい私と、タブレット型のコンピュータで遊びたいお子さんとの間にケンカが勃発することもあります(笑)。こんな活発な様子であっても、お子さんの体調は急激に変化し、いきなり静かになって顔色が青いということが起こりますから、元気な時も表情観察を怠らず、小さな変化にすぐに気付けるよう、注意深く見守ります。
その一方で、表情による意思の疎通が難しくなってきた方に対しては、私の仕事は意向に沿えているのだろうかと、とても心配になってしまう時があります。ある日、利用者さんが朝からずっと目を閉じているので、私避けられているのかも…、何か間違ったことをしたのかと、一日中不安な気持ちで仕事をしていたのです。仕事が終わり、退室のご挨拶に行くと、その方が一生懸命、文字盤に言葉を打っているのです。何だろうと思って見ると、「あー良く寝られた、あなたがいると安心して良く寝られるわ」と伝えてくださっていたのです。私、単純なので、そんなうれしい言葉をいただくと、目がうるっとなってしまいます。重度訪問介護の仕事ってこういうことなのかと、ストンと腑に落ちたことを、今も鮮明に覚えています。

この事業が長く続くよう、力を尽くして頑張りたいこの事業が長く続くよう、力を尽くして頑張りたい

利用者さんのなかには進行性の病の方がいらっしゃいますから、悲しい別れも経験してきました。大きな喪失感を抱えながらも仕事を続けてこられたのは、私を必要として待っていてくださる利用者さんの存在が、心の支えになっているからだと感じています。これまで巡り会った利用者さんたちは、私を介護士として、また人間としても成長させてくれた存在であり、互いに支え合う関係性であると私は思っています。そして利用者さんと信頼関係を築いて長い時間を過ごすなか、たくさんの「ありがとう」の言葉をいただき、それが仕事への原動力になっていると確信しています。
私は現在、訪問介護事業所「ケアサポートモモ」の一番の若手社員として、この事業所の次代を担うべく、管理者としての勉強を始めたところです。私を14年かけてプロの介護士へと育成してくれた当社の代表やベテランの先輩たちの期待に応えるために、そしてチーム・モモや私を待っていてくださる利用者の皆さんのために、この事業が長く続くよう、力を尽くしていきます。

メッセージメッセージ

重い障害をもつ方の介護は、一歩を踏み出すまで、躊躇してしまうところがあると思います。でも勇気をもって飛び込めば、新たな経験ができるし、必ずやりがいが見つかる素晴らしい仕事だと私は思っています。そうした魅力をぜひ多くの方に知っていただき、重度訪問介護の仕事に挑戦してほしいと願っています。

娘の介護を安心してお任せできる皆さんは、家族のような存在です娘の介護を安心してお任せできる皆さんは、家族のような存在です滑川伶奈さま(なめかわ・れいな)すみれさま(なめかわ・すみれ)

伶奈さんより
1人でケアをする時は気が張り詰めて、顔が土気色!(笑) になるほど疲労しますから、モモの皆さんの存在はありがたいし、家族みたいな感じです。介護は完璧なので安心感もあり、娘も、今日は誰と何をして遊ぼうかと、自分のなかで決めているみたいで、毎日楽しそうに過ごしています。山田さんは私の妹と同い年なので、いつも「江里ちゃん」と呼んでいます。同じ母親として子育ての情報交換ができるし、気軽なおしゃべりや交流が、私には社会とのつながりにもなっています。こうした介護事業が続くよう、モモの皆さんや江里ちゃんには、これからも頑張ってほしいです。すみれと一緒に応援しています!

すみれさんより
えりちゃんはおともだち。あそんだり、ケンカもしてたのしいよ。またいっしょにおでかけしようね。

(有)ケアサポートモモ(有)ケアサポートモモ

医療的ケアを必要とする人のための介護者派遣サービス会社として2003年に創業。主な業務は経管栄養や気管内吸引、文字盤によるコミュニケーション、外出支援、見守りなど。人工呼吸器を使用して在宅で生活する利用者の日常を、親身になってサポートしている。代表の川口有美子氏は実母がALSに罹患し、長きにわたる介護の実体験をもとに、生きることを諦めないでほしいと、各種メディアで強いメッセージを発信している。