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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和2年(行ウ)第314号
木村建設再審査棄却命令取消請求事件 
原告  株式会社X(以下「会社」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z組合(以下「組合」) 
判決年月日  令和3年12月9日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、分会の組合員であるA3ら3名に対し、①分会結成の公然化の翌日等に配車を指示しなかったこと、②夏季賞与を例年の半額に相当する金額で支給したこと、③解雇したこと等が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審東京都労委は、申立ての一部について不当労働行為の成立を認め、会社に対し、配車を指示しなかった日の賃金相当額の支払、夏季賞与未払分相当額の支払、解雇の撤回、原職復帰、バックペイ、文書の交付及び掲示等を命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、初審命令主文に記載の交付する文書等の内容等を変更し、その余の申立てを棄却した。
4 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 7月31日の配車不指示及び8月17日の配車不指示が労組法7条1号本文前段の不当労働行為を構成するか否か
⑴ダンプカー運転手に対する配車不指示が「不利益な取扱い」に該当するか
 会社は、A3分会長ら3名に対し、7月31日の配車不指示及び8月17日の配車不指示により産業廃棄物の収集運搬業務に就かせず、勤怠上、会社都合による欠勤として取り扱い、当該日の賃金について日給額の6割相当額の支払にとどめたことが認められる。以上によれば、7月31日の配車不指示及び8月17日の配車不指示は、いずれも会社によるA3分会長ら3名に対する就業上及び経済的待遇上の不利益な取扱いに該当すると認めるのが相当である。
 
⑵ 会社の不当労働行為意思の有無について
ア 7月31日の配車不指示について
 B1社長は、7月30日の本件団交申入れの際、労働条件に不満があるのであれば、労働組合を結成する前に自分の所に相談に来るべきである旨を述べ、A3分会長らが、かかる順序を踏まずに分会を結成し、かつ、会社の従業員ではない組合のA2書記長らから団体交渉を申し入れられたことについて強い不快感を示すなど、組合等に対する嫌悪感を露わにしていたこと、B1社長は、本件団交申入れを受けた直後に、その状況等をダンプカー運転手らの配車業務等を統括するB2専務に伝え、B2専務は、同日、配車係のB5と共に、ダンプカー運転手らと個別に面談し、組合等への加入の有無やその意思について確認した上で、B5と相談して7月31日の配車不指示を行ったことが認められる。
 以上の事情に照らせば、7月31日の配車不指示は、会社が、本件団交申入れを行った組合等及びその組合員を嫌悪し、A3分会長ら3名が組合等の組合員であることの故に就業上及び経済的待遇上の不利益を課し、会社の事業所から組合等の影響力を排除することを企図して行ったものと推認し得るから、不当労働行為意思に基づく不利益な取扱いであると認めるのが相当である。
イ 8月17日の配車不指示について
 組合等は、本件団交申入れ以降、会社に対し、不当労働行為の中止を求め、また、夏季賞与申入れを行うなど組合活動を活発化させていたこと、これに対し、会社は、7月31日の配車不指示以降も、8月1日のB1社長発言、8月3日のB5及びB6発言、8月7日のB1社長発言を通じて組合等と鋭利に対立し、労使の関係は悪化の一途をたどっていたこと、そのような中で、組合等は、上記のような会社の対応に抗議するとともに、平成27年8月11日、都労委に対しあっせんの申請を行い、同日、会社は8月17日の配車不指示を行ったこと、組合等は、同月12日、会社に対し改めて団体交渉を申入れるとともに、都労委へ上記申請を行ったこと及び8月17日の配車不指示に抗議することなどを申し入れ、さらに、同月14日、所沢労働基準監督署に対し、会社に係る労働基準違反に関する申告を行ったが、会社は8月17日の配車不指示を撤回せず、かえって、B1社長は、同月17日、A2書記長に対し、電話で、組合結成を通知された時から気分を悪くしており、なぜ自分を怒らせるような行為をするのかなどと発言したことが認められる。
 これらの諸事情に照らせば、会社が、A3分会長ら3名に対し8月17日の配車不指示をし、組合等からの抗議にもかかわらずこれを維持したことは、7月31日の配車不指示以降も継続されていた組合等の活動を嫌悪し、A3分会長ら3名が組合等の組合員であることの故に就業上及び経済的処遇上の不利益を課し、会社の事業所から組合等の影響力を排除することを企図して行ったものと推認し得るから、不当労働行為意思に基づく不利益な取扱いであると認めるのが相当である。
 以上によれば、7月31日の配車不指示及び8月17日の配車不指示は、労組法7条1号本文前段の不当労働行為を構成する。
2 8月1日のB1社長発言の有無及び同発言が労組法7条3号本文前段の不当労働行為を構成するか否か
 B1社長は、平成27年8月1日、B2専務等の経営陣及びリサイクル工場の工場長らが出席する会議において、本件団交申入れの状況等を説明した上で、今後、組合等との交渉は弁護士に委任することになるが、高額な弁護士費用が見込まれることから、最終的な決定ではないとしても、同年度の夏季賞与の支払をしない可能性がある旨の発言(8月1日のB1社長発言)をしたことが認められる。
 8月1日のB1社長発言は、夏季賞与の支給を見込んで生計を立てている会社の従業員らに対し、分会が結成されたために夏季賞与が不支給となるということを強く印象付けるにとどまらず、分会の非組合員の組合等に対する反組合的感情が醸成されることで組合員と非組合員との間の対立をあおる効果を有するものといえ、これにより、組合等の自主性及び組織力が損なわれ、使用者による組合運営に対する干渉ないし組合の弱体化をきたすものといえるから、組合等の運営に対する支配介入に該当し、労組法7条3号本文前段の不当労働行為を構成する。

3 8月3日のB5及びB6発言が労組法7条3号本文前段の不当労働行為を構成するか否か
 8月3日のB5及びB6発言は,8月1日のB1社長発言の意を汲み、A3分会長らが分会を結成したことを非難し、分会の組合活動を続ければ組合員と非組合員との軋轢が強まるばかりで、A