労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成27年(不)第80号
木村建設不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成30年2月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①団体交渉の申入れに対する会社の対応、②A2分会長ら3名に対し、配車の指示を行わなかったこと、③B1社長が組合の結成により弁護士費用が必要なため、夏季賞与を支払わないなどと発言したこと、④B2が組合を解散してもらいたいなとど発言したこと、⑤B2及びB3が夏季賞与が支払われないのは組合の責任であるなどと発言したこと、⑥A4の乗務するダンプを押すことや揺するなどといったB3の行為、⑦B1社長がA4に対し、組合を辞めるか会社を退職するかどちらかにしろなどと発言したこと、⑧組合員全員の運転車両の鍵の返却を求めたこと等、⑨平成27年度夏季賞与を例年の半額に相当する金額で支給したこと、⑩A2分会長ら3名によるストライキを違法なストライキ又は無断欠勤として扱ったこと、⑪A2分会長ら3名を無断欠勤として扱ったこと、⑫A2分会長ら3名に対し草むしりを指示したこと、⑬会社指示による早退を無断早退として扱ったこと、⑭A4が年次有給休暇の取得を申請したのに対し会社が不承認としたこと、⑮A2分会長ら3名を解雇したこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、東京都労働委員会は、業務に従事したものとしての扱い、バックペイ、支配介入の禁止、夏季賞与の支払い、解雇をなかったものとして取り扱い、原職復帰、パックペイ、①の一部、②、③、⑤、⑦、⑨、⑩及び⑮について文書の交付・掲示、履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人会社は、申立人組合の組合員A2、同A3及び同A4に対し、平成27年7月31日及び同年8月17日に同人らが業務に従事したものとして扱い、両日分の賃金相当額(既払調整手当額を控除した差額)を支払わなければならない。
2 被申立人会社は、申立人組合の組合員に対し、代表取締役又は従業員をして、組合活動を批判し、中傷する発言をさせるなどして、申立人組合の運営に支配介入してはならない。
3 被申立人会社は、27年度夏季賞与として、申立人組合の組合員A2に対して31,000円、同A3に対して31,000円、同A4に対して19,000円を支払わなければならない。
4 被申立人会社は、申立人組合の組合員A2、同A3及び同A4に対して行った27年10月14日付解雇をなかったものとして取り扱い、同人らを原職に復帰させるとともに、解雇の翌日から原職に復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。
5 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の本社及び配車センター内の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
               
                         
年 月 日
 組合
  委員長 A1 殿                       
会社                      
代表取締役 B1

 ①平成27年9月14日の27年度夏季賞与に関する団体交渉に、当社が誠実に応じなかったこと、②27年7月31日及び同年8月17日に、当社が貴組合の組合員A2氏、同A3氏及び同A4氏に対し、配車の指示を行わなかったこと、③27年8月1日に、当社代表取締役が従業員に対し、組合の結成により弁護士費用が必要なため、夏季賞与を支払わないなどと発言したこと、④27年8月3日に、当社従業員B2及びB3が、A2氏、A3氏及びA4氏に対し、夏季賞与が支払われないのは組合の責任であるなどと発言したこと、⑤27年8月7日に、代表取締役が、A4氏に対し、組合を辞めるか会社を退職するかどちらかにしろなどと発言したこと、⑥当社が27年度夏季賞与を例年の半額に相当する金額で支給したこと、⑦当社がA2氏の各ストライキ(27年9月14日、18日、24日から10月14日まで)、A3氏の各ストライキ(27年9月14日、18日、24日から10月14日まで)及びA4氏の各ストライキ(27年8月29日から9月14日まで、9月18日、24日から10月1日まで)を違法なストライキ又は無断欠勤として扱ったこと、⑧当社が27年10月14日付けでA2氏、A3氏及びA4氏を解雇したことは、東京都労働委員会において、それぞれ不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注:年月日は文書を交付又は掲示した日を掲載すること。)
