労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成30年(不再)第20号
木村建設不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  株式会社Y(以下「会社」) 
再審査被申立人  X労働組合(以下「組合」) 
命令年月日  令和2年7月1日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、分会の組合員であるA1ら3名に対し、①分会 結成の公然化の翌日等に配車を指示しなかったこと、②夏季賞与を例年の半額に相当する金額で支給したこと、③解雇したこと等 が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審東京都労委は、申立ての一部について不当労働行為の成立を認め、会社に対し、配車を指示しなかった日の賃金相当額の 支払、夏季賞与未払分相当額の支払、解雇の撤回、原職復帰、バックペイ、文書の交付及び掲示等を命じたところ、会社は、これ を不服として、再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、初審命令主文を変更し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文   初審命令主文を次のとおり変更する。
1 再審査申立人は、再審査被申立人の組合員A1、同A2及び同A3に対し、平成27年7月31日及び同年8月17日に同人 らが業務に従事したものとして扱い、両日分の賃金相当額(既払調整手当額を控除した差額)を支払わなければならない。
2 再審査申立人は、組合活動を批判し又は中傷する旨の再審査被申立人の組合員に対する発言を代表取締役又は従業員にさせる などして、再審査被申立人の運営に支配介入してはならない。
3 再審査申立人は、平成27年度夏季賞与未払分相当額として、再審査被申立人の組合員A1に対して3万1000円、同A2 に対して3万1000円、同A3に対して1万9000円をそれぞれ支払わなければならない。
4 再審査申立人は、再審査被申立人の組合員A1、同A2及び同A3に対して行った平成27年10月14日付け解雇をなかっ たものとして取り扱い、同人らを原職に復帰させるとともに、解雇の日の翌日から原職に復帰するまでの間の賃金相当額を支払わ なければならない。
5 再審査申立人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を再審査被申立人に交付するとともに、同一内容の文 書を55センチメートルX80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に記載して、再審査申立人の本社及び配車セ ンター内の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
 年 月 日
X労働組合.
委員長 A4 殿
株式会社Y    
代表取締役 B1
 ①平成27年9月14日の平成27年度夏季賞与に関する団体交渉に当社が誠実に応じなかったこと、②平成27年7月31日 及び同年8月17日に、当社が貴組合の組合員A1氏、同A2氏及び同A3氏に対し、配車の指示を行わなかったこと、③平成 27年8月1日に、当社代表取締役が、従業員に対し、組合の結成により弁護士費用が必要なため、夏季賞与が支払えないかもし れないなどと発言したこと、④平成27年8月3日に、当社従業員C1及びC2が、A1氏、A2氏及びA3氏に対し、夏季賞与 が支払われないのは組合の責任であるなどと発言したこと、⑤平成27年8月7日に、当社代表取締役がA4氏に対し、組合を辞 めるか会社を退職するかどちらかにしろなどと発言したこと、⑥当社が平成27年度夏季賞与を例年の半額に相当する金額で支給 したこと、⑦当社がA1氏の各ストライキ(平成27年9月14日、18日、24日から10月14日まで)、A2氏の各ストラ イキ(同年9月14日、18日、24日から10月14日まで)及びA3氏の各ストライキ(同年8月29日から9月14日ま で、9月18日、24日から10月1日まで)を違法なストライキ又は無断欠勤として扱ったこと、⑧当社が平成27年10月 14日付けでA1氏、A2氏及びA3氏を解雇したことは、中央労働委員会において、それぞれ不当労働行為であると認定されま した。今後、このような行為を繰り返さないようにします。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を掲載すること。)
6 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 本件配車不指示は労働組合法(以下「労組法」)第7条第1 号の不当労働行為に当たるか
 配車の不指示による会社都合休みは日給額の6割が支払われるにとどまるところ、会社は、平成27年(以下、平成27年を 略)7月31日及び8月17日、A1ら3名に対して配車不指示による会社都合休みとしたもので、このことは就業上及び経済的 待遇上の不利益取扱いに当たる。
