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II 器質性神経・精神障害に関する検討
第1  検討の視点
 現行認定基準の概要
 神経に関する障害については、現行の認定基準において、後遺障害を残す原因となった障害部位に着目して、中枢神経系に分類される脳及びせき髄による障害並びに末梢及び根性神経麻痺による障害に区分し認定基準が設けられている。
 また、そのほかに、神経障害のうちで特徴的な症状として、特に
(1) 外傷性てんかん
(2) 頭痛
(3) 失調、めまい及び平衡機能障害
(4) 疼痛等感覚異常
を掲げ、各々認定基準が設けられている。

 現行認定基準の問題点
(1)  脳とせき髄による障害については、障害補償の対象となる障害の内容が複雑・多岐にわたる場合が多いという特殊な事情を考慮し、その障害等級の認定については、諸症状を総合し、全体病像から判断することにより等級認定の適正化を図っている。
 しかし、その特殊な事情も影響して、認定の基準が抽象的な表現となっており、基準の明確性という観点からは少なからず問題のあるものと言わざるを得ない。
 すなわち、脳とせき髄の損傷等に伴う障害認定基準のうち、第1級、第2級及び第3級については、介護を要する程度からその重篤度を区分することとしているため一定の判断を行うことが出来るが、第5級、第7級及び第9級に関しては、その基準が「きわめて軽易な労務のほか服することができない」、「一般平均人以下に明らかに低下している」、「その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限される」、あるいは「独力では一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていない」、「独力では一般平均人の1/2程度に労働能力が低下している」というように具体性に乏しく、障害等級認定の実務に携わる医師や担当官にとっては、脳とせき髄による障害の障害等級の認定は困難なものとなっているのが実情である。
(2)  せき髄損傷については、せき柱の変形等の取扱いや馬尾神経損傷に係る取扱いが明確さを欠いている状況にある。
 すなわち、現行認定基準においてはせき柱の骨折のためせき柱の変形又は運動障害を残すとともに、せき髄損傷により下肢等に機能障害を残した場合の取扱いについて、これらを併合して障害等級を決定するという記述がある一方で、他方では総合的に障害を評価するという記述があることから、どのような方法に障害を評価するか明確ではない。
 馬尾神経損傷は、末梢神経に区分されるところ、末梢神経の損傷については身体各部の器官における機能障害に係る等級を準用するという記述がある一方で、馬尾神経損傷も含めてせき髄損傷として扱っていると思われる記述があり、せき柱の変形等と同様にどのような方法に障害を評価するか明確ではない。
(3)  現行認定基準が策定された昭和50年当時はMRI,CT等の機器が存在しておらず、気脳撮影等の非常に侵襲的な診断等によらざるを得なかったが、今日においては画像診断による補助診断技術は非常に進歩しているにもかかわらず、この点が認定基準に反映されていない。
 また、昭和50年当時と比較して医学的知見が集積し、疾病の分類等も見直されていることから、上記の事情とあいまって今日の医学的知見からすると、不適当な記述も散見される状態となっている。

 検討の方向性
(1)  中枢性の障害は、末梢神経の損傷によっては生じ得ない症状を呈するとともにその症状も様々であることから、身体各部の機能障害をもってその症状の全体を把握することは困難である。
 したがって、関連する諸症状を総合し、全体の病像から判断してその障害等級を判断する現在の取扱いは妥当であるが、上述のような問題点が認められることから、中枢神経系の脳とせき髄の損傷等による障害に関する認定基準について、できる限り具体的な基準となるよう改めることを検討すべきである。
 その際、この複雑多岐にわたる臨床症状は、神経系統の器質的損傷により出現するものであるので、認定基準を策定するに当たっては、損傷を受けた神経の部位及び臨床症状の内容を区分し、個々の臨床症状を可能な限り評価することによって全体の病像(障害)を総合的に判断できるような評価の目安の作成が可能であるかについて検討する必要がある。
(2)  せき柱の変形等はせき髄損傷による障害とは別系列であるが、せき柱に外力が加わることによりせき柱の変形とせき髄の損傷が起こることから、せき柱の変形等も含めて総合評価することが妥当であるか検討する必要がある。
 また、馬尾神経損傷については、末梢神経ではあるものの、基本的にせき髄の損傷と同様な症状をもたらすことから、せき髄の損傷と同様に取り扱うことが適当であるか検討する必要がある。
(3)  MRI等の画像診断技術等が進歩した今日においては、気脳撮影等の非常に侵襲的な診断技術を認定基準に記述することは適当ではない。
 また、今日使用されていない疾病の分類等を示すことは適当ではないので、最新の医学的知見を踏まえて内容の見直しを検討すべきである。

第2 .脳及びせき髄の損傷による障害の評価方法の検討
 基本的な考え方
(1)  障害の評価の基本的視点
 神経系統の損傷に伴う各種障害については、損傷された神経の部位を
 (1)脳  (2)せき髄  (3)末梢神経
に大別したうえで、それによって生じる障害を評価することとされているが、各神経部位の損傷に伴う主な症状として「(1)脳の器質的障害」については、「高次脳機能障害」及び「身体性機能障害」として現れ、「(2)せき髄の障害」及び「(3)末梢神経の障害」については、「身体性機能障害」として現れることから、脳及びせき髄の損傷による障害は「高次脳機能障害」と「身体性機能障害」にそれぞれ区分したうえで、障害の程度を評価することが適当であると判断した
 なお、現行の認定基準においては、失行・失語・失認という用語が用いられ、高次脳機能障害という用語が用いられていない。しかしながら、今日においては、高次脳機能障害は失語等の脳の巣症状にとどまらず、脳損傷に起因する行動障害までを含めた認知障害一般を指すものとされている。すなわち、高次脳機能障害とは認知、行為(の計画と正しい手順での遂行)、記憶、思考、判断、言語、注意の持続などが障害された状態であるとされており、全般的な障害として意識障害や痴呆も含むとされている。
 そして、高次脳機能障害に分類される障害は労働能力の低下をもたらすものと考えられるようになっているので、本検討会においても上記の病態について高次脳機能障害という用語を採用すべきであると考える。
 また、身体性機能障害としては、運動障害、感覚障害及び自律神経系障害に区分される。
(2)  神経心理学的テスト等による評価の妥当性
 認定基準として客観性が最も担保されるのは、視力、聴力レベルまたは関節可動域角度のように、検査により得られた数値に基づき障害の程度を判定する方法である。
 しかしながら、脳やせき髄の損傷によって生じる障害は極めて複雑・多岐にわたるものであり、また、知能指数と高次脳機能障害による生活困難度との関連を調査した研究においては、知能指数が高いにもかかわらず生活困難度が高い例があることが報告されている。従って、その障害の程度を判定する際に、現在、脳神経外科・神経内科・整形外科・精神神経科等において一般的に実施されている脳波、脳の画像検査、神経心理学的な各種テスト等の検査結果は臨床判定の際の有効な手段となることは言うまでもないことであるが、その結果のみをもって労働能力のそう失の程度及び全体像を正しく評価・判定することは困難であるとの結論に達した。
(3)  障害の評価を行う際の着眼点
 そこで本検討会においては、脳やせき髄の損傷によって生じる各種障害が「高次脳機能障害」及び「身体性機能障害」として具体的に現れることに着目し、まず特徴的な「行動」、「動作」等の制限や「麻痺」等の状態が具体的な等級として何級程度に評価し得るか。次に、その結果をもとに器質性神経・精神障害の判定することが可能か否かの検討を行い、以下の結論に至った。
 「高次脳機能障害」については、それが業務上の傷病に起因していること及び当該障害の状態を確認した上で、当該障害による影響について日常生活動作等の支障の程度を調査する。日常生活を営むにも援助が必要な場合にはその程度により障害等級を決定し、日常生活動作等が自立している場合には、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つ(以下「4能力」という。)の能力低下に着目し、その障害の状態に応じて評価を行うことが適切であると考える。
 また、「身体性機能障害」のうち「運動障害」及び「感覚障害」については、麻痺の範囲と程度を基本として、運動障害等の程度を踏まえて判断を行うことが適切であると考える。
 なお、「身体性機能障害」のうち「自律神経系障害」については、胸腹部臓器の障害として現れることが多いが、これらの障害については運動障害等の障害と併せて全体像を評価することが現時点における最良の方法と当検討会は判断した。
 そして、高次脳機能障害及び身体性機能障害が併存している場合には、両者に対する評価を行った上でさらに総合評価を行うことが適当である。
 この方法は、検査数値等に基づき認定する方法に比べて客観性において劣ることは否定できないが、中枢神経系の障害の等級認定を行う際の客観性や公平性の確保に関しては十分に有効なものと考えた。
(4)  総合評価の妥当性
 器質性精神・神経障害については、上記のとおり高次脳機能障害及び身体性機能障害に対する評価を行った上でさらに総合評価を行うことが適当であるが、その理由は次のとおりである。
 中枢神経系の器質的損傷に伴う各種障害は、多岐にわたる臨床症状を示し、症状の出現状況も区々である。また、脳外傷者の障害特性と就業定着に関する調査によると、(1)身体性機能障害も高次脳機能障害も重篤である者は最も就業が困難であるが、(2)各々の障害が共に軽度である者は就労をしている者が多く、(3)高次脳機能障害のみが重篤な場合はその中間であると報告されている。従って、残存する障害が、高次脳機能障害及び身体性機能障害の双方に認められる場合及び高次脳機能障害または身体性機能障害のなかで複数の障害が認められた場合には、全体像としてこれらを総合的に判断する方法が、現時点においては適正な判定方法であると考えた。
  参考: 「高次脳機能障害と職業リハビリテーション」(上田 敏 『職リハネットワーク』 1993.10.No.22所収)
参考: 「今後の展望 − 高次脳機能障害支援モデル事業の実施現場から −」(中島八十一、佐藤徳太郎 『MB Med Reha No.25』所収)
参考: 「脳外傷者の障害特性と就業定着について」(清水 亜也 田谷 勝夫 )