6 被申立人会社は、第1項、第3項、第4項及び前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。
7 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 団体交渉申入れに対する会社の対応について
 会社は、賞与について、社長の裁量、経営判断としか説明せず、9月に、前年度の半額程度で支給した理由を一切説明していない。したがって、賞与の支給は、組合員らにとっての労働条件その他の待遇であり、その支給の経緯について組合から不当労働行為の疑いがかけられている以上、会社は、組合の理解と納得を得るよう努力すべきであるにもかかわらず、それを一切していないのであるから、会社が誠実交渉義務を果たしたとは到底いうことができない。
2 配車の指示を行わなかったことについて
 会社が8月17日に組合員らに配車をしなかったことは、組合活動への報復とみざるを得ない。したがって、会社が、8月17日に、A2分会長ら3名に対して配車の指示を行わなかったことは、組合員であること又は組合の正当な活動をしたことの故をもって行われた不利益取扱いに該当する。
3 B1社長が組合の結成により弁護士費用が必要なため、夏季賞与を支払わないなどと発言したことについて
 B1社長の発言は、組合の結成、運営に対する支配介入に該当するといわざるを得ない。
4 B2が組合を解散してもらいたいなどと発言したことについて
 組合の主張する発言をB2が8月1日に行ったという事実を認めるに足りる疎明がないことから、組合の主張は採用することができない。したがって、8月1日、B2が会社の運輸部の従業員に対し、組合を解散してもらいたいなどと発言したということはできない。
5 B2及びB3が夏季賞与が支払われないのは組合の責任であるなどと発言したことについて
 B2は、使用者の利益を代表する者に近接する職制上の地位にあったということができる。
 7月30日付申入れの際、B1社長は、組合に入ってから語し合うこと自体が間違いであり、順番が違う、いきなり来たから気分が悪いなどと繰り返し述べており、組合に対する嫌悪感を抱いていたといえる。そして、8月1日の会議において、B1社長が、組合の結成により弁護士費用が必要なため、夏季賞与を支払わないなどと発言した際、B2は同席していた。したがって、B2の発言は、会社の意を体してなされたものであると認めるのが相当である。
 また、B3は、一般従業員ではあるものの、8月3日、使用者の利益を代表する者に近接する職制上の地位にあったB2と一体となって、A2分会長ら3名及びA6に対して発言を行った。したがって、B2及びB3の発言は、一体として会社の行為であるとみるのが相当である。
 そして、夏季賞与が支払われないのは、組合の責任であるという趣旨の発言は、組合活動を非難してけん制するものであることは明らかであることから、B2及びB3の発言は、組合の運営に対する支配介入に該当する。
6 A4が乗務するダンプを押すことや揺するなどといったB3の行為について
 B3は一般従業員であるところ、B3が、A4に不当労働行為と言われたことをB1社長に報告したことに対し、同社長は、誰が誰に言っているのかと尋ねて状況把握に努めようとしており、その行為に関与していたとはいい難く、その他組合からB3の行為が会社の指示によるものであると認めるに足りる疎明もないことから、B3の行為が会社の行為に当たるということはできない。
 したがって、B3の行為が支配介入に該当するとはいえない。
7 B1社長が、組合を辞めるか会社を退職するかどちらかにしろなどと発言したことについて
 B1社長の発言は、組合の結成、運営に対する支配介入であることは明らかである。
8 会社が組合員全員の運転車両の鍵の返却を求めたこと等について
 車両の管理・所有権は会社にある以上、会社が、出社しない組合員らの使用する車両の鍵の返却を求めたことには、会社の運営及び財産権の行使として、正当な理由があるといわざるを得ない。現に、A2分会長が乗務していた車両には別の運転手が乗務しており、会社は、出社しない組合員の使用する車両を有効活用していたものといえる。
 したがって、組合員らが鍵を返却しなかったことにそれなりの理由はあるとしても、鍵の返却を求める会社の行為が不当労働行為に当たるとまでいうことは困難であるといわざるを得ず、会社が、組合員らに対し、車両の鍵の返却を求め、訴訟を提起したことは、組合員であること又は正当な組合活動を理由とする不利益取扱いには当たらない。
9 会社が平成27年度夏季賞与を例年の半額に相当する金額で支給したことについて
 会社は、分会結成と申入れを理由として、平成27年度夏季賞与を平成26年度の半額程度で支給したとみざるを得ず、このことは、組合員であること又は正当な組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるとともに、組合結成、運営に対する支配介入に当たるといえる。