 社長は、7月30日の団交申入れの際、「組合に入ってから話し合うこと自体が間違いであり、順番が違う、いきなり来たから 気分が悪い」などと繰り返し述べ、8月17日の組合書記長との電話では、「分会結成通知時から気分が悪い、何で怒らせること をするんだ」などと怒鳴っているなど、配車不指示は、会社が組合を嫌悪し、A1ら3名が組合員であることや分会結成及び組合 活動を理由として行ったものであることが推認されることから、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(2) 27年度夏季賞与の半額支給は労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
 社長は、組合の結成により弁護士費用が必要なため、夏季賞与が支払われないかもしれない旨の発言をし、また、A3に対し、 分会結成を非難する発言をした上で、組合からの脱退を勧奨し、さらに、「ボーナス出すのも俺の腹一つだから、利益あって出す わけじゃないから。」などと発言していることからすると、夏季賞与の半額支給は、会社が組合を嫌悪し、A1ら3名が組合員で あることや正当な組合活動を理由としてされたものであると推認される。また、組合のせいで夏季賞与が半額支給されたとの印象 を与えて、組合の弱体化を企図して行ったものであることが推認される。したがって、27年度夏季賞与の半額支給は、労組法第 7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当する。
(3) 本件解雇は労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるか
 ア(ア) 解雇事由1(組合が団交申入れ時に無許可ビデオ撮影をしたこと)について
    組合は、団体交渉申入れの際は動画を撮影する方針で臨んでおり、これは言った言わないという争いになる事態を避ける とともに、組合員の行動に規制をかけるために組合の内部資料として撮影しているとされるものであり、この方針の目的に一定の 合理性がないとまではいえない。撮影時の状況からは、組合に会社を挑発したり業務を妨害する意図はうかがえず、撮影により、 会社の機密情報が外部に漏えいするなどの会社の業務に悪影響を及ぼした事実も認められない。
  (イ) 解雇事由2(組合員らの秘密録音行為)について
    組合員らが社員や社長とのやり取りを録音した際、挑発した形跡やトラブルを発生させた事実も認められない。同人ら は、会社による不当労働行為が度重なっている状況においてこれを警戒し、自らの身を守ろうと考えて会話の秘密録音を行ったも のであり、緊急避難的な対応としてやむを得ないものであったといえる。秘密録音は、会社の業務上の秘密を漏えいさせることを 目的としたものではなく、実際に漏えいの事実はなく、そのおそれがあったともいえない。したがって、当該秘密録音行為は、正 当な組合活動の範囲を逸脱するものとまではいえない。
  (ウ) 解雇事由3(会社のダンプの鍵を返却しなかったこと)について
    会社がA2及びA3にダンプの鍵の返却を求めたのに対し、それを拒否した同人らの行為は正当とはいい難いが、鍵を返 却することにより担当車両を売却され、運転手としての仕事を失うことを危惧したことによるものであり、同危惧に対して会社が 十分な説明をした形跡がないことも考慮すると、鍵を返却しなかったことを解雇事由とするのは相当でないというべきである。
  (エ) 解雇事由4(無断欠勤したということ)について
    会社は、A3がストライキ名目で休暇を取得するという違法なストライキ権の行使により無断欠勤した、というが、この 期間の不就労は、ストライキ権を行使して行われたものであって、これをもって無断欠勤というのは相当でない。
  (オ) 解雇事由5(他の従業員との間でトラブルを発生させていること)
    会社は、組合員らと他の従業員及び会社との間の信頼関係が崩壊し、トラブルを発生させているというが、信頼関係が崩 壊したとしても、それは社長の反組合的な言動に起因するものであるといえるから、当該解雇事由に合理性はない。
 イ 組合が分会結成を公然化して団体交渉を申し入れた以降の社長の発言から、会社が組合を嫌悪していたことは明らかであ り、正当な争議行為を解雇事由とし、秘密録音をしていない者にもこの行為を解雇事由としているなど、会社の挙げる解雇事由 は、合理性を欠いているだけでなく、極めてずさんであった。本件解雇は、会社が組合を嫌悪し、組合員であることや、正当な組 合活動を理由として行ったものであると推認される。
 ウ 以上のとおり、本件解雇は合理的な理由がなく、会社が組合を嫌悪し、組合員であることや、正当な組合活動を理由として 行ったものであるとともに、会社から組合員らを排除するためにされたものであるから、本件解雇は労組法第7条第1号及び第3 号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成27年(不)第80号 一部救済 平成30年2月20日
東京地裁令和2年(行ウ)第314号 棄却 令和3年12月9日
東京高裁令和4年(行コ)第5号 棄却 令和4年10月31日
最高裁令和5年(行ツ)第69号・令和5年(行ヒ)第56号(概要情報) 上告棄却・上告不受理 令和5年3月29日
 
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