 高次脳機能障害の評価
(1)  高次脳機能障害の評価の視点
 本検討会においては、職業生活に重要な意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つの能力低下に着目することとし、そうした観点から高次脳機能障害の障害等級を定める目安として整理した表(以下「高次脳機能障害整理表」別紙1という。)を作成した。
 また、この高次脳機能障害整理表の作成に当たっては、国内における就業難易度の調査・研究、国際障害分類、国民年金法、身体障害者福祉法等国内の他制度、オーストラリア、ドイツ、イギリス等諸外国における職業上の障害に関する情報等を参考に検討を行った。
 なお、高次脳機能障害を有する者の復職率に係る研究をまとめた報告によると、復職率は25〜45%であり、その内容は現職復帰から業務内容を変更する場合までが含まれている。また、労災認定された事例について就労状況を調査した研究は高次脳機能障害が軽度の者と重度な者の就労している者の割合が有意に前者が高いことや就労及びその定着について「体力や集中力に合わせた職務割り当て」等の会社側の支援・配慮が重要であることを指摘している。
 これらのことは重度の高次脳機能障害により就労ができず日常生活を営むにも援助が必要である者を適切に評価する必要があるだけでなく、日常生活は自立しているものの、中等度又は軽度の高次脳機能障害により就労する上での困難が生じている者をその障害の程度に応じて適切に評価する必要のあることを示している。
(2)  障害の評価の具体的着眼点
 高次脳機能障害については、上記のとおり職業生活に重要な意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つの能力低下に着目して評価を行うこととしたが、その判断の要点は次のとおりである
(イ)  意思疎通能力(記銘・記憶力を含む)
 他人とのコミュニケーションが適切に行えるかどうかについて判定する。主に記銘・記憶力、認知力、言語力の側面から判断を行う。
(ロ)  問題解決能力(柔軟性・臨機応変さ)
 作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるどうかについて判定する。主に知的能力、判断力、集中力について判断を行う。
(ハ)  作業負荷に対する持続力・持久力(精神面を含む)
 一般的な就労時間に対処できるだけの心身両面の能力が備わっているかどうかについて判定する。身体能力としての持続力・持久力のみならず、精神面における意欲・気分・集中力についての持続力・持久力についても判断を行う。
(ニ)  社会行動能力(現実認識能力・協調性等)
 他人との関係において円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかについて判定する。主に、協調性、不適切な行動(トラブル非常に起こしやすくなる、過度の感情面の不安定性)の頻度、周囲の人に対する支障の程度についての判断を行う。
(3)  障害の評価に当たっての留意事項
 業務上の負傷又は疾病に起因する高次脳機能障害による障害であることは、当然の前提であるが、高次脳機能障害は脳の器質的病変に基づくものとされていることから、MRI、CT、脳波などにより高次脳機能障害の原因が脳の器質的病変に基づくと診断されることが必要である。
 高次脳機能障害を有する者の中には、食事・入浴・更衣等にも介護が必要な者のほか、食事・入浴・更衣等は概ね自立しているものの、自宅外の行動が困難で外出等をするに際して随時介護が必要な者が少なくない。
 このような重度の高次脳機能障害を有する者が労務に就けないことは明らかであるから、高次脳機能障害の障害の程度を確認するとともに、高次脳機能障害による食事・入浴・介護等の日常生活動作及び外出、買い物等の生活行動についての介護の要否及び程度についてまず調査を行い、常時又は随時のいずれの介護も不要である場合について、4能力の低下の状態を基本として、高次脳機能障害整理表に掲げられた例も参考に労働能力の喪失程度を判断することが適当である。
 なお、その際には、上記の事項について的確に判断するため、障害認定に当たって主治医及び家族(あるいは家族に代わる介護者)に対して別途定める様式により障害の状態についての詳細な情報を求めることとする。
 複数の障害が認められるときには、障害の程度の最も重篤なものを目安として評価を行い、各障害の相互作用に着目して判断することが適当である
(4)  評価の基準
 脳の障害による後遺障害の評価について現行障害認定基準はその障害の程度に応じて
  第1級  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級  神経系統の機能又は精神精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第3級  神経系統の機能又は精神精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
第5級  神経系統の機能又は精神精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第7級  神経系統の機能又は精神精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級  神経系統の機能又は精神精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
第12級  労働には通常差し支えないが、医学的に証明しうる神経系統の機能又は精神の障害を残すもの
第14級  労働には通常差し支えないが、医学的に可能な神経系統の機能又は精神の障害に係る所見があると認められるもの
に区分して評価することとしている。
 本検討会としては、後遺障害として労働能力のそう失を伴うと認められる高次脳機能障害についても上記の各障害等級に区分して評価することが妥当であり、また、上記の各障害等級に相当する障害の程度は、以下のとおりとするのが適当であると考える。

 
第1級  高次脳機能障害により食事・入浴・更衣等の日常生活動作ができず常時介護を要するもの又は高次脳機能障害による高度の痴ほうや情意の荒廃があるために、常時監視を要するものが該当する。

第2級  高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、自宅外の行動が困難で、随時他人の介護を必要とするもの又は高次脳機能障害による痴ほう、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害のため随時他人による監視を必要とするものが該当する。

第3級  高次脳機能障害のために4能力のいずれか1以上の能力について「できない」状態に該当すると認められるもの又は4能力のいずれか2以上の能力について「困難が著しく大きい」状態に該当する認められ、これらの状態の全体を捉えた場合には4能力のいずれか1以上の能力について「できない」状態に相当すると考えられるものが該当する。

 ┌
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 └
 たとえば、4能力のいずれか1以上の能力について「できない」状態に該 当するものには、次のような場合が該当する。
 意思疎通能力については、「職場で他の人と意思疎通を図ることができない」場合
 問題解決能力については、「課題を与えられてもできない」場合






第5級  高次脳機能障害のために4能力のいずれか1以上の能力が「困難が著しく大きい」状態に該当すると認められるもの又は4能力のいずれか2以上の能力について「困難はあるが援助があればできる」状態に該当すると認められ、これらの状態の全体を捉えた場合には4能力のいずれか1以上の能力について「困難が著しく大きい」状態に相当すると考えられるものが該当する。

 ┌
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 └
 たとえば、4能力について「困難が著しく大きい」状態に該当するものに は、次のような場合が該当する。

 ┌
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 └
 意思疎通能力については、「実物を見せる、やってみせる、ジェスチャーで示す、などの色々な手段とともに話しかければ、短い文や単語くらいは理解できる」場合
 問題解決能力については、「単純な作業であっても1人で判断することは著しく困難であり、ひんぱんな指示がなければ対処できない」場合





第7級  脳損傷により意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・集中力や社会的行動能力(協調性・攻撃性・易刺激性等)が低下し、4能力のいずれか1以上の能力が「困難はあるが援助があればできる」状態に該当すると認められるもの又は4能力のいずれか2以上の能力について「困難があり多少の援助が必要」状態に該当すると認められ、これらの状態の全体を捉えた場合には4能力のいずれか1以上の能力について「困難はあるが援助があればできる」状態に相当すると考えられるものが該当する。

 ┌
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 └
 たとえば、4能力について「困難はあるが援助があればできる」状態に該当 するものには、次のような場合が該当する。
 意思疎通能力について、「職場で他の人と意思疎通を図ることができるが、 意味を理解するためにはしばしば繰り返してもらう必要がある」場合





第9級  脳損傷により意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・集中力や社会的行動能力(協調性・攻撃性・易刺激性等)が低下し、4能力のいずれか1以上の能力が「困難があり多少の援助が必要」な状態に該当すると認められたものが該当する。

 ┌
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 └
 たとえば、4能力について「困難があり多少の援助が必要」状態に該当するものには、次のような場合が該当する。
 意思疎通能力については、「職場で他の人と意思疎通を図ることができるが、意味を理解するために時には繰り返してもらう必要がある」場合
 「問題解決能力については「かなり具体的な作業であっても1人で判断することは困難であり、時々助言を必要とする」場合







第12級  MRI、CT等により他覚的に証明される軽度の脳挫傷、脳出血等又は脳波の軽度の異常所見が認められるものであって、4能力のいずれか1以上の能力が「困難はあるが概ね自力でできる」又は「多少の困難はあるが概ね自力でできる」な状態に該当すると認められるものが該当する。

