概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和3年(行ウ)第323号
トールエクスプレスジャパン不当労働行為救済命令取消請求事件 |
原告 |
X株式会社(「会社)」 |
被告 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z組合(「組合」) |
判決年月日 |
令和4年10月6日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 会社では、集配業務を担当する従業員(以下「集配職」という。)の能率手当を算定するに当たり、賃金対象額から時間外手当相当額を控除する方法を採用していた(以下、この賃金体系を「本件賃金体系」という。)。組合は、本件賃金体系の是正を求めて会社と団体交渉を行ったものの、合意に至らなかったため、平成29年10月2日、組合が一定の残業を拒否する残業拒否闘争(以下「本件拒否闘争」という。)を開始した。これに対し、同年11月1日、会社は、組合の集配職の組合員(以下「組合の組合員」という。)について残業となる可能性のある業務を命じない措置(以下「本件措置」という。)を開始し、組合が平成30年1月31日に本件拒否闘争を終了するまで継続した。
2 本件は、本件措置が組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合の組織・運営に対する支配介入に当たるとして、救済が申し立てられた事件である。
3 東京都労委は、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第1号及び第3号に該当すると判断し、会社に対し、①集荷業務量の減少により減少した賃金差額相当額の支払、②文書の交付及び掲示を命じたところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。
4 中労委は、本件申立てを棄却した。会社はこれを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
5 東京地裁は、会社の請求を棄却した。
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判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。
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判決の要旨 |
1 本件措置の労組法7条1号該当性について
(1)不利益取扱いについて
本件措置は、組合の組合員に対し、一切の残業をさせずに退勤させるものであり、賃金の減少が見込まれるものである。組合のC5支部の組合員の賃金は、時間外手当以外の賃金が増額した1名の他は、本件措置がとられた期間全体の合計で減少している。したがって、本件措置は、経済的待遇上の不利益取扱いに該当する。
(2) 正当な行為について
ア 本件拒否闘争の目的について
組合は、C5分会の結成後、一貫して本件賃金体系の改定を求めていたこと、本件拒否闘争が開始された平成29年10月2日の10日前である9月22日の団体交渉においてなされた集荷残業の残業代支払要求は、本件賃金体系が是正されることを前提とするものであったことからすると、8月30日付け通知書及び本件拒否闘争の通知書に本件賃金体系の是正自体が記載されていないことを考慮しても、本件拒否闘争の目的は、本件賃金体系の改定による時間外手当の増額であったと認めるのが相当であり、そのことは会社においても容易に認職し得たものと認められる。
イ 本件拒否闘争の態様について
本件拒否闘争の通知書を含め、本件拒否闘争の対象となる集荷先が記載されておらず、A2C5分会長は、平成29年9月29日、C2及びC3の集荷業務を拒否することは伝えたものの、C4については事前の通告なく集荷業務を拒否したことが認められ、本件拒否闘争は、その対象範囲が不明確な点があったことは否定できない。
しかしながら、①会社において、平成29年10月2日の時点で、本件拒否闘争の対象となっていたのがC2、C3及びC4の3社であることを認識していた上、これらの集荷先における組合員らの集荷業務は、いずれも本件拒否闘争の通知書に記載された対象に該当するものといえること、②会社において、組合又はC5分会に問い合わせるなどして本件拒否闘争の対象を確認することも容易であったこと、③本件拒否闘争の対象が上記3社のみであり、組合の組合員は、本件拒否闘争開始後もその他の業務は通常どおり行っていたことが認められる。
そうすると、上記のとおり本件拒否闘争の対象範囲に不明確な点があったことを踏まえても、本件拒否闘争の態様が不当であったとはいえない。
ウ 会社の主張について
(ア) 会社は、本件拒否闘争の目的は組合員の嫌う割に合わない残業の拒否であり、本件拒否闘争は、要求実現型ストライキに該当する旨主張する。
しかし、アで認定説示のとおり、本件拒否闘争の目的は本件賃金体系の改定による時間外手当の増額であったと認められ、残業の拒否自体が目的であったとは認められない。
会社が引用する関西外大事件の控訴審判決は、大学の教員により構成される労働組合が自らの主張する担当コマ数を超える授業等の実施を拒否した争議行為に関するものであり、当該争議行為は組合の要求事項と争議行為の内容が完全に一致した自力救済行為と評価されるものであって、本件とは事案を異にするから、当該判決を引用する会社の主張は採用の限りでない。
(イ) なお、会社は、別件訴訟の最高裁の決定により本件賃金体系の違法をいう組合の主張が否定された旨主張するが、争議行為の正当性は当該争議行為時を基準に判断すべきであって、後にその前提となった法律上の主張が裁判所により否定されたとしても、その正当性が左右されるものではない。
エ 小括
以上によれば、その他会社が縷々主張するところを踏まえても、本件拒否闘争は、正当な行為に該当すると認められる。
(3) 不当労働行為の意思について
ア 前記⑵イで説示のとおり、本件拒否闘争の対象範囲について不明確な点があったことは否定できないところ、①本件多数組合が、平成29年10月23日、会社に対し、業務改善要請書を交付し、本件拒否闘争によりC6支店及びC5支店の「職場の規律・風紀・秩序」が乱れており早急に問題を解決するよう要請したこと、②B2UMは、同年10月30日、A1委員長に対し、別件訴訟が決着するまで本件拒否闘争を控えるよう求めたが、組合がこれに応じなかったことが認められる。
しかし、会社は、③本件措置を決めた平成29年10月末時点においては、本件拒否闘争の対象となっていたのが、C2、C3及びC4の3社であることを把握していたこと、④C6支店において、本件拒否闘争が実際に行われていなかったことを把握していたこと、⑤本件措置について、組合と事前に交渉したことはなかったことが認められるから、上記①及び②の各事実を踏まえても、本件措置は、本件拒否闘争に対応するために必要かつ相当な範囲を超えた過剰なものであって、これを行う業務上の必要性があったとはいえない。
そうすると、上記③から⑤までの各事実を認識しながら本件指置を実行した会社には、不当労働行為の意思もあったというべきである。
(4) 小括
以上によれば、本件措置は、組合及び組合の組合員が労働組合の正当な行為である本件拒否闘争を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たり、労組法7条1号に該当する。
2 本件措置の労組法7条3号該当性について
本件措置は、本件拒否闘争に対する対抗措置としてとられたこと、本件措置により、組合の組合員に経済的な不利益が大きく、その直後にC6分会の組合員10名のうち7名が脱退したことが認められる。
以上の事実によれば、本件措置は、組合の弱体を意図してされたものと推認され、組合の運営に対する支配介入に当たり、労組法7条3号に該当する。
3 結論
以上の次第で、本件措置は労組法7条1号及び3号所定の不当労働行為に該当するから、本件命令の判断は正当であり、その他、救済方法の選択を含めて、本件命令に違法な点は見当たらず、本件命令は適法である。
よって、会社の請求は理由がないからこれを棄却する。
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その他 |
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