障害福祉最前線障害福祉最前線

東京小児療育病院 障害児通所支援生活支援員

障害福祉の業界で活躍するプロフェッショナルたちが、仕事の苦労ややりがい、失敗や成功のエピソードを、等身大の言葉で語る『障害福祉最前線』。登場した3人の皆さんは、時に立ち止まり、またある時は悩んだり落ち込んだりしながらも、信念をもってこの道を歩んできました。真摯な思いと仕事の魅力を届けます。

所属:東京小児療育病院地域支援センター 通所科

職種:生活支援員(児童発達支援)

資格:保育士、幼稚園教諭、介護福祉士

小日向こひなたゆうさん

すべての子どもたちに可能性がある!幼少部の今だからこそできる体験を、たくさん提供していきます。すべての子どもたちに可能性がある!幼少部の今だからこそできる体験を、たくさん提供していきます。

ドラマがきっかけで憧れた保育士障害のある子どもたちを支えたいドラマがきっかけで憧れた保育士障害のある子どもたちを支えたい

過去に新米保育士のドラマを見たことがきっかけで、高校生のころから保育士を目指したいと思うようになりました。もともと子どもが大好きですし、親も福祉系の出版物に関わる仕事をしていたため、人生の矢印が自然と保育や福祉の方面へ向かって行った気がします。そして専門学校で保育や介護を学ぶなか、重症心身障害児者施設の実習体験で人を支える仕事にやりがいを感じ、実習先の施設に就職しました。その後、知的障害者施設を経て、現在の勤務先である東京小児療育病院に転職して6年になります。障害福祉の仕事に携わってトータル13年のキャリアになりますが、今も日々、利用者の子どもたちからたくさんの刺激をもらっていると感じています。

利用者さんの情報をしっかり把握し、支援につなげる大切さが身に染みた新人時代利用者さんの情報をしっかり把握し、支援につなげる大切さが身に染みた新人時代

私は現在、病院に併設された「地域支援センター」で仕事をしています。ここは重症心身障害児者の通所施設であり、私は主に幼少部の皆さんの保育や発達支援を担当しています。現在は2~5歳児の8名が利用されており、身体的には気管切開をしていたり、人工呼吸器や経管栄養などが必要な医療的ケア児であり、寝たきりで過ごす時間が長い方たちです。
当センターの1日は「朝の会」から始まります。登園した子どもたちはここで名前を呼ばれたり、ピアノの生演奏で歌を聞いたり、手足のマッサージや「わらべ歌体操」をするうちに、表情が少しずつイキイキとしてきます。音楽と運動の刺激で覚醒を促すのが「朝の会」の目的ですが、一人ひとりの障害が異なるため、例えば体操で抱っこをするにしても、抱き方や座位の取り方、手足の使い方など、それぞれの身体症状に合わせる必要があり、そこはとても気を使っているところです。
実は経験が浅かった新人のころ、ケアの最中に、利用者さんの体に負担をかけてしまったことがあったのです。手痛い失敗をしたこの時、利用者さんの情報をしっかりと把握し、それを支援につなげることがどれだけ大切かということが本当に身に染みました。それからは現場で考えることが増え、経験を積んだ今は、この身体ケアを行ったら子どもたちにどのような好反応が期待できるだろうかと、先を見ながら考え、行動に移るようになりました。まだまだ微力ですが、子どもたちの表情の変化を見て、それを次につなげるケアが少しずつできるようになったと思っています。