 ┌
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 └
 たとえば、4能力について「困難はあるが概ね自力でできる」状態に該当するものには、次のような場合が該当する。
 意思疎通能力については、「職場で他の人と他の人と意思疎通を図るためにはゆっくり話してもらう必要がある」場合
 また、4能力について「多少の困難はあるが概ね自力でできる」状態に該当するものには、次のような場合が該当する。
 問題解決能力については「さほど複雑でない手順であれば、概ね理解して実行できる」場合









第14級  MRI、CT等によっては、脳の器質的病変は明らかではないが、頭部打撲等の存在が確認されたものであって、4能力のいずれか1以上の能力が「困難はあるが概ね自力でできる」又は「多少の困難はあるが概ね自力でできる」な状態に該当するとの自訴が単に誇張ではないと合理的に推測されるものが該当する。
  参考 「高次脳機能障害者の復職、就労における問題点」(田谷 勝夫 『職リハネットワーク』 1993.10.No.22所収)
参考 「高次脳機能障害者の就職を妨げるもの」(種村 留美 『職リハネットワーク』 1993.10.No.22所収)
参考 「頭部外傷者の障害特性と就労状況(その2)」(田谷 勝夫)
参考 「脳外傷者の障害特性と就業定着について」(清水 亜也 田谷 勝夫)
参考 「地域障害者職業センターの業務統計上"その他"に分類されている障害者の就業上の課題」(日本障害者雇用促進協会障害者職業総合センター 平成9年)
参考 「高次脳機能障害の診断・リハビリテーションマニュアル」(高次脳機能障害者リハビリテーション等調査研究会 平成14年)

 身体性機能障害
(1)  脳損傷の場合
 現行認定基準の考え方と問題点
 現行の認定基準における各等級の基準には次のような記述があることから、失われた又は残存する身体機能を等級判定の直接の要素とはせず、麻痺の範囲と程度を要素として等級判定の基準としていることがうかがえる。
  1級  用廃に準じる程度の四肢麻痺と構音障害の合併
3級  四肢の(不全)麻痺の高度なもの
5級  一下肢の完全麻痺
7級  片麻痺(程度は不明)
9級  四肢の軽度の単麻痺(例えば高所作業や自動車運転が危険であると認められるもの)
12級  感覚障害、錐体路症状及び錐体外路症状を伴わない軽度の麻痺
 現行障害等級表は、障害の部位と程度によって、障害等級を決定しているところから、麻痺の範囲と程度により障害等級を判定する考え方は基本的に妥当であるが、次のような問題点がある。
  (1)  麻痺の程度について、軽度、高度、用廃に準じたものの3通りの記述があるが、その程度が必ずしも明らかではないこと
(2)  麻痺の範囲と程度に係る規定が一部しかないため、表示されていない範囲と程度に当たる麻痺の障害等級が判定しにくいこと
 したがって、認定基準の見直しでは、上記の問題点を解消することを目標として検討すべきである。
 障害認定の方法
(イ)  基本的な考え方
 身体的所見及びMRI等の補助診断法によって裏付けることのできる麻痺の範囲及び程度とそれによる動作制限により障害等級を基本的に決定するのが上記のとおり妥当であり、今後もその考え方を踏襲すべきである。
 また、例えば四肢が完全に麻痺した場合や両下肢が完全強直し、麻痺している部位に広範な知覚異常等が生じている場合には当然第1級の3に該当するものであるが、後述のように四肢の中等度の麻痺や高度の片麻痺に当たるときであっても、障害の状態によっては介護を要することがあるから介護の要否及び程度により1〜3級に決定すべきである。
 なお、現行認定基準は麻痺の程度の区分について、用廃に準じたもの、高度、軽度という用語を用いているが、用廃に当たるものの中には関節がわずかに動くものなど不全麻痺の高度なものも含まれるところから、高度、中等度、軽度に区分することが適当である。
(ロ)  麻痺の程度の評価
 現行認定基準上軽度の運動障害の例示として高所作業や自動車運転が可能ではあるが、危険と認められるものが挙げられていることから、軽度な運動障害は歩行や掴む・握るといった基本的な動作はできるものの、巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものと考えられる。一方、高度とは基本的に用廃に準じたものと考えられることから、障害のある四肢の運動性・支持性は失われているので、その中間の中等度の運動障害は障害のある四肢の運動性・支持性にかなりの制限が生じているものと考えることが適当である。
 なお、不随意運動、運動失調等の共同運動障害による各種の障害や共同運動障害、筋緊張、関節の可動域制限等があいまって障害が生じている場合の共通した尺度を現時点においては示し得ないことから、四肢の運動性が失われている、かなりの制限がある、巧緻性及び速度が相当程度損なわれていることの例を示すことが適当である。
 したがって、高度、中等度、軽度に該当する場合は、それぞれ以下のとおりとすることが妥当である。
a  高度
 高度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位、上肢にあっては持ち上げることやつかむこと等)ができないと考えられるもので、次のいずれかに該当する場合をいう。
(1)  完全強直又はこれに近い状態にあるもの
(2)  いずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
(3)  共同運動障害が高度であって随意運動の障害が顕著なため基本動作(歩行及び立位の保持、持ち上げる、掴む及び握る等)ができないもの
 たとえば、上肢にあっては「障害を残した上肢のみでは物を持ち上げることができないもの」、下肢にあっては「障害のある下肢のため杖や装具無しでは歩行することが困難なもの」が該当する。
b  中等度
 運動障害が中等度であるとは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作(歩行及び立位の保持、持ち上げる、掴む及び握る等)にかなりの制限があるものも該当する。
 たとえば、上肢にあっては、「障害を残した上肢では文字を書くことができないもの」や「障害を残した上肢のみでは軽量な物(概ね500g)を持ち上げることができないもの」、下肢にあっては、「障害のある下肢のため、杖や装具無しには階段を上ることができないもの」が該当する。
c  軽度
 運動障害が軽度であるとは、障害のある四肢の運動性・支持性は保たれているものの、障害のある上肢又は下肢の基本動作(歩行及び立位の保持、持ち上げる、掴む及び握る等)を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものが該当する。
 たとえば、上肢にあっては、「障害を残した上肢では文字を書くことにかなりの支障があるもの」、下肢にあっては、「障害のある下肢のため、日常生活は概ね独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの」が該当する。
 なお、身体性機能障害についても、高次脳機能障害と同様にその障害が医学的・客観的(他覚的)に確認できることが大前提であり、障害認定に当たって主治医に対して別途定める様式により障害の状態についての詳細な情報を求める必要がある。
(ハ)  身体性機能障害の程度
 ところで、脳損傷による身体性機能障害に係る障害等級は、現行認定基準上1、2、3、5、7、9、12級となっているが、12級は労務には基本的に差し支えない障害が該当するものである。一方、現行認定基準上軽度の単麻痺とは、例えば自動車の運転が危険であると認められるものが該当するとされているので、労務に支障があるのはもちろんのこと、社会通念上就労可能な職種が相当程度制限されると解されることから9級が妥当である。そして、一上肢又は一下肢の用廃は5級に相当することから、単麻痺の高度な麻痺は5級とすることが妥当であり、軽度の麻痺が9級に該当する以上、その中間の中等度の単麻痺は7級に該当させることが妥当である。
 また、中等度の四肢麻痺は現行認定基準上3級となっているが、すべての四肢に相当程度の障害が認められる障害については、少なくとも労働能力をすべて喪失していると考えられることから、3級以上の障害として評価することが妥当であり、これより障害の程度の軽い軽度の四肢麻痺は5級とすることが適当である。
 なお、片麻痺については、上肢及び下肢の障害等級に準じて考えると、軽度の単麻痺が9級相当であることから、軽度の片麻痺は7級が妥当であり、同様に中等度の片麻痺は5級、高度な片麻痺は少なくとも2級に該当させることが適当である。
 以上のことを表にまとめると、次のとおりとなる。

  四肢麻痺 片麻痺 単麻痺
高度 1〜2※
中等度 1〜3
軽度
 上肢及び下肢の障害がいずれも5級である場合には、併合すると2級となる。

 このように動作制限のみならず麻痺の範囲及び程度を踏まえて障害等級を定めることとしたのは、現行障害等級表は、基本的に原因を特定することなく障害の部位及び程度に応じて障害等級を定めているからである。すなわち、障害の原因が異なったとしても出現した部位と症状が同じであれば、同様に評価することとされていることを踏まえたものである。
 したがって、例えば5級に相当する障害として1上肢(1下肢)の用廃が定められているから、脳及びせき髄の損傷によるものであっても、それが1上肢(1下肢)の運動障害にとどまる限り5級を上回ることはない。また、5級と評価するためには、完全麻痺により完全強直しているあるいは筋力が著しく減じていることにより関節可動域制限が生じ用廃に該当する状態には限られないものの、共同運動障害が著しいといった1上肢(1下肢)の機能をほとんど失うに足る機能障害を有し、現に1上肢の機能をほとんど失っている状態に当たることが必要とされることは言うまでもないから、具体的な障害等級を定めるに当たってはこの点に留意する必要がある。
(ニ)  障害等級の例示
 本検討会としては、後遺障害として労働能力のそう失を伴うと認められる身体性機能障害についても1級から12級の各障害等級に区分して評価することが妥当であると考える。
 そこで、本検討会においては、身体性機能障害に係る障害の例を示すことが適当であると考え、身体性機能障害整理表別紙2)をとりまとめたうえ、具体的な等級として以下の例を示すものである

