私の場合、僕の場合

きっかけは、まさかの医学部受験の失敗
イサムさん(20)の場合

医学部落ちたショックから、うつに…

僕は今、文学部でドイツ文学を専攻しているんですが、もともとは医学部をめざしてたんです。父が開業医で、長男の僕に後を継がせたがっていたからです。

僕は父を尊敬していたし、父のようになれたらとずっと思っていました。だから言われるままに医学部を受験したんですけど、世の中、甘くなかった。受験は失敗。そのショックで、「うつ」になってしまったんです。

最初は微熱が出て体がだるくて、何だか風邪みたいでした。夜眠れなくなって、やっと寝たかと思うと数時間で目が覚めてしまう。昼間は頭痛や耳鳴り、めまいがするし、午前中はすごく眠くて布団から出られない。

気分が落ち込んだりして、うつっぽくなったことはそれまでにも何度かあったけど、今回は落ち込み方が尋常じゃなくて、「どーん!」という感じ。こんなんじゃ父に顔向けできない、こうなったのは自分のせいだ、と自分を責め続けたり、急にイライラして、母に暴言を吐いたりしては、ドツボにハマるという悪循環でした。


父の言葉で病院へ。
精神科は外科や内科と同じなんだ

家族は腫れ物にさわるように僕を見ていたんですが、1カ月くらいたった頃、食欲がなくて激やせした僕が家の中をうろついていたら、父が声をかけてきたんです。

「最近イサム、調子がヘンだぞ。体もやせてるし、感情も不安定になってるし。大丈夫か?」って。

正直言って、親に自分の弱いところを見せるなんて一番したくなかったけど、その当時の自分はほんとに体が限界で、強がる元気もなくなってたんですよ。父といろいろ話をして、最終的に親を頼ることにしたんです。それで、両親に引きずられるようにして、精神科に行きました。

精神科に自分が行くっていうのは想像してなかったし、精神科ってすごく重い病気の人が行く感じがして、どうなんだろうって思いました。でも、外科とか、眼科とかっていうのと同じように、精神的なことを専門で診てくれる先生がいるところだっていうことがわかったので、通い続けることにそれほど抵抗はなかったです。それより早く治したいって気持ちのほうが大きかったかな。

カウンセリングを受けながら、薬を飲むようになって、少しずつよくなってきました。だんだん眠れるようになって、食欲も出てきた。病気になってから、人と目を合わせるのが怖くなって、おどおどしてたんですが、それも1年くらいでなくなりました。


病気が自分を見つめ直すチャンスをくれた

うつになったのは、自分を見つめ直すいい機会だったと、今は思います。医者になる夢はあきらめたけど、これからじっくり自分の夢を追っていきたいですね。その機会を与えられて、ラッキーだったと思っています。

自分はあのとき、ギリギリまで誰にも話さずに一人でぐるぐる考えてましたけど、もうちょっと早く誰かに話して、あそこまでひどくなる前にカウンセリングとか早く受けてればなって思うこともあります。体の調子が悪くなって病院に行くのと同じように、精神的にしんどいときも病院に行っていいんだってことがわかったことはよかったと思います。


※これらのエピソードは取材をもとに再構成したものです。特定の個人を示すものではありません。

 

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