10 会社がストライキを違法なストライキ又は無断欠勤として扱ったことについて
 組合は、一定の手順を踏んだ上で不当労働行為に抗議することを目的に争議行為をしたことが認められ、争議行為の正当性があることは明らかである。
 ストライキ通知に対する会社の取扱いは、解雇理由ともなる非違行為としての取扱いであるといえ、不利益性を有するといえる。
 したがって、A2分会長ら3名による各ストライキ通知に対する会社の取扱いは、正当な組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるとともに、ストライキの抑制を企図した支配介入に当たるということができる。
11 A2分会長ら3名を無断欠勤として扱ったことについて
 出社の意思を伝えたり、配車の確認等をすることなく出社しなかったA2分会長ら3名に対し、会社が無断欠勤としたのはやむを得ない取扱いであるといえる。よって、会社が、A2分会長ら3名を無断欠勤として扱ったことが、不利益取扱い及び支配介入に当たるとはいえない。
12 会社が、A2分会長ら3名に対し草むしりを指示したことについて
 草むしり業務は、会社の従業員であれば月に数回割り当てられるものであり、組合員らは、組合加入前も草むしり業務をすることがあった。
 したがって、会社がA2分会長ら3名に対して草むしりを指示したことは、他の従業員と比べて不利益な業務命令であったとはいえず、組合員に対する不利益取扱いには当たらない。
13 会社のA2分会長ら3名に対する早退指示について
 組合は、B2に早退を指示されたと主張するが、嫌なら帰れよという発言をもって、会社として早退する旨を指示したと解するのは困難であるといえる。
 したがって、会社が、9月19日にA2分会長ら3名を無断早退として取り扱ったことは、組合員であること又は正当な組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。
14 年次有給休暇の取得申請に対する不承認について
 会社が有給休暇を不承認としたこと自体は、会社の事務担当者が誤って計算した結果、A4が有給休暇の発生要件を満たしていないと会社が誤認したことによるものとみるのが相当であって、同人に殊更不利益を与える意図があったとはいい難い。そして、A4の不利益については、組合と会社との間で交渉が行われるなどして、会社が、A4の有給休暇の取得部分の未払賃金について支払うことなどの一部和解が成立しているのであり、B1社長もA4の有給休暇を不承認としたことについて謝罪していることから、改めて不当労働行為に問うことは相当でない。
15 A2分会長ら3名を解雇したことについて
 B1社長は、組合を嫌悪していたことは明らかである。
 会社は、正当な争議行為を解雇理由としていたり、A3は秘密録音をしたこともないにもかかわらず、これらの行為を解雇理由としているなど、会社の挙げる解雇理由は、合理性や相当性を欠いているだけでなく、極めてずさんであったといわざるを得ない。
 本件解雇は、組合を嫌悪し、会社から組合員らを排除するために行ったとみるのが相当である。
 したがって、本件解雇は、組合員であること及び正当な組合活動を理由とする不利益取扱いであり、かつ、組合の運営に対する支配介入に該当する。
16 中間収入を控除すべきか否かについて
 中間収入の控除の要否及びその程度については、当該解雇による被解雇組合員の個人的被害の救済の観点からのみならず、組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、当該解雇により侵害された集団的労使関係秩序の回復、確保の観点からも判断する必要がある。
 A2分会長ら3名は、総じて会社在籍当時と比べてはるかに劣悪な労働条件で就労しているものであり、本件解雇による個人的被害が軽微とはいえない。
 本件解雇により、A2分会長ら3名及び当時組合員であったA6が解雇され、最終的に会社から組合が一掃されることとなり、会社における組合活動の継続が不可能となるという著しい制約的効果を発生させ、組合に対して重大な打撃を与えるに至ったといえる。
 したがって、本件解雇により侵害された個人的被害の救済、集団的労使関係秩序の回復、確保の観点を総合すると、中間収入を控除しないものとするのが相当である。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成30年(不再)第20号 一部変更 令和2年7月1日
東京地裁令和2年(行ウ)第314号 棄却 令和3年12月9日
東京高裁令和4年(行コ)第5号 棄却 令和4年10月31日
最高裁令和5年(行ツ)第69号・令和5年(行ヒ)第56号 上告棄却・上告不受理 令和5年3月29日
 
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