 1級の3
 脳損傷による四肢の中等度以上の運動障害又は一上肢及び一下肢の高度な運動障害等の身体性機能障害により、食事・入浴・更衣等の日常生活動作ができず常時介護を要するもの

 2級の2
 脳損傷による四肢の中等度以上の運動障害又は一上肢及び一下肢の高度な運動障害等の身体性機能障害により、自宅内の食事・入浴・更衣等の日常生活動作は一応できるが、自宅外の行動が困難で、随時他人の介護を必要とするもの

 3級の3
 脳損傷による四肢の中等度以上の運動障害又は一上肢の高度の運動障害及び一下肢の中等度の運動障害等の身体性機能障害により、終身労務に就くことができないもの
 たとえば、常時及び随時の介護のいずれも不要であるが、歩行できないものが該当する。

 5級の1の2
 脳損傷により以下の障害が認められ、特に軽易な労務以外には服することができないもの
 これには次のような状態が該当する。
(1)  一上肢及び一下肢に係る中等度の運動障害等の身体性機能障害により、一上肢及び一下肢の機能の機能を著しく失ったもの
 たとえば、一上肢及び一下肢に係る中等度の運動障害等が生じたことにより、「杖や装具無しでは歩行することが困難な」場合
(2)  一上肢の高度な運動障害等(例:完全麻痺)の身体性機能障害により、一上肢の機能をほとんど失ったもの
 以下のいずれかに該当する場合
a  完全強直又はこれに近い状態にあるもの
b  いずれの関節においても自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
c  共同運動障害が高度なことにより、障害のある上肢では物を握る、つまむ、物を持ち上げる等の基本動作ができないもの
(3)  一下肢の高度な運動障害等(例:完全麻痺)の身体性機能障害により、一下肢の運動性と支持性をほとんど失ったもの
 次のいずれかに該当するもの
a  完全強直又はこれに近い状態にあるもの
b  いずれの関節においても自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
c  共同運動障害が高度なことにより、一下肢の随意的な運動性と支持性をほとんど失ったもの

 7級の3
 脳損傷により以下の障害が認められ、軽易な労務以外には服することができないもの
 これには次のような状態が該当する。
(1)  一上肢及び一下肢の軽度の運動障害等の身体性機能障害により、上肢及び下肢の機能を相当程度失ったもの
 例えば、一上肢及び一下肢の軽度の運動障害等が生じたことにより、「杖や装具無しには階段を上ることができない」場合
(2)  一上肢の中等度の運動障害等の身体性機能障害により、上肢の機能を著しく失ったもの
 例えば、一上肢に中等度の運動障害等が生じたことにより、「文字を書くことができない」場合
(3)  一下肢の中等度の運動障害等の身体性機能障害により、下肢の機能を著しく失ったもの
 例えば、一下肢の中等度の運動障害等が生じたことにより、「杖や装具無しには階段を上ることができない」場合 ※

 9級の3
 脳損傷により以下の障害が認められ、社会通念上就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
 これには次のような状態が該当する。
 一上肢の軽度の運動障害等の身体性機能障害により、上肢の機能を相当程度失ったものたとえば、
      一上肢の軽度の運動障害等が生じたことにより「文字を書くことにかなりの支障がある」場合
 一下肢の軽度の運動障害等の身体性機能障害により、下肢の機能を相当程度失ったもの
 たとえば
      一下肢の軽度の運動障害等が生じたことにより「日常生活は概ね独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅い」場合

 第12級の12
 MRI、CT等により他覚的に証明される脳挫傷、脳出血等又は脳波の軽度の異常所見が認められるものであって、ごく軽度の運動障害等(例:ごく軽度の随意運動の障害、ごく軽度の筋緊張の亢進等のみが認められるもの)を残すもの
(ホ)  その他の検討事項
a  Brunnstrom Stageに係る検討
 なお、脳の損傷による障害の評価については、我が国のリハビリテーション科領域においてBrunnstrom Stageが広く用いられている現状にある。しかしながら、Brunnstrom Stageが注目しているいわゆる原始的共同運動という現象以外にも失調性麻痺や不随意運動性の麻痺等の随意運動障害は存在していることから、Brunnstrom Stageのみに着目することなく、広く共同運動障害による随意運動の障害や関節可動域制限、筋緊張等の程度について広く着目することが望ましいと考えたものである。
 徒手筋力テストに係る検討
 徒手筋力テストは、筋力を評価するものとして広く採用されており、正しい知識と技術に基づいて行えば信頼性、妥当性、鋭敏性、整合性の高い優れた検査法であると評価されている。
 労災保険においては、徒手筋力テストは筋力低下を裏付ける補助診断法に乏しいこともあり、被検者の真摯な協力が得られない場合は、適正な評価ができないことから採用していないところであるが、不全麻痺による運動障害の大きな原因となっている筋力低下に着目しないことは適当ではない。(なお、徒手筋力テストの結果2以下となる場合には、自動運動による関節可動域の制限が生じることから、一定の評価をしており、現行の取扱いが麻痺による筋力の低下を考慮していないわけではない。)
 しかしながら、脳損傷による障害の場合には被験者の協力を得ること自体が難しいことがある上、共同運動障害等により不随意運動等の複雑な症状が生じるため、徒手筋力テストを適切に実施できないことも多い。また、筋力低下のほかに不随意運動、運動失調や関節可動域の制限が生じることが多いが、前述のとおりこれらがあいまって障害が生じている場合の尺度を現時点においては示し得ないことから、そのような時には障害の程度はこれらすべての要因によりどのような障害が生じているのかを評価することが適切であるので、徒手筋力テストにより判断することが適当な障害は非常に限られることとなる。
 また、徒手筋力テストは各筋の筋力を評価するものであるが、各関節に係る主動作筋に限ってみても1上肢で50程度の筋力を評価することが必要であり、しかも各主動作筋の筋力の各関節に与える影響は必ずしも一様ではないことから、各主動作筋の筋力低下の全体をどのように評価することについては、未だに医学的知見が確立していない状況にある。
 さらに、前述のとおり筋力低下を裏付ける補助診断法に乏しいことから、徒手筋力テストの結果のみによることなく他の身体的所見との整合性を判断し、整合性が認められた障害のみを評価するという運用によることを条件にして採用せざるを得ないので、結局はどのような障害が生じているかにより評価することとなり、徒手筋力テストを採用する必要性に乏しいと考えられる。
 したがって、徒手筋力テストは優れた検査手技ではあるが、現時点においては単なる参考にとどめるのが適当であり、その認定基準への取り込みについては、全体的な運動障害の評価のあり方を念頭に慎重に検討すべきであるとの結論に至った。

【参考:徒手筋力テスト】
 徒手筋力テストは、筋力を評価する方法として広く採用されている。
 このテストは、人体の主要関節を動かす筋の筋力を特別な器具を使わずに検者の手で測定する方法である。
 評価は、通常、正常(5)、優(4)、良(3)、可(2)、不可(1)、ゼロ(0)の6段階としている。
 徒手筋力テストの各段階の評価は、
  0(筋の収縮も全くみられない。)
1(関節は動かない。筋の収縮のみが認められる。)
2(重力を除けば完全に動かせる。)
3(抵抗を加えなければ、重力に打ち克って完全に動かせる。)
4(かなりの抵抗を加えても、なお完全に動かせる。)
5(強い抵抗を加えても完全に動かせる。)

