三重県伊賀市

自治体概要

人口:86,976人 面積:558.23㎢(※人口一人あたり面積:0.0064㎢)
小学校数:19 中学校数:10(令和5年1月31日時点)

伊賀市における重層支援体制整備事業

伊賀市では、令和3年4月から重層的支援体制整備事業を実施することとなりました。伊賀市の特徴としては、相談支援
機関がすべて市直営であるということです。これにより、各分野ごとの連携がスムーズに取れるという利点を生かし、包括
的に相談支援を行う体制ができています。
 また、多機関協働事業についても市直営で行っていることから、複合的な課題に対する役割分担のコーディネートについ
ても相談支援機関同士の調整がスムーズに行うことができます。
 アウトリーチ等を通じた継続的支援事業(伊賀市ではアウトリーチは手法であり目的ではないことを忘れないために、
略称を「継続的支援事業」としています)は、地域支援を専門的に行い、普段から地域に根ざして活動を行うために配置
している伊賀市社会福祉協議会の地域福祉コーディネーターに委託をしています。
 参加支援事業については、地域福祉コーディネーターが中心となりながら、従前から伊賀市において実施していた「ひ
きこもりサポート事業」ともコラボレーションしながら広く進めています。
 地域づくり支援事業は、各地域で設置してきた「地域福祉ネットワーク会議」が中心となって、それぞれの地域の独自性
を重視した「オンリーワンの地域づくり」を掲げて実施しています。
 伊賀市において重層的支援体制整備事業を実施するうえで最も重視しているのは「重なり合うこと」になります。なぜ
かと言いますと、重なり合うことで、1つでは支えられなかったことがあっても、どこかで受け止められるからです。
 これまでの分野ごとの取り組みを強化する「縦の糸」と、各分野ごとのつなぎを強化する「横の糸」を組み合わせ、誰
一人取り残さないための「セーフティネット」を強化します。

わたせいとの出会い

わたせいとは、社名は(株)綿清商店といい、三重県内に生活衣料品等を販売するスーパーを8店舗かまえる企業で、伊賀市にも2店舗あります。創業は1954年4月1日で70年近い歴史がある企業で、社員・パート・アルバイトの全従業員133名在籍されていますが全員女性で、女性が活躍する会社です。
 わたせいでは、コロナ禍でマスクをすることが当たり前になった社会の中で、家にたくさん余っているマスクが「もったいない」からなんとか活用できないかという思いで、「マスクポストプロジェクト」を実施されることとなりました。
 お店等に家庭で不要となったマスクを集めるマスクポストを設置し、その集めたマスクを寄付し、マスクが必要で困っている人へ届け、「ありがとう」にかわるものです。その寄付先として伊賀市社会福祉協議会とわたせいは出会いました。

わたせいへのお願い

伊賀市社会福祉協議会では、ある不登校だった女の子(Aさん)の学習支援事業に数年前から関わってきました。担当者の熱心な取り組みやAさんの頑張りもあって、少しずつ学校に通うことができるようになって、中学3年になる頃には毎日登校し、進学に向けた勉強をしていました。そして努力の甲斐があって無事に市内の定時制高校に合格することができました。
 その後担当者はこれからAさんが高校に通いながら、安心して働く場所はないか探していました。そんな折にわたせいとの出会いがありました。「マスクポストプロジェクト」でつながったわたせいの社長に、Aさんのことを相談しました。→「Aさんをわたせいさんでアルバイトとして雇ってください!!!」この裏には・・・(わたせいだったら、Aさんが安心して働けるはず!!!(期待)) ☆何回も断られましたが、ここしかないという思いで何回もお願いしました

社長の思い、そして新たな気付きと成長へ

社長は気づきました。「Aさんにはこれまできっちり向き合ってくれる大人がいなかった」ことに。そして、これからのAさんの人生のために信頼できる大人に出会うことが必要ということに!
 だけど、そんなことわたせいにできるだろうか???(という不安、、、)
 社協の担当者「そこをなんとか!」「わたせいさんだったら大丈夫!」とお願いします。
 最終的に、社長は担当者のしつこさに負けて、1か月の短期バイトと念を押しスタートしました!
 Aさんが働き始めると職員から「Aさんと一緒に仕事をしたい」と声が上がりました。
 Aさんと一緒に仕事をする職員にも成長が!!→今もAさんは、定時制高校に通いながらわたせいでの仕事を続けています。
 1つの小さな「出会い」が、とても大きないくつもの「つながり」へと変わりました。

わたせいとの現在地

Aさんのことをきっかけに、わたせいとはいろいろなことでつながることができました。
 1つはひきこもり支援です。伊賀市ではひきこもりについて正しく理解し、ひとりひとりが地域の中で何ができるのかを考え、ひきこもり支援に携わる「ひきこもりサポーター」を養成していますが、その講座にも参加してもらいました。
 2つめは地域支援活動です。市内で展開されている地域食堂(こども食堂)や、生活に困っている方へ食糧支援を行う「フードドライブ・フードパントリー」に寄付をいただいています。
 3つめは生活困窮者支援です。食糧や衣料品の寄附をいただいたほか、相談にものっていただいています。
 このような形で、最初はマスクの寄付先という出会いでしたが、1つの「つながり」をいくつものつながりへ広げていきました。

わたせいとの未来、そしてその先へ

わたせいとせっかくできたつながりを大切に、これからもいろいろなことを一緒にやっていければと考えています。
 その時の合言葉は「~お互い楽しいことをやろう~」です。楽しくないと一緒にやろうとは思えないですし、楽しくなければ続かないと思うからです。
 伊賀市社会福祉協議会とのつながりから、社協だけではなく市をはじめとしていろいろ広げていければと考えています。その一環として当市の職員(相談支援包括化推進員)とわたせいの曽我社長でオンラインミーティングを開催しました。いろいろなお話を伺うことができましたが、ミーティング後の感想の一部を紹介します。
「経営者が利益のためにどういうチームをつくりたいか、そのためにどうやってメンバーを大事にするかということと、市役所が住民福祉の向上のためにどういう地域を作りたいか、そのためにどうやって住民を大事にするかということは同じ」
「最初のきっかけは些細なことでも構わない。大切なのはつながりを1つではなく広げることで、スタートは点だとしても、最終的に面でつながれるようにする」
 伊賀市では、まずはわたせいとのつながりをさらに広げていく、面を1面ではなく2面3面になるように。そして他のところ(企業、NPO、ボランティア問わず)ともつながりを作っていこうと思います。

コンセプトは「FUN」と「FAN」

伊賀市では第4次地域福祉計画において「伊賀市流の地域共生社会の実現」をめざして取り組みを推進しています。そしてその核を担う事業として重層的支援体制整備事業を令和3年4月から実施しています。
 来年度から地域づくり支援事業を実施する中で、新しいコンセプトを考えました。それが「FUN」と「FAN」です。
 (まず自分が)ワクワクできること、楽しめること(FUN)をすることで、好きになってくれる人、一緒にやる人(FAN)を増やしていきます。それが、持続可能なまちづくりの実現につながるからです。
 外から見て「面白そう、楽しそう」→実際やってみて「すごく楽しい!」→参加したい、一緒にやってみたいという人が増えていく。このしかけをみんなで考えながら地域づくりをすすめていきたいと考えています。

最初は不安。でもそれが小さくなれば「FUN」と「FAN」になる

新しいことをやること、新しい人とつながることは誰でも最初は不安です。しかし「まずはやってみる」「まずはつながってみる」ことを重視します。そうすれば「不安(ふあん)」はだんだん小さくなり、やがて「FUN(ふぁん)」や「FAN(ふぁん)」になります。