労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和4年(不)第32号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和5年6月12日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員の賃金の支給を止めている理由の開示等を求めて団体交渉を申し入れたところ、会社が、組合が会社の代表取締役を正当な代表取締役と認めていないこと等を理由として応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団体交渉応諾及び文書交付を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和4年4月5日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社       
代表取締役 B1
 当社が、貴組合から令和4年4月5日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨   本件団交申入書に対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点)について、以下判断する。

1 本件団交申入れにおける要求事項が義務的団交事項に当たるかについて

 本件団体交渉申入書には、①令和3年11月度以降の賃金支給を止めている理由の説明及び賃金を直ちに支給すること、②生コン製造に必要な原材料の供給を自ら止めた理由の明確化、③会社稼働に必要な電気代を払っていない理由の説明、④今後プラントを稼働していく意思の明確化、⑤会社貯金口座の貯金が仮差押えを受けたことの経緯経過の説明、説明の明確化等を求める記載などがあったことが認められる。
 これらにつき、①については、分会員らの賃金に関することで、使用者に処分可能なものであり、また、②以下については、実質的には、会社の操業が続けられるのか否かに関する経営者の姿勢、すなわち分会員らの雇用継続に関わる事項について説明等を求めているとみることができるから、組合員らの労働条件その他の待遇に関する事項であり、いずれも義務的団交事項に該当する。

2 会社の主位的主張(組合が「代表者」であることを否認する社長B1の行為を「使用者である会社の行為」と評価することは自己矛盾であり、会社に不当労働行為責任を問うことはできない旨)について

 会社が現に組合員の雇用主であることについては、当事者双方に争いはない。そして、当該会社に対して行われた本件団交申入れに応じていないのであるから、会社が団交を拒否したことは明らかである。
 なお、組合が、一方では会社の正当な代表者についての自らの主張〔注 会社の現在の代表取締役はB1ではなくCである旨(4(4)イ参照)〕を維持し、今後、裁判等で争う権利を留保しながら、他方では、その時点において、給与の支払や業務命令を行う権限を持ち、実際にその権限を行使している社長B1を代表者とあて名に記載した団交申入書を提出することは、現実的な選択であるといえ、救済を求めることができないほど矛盾した行為とみることはできない。したがって、会社の主張は採用できない。

3 会社の予備的主張その1(組合からは義務的団交事項に関する有効な団交申入れはなされていない旨)について

(1)会社は、①労働組合が代表者と認めない者に対して「団交」と称して申し入れたとしても、それはそもそも有効な団交申入れと評価することはできない旨、②労働組合から代表者と認められない者が、労働条件等について話し合っても労働協約は締結不能であり、その者が労働条件等を決定・変更することは事実上困難であるから、その団交申入れは義務的団交事項に関する団交申入れと評価できず、組合から義務的団交事項に関する有効な団交申入れはなされていない旨主張する。

(2)上記①の主張については、社長B1は、現に、会社の代表者として従業員である分会員らに対し、給与の支払についての通知や業務指示を行うなどして、その権限を行使しており、組合は、そのB1をあて名とする団交申久書を提出して、本件団交申入れを行っているのだから、組合が会社の正式な代表者に関して別の考えを持っていたとしても、このことをもって、本件団交申入れが無効になるとまではいえない。

(3)上記②の主張については、組合と会社との間で有効な労働協約が締結できない状況にあったとまではいえず、主張は認められない。また、たとえ有効な労働協約を締結できない等の懸念があったとしても、会社は、団交において、これら要求事項について、分会員らの賃金に関することを協議し、雇用継続に関わる交渉の一環として説明等を行うことはできたはずであるから、直ちに団交を拒否する正当な理由とはなり得ない。

(4)以上のとおりであるから、会社の予備的主張その1は採用できない。

4 会社の予備的主張その2(会社が団交を拒否したことに正当な理由がある旨)について

 会社は、会社が団交を拒否したことには正当な理由があるとして(1)から(4)までの4点を主張する。しかし、いずれも団交を填否する正当な理由として認めることはできず、会社の主張は採用できない。