  参考: 「脳卒中のリハビリテーション」(「標準リハビリテーション医学」(平成12年 医学書院)所収)
参考: 『脳卒中患者の機能評価』(千野 直一編 シュプリンガー・フェアラーク東京 1997)
(2)  せき髄損傷の場合
 評価の方法
 せき髄損傷による障害についても運動障害と感覚障害の評価は、基本的には脳と同様に麻痺の範囲と程度により行うことが適当であり、運動障害の程度についても同様の基準により判断して差し支えないものである。また、障害の状態も脳損傷の場合と同様にその詳細の状態を求めることが適当である。
 ただし、せき髄損傷による障害の程度を判断するに当たっては、MRI画像等による高位診断と横断位診断が有効であるが、両下肢の高度の麻痺等が生じた場合には、障害等級第1級となることから、高位診断としては第2腰髄以上(第2腰椎以上で馬尾神経が損傷された場合を含む。以下同じ。)で損傷されたかどうかに着目し、横断位診断としては中心性損傷の場合には麻痺が上肢及び下肢に麻痺が生じるものの上肢により強く生じ、半側損傷の場合には損傷されたせき髄と同じ側の下肢に運動麻痺が生じ、運動麻痺等の範囲に関係するところから、中心性損傷か半側損傷かその他の損傷かに着目することが適当であると考える。
 なお、せき髄損傷の場合、せき柱に加えられた外力により多くは脊柱の変形等を伴っているとともに、対麻痺の場合、神経因性膀胱障害などの胸腹部臓器の障害を通常伴っているので、この点を踏まえて各障害等級に該当する麻痺及び胸腹部臓器の障害等の程度並びにその障害による動作制限の例を示し、これを参考として障害等級を決定することが妥当であると考える。
 せき柱の変形又は運動障害の取扱いの検討
 神経系統の認定基準とせき柱の認定基準を踏まえて、せき髄損傷により障害が生じているもののうち、せき髄損傷により重篤な症状を含め様々な症状が生じており、総合的な評価を行うことが適当な場合については、せき柱の変形又は運動障害を含めて総合評価を行っているとともに、中枢の障害により身体各部に機能障害が生じた場合であって、当該障害について障害等級表上該当する等級があるときには、その等級を中枢の障害の準用等級として定めることとされていることから、せき柱の変形又は運動障害については併合して等級を決定しているところである。
 しかしながら、せき髄損傷により運動麻痺を生じている場合には、通常せき柱の変形が認められるとともに広範囲に感覚異常が認められる等各種の症状が生じていること、せき柱の変形や運動障害は、主に体幹の支持性や移動能力に影響を及ぼすものと考えられることから、併合して障害等級を決定することは妥当ではなく、今後はせき柱の変形・運動障害は、原則として麻痺、胸腹部臓器の障害等のせき髄症状とともにその全体の病像を総合評価すべきである。
 以上のことから、せき柱の変形障害又は運動障害を残すとともに、他の部位に麻痺等の機能的障害を残した場合は、これらを併合して等級を認定することとなるという取扱い及びせき損により一下肢の完全麻痺と軽度の尿路障害が生じた場合には併合の方法を用いて準用等級を定めるという取扱いは改められるべきである。
 馬尾神経の損傷の取扱いの検討
 第2腰椎高位以下では解剖学的にはせき髄は存在しないので、腰椎下位及び仙椎にはせき髄が存在しないものであるが、現行認定基準においては、「馬尾神経がある部位の損傷(腰仙椎)では、筋の反射消失を伴う弛緩性麻痺が生じ、筋肉の萎縮、腰髄・仙髄に当たる後根の感覚脱失をみる」とされていること、「下位腰椎部」の損傷を含めて「外傷性せき髄損傷」としていることからすると、馬尾神経がある部位の損傷(腰仙椎)も含めてせき髄損傷としていると解される。
 せき髄の損傷による障害である下肢の運動障害、感覚障害、神経因性膀胱(直腸)障害は、いずれも馬尾神経が損傷されたことによっても生じること、広義のせき髄損傷には馬尾神経損傷が含まれることから、腰仙椎等において馬尾神経が損傷されたことによる障害も含めてせき髄損傷として扱っている現行認定基準の取扱いは概ね妥当である。
 具体例
 1級の3
 せき柱に外力が加わったことによりせき柱の変形や運動障害が生じるとともに、第2腰髄以上(第2腰椎以上で馬尾神経が損傷された場合を含む。以下同じ。)で損傷を受けたことによる神経因性膀胱(直腸)障害等の胸腹部臓器の障害、せき髄の損傷部位以下の感覚障害及び四肢又は両下肢の中等度以上の運動障害が認められることにより、常時介護を必要とするもの。

 2級の2
 せき柱に外力が加わったことによりせき柱の変形や運動障害が生じるとともに、せき髄の損傷による神経因性膀胱(直腸)障害等の胸腹部臓器の障害、せき髄の損傷部位以下の感覚障害及び四肢又は両下肢の中等度の運動障害が認められることにより、随時介護を必要とするもの。
 例えば、
(1)  せき柱の変形が認められるとともに、第2腰髄以上で損傷を受けたことによる軽度の神経因性膀胱(直腸)障害、脊髄の損傷部位以下の感覚障害のほか、両下肢の中等度の運動障害が生じたことにより、立位又はその保持に杖や装具を要するもの
(2)  せき柱の変形が生じるとともに頸髄を中心性に損傷し、軽度の神経因性膀胱(直腸)障害や損傷部位以下の感覚障害のほか、両上肢に中等度の運動障害、両下肢に軽度の運動障害が認められるもの
が該当する。

 3級の3
 せき柱に外力が加わったことによりせき柱の変形が生じるとともに、せき髄の損傷による神経因性膀胱(直腸)障害等の胸腹部臓器の障害、せき髄の損傷部位以下の感覚障害及び両下肢の中等度の運動障害が認められることにより、終身労務に就けないもの
 例えば、
 せき柱の変形が認められるとともに、第2腰髄以上で損傷を受けたことにより、軽度の神経因性膀胱(直腸)障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害のほか、両下肢の中等度の運動障害が生じたことにより、杖・装具なしには歩行することができないもの
が該当する。

 5級の1の2
 せき柱に外力が加わったことによりせき柱の変形が生じるとともに、せき髄の損傷による神経因性膀胱(直腸)障害等の胸腹部臓器の障害、せき髄の損傷部位以下の感覚障害及び両下肢の軽度の運動障害が認められることにより、特に軽易な労務以外には服することができないもの。
 例えば、せき柱の変形が認められるとともに、第2腰髄以上で損傷を受けたことにより、軽度の神経因性膀胱(直腸)障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害のほか、両下肢の軽度の運動障害が生じたことにより、例えば杖・装具なしには階段をのぼることができないものが該当する。

 7級の3
 せき柱に外力が加わったためにせき柱の変形が生じるとともに、せき髄の損傷による神経因性膀胱(直腸)障害等の胸腹部臓器の障害、せき髄の損傷部位以下の感覚障害及び両下肢の運動障害等が認められることにより、軽易な労務以外には服することができないもの
 たとえば、次のような場合が該当する。
(1)  せき柱の変形が認められるとともに、第4腰髄以下で損傷を受けたことにより、軽度の神経因性膀胱(直腸)障害等、脊髄の損傷部位以下の感覚障害のほか、両下肢に運動障害等の症状が生じたことにより、日常生活は概ね独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの
(2)  第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより、一下肢の運動障害等の症状が中等度なほか、脊髄の損傷部位以下に感覚障害が生じているもの

 9級の3
 第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより、一下肢の軽度の運動障害等の症状のほか、脊髄の損傷部位以下に感覚障害が生じ、社会通念上就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの

 12級の12
 MRI等により軽度のせき髄損傷が認められるものであって、ごく軽度のせき髄症状(例:ごく軽度の筋緊張の亢進等)を残すもの

  参考: 『脳性麻痺など脳性運動障害児・者に対する治療およびリハビリテーションの治療的効果とその評価に対する総合的研究』(厚生労働省障害保険福祉総合研究事業 平成13年度 研究報告書)
参考: 「脊髄損傷に対する最近の医療と社会的ケア」(竹芝 義治、芝啓一郎、植田 尊善 (『整形・災害外科』(金原出版)41:721〜729 1988所収))
(3)  根性の表記について
 現行認定基準は、根性及び末梢神経麻痺に係る等級の認定方法を示しているが、神経根も末梢神経の一部であるから、末梢神経麻痺のほかに根性という表記は不要である。

第3  器質性の障害に関するその他の特徴的な障害に関する検討
1.  検討事項
 現行の認定基準は、脳及びせき髄による障害並びに末梢及び根性神経麻痺による障害に関する基準のほかに、その他の特徴的な障害に関する基準として、
(1) 外傷性てんかん
(2) 頭痛
(3) 失調、めまい及び平衡機能障害
(4) 疼痛等感覚異常
を掲げ、各々認定基準が設けられているので、それぞれについて見直しの検討を行った。

