労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和元年(不再)第32号
トールエクスプレスジャパン不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  X株式会社(「会社」) 
再審査被申立人  Y組合(「組合」) 
命令年月日  令和3年6月2日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社では、集配業務を担当する従業員(以下「集配職」)の能率手当を算定するに当たり、賃金対象額から時間外手当相当額を控除する方法を採用していた(以下、この賃金体系を「本件賃金体系」)。組合は、本件賃金体系の是正を求めて会社と団体交渉を行ったものの、合意に至らなかったため、平成29年10月2日(以下「平成」の元号は省略)、組合が一定の残業を拒否する残業拒否闘争(以下「本件拒否闘争」)を開始した。これに対し、同年11月1日、会社は、組合の集配職の組合員(以下「組合の組合員」)について残業となる可能性のある業務を命じない措置(以下「本件措置」)を開始し、組合が30年1月31日に本件拒否闘争を終了するまで継続した。
2 本件は、本件措置が組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合の組織・運営に対する支配介入に当たるとして、救済が申し立てられた事案である。
3 東京都労委は、労働組合法(以下「労組法」)第7条第1号及び第3号に該当すると判断し、会社に対し、①集荷業務量の減少により減少した賃金差額相当額の支払、②文書の交付及び掲示を命じたところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。
 
命令主文  本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  ⑴本件措置は、組合の組合員全員に対し、一切の残業をさせないこととするもので、これにより、組合の組合員の賃金は減少することが見込まれ、実際に賃金は減少しており、業務上及び経済上の不利益取扱いに当たる。
⑵会社は、本件拒否闘争は、団体交渉を機能させるための手段という争議権保障の趣旨を逸脱する、いわゆる要求実現型ストライキであるとし、その前提に立って、当該争議行為によってもたらされる不利益を回避し事業の円滑な運営を確保するために使用者が執り得る措置には、一般的な争議行為の場合に比して広範な裁量が存すると主張する。しかし、本件拒否闘争は、本件賃金体系を是正させるという目的の実現のために組合が一部の残業を拒否するものであることから、正当な争議行為であっていわゆる要求実現型ストライキではない。
⑶会社は、本件措置を執った理由として、本件拒否闘争の対象の範囲が不明確であったため、組合員が集荷業務を行うことを前提に人員配置及び業務命令を行っても、当日中に集荷を行うことができずに集荷漏れが生じて顧客の信頼を失うおそれがあったことを挙げる。しかし、会社が組合に対し事前に本件拒否闘争の対象の範囲を確認しさえすれば、本件拒否闘争の対象の具体的な範囲が明確となり、これに対応して会社が執るべき措置の範囲を合理的に決めることができ、顧客の信頼を失うという問題も未然に防止することができたものと推測される。したがって、上記理由は本件措置を執ったことを正当化するものではない。
⑷本件措置を執った当時、組合と会社との労使関係は、本件拒否闘争をめぐって対立し、極めて緊張する関係にあった。
⑸以上のとおり、会社が本件措置を執ったことは、組合及び組合の組合員が労働組合の正当な行為である本件拒否闘争を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たり、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
⑹本件措置は、組合が本件賃金体系の是正を目的として行った本件拒否闘争に対する措置として執られたもので、組合の組合員の集荷業務量を減少させて一切の残業を行わせないことにより、組合の組合員に経済的な打撃を与えるばかりでなく、組合活動を萎縮させる効果もあるものといえる。実際に、会社が本件措置を執った結果、その直後に東京分会の組合員10名のうち7名が組合を脱退するなど、組合の組織に大きな打撃を与えている。以上の事情からは、会社が本件措置を執ったことは、組合の弱体化を意図してされたものと推認され、組合の運営に対する支配介入に当たり、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第82号 全部救済 令和元年6月4日
東京地裁令和3年(行ウ)第323号 棄却 令和4年10月6日
東京高裁令和4年(行コ)第305号 棄却 令和5年4月26日
最高裁令和5年(行ツ)第259号・令和5年(行ヒ)第292号 上告棄却・上告不受理 令和5年10月20日
 
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