保育園児たちとの賑やかな交流体験が子どもたちに大きな変化と成長を促した保育園児たちとの賑やかな交流体験が子どもたちに大きな変化と成長を促した

「朝の会」が終わると次は「保育」を行います。私たちはこの時間を活用し、月1回のペースで近隣の保育園の子どもたちと交流を図っています。この活動をするなか、私が驚いたのは子どもたちの変化でした。最初は人見知りといいますか、警戒していた様子でしたが、回数を重ねるうちに、園児たちの元気な声を聞くだけで、友だちが現れた! という感じで、楽しそうな顔を見せるようになったのです。表情がこんなにも明るく変わるのか! 子どもの成長はすごい! と感動し、とてもうれしくなりました。園児のみんなも関わり方を理解してくれているようで、「お互いに成長していますね」と、交流先の保育士さんたちと話をしているところです。
保育の時間はほかに、エアトランポリン運動をはじめ、プール遊びや運動会、夏祭り、ハロウィン、クリスマス会などを季節ごとに行います。企画や内容に変化をもたせることは大変ですが、制作物などもなるべく毎年違うものを提供して、たくさんの刺激を与えたいと考えています。保育や発達支援を担う私たちが、いろいろな経験をさせてあげることで、子どもたちはもっと成長する可能性があるし、幼少部の今だからこそできる体験をたくさん提供することが私の役割だと思っています。

日々のコミュニケーションに全力を注ぎ、末長く見守ることができる仕事日々のコミュニケーションに全力を注ぎ、末長く見守ることができる仕事

重症心身障害児者の通所施設で働く一番のやりがいは、子どもたちの表情の変化や反応の手応えをそばで感じ取れることだと思います。試行錯誤をしながらこちらが働きかけた分、何かしらの反応が返ってくると本当にうれしくて、この笑顔をもう1回見たい! という気持ちになりますね。正解が無いなか、日々のコミュニケーションに全力を注ぐことが、この仕事の大切なところだと思います。
そしてもうひとつ、体調管理をしっかり行うことも重要です。保護者の方と健康状態の情報を共有するのはもちろんのこと、当センターは病院の併設施設ですから、体調に変化があれば医師や看護師と即座に連携し、健康面をしっかり支えます。加えて、利用者の皆さんはほかの通所施設へも通われているため、私たちは近隣の施設との関係者会議に参加して情報を共有し、こういうケアを目指していきましょう、と話し合っています。一人のお子さんの体調や成長を、私たち生活支援員をはじめ、医療チームや地域の福祉関係者とともに長い期間見守って行けることが、この仕事の醍醐味のように感じています。私が担当している子どもたちの中には、幼少部を終えると特別支援学校へ入学し、そこを卒業すると、青年部の生活介護という形で再び当センターに通ってくださる方もいます。みんなの笑顔を末長く見守り、また新たな可能性を引き出すことが、私のこれからの目標です。

メッセージメッセージ

障害福祉の保育は正解がひとつではなく、自分なりの答えもすぐに見つかるものではないと思っています。そのためまずは「やってみる」という気持ちをもって、この業界に入ってほしいです。きっと職場の先輩や上司、利用者の皆さんが、手助けやアドバイスをしてくれると思います。とてもやりがいのある仕事ですので、子ども好きな方は挑戦してみてください!

たくさんの笑顔を引き出してくれる、とても優しい先生です。たくさんの笑顔を引き出してくれる、とても優しい先生です。本田美貴さま(ほんだ・みき)結己さま(ほんだ・ゆうき)

小日向先生とのお付き合いは子どもが2歳の時からですから、もう4年になります。いつもすごく優しく、目線を合わせて話してくださるので、子どもも安心して接することができていると感じます。今は家でトイレの練習や、手話のサインを使ったコミュニケーションを教えているのですが、そうしたことも一緒に取り組んでいただけるので助かりますね。イベントの時は本当にいろいろと工夫して、子どもからたくさんの笑顔を引き出してくれます。親も一緒に楽しませてくださるので、これからもお願いします! という気持ちです。

東京小児療育病院東京小児療育病院

障害のある方、主に重症心身障害児者を支援している施設。その併設施設として運営されているのが「地域支援センター」であり、通所科、訪問看護科、地域支援室から構成されている。通所科の児童発達支援(幼少部)は1~5歳児を対象に、月・火・水曜(※水曜のみ親子保育)を実施。運動・音楽・制作遊びのほか、近隣の保育園と交流を図るなど、さまざまな体験を提供している。