2.  外傷性てんかん
(1)  検討の視点
 てんかんの発作が数ヶ月に1回程度又は完全に抑制しうる場合と発作の発現はないものの脳波上に異常を認める場合とを同等に評価する基準となっていること等について基準の妥当性について疑義が示されており、現行の認定基準が最新の医学的知見に照らして妥当なものであるか検討すべきである。
 また、現行認定基準は発作の型のいかんにかかわらず、障害等級を決定することになっていること、重篤な症状を呈している場合の取扱いについて、治ゆが予定されていないこと等についても疑義が示されていることから、これらの点についても最新の医学的知見に照らして妥当なものであるか検討すべきである。
(2)  てんかんの発作のないものの評価の検討
 てんかんの発作がないものの脳波上に異常を認める状態を「てんかん」と認めることが脳神経外科学的に妥当性を有するものか否かについて検討する。
 てんかんは、てんかん発作を主徴とする慢性の大脳疾患であり、WHOは「大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作を主徴とする疾患」と定義していることから判断すれば、「てんかん」と診断する上では、「反復性の発作」が最も重要な要素の一つであると考えられる。
 次に、労災保険の対象となる「外傷性てんかん」について診断基準を示したWalkerの6項目の内容は次のとおりである。
(1)  発作はまさしくてんかん発作である
(2)  受傷前にてんかん発作はなかった
(3)  外傷は脳損傷を起こすのに十分な程度の強さであった
(4)  てんかん発作の初発が外傷後あまり経過していない時期に起こった(閉鎖性で2年、開放性で10年。2年以内に80%以上が発症)
(5)  ほかにてんかん発作を起こすような脳や全身的疾患を有しない
(6)  てんかんの発作型、脳波所見が脳損傷部位と一致している
 この基準の中においても「発作」については重視しているが、「脳波所見」については、脳損傷部位との一致を判断基準の一つとしているにすぎず、「脳波所見の確認」をもって「外傷性てんかん」の判断基準の一つとはせず、補助的要素として評価していると考えられる。
 確かに、各種てんかん発作に特徴的な脳波が現れることから「てんかん」の診断を行う上で「脳波所見」は不可欠な(または重要な)要素であることは異論のないところであるが、逆に、脳波異常があるからといって必ずてんかん発作に直結する又はてんかんの状態にあるとまでは言い切れないと判断することが一般的である。
 このことに関しては、日本の外傷性てんかん調査会が実施した「外傷性てんかんのリスクファクターについての多施設共同研究」(1991年報告)においても、要旨、「脳波異常」は「頭蓋内血腫・脳挫傷」等と並んで発生危険因子9種類の一つとして取り上げられてはいるものの、「脳波異常(とくに局所性発作波、ただし、脳波は外傷性てんかんの予知には役立たない)」と記載されており、脳波の異常をもって「てんかん」と判断することは現在の医学界においてはコンセンサスを得られるものではないと判断される。
 さらに、これまでの医学経験則を踏まえれば、てんかん発作が認められた者と発作がなく脳波上に異常を認める者では、その後の臨床経過はもとより能力低下の内容がまったく異なることから、これを同一評価することは適切ではない。
 以上の検討から、当検討会は、少なくとも「てんかん」と診断されるためには、「てんかん発作の出現」が大前提であるとすることが現在の医学常識から判断して妥当な取扱いと考える。
 したがって、現行の障害等級第9級の7の2に規定する障害の状態のうち、「発作 の発現はないが、脳波上明らかにてんかん性棘波を認めるもの」については、障害 等級第9級の7の2の対象から除くべきであるとの結論に達した。
(3)  外傷性てんかんの認定基準の検討
 ICIDH(1980)においては、てんかんについて「意識の間欠的障害」の中で次の6段階の評価を行っている(( )内は該当する障害等級)。
  ICIDH(1980)の区分 障害等級の区分
(1)  最重度間欠的意識中断
     (包含)1日1回以上の発作頻度をもつてんかん
(2)  重度間欠的意識中断
     (包含)1週1回以上の発作頻度をもつてんかん      (第2級の2の2)
終身労務に服することができないもの ←(第3級の3)
一般平均人の1/4程度の労働能力の残存 ←(第5級の1の2)
(3)  中等度間欠的意識中断
     (包含)1ヶ月1回以上の発作頻度をもつてんかん  (第7級の3)
(4)  軽度間欠的意識中断
     (包含)1ヶ月1回にならない発作頻度をもつてんかん      
数ヶ月に1回又は完全に発作を抑制 ←(第9級の7の2)
(5)  間欠的意識中断
     (包含)精神運動発作性てんかん
(6)  その他の発作
     (包含)小発作
 このICIDHの区分と現行の障害認定基準の対比については次のように整理できる。
(イ)  ICIDHの(1)最重度間欠的意識中断の区分(1日1回以上の発作頻度をもつてんかんの状態)については、障害認定基準上第1級の障害を定めない理由として、てんかんのため常時介護を要する程度の症状であれば、当然療養の対象となるものであるとしており、ICIDHの(1)の状態はまさにこのような状態と考えられるから、これに対応する障害等級を定めていないことには一定の理由があるものと考えられる。
 反面、常時介護の状態であることのみをもって「療養継続」と判断することは、他の部位における障害においてはこうした状態であっても「症状固定」であれば「症状固定」と判断した上で障害等級第1級と認定している状況にあり、「外傷性てんかん」のみを「療養継続」、言い換えれば「症状固定のない疾病」としていることについては検討する必要があるものと考える。
(ロ)  次に、ICIDHの(2)及び(3)の区分については、てんかん発作の頻度に応じて、障害等級認定基準では、それぞれ同じ頻度のものを障害等級第2級、障害等級第7級と設定しており、この点において問題は生じない。
 ただ、障害等級認定基準においては、この両者の中間に位置する等級として、
  第3級  (十分な治療にかかわらず、発作に伴う精神の障害のため終身労務に服することができないもの)及び
第5級  (十分な治療にかかわらず、発作の頻度又は発作型の特徴のため、一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていないもの。てんかんの特殊性からみて、就労可能な職種が極度に制限されるものはこれに該当する)
を設定している。
 したがって、てんかん発作の頻度が1週当たり1回未満で1ヶ月に1回以上のものについて終身労務に服することができない場合、就労可能な職種が極度に制限される場合及び就労可能な職種が著しく制限される場合の区分について明示することが可能であるか検討する必要がある。
(ハ)  さらに、ICIDHの(4)軽度間欠的意識中断の区分(1ヶ月1回にならない発作頻度をもつてんかん)については、障害等級第9級が「十分な治療にかかわらず、1ヶ月に1回以上の意識障害を伴う発作があるか、又は・・・」と規定しており、ほぼ、同程度の障害を想定しているものと考えられるが、この区分に完全に発作を抑制しうる場合を含めてよいか否かについて検討する必要がある。
(ニ)  加えて、ICIDHでは、(5)間欠的意識中断の区分(精神運動発作性てんかん)、(6)その他の発作の区分(小発作)を設けているので、この状態が、障害等級に該当するものであるか否かについても検討する必要がある。
(ホ)  外傷性てんかんの障害等級の考え方
 上記イ〜ニの問題点等を踏まえ、「外傷性てんかん」にかかる障害等級の考え方について当検討会は次のように結論した。
a  現行障害認定基準においては、常時介護が必要な程度の「外傷性てんかん」については療養の状態にあるとして障害等級を定めていないが、これまでの医学経験則からは、療養効果のない重篤な「外傷性てんかん」は認められており、「外傷性てんかん」を症状固定のない疾病とすることは障害認定実務上問題のある取扱いと考えられる。
 しかしながら、現行の障害等級第2級に規定している「週1回以上のてんかん発作が残存する状態」及び障害等級第3級に規定している「発作に伴う精神の障害のため終身就労することができない状態」は、医学経験則上このような頻度で「てんかん」発作のみが単独で残存することは想定しがたく、通常は、脳挫傷があり、高次脳機能障害を残す状態でてんかん発作を伴っているケースが考えられる。したがって、こうした状態における障害の評価は、単に「てんかん発作の回数」に基づき障害の状態を判定するよりも脳全体の機能低下の状態について現行の「中枢神経系(脳)の障害」に係る認定基準により総合的に障害判定を行うことがより適正な判定が出来るものと考えられるので「外傷性てんかん」にかかる障害等級第3級以上の独自の障害認定基準は設定しないことがより適切であると判断した。
b  次に、現行認定基準第7級に規定する「1ヶ月に1回以上の意識障害を伴う状態」については、発作の型により症状の内容に相当程度の幅があり、障害の程度も大きく異なることから、障害認定を行う際には、症状固定前の療養過程における発作の種類に従って次の2区分に分類し、障害等級を認定することが医学的に妥当である。
(a)  1ヶ月に1回以上の発作の種類が「意識障害の有無を問わず、転倒する発作等(以下「転倒する発作等」という。)」であるものは、就労できる職種は特に軽易なものに限られる等相当程度の制約がある重篤な状況と考えられることから障害等級第5級の格付けが望ましい。
 なお、これに該当する発作の典型例は、強直・間代性発作(大発作)であるが、これと同程度と考えられる「意識障害を呈し、情況にそぐわない行為を示す発作」もこの範疇に含まれるものである。
(b)  1ヶ月に1回以上の発作の種類が「転倒する発作等以外の発作」の種類であるものは、現行どおり障害等級第7級とする。
c  現行認定基準第9級には、
(a)  数ヶ月に1回程度の発作を残すもの
(b)  服薬の継続によって発作を完全に抑制しているもの
(c)  発作の発現はないが、脳波上明らかにてんかん性棘波を認めるもの
の3形態が包含されているが、現在の医学経験則に照らせば、これら3つの状態を同等に評価することは残存する障害の状態及び就労への影響等から問題のあるものと考えられる。
 従って、この障害等級第9級の区分については障害の状態の評価、就労への影響から次のように再区分すべきと考える。
 なお、障害認定を行う場合には、症状固定前の療養過程における発作の種類に従って判断を行うことが適切と考える。
(a)  数ヶ月に1回程度の発作を残すものについては、
(1)  数ヶ月に1回以上の発作の種類が「転倒する発作等」であるものは、就労できる職種は軽易なものに限られる等の制約がある状況と考えられることから障害等級第7級の格付けが望ましい。
(2)  数ヶ月に1回以上の発作の種類が「転倒する発作等以外の発作」の種類であるものは、現行どおり障害等級第9級とする。
(b)  服薬継続により発作を完全に抑制しうる場合
 現行障害認定基準第9級には「服薬継続によりてんかん発作を完全に抑制しうる場合」を規定しているが、この状態には、服薬の継続により発作をほぼ完全に抑制している場合のみならず、服薬の継続により発作をほぼ完全に抑制できていると思われる状態において極稀に発作が起こる場合も含まれるものと解することが妥当である。
 従って、この状態においては、ほとんどの場合てんかん発作は発現していないものの、当分の間は服薬を継続しなければならない状態であり、てんかん発作の危険性が終生生じていることは就労への制限がある状態と判断できることから、現行どおり障害等級第9級との評価が妥当と考える。
 なお、現行基準の「発作を完全に抑制しうる場合」との表現は、「投薬継続により発作が全くない状態」のみを想定しているように判断される恐れがあるので、「服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されている場合」と改めるべきである。
(c)  発作の発現はないが、脳波上明らかにてんかん性棘波を認める場合
 「外傷性てんかん」と医学的に判断するには、「てんかん発作の出現」の認められる状態が必要であり、脳波上に異常所見が認められる事のみをもって「外傷性てんかん」と判断すべきでないことについては既述のとおりである。
 従って、現行の障害等級第9級に規定している「脳波上に明らかにてんかん性棘波」を認める状態については、疾病へ進展する可能性を否定できない段階とは考えられるものの、てんかん発作を起こさないために服薬の投与がほとんどの場合開始されるとともに、脳に外傷があることは客観的に判断できるので「明らかなてんかん性棘波が認められる場合」に限って障害等級第12級とすべきである。
d  ICIDHにおける(5)間欠的意識中断の区分(精神運動発作性てんかん)及び(6)その他の発作の区分(小発作)については、現行の障害認定基準においても「外傷性てんかんに係る等級の認定は、発作型のいかんにかかわらず・・・」と規定しており精神運動発作性てんかん及び小発作を除くこととはしていないところであり、今回の検討においてもこれらの発作の労働能力に与える影響等を医学的に考慮すれば、これらを障害補償の対象から除く必要性はないものと考えられることから、従前どおり、外傷性てんかん発作の一つの種類として取り扱うことが妥当であり、これを変更する必要性は全くないとの意見で一致したものである。
 今回の検討においては、てんかん発作の区分を「(1)転倒する発作等、(2)転倒する発作等以外の発作」の2区分としたところであり、精神運動発作性てんかんは「(1)の転倒する発作等」に、小発作は「(2)の転倒する発作等以外の発作」にそれぞれ分類されるものである。
(4)  その他の事項に係る検討
 障害認定必携における「外傷性てんかん」の記述は、他の部位(疾病)に関する記述に比べて、病態の説明、業務上外の考え方、治療方法等までも含むものとなっており、異質な感を受けることは否めないが、認定実務にあたる担当官のことを考えれば、一定程度の説明は必要と考えられる。しかしながら、少なくとも治療方法等についての記述は不要と考えられることから、これらを整理するとともに、診断方法にあっては、CT、MRI、長時間ビデオ脳波同時モニター等の各種検査方法が進展していることを踏まえ、より正確な診断を行う上からもこうした「画像診断」を積極的に取り入れることについて新たに記述すべきである。

