まちの保健室(三重県名張市)

自治体概要

人口;76,252人 (令和4年10月1日時点 65歳以上人口割合:33.5%) 面積:129.77㎢
小学校数:14 中学校数:5

最近どぉ~? 身近な地域の小さな拠点から人と人、人と地域がつながり大きな安心へ

名張市の「まちの保健室」は、身近な相談の場であり、人です。
地域福祉計画に基づき2005年から整備してきました。地域包括支援センターのブランチとして、おおむね小学校区を単位とする15の行政地域に1か所ずつ1~3名の専門職(介護福祉士・介護支援専門員・社会福祉士・看護師)が常駐しています。住民は、「地域づくり組織」を運営し、地域の特性に合わせたまちづくり活動を推進しています。「まちの保健室」は地域づくり組織が管理する市民センター内の一室に相談室を構えています。
世代を問わず、身近な場所で医療・介護・保健・子育て支援・生活の支援に関する相談が担えるように地域から愛され、安心してもらえる場と人であることに努めています。
健康・福祉の総合相談だけでなく、健康づくりや介護予防の啓発や講座の開催、見守り活動や支援ネットワークづくりを地域の民生委員・児童委員や地域づくり組織と協働して行うことが、まちづくりの推進につながります。地域担当保健師や住民と共に地域の特性や健康課題を考える機会をもち、地域オリジナルの健康づくり計画を作成しています。電話や面接、訪問による相談件数は年々増加しています。

まちの保健室がつくる地域福祉ネットワーク

相談があってもなくても、うれしい時も悲しい時も、日常の中で妊婦さんから高齢者まで、気軽に立ち寄れる場・その人の望む人生に寄り添える人でありたい。

まちの保健室の面談のようす
まちの保健室の訪問のようす
民生委員主催の高齢者のサロンや多世代交流のサロンなど、地域の通いの場に出向いて、参加者の話しを聴いたり、健康相談に応じたり笑顔が絶えない

地域課題に応じた事業の企画は住民と地域担当の保健師が一緒になって行い、住民主体の支え合い活動や通いの場、見守り活動を実施しています。大切にしていることは地域の力を高める関わりです。支援者の支援、住民同士の支え合いの仕組みが負担なく継続できるように、地域の黒子として支えたいと考えます。

認知症キッズサポーター養成講座 地域の小学生に向けて、住民も出演
「まちじゅう元気リーダー」(健康づくりを推進する住民リーダー)の交流と発表会
医療機関がない地域を回って市立病院総合診療科の医師と井戸端会議を実施
市民センターの前でまちの保健室のラジオ体操を実施

各地域の相談や情報がまちの保健室を通して必要な支援につながり、そして生活の場にフィードバックされる循環型ネットワークへ

複合的な生活の課題を抱える住民に気づいたら、周囲のどこからでもその人の願いを大切にし、必要な支援につなげることができるよう、2016年に「名張市地域福祉教育総合支援ネットワーク」が開始されました。基礎的コミュニティレベルにおいては、住民主体の課題解決力が発揮され、地域づくり組織レベルでは、まちの保健室や地域担当保健師が専門職として地域住民と共に支援に努めます。市域レベルでは市役所内福祉部署の専門職に任命した「エリアディレクター」と関係機関が多機関協働による包括的相談支援体制をとり、課題の解決を目指して検討します(エリアディレクター会議及び重層的支援体制整備事業 支援会議等を活用)。課題の把握から寄り添い、つなぎ、連携へと3つのレベルが有機的に連動するためにはリンクワーカー(※1)同士の情報共有や信頼関係が欠かせません。

(※1)健康課題や社会的課題を抱える対象者との対話を通じ、地域の活動や資源へつなぎ、社会資源を創出する役割を担う人です。本人の願いや希望を起点に、(1)人間中心のケア(2)エンパワメント(3)共創の3つの視点を大切する。

