概要情報
事件番号・通称事件名 |
福岡県労委令和元年(不)第7号
ワーカーズコープタクシー福岡不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1(個人)・X2(個人) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年12月11日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、C2労働組合のX1及びX2に対し、平成31年2月以降、残業指示について他の乗務員と異なる取扱いを行い、X1及びX2の給与を減少させたことが、労組法7条1号及び3号に該当するとして、X1らが救済を申し立てたものである。
福岡県労働委員会は、会社に対し、労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、不利益取扱いの禁止及びバックペイとともに、文書の交付・掲示を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人会社は、申立人X1及び同X2に対し、残業指示について、他の乗務員と差別する取扱いを行ってはならない。
2 被申立人会社は、申立人X1に対して、平成31年2月以降の残業指示について、他の乗務員と差別する取扱いがなければ得られたであろう給与額と既に支払われた給与額との差額相当額2,234,700円を支払わなければならない。
3 被申立人会社は、申立人X2に対して、平成31年2月以降の残業指示について、他の乗務員と差別する取扱いがなければ得られたであろう給与額と既に支払われた給与額との差額相当額2,164,702円を支払わなければならない。
4 被申立人会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書(A4判)を申立人X1及び同X2にそれぞれ交付するとともに、A2判の大きさの白紙(縦約60センチメートル、横約42センチメ一トル)全面に下記内容を明瞭に記載し、被申立人本店営業所及びC1営業所内の従業員が見やすい場所に14日間掲示しなければならない。
令和 年 月 日
X1 殿
X2 殿
会社
取締役 B1
当社が、平成31年2月以降、X1氏及びX2氏に対する残業指示について、他の乗務員と差別する取扱いを行ったことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
今後はこのような行為を行わないよう留意します。
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判断の要旨 |
(争点)会社が、C2労働組合のX1らに対し、31年2月以降、残業指示について他の乗務員と異なる取扱い(「本件措置」)を行い、同人らの給与を減少させたことは、労組法7条1号及び3号に該当するか。
1 「不利益な取扱い」の存否について
一般に、使用者には従業員に残業を指示する義務はないものの、時間外手当が従業員の給与において相当の比率を占めているという労働事情のもとにおいては、長期間継続して残業を指示されないことは従業員にとって経済的に大きな打撃となり、労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」に該当し得る。
この点、X1の給与の総支給額(最賃補償額を含む)は、本件措置以前の直近3か月では、30年12月支給分289,886円、31年1月支給分352,008円、同年2月支給分325,069円となっており、平均すると322,321円であるが、本件措置以降は、例えば31年3月支給分104,033円、31年4月支給分163,049円となって大幅に減少しており、経済的に大きな打撃を受けたといえる。
また、X2の給与の総支給額は、本件措置以前の直近3か月では、30年12月支給分306,687円、31年1月支給分389,791円、同年2月支給分179,874円となっており、平均すると292,117円であるが、本件措置以降は、例えば31年3月支給分151,668円、31年4月支給分123,462円となって、X1同様、大幅に減少しており、経済的に大きな打撃を受けたといえる。
以上のとおり、X1らが残業を禁止され、その結果、給与が減少し経済的に大きな打撃を受けたことは、労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」であったと認められる。
2 「不利益な取扱い」を行った理由について
ア 会社は、31年2月1日付け「通告書」において、「会社はC2労働組合加盟のC3氏より割増賃金の件で訴えられています。事実無根の莫大な金額(¥302万)であり苦慮しています。その調査に時間も労力もかかり、当社としては大変な被害を被っています。そのようなC2労働組合に加盟されたお二人は、所定労働時間内の勤務にして下さい。」と記載しており、X1らの組合加入を理由として本件措置を行ったことが文言上に表れている。
また、本件措置に至った経緯を見ると、①31年1月31日に、X1らが「C4労働組合脱退届」をC4労働組合に提出、②翌2月1日午前中に、組合が会社に「労働組合加入通知書」を送付、③これを受けて、同日午前中に、会社が理事会において、本件措置を決定、④同日午前中に、会社が「通告書」を掲示、⑤同日午前中に、B2営業所長がX1に対し、本件措置をロ頭で通告という流れになっており、会社は、X1らから加入通知を受けるや即座に本件措置を決定していることが認められ、かかる経緯も、X1らの組合加入を理由として本件措置を行ったことを示している。
以上のことから、会社が、X1らの組合加入を理由として本件措置を行ったことは明らかである。
3 不当労働行為の成否について
ア 以上のように、会社が組合員であるX1らに対し、31年2月以降、本件措置を行い、同人らの給与を減少させ、経済的に大きな打撃を与えたことは、同人らが組合に加入したこと故の不利益取扱いであり、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
イ また、本件においては、会社が、個人加盟方式の労働組合に加入したX1らに対し、本件措置により経済的に大きな打撃を与えたことに加え、C4労働組合のC5執行委員長が、31年2月1日に行われた会社の理事会で相談の上、X2に対し、同労組に戻ってくれば残業をさせるので、同労組からの脱退を止めるよう説得したことが認められる。
以上の事実に鑑みれば、本件救済申立ての申立人は、X1ら個人であるが、本件措置は、組合員を経済的に圧迫することにより組合内部の動揺や組合員の脱退等による組織の弱体化を意図したものとして、労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。
なお、労働委員会による不当労働行為救済制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した労組法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであり、この趣旨に照らせば、使用者が同条3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをするについては、当該労働組合のほか、その組合員も申立適格を有すると解するのが相当である(京都市事件最高裁判決平成16年7月12日)。
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掲載文献 |
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