 頭痛
(1)  現行の取扱い
 現行の認定基準は、頭痛を6つの型に分けて次のとおり記述している。
(1)  頭部の挫傷、創傷の加わった部位により生ずる疼痛
(2)  血管性頭痛(動脈の発作性拡張によって生ずるもので片頭痛というのはこの型の1つである。)
(3)  筋攣縮性頭痛(頸部、頭部の筋より疼痛が発生するもの)
(4)  頸性頭痛(後頸部交感神経症症候群)
(5)  大後頭神経痛など上位頸神経の神経痛又は三叉神経痛(後頭部から顔面や眼にかけての疼痛)
(6)  心因性頭重
 なお、頭痛の型により障害等級を区分しているわけではない。
(2)  検討の視点
 頭痛の型を変更する必要があるか。また、頭痛の認定基準は必要か。
(3)  検討内容
 頭痛の型
 現行認定基準上は頭痛の型は注として掲げられている。障害認定に当たっては、頭痛の型のいかんにかかわらず症状の程度に応じて障害等級を決定することになっており、頭痛の型を示す意義は乏しいとの意見もあるが、頭痛はその発生機序も様々であり、業務上の傷病の有無にかかわらず発生するものであるので、請求人の訴えている頭痛が業務上の傷病に基づくものであるかを判断するための一助として頭痛の型を示すことは意義のあるものである。
 そこで、頭痛の型を引き続き示す必要があるが、現行の認定基準において示している頭痛の型については、当時権威があるとされていた1962年のAd Hoc Committeeの分類を基に記載されているものと思われるものの、その後における頭痛の病態生理に関する研究の進歩を踏まえ、国際頭痛学会は1988年に新たな「頭痛分類」を作成しているので、当時の分類を示すことの意義が乏しくなっていること、前述の国際頭痛学会の分類が定着していることから、1962年当時の分類を示すことは適当ではなく、国際頭痛学会の分類を示すことが妥当である。

  【1988年 国際頭痛学会  頭痛分類】
1. 機能性頭痛
(1)  片頭痛
(2)  緊張型頭痛
(3)  群発頭痛および慢性発作性片頭痛
(4)  その他の非器質性頭痛
2. 症候性頭痛
(1)  頭部外傷による頭痛
(2)  血管障害に伴う頭痛
(3)  非血管性頭蓋内疾患に伴う頭痛
(4)  薬物あるいは離脱に伴う頭痛
(5)  頭部以外の感染症による頭痛
(6)  代謝性疾患に伴う頭痛
(7)  頭蓋骨、頸、眼、鼻、副鼻腔、歯、口あるいは他の頭部・頭蓋組織に起因する頭痛または顔面痛
(8)  頭部神経痛、神経幹痛、除神経後痛
3. その他
(1)  分類不能な頭痛
 認定基準
 頭痛については、現行認定基準上症状の程度に応じて「労働には差し支えないが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの」(14級の9)、「労働には差し支えないが、時には労働に差し支えない程度の強い頭痛がおこるもの」(12級の12)、「激しい頭痛により、時には労働に従事することができなくなる場合があるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」(9級の7の2)のいずれかに決定することとされているところであるが、これを改めるべき新たな医学的知見も認められないので、現行の認定基準を改正する必要はなく概ね妥当であると考える。
 しかし、頭痛は、業務上の傷病の有無にかかわらず発生するものであるので、請求人の頭痛が当初の業務上の傷病と相当因果関係を有し、かつ、その存在が医学的に認められることについて慎重な検討を要するものである。
 障害等級の認定に当たっては、疼痛の程度を客観的に測定することは現時点においても困難であることから、疼痛による労働又は日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見により把握し、慎重に障害等級を決定すべきである。
 検討結果
 現行の認定基準は概ね妥当であるが、頭痛の型について必要な見直しを行うこととする。

 失調・めまい及び平衡機能障害
 「耳鼻咽喉科領域の障害認定に関する専門検討会報告書」に沿って変更するにとどめる。
理由  現行認定基準は、中枢性による障害のみならず、内耳性によるものも含めて、最上位の等級を「生命の維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために終身にわたりおよそ労務に就くことができないもの」(第3級)としており、9級を超える障害等級に該当することもあり得るものとしている。
 一方、上記報告書においては、内耳性の障害については、9級を超えることはないとされたものの、中枢性の場合は9級を超える障害が生じることもあるとされたことから、9級を超える認定基準を廃止することは妥当ではなく、また、9級を超える認定基準の改正を要するとまでは解されないことから、上記報告書に沿った変更すれば足りるものと考える。

 神経痛
(1)  現行の取扱い
 現行認定基準において「神経痛」は、「疼痛等感覚異常」の1つとして、カウザルギー及び受傷部位の疼痛と並んで定められており、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び疼痛の原因となる他覚的所見などに基づき、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断して第7級の3,第9級の7の2,第12級の12のいずれかに決定することとされている。
(2)  検討の視点
 「脳神経及びせき髄神経の外傷その他の原因による神経痛」は、受傷部位の疼痛と区別して規定されていることから中枢性の疼痛と解されるが、中枢性の疼痛のみを独立して評価すべきか。
 脳又はせき髄の障害により疼痛が存する場合には、原則通り他の症状と併せて総合評価すべきか。
(3)  検討内容
 現行認定基準において「脳神経及びせき髄神経の外傷その他の原因による神経痛」は、「その他の特徴的な障害」として「外傷性てんかん」、「頭痛」、「失調、めまい及び平衡機能障害」と並んで規定されている「疼痛等感覚異常」の1つとして定められている。「頭痛」及び「失調、めまい及び平衡機能障害」については、中枢神経・末梢神経いずれの原因によっても生じる上、その症状が軽い場合には障害が単独で生じることも多く、そのときには中枢神経による障害を評価する際の原則である総合評価にはなじまないことから症状別に認定基準を示したものであり、基本的に「神経痛」についても同様の趣旨から規定されたものである。
 なお、「脳神経及びせき髄神経」は、神経学的には末梢神経と定義されているが「脳神経及びせき髄神経の外傷その他の原因による神経痛」を末梢神経の損傷による疼痛と位置づけると、受傷部位の疼痛と概念上区別ができないことから、「脳神経及びせき髄神経の外傷その他の原因による神経痛」は中枢系の障害による「神経の痛み」の取扱いを示したものと理解し、そのように運用してきた。
 しかしながら、現行認定基準が策定された昭和50年当時と比べMRI等の診断技術等が進歩するとともに、今日においては中枢性の障害により疼痛が生じるような場合には通常麻痺等の各種の症状を伴うということが確立した医学的知見となっており、実際にもそのような実態にあることから神経痛の認定基準を適用することなく、脳又はせき髄の障害として総合評価しているところであり、この認定基準を適用して決定した例は近年存在しない。
 したがって、中枢性の障害を主因とする疼痛に係る認定基準を独立して設ける必要はなく、「神経痛」に係る認定基準は廃止すべきである。
 なお、現行認定基準は、カウザルギーの原因として四肢の神経の不全損傷を例として挙げているが、カウザルギーは四肢の神経の不全損傷によってのみ生じるものではないから、労災保険の対象として通常想定される外傷性の神経痛のうちカウザルギーとして評価できるものはカウザルギーとして評価すればよく、反対にカウザルギーと評価するに足らない神経痛による疼痛は受傷部位の疼痛と区別して取り扱う必要はないので、新たに末梢神経に係る神経痛について認定基準を設ける必要はないと考える。
(4)  検討結果
 神経痛については、中枢性の疼痛を念頭に置いて運用してきたが、中枢性の障害により疼痛を生じるような場合には通常麻痺等の症状を伴うことから疼痛も含めて総合評価しており、認定基準を存置する必要性に乏しいので、神経痛に係る認定基準は廃止すべきである。

 RSD
(1)  現行の取扱い
 現行障害認定基準には、「疼痛等感覚異常」の項において外傷後疼痛の特殊な型としてのカウザルギーについては規定しているものの、近年、請求が増加している反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy以下「RSD」という。)については、明文ではその取扱いは規定されていない。
(2)  検討の視点
 RSDの取扱いを認定基準上明らかにすべきか。また、その場合RSDの病態、診断基準等をどのように考えるべきか。
(3)  検討内容
 RSDに関する当検討会の基本認識
 RSDに対する当検討会の基本認識は次のとおりである。
 RSDに係る発生機序、病態、定義等については現在種々の説があり、未だ現在の医学界においてコンセンサスを得た見解が確立しているとはいい難い状況にあり、その解明に当たっては今後の更なる研究成果を待たなければならないと考える。
 従って、以下に述べる見解はあくまでも検討時点において有力とされている考え方ではあるものの、今後変更される可能性は否定できないことに留意すべきである。
(イ)  現在RSDの発生機序については、「外傷治ゆ後も交感神経反射が消失しないため交感神経の異常が生じ、四肢の循環動態が変化することによって、亢進状態(血管収縮)による虚血状態から疼痛が生じ、この疼痛がさらに交感神経を刺激するという悪循環によって生じている」ものとする説が有力であるが、この説が全てを満たすものではない。
(ロ)  RSDの病態については、急性症状の主な症状は、疼痛・腫張・発汗異常であり、慢性症状の主な症状については、疼痛のほか、関節拘縮、皮膚の色調変化、骨萎縮が認められるとされている。なお、皮膚温については、急性期には高く、慢性期には低くなるとされており、慢性期の主な症状とされる関節拘縮は、場合によっては発症初期から認められることがあるとされている。また、Gibbonsらは、諸症状を点数化してRSDの判定を行うとしている。Gibbonsらの「RSDスコア」は次のとおり。

【参考:GibbonsらによるRSD score】
1  Allodynia あるいは hyperpathia
2  灼熱痛
3  浮腫
4  皮膚の色調あるいは発毛の変化
5  発汗の変化
6  皮膚温の変化
7  X線上の変化(脱灰像)
8  血管運動障害/発汗障害の定量的測定
9  RSDに合致した骨シンチグラフィー所見

 各項目ごとに、陽性を1点、疑陽性を0.5点、陰性・未評価を0点とし、合計点で評価する。
 2.5点以下 RSDでない、3点以上4.5点以下 RSDの可能性あり、 5点以上 RSDの可能性が高い
(ハ)  RSDの定義については、現在は、広義にはカウザルギーを含み神経損傷の有無にかかわらない上記病態を示すものとされ、狭義には神経損傷のない上記病態を示すものとして使用されている実情にある。
 これは、1994年に世界疼痛学会(International Association for the Study of Pain = IASP)が慢性疼痛をCRPS(Complex Regional Pain Syndrome)-TypeIとCRPS TypeIIの2つに分類し、CRPS-TypeIは神経損傷のないもの、CRPS-TypeIIは神経損傷を伴うものとしたことにより、狭義のRSDをCRPS-TypeI、カウザルギーをCRPS-TypeIIに分類することが提唱されたことによる。
(ニ)  なお、以上の考え方は、あくまでも検討時点において有力とされている考え方ではあるものの、今後変更される可能性は否定できないことに留意すべきである。
 RSDの障害認定基準への取り込みに関する考え方
 RSDの障害認定基準への取り込みに関しては当面次のように整理することが望ましいと考える。
(イ)  RSDについては、外傷後疼痛の特殊な型として障害認定基準に取り込む。
 RSDについては、これをカウザルギーの上位概念と位置付ける考え方やカウザルギーに類似した慢性疼痛の一種と位置付ける考え方があり、意見の統一がみられていないが、カウザルギーについては現行認定基準において定着していることから、RSDとカウザルギーを同位の概念として位置付けて、障害認定実務上は狭義のRSDの定義を採用し、「明確な末梢神経損傷のない」上記病態をRSDとすることが妥当である。
 なお、小さなカウザルギーは損傷された神経の太さがカウザルギーと異なるとはいえ、「明確な末梢神経が損傷されてい」る病態であり症状も基本的には類似していることから、今後障害等級の認定実務上は、上記のようにRSDとカウザルギーの2分類とし、小さなカウザルギーという分類を用いる必要はないものと考える。
(ロ)  RSDは疼くような痛みであることが多く、カウザルギーは灼熱痛を代表とするというように痛みの質の違いもあるとされているものの、両者の症状は共通している面が多いとされていることから、その評価についてはこれらを区別することなく現行認定基準において「疼痛等感覚異常」として位置づけられているカウザルギーと同一の範疇で評価しても医学的には問題は生じないものと判断した。
(ハ)  上記のように明確な末梢神経の損傷のない病態をRSDとして分類することが妥当であるが、(1)カウザルギーと異なって末梢神経の損傷という明瞭な診断根拠がないこと、(2)疼痛自体の客観的な尺度がないことから、障害認定実務上、RSDと診断するに足る客観的な所見を必要とすると考える。
 この点について、Kozinら、Gibbonsら等による診断基準があるが、慢性期に至って初めて障害認定することを踏まえると、疼痛のほか、少なくとも(1)関節拘縮、(2)骨の萎縮、(3)皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な3つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められることを必要とすると考える。
 すなわち、Kozinらは、腫脹を診断基準としているが、腫脹は急性期に出る症状とされていることから、これを用いることは適当ではなく、Gibbonsらの診断基準も浮腫などの急性期の症状が含まれていることから、これをそのまま用いることは妥当ではない。したがって、障害認定時においてなお、単なる受傷部位の疼痛と区別するほどの明らかな客観的な所見を有するものに限ってRSDとして分類し、疼痛の程度に応じて障害等級を決定すべきであると判断した。
 なお、上記の症状を確認するため、エックス線写真等の資料の提出を求めることが適当である。
(ニ)  RSDに係る障害の評価
 RSDとカウザルギーについては、前記のとおりその評価については同一の範疇で評価すべきであるが、前述のとおり疼痛の程度を客観的に測定することは現時点においても困難なことから、疼痛による労働又は日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動を勘案して第12級、9級、7級に認定すべきである。
 また、RSDの障害認定上問題となるのは、疼痛のほかには上肢の機能障害、関節拘縮等であるが、現行の障害認定の基本的考え方から判断すれば通常派生する関係にあるとして「疼痛」と「機能障害」のいずれか上位の等級をもって、当該障害の等級として評価すべきである。
 なお、RSDは単なる疼痛にとどまらない病態であるので、単なる疼痛はRSDとみるべきではなく、頑固な神経症状又は単なる神経症状として評価すべきである。
 検討結果
 RSDについては、その定義が一義的に確立しているとはいえないものの、そのような病態が存在することについては争いがない。RSDは明確な末梢神経の損傷のない病態として、カウザルギーは明確な末梢神経の損傷がある病態として整理すべきである。
 RSDの症状は、現行の認定基準に規定されているカウザルギーと類似しており、基本的に同様に評価すべきである。
 なお、単なる疼痛にとどまるものはRSDとして取り扱うことは妥当ではなく、障害認定実務上は、症状固定時においてRSDの慢性期の主要な症状とされる3つの症状について明らかな所見を有するものに限り、RSDとして取り扱うことが適当である。
  参考: 「反射性交感神経性ジストロフィーの基礎と臨床」(『整形外科』51巻3号:347〜351、2000 所収)
参考: 「反射性交感神経性ジストロフィーの病態」(内西 兼一郎ほか 『整形・災害外科』45:1311〜1317所収)

 振動障害
 「振動障害の後遺症については精神的・肉体的な苦痛等を考慮し、総合的な評価対象とすべきである」との意見が平成13年及び平成14年の2回にわたって本検討会に伝えられているが、そもそも総合評価は中枢系である脳又はせき髄による障害が複雑な症状を呈するところから規定されているものであって、末梢の障害にとどまる振動障害について異なる取扱いをすべき理由はない。
 なお、現行障害等級表は、身体障害についてはたとえば「両眼が失明したもの」等特に機能障害の原因を限定することなく、障害の程度を記載するにとどめており、障害等級表上は障害の原因により障害を区別する根拠はない。神経系統の障害についても「局部にがん固な神経症状を残すもの」等と規定しており、がん固な神経症状を出現させるに至った原因を限定することはしていないことから、振動障害に係る独自の認定基準を策定する必要性に乏しいものと判断する。


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