労働委員会裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  福岡地裁令和3年(行ウ)第3号
ワーカーズコープタクシー福岡不当労働行為救済命令取消請求事件
原告  有限会社X(「会社)」 
被告  福岡県(同代表者兼処分行政庁 福岡県労働委員会) 
判決年月日  令和4年2月25日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、C4労働組合のA1及びA2に対し、平成31年2月以降、残業指示について他の乗務員と異なる取扱いを行い、A1及びA2の給与を減少させたことが、労組法7条1号及び3号に該当するとして、A1らが救済を申し立てたものである。
2 福岡県労委は、会社に対し、労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、不利益取扱いの禁止及びバックペイとともに、文書の交付・掲示を命じた。
3 会社は、これを不服として、福岡地裁に福岡県労委の救済命令のうち、主文第2項及び第3項(A1らへのバックペイ)の取消しを求める行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点1(本件措置の不当労働行為該当性)
(1)不利益取扱い(労組法7条1号)該当性について
ア 不利益な取扱いに当たるか否か
 会社の従業員の賃金は当該従業員の売上に応じて増加すると認められ、労働時間が長い方が、より多くの売上をあげる機会を得られることは明らかである。本件措置前に比べ、本件措置後のA1らの給与は大きく減少していることが認められる。
 これらによれば、残業を禁じる本件措置は、A1らの給与の減少に結びつき、経済的な不利益を与える行為であり、使用者による「不利益な取扱い」に該当すると認められる。

イ 本件措置が労働組合に加入した故をもってなされたといえるか否か
 本件措置は、会社及びC1労組に対し、A1らが同労組を脱退してC4労組に加入した旨が通知された直後にされ、本件通告書には、C4労組に加入したA1らに対し本件措置をとることが明示されており、A1らがC4労組に加入したことを理由としてされたことは明らかである。
 さらに、会社の従業員とC1労組の組合員がおおむね一致すると認められること、C1労組が会社の全株式を取得していることなどによれば、会社とC1労組とは密接な関係性にあり、相互にその意思決定に強い影響を及ぼしているものと認められる。
 そして、会社は、本件通告書において、C4労組に加入したA1らに対し、残業代を発生させない趣旨で、本件措置を取る旨を通告していることに加え、会社において、他の従業員に対しては、本件措置と同様の残業を一切禁ずる措置をとっていないことからすれば、本件措置当時、会社が、会社及びC1労組の意に沿わない活動をするC4労組に対して嫌悪感を抱いており、A1らがかかる同労組に加入したことに対する悪感情を理由として、本件措置をとったものと認められる。

ウ 以上によれば、本件措置は、A1らが「労働組合に加入し…たことの故をもって」されたと認められ、労組法7条1号に規定する不当労働行為に該当することが認められる。

(2)支配介入(労組法7条3号)該当性について
 本件措置は、A1らが会社及びC1労組に対し同労組を脱退してC4労組に加入したことを通知した直後にされたものであり、その効果も、A1らの給与に直接影響するものであって、重大な不利益を生じさせるものであったと認められ、A1らを含む同労組の組合員や新たに同労組に加入しようとする者に対する萎縮的効果や、同労組からの脱退を促す効果を有していたものといえる。また、会社は、本件措置を行うに際し、A4を通じてA1らに対しC1労組にとどまるよう説得することとし、現に、A4において、A2に対し、複数回にわたり、C1労組へ復帰すれば残業ができる旨を告げて勧誘していることからすると、本件措置には、A1らをC4労組から脱退させることなどにより、同労組の活動を妨げる意図があったと推認される。
 したがって、本件措置は、労組法7条3号に規定する不当労働行為である支配介入にも該当する。

⑶ 小括
 以上によれば、本件措置は、労組法7条1号に規定する不利益取扱い及び同条3号に規定する支配介入に該当し、不当労働行為に該当すると認められる。

2 争点2(本件救済命令が裁量権の逸脱・濫用にあたるか否か)
 本件救済命令は、基本的に、本件措置以前の直近3か月分(平成30年12月から平成31年2月まで)の給与から算出した平均給与と、本件措置後にA1らに対し実際に支給された給与との差額の支払を命じるものであるところ、これは、上記1のとおり不当労働行為に該当する本件措置によってA1らが現に被った損害の回復を目指すものであって、妥当なものである。
 本件救済命令の内容には何ら問題がなく、福岡県労委による裁量権の逸脱・濫用は認められない。

3 文書提出命令申立てについて
 会社は、本件申立てに係る調書等の記載が不正確であるとして、福岡県労委が所持する本件申立て手続において行われた調査等に際しての録音テープ及びそのテープ起こしの提出を求める文書提出命令申立てを行ったが、いずれの文書ないし準文書についても、現在福岡県労委が所持しているとは認められないうえ、上記調書等の記載について本件訴訟以前に会社が異議を述べた形跡はなく、その内容が不正確であると認めるべき証拠もないから、会社が提出を求める上記文書等について、証拠調べの必要性も認められない。
 よって、会社の上記申立てには理由がないから、これを却下する。
 
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委令和元年(不)第7号 全部救済 令和2年12月11日
福岡地裁令和3年(行ク)第6号 却下 令和4年2月25日
福岡高裁令和4年(行コ)第22号 棄却 令和4年9月30日
福岡高裁令和4年(行ス)第8号 棄却 令和4年9月30日
最高裁令和5年(行ヒ)第24号 上告不受理 令和5年3月15日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約380KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。