名張市地域福祉教育総合支援ネットワーク ~社会的処方も踏まえた全世代・全対象型包括支援センター機能~

支援の受け手と担い手の垣根を超え、共に支え合う社会へ 誰もが「リンクワーカー」

地域には、「まちの保健室」が出逢えていない人がまだまだたくさんいると考えます。社会的な課題を背景に持つ人は自ら周囲の人や「まちの保健室」に相談にやってくることは少ないのではないか。社会的な孤立を防ぐには、新たに、つながりを必要とする人に気づく仕組みと、つながる資源の開拓と見える化、そして、寄り添い、共に創る人材の育成が必要でした。
名張市は2020年から「社会的処方(※2)」について学び、「リンクワーカー研修」に取り組んできました。
名張市では、「リンクワーカー」は「まちの保健室」職員や地域担当保健師、エリアディレクターが職種を超え、担当の制度や事業をまたいで、その機能を担います。また、住民もリンクワーカーの視点を持つことが、地域共生社会の実現につながります。
専門職と多世代多地域の住民が、交換日記を通じて交流しながら、生活や健康づくりの知恵を出し合い、地域の資源を共に産み出す取り組みがstudio-Lが開発した「ステイホームダイアリー」です。

(※2)医療者が社会生活面の課題を抱えた患者に「くすり」のかわりに「社会とのつながり」を提供すること、患者をリンクワーカーに紹介できるようにする手段。イギリスではじまったしくみ。

「ステイホームダイアリー」交換日記が運ぶつながりづくり(社会参加)とこころ・からだの健康づくりそして地域資源の創出へ

10歳代から80歳代の参加者が3人一組で交換日記をします。1週間ほどで次のメンバーに渡しひと月ほどで一周りします。受け渡し役や場は近くのリンクワーカー(「まちの保健室」など)が担います。リンクワーカーにも内容を共有します。季節ごとの話題や趣味のこと、自分の歴史や健康づくりのヒント、生活の知恵、地域のおすすめスポットなどテーマに沿った記述をし、他のメンバーが空きスペースにねぎらいや感動、自身の意見などのコメントを書き足します。自由欄にはメンバーに聞いて欲しいこと、教えたいこと、自慢したいこと、悩みや家族の事、地域の活動に対する思い、笑い話や誓いの言葉が溢れます。そこにもまた、メンバーのつっこみやアイデアなどのコメントが足されていきます。3回はワークショップを開催し、対面(オンラインも実施)での交流を深め、情報やアイデアの交換をします。

チラ見!ダイアリーの中身 studio-Lワークショップ資料より

世代を超えた経験と時間の共有、生の文字や絵、時には日記に添付されたプレゼントや手紙から伝わる思いは各々の感性に働きかけ、参加者やリンクワーカーの意識や行動の変容につながります。ひきこもりがちな20代の青年は、ステイホームダイアリーのメンバーを応援したくて、アマチュアコンサートに出かけました。地域でボランティアとして活躍している女性は、父の看取りの場面をありのままにつづり、メンバーに読んでもらうことで心の整理と供養の気持ちを受け取りました。メンバーと出会うことで運動を始めた人、新たな社会貢献の取り組みをしてみたいと動いた人、家族を見つめなおす人、交換日記というちょうどよい心地よい関係性が新たな人と価値観との出会いになることがわかり、地域でつながりの輪を増やす手法かもしれないと参加者自身が気づきます。

リンクワーカーにとっては、参加者が日記につづる文字一つ一つが社会資源のタネであることに気づきました。まだ出会えていない孤立しているかもしれない人に資源としてつなげられるように、内部勉強会を重ね、見つけた社会的処方のタネをリンクワーカー自身が体験する「まちあるき」を実施しました。
リンクワーカーがお勧めしたいタネをどのように見せるか…そして、まだ出会えていない住民とどうしたら出会えるのか…。その一つとして、まちの保健室の新たなロゴや啓発物、紹介ウェブサイトを作成しているところです。地域が元気に、声なき人もだれ一人取り残すことのないように、まちの保健室はこれからも工夫を重ね、学び続け、挑戦を続けていきます。

リンクワーカーのまちあるき で体験!学校林に地域づくり組織と学校が協力して作った学校林のアスレチックに挑戦
リンクワーカーのまちあるき で体験!廃校跡で自慢の地元新鮮野菜を販売するおかあさん達と話が弾む
ステイホームダイアリーの参加者と企画するワークショップの準備中
まちの保健室がまだ出会えていない人達に情報が届くように、出会えるために。まちの保健室のロゴやイメージカラー、SNSの活用について考える