(1)会社が主張する正当理由①(組合が、社長B1を代表者と認めていないので協議が著しく困難である旨)について

 組合は、B1を代表取締役と明記した本件団交申入書をもって、会社に団交を申し入れたものといえる。また、会社の代表者としての権限を行使しているB1は、本件団交申入れにおける要求事項について、団交において分会員らの賃金に関することを協議し、雇用継続に関わる交渉の一環として説明等行うことは可能であり、たとえ組合がB1を会社の正当な代表者として認めていないとしても、有効な協議は可能であったといえる。しかも組合が、会社代表者としてB1が出席した場合には団交に応じない旨事前に宣言したとの事実も認められない。

(2)会社が主張する正当理由②(団交の目的である労働協約の締結ができない旨)について

ア 会社は、組合は社長B1を会社の代表者と認めておらず、せっかく話合いをして事実上何らかの合意に外形的に至ったとしても、その合意は組合と会社との間の有効な合意としての確定的評価を組合からは受けられないので、労働協約の締結は事実上不可能であり、仮に締結できても組合の一存で直ちに効力を覆滅させうるので本来の意義を持ち得ないから、B1に団交応諾義務を負わせることは失当である旨主張する。

イ 本件団交申入書の要求事項のうち、合意に達すれば労働協約を締結する可能性があるのは、説明等要求以外の事項である、①令和3年11月度以降の賃金を直ちに支給すること、④今後プラントを稼働していく意思の明確化、の2つとみることができる。
 これら事項は、そもそも、会社側に義務を負わせるような内容の合意を求めるものであり、社長B1が会社の正当な代表者ではないとして、組合側から有効なものではないと評したり、覆滅させたりすると考えることは現実的ではないといえる。したがって、上記の会社の懸念のみをもって、それを団交拒否の正当理由とすることは認められない。

(3)会社が主張する正当理由③(分会員らは社長B1の指示に従わないので、団交によって問題を解決できる状況にない旨)について

 そもそも、分会員らが社長B1の指示を聞かないことをもって、どうして団交によって問題を解決できる状況にないことになるのかについて、会社の主張は明確でない。
 そのうえ、本件団交申入書の要求事項は、分会員らの賃金に関すること(要求事項①)、会社の経営状況や業務の運営方針などの説明を求めるもの(要求事項②以下)であるから、仮に会社が主張する行為が分会員らにあったとしても、このことが団交によって問題を解決することを妨げるとみることはできない。

(4)会社が主張する正当理由④(組合が団交の前提となる労使の信頼関係を悪意で破壊した旨)について

ア 会社は、違法行為による会社の登記簿の乗っ取りを行い、失敗しても固執し続け、団交の必須前提である労使の信頼関係を故意に破壊した組合の団交申入れを拒否することは正当である旨主張する。

イ 確かに、①令和3年10月11日に株式会社変更登記申請が行われ、その申請書類には、組合が会社の100%株主であるとして、組合会館において、株主が出席して会社の臨時株主総会が行われた旨、そこにおいて、社長B1と取締役B2の解任が可決承認された旨等が記載されていたこと、②同4年2月4日、大阪地裁において、C氏が会社の代表者の地位にないことを定める旨の仮処分決定がなされたこと、③同仮処分決定が出た後の同年6月23日、組合は、大阪地裁に提出した訴訟答弁書において、社長B1が会社の現在の代表取締役であることを否認し、会社の現在の代表取締役はC氏である旨を主張していることが認められる。そのような組合に対し、会社が大きな危機感や不信感を持つのは当然のことであるといえ、当該組合の一連の行為により会社と組合との間の信頼関係が破壊されたとの会社の主張は、一定理解できる。

ウ しかしながら、①令和3年10月20日頃、会社において生コン製造に必要な原材料の供給が止まったこと、②同年11月19日に会社は従業員らに対し、同月25日の給与の支払が不可能な状態となり、その翌月以降の給与の支払についても約束できない旨通知していること、が認められる。これらのことから、本件団交申入書記載の要求事項に関しては、組合と会社で団交を行うべき必要性は高い状況にあるといえ、そうだとすれば、たとえ会社の主張に一定理解できる点があるとしても、それをもって、団交を拒否することが正当化されるとまで判断することはできない。

5 以上のとおり、会社は、本件団交申入書に係る団交申入れに対し、正当な理由なく応じなかったのであり、かかる行為は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地裁令和5年(行ク)第108号 緊急命令申立認容 令和5年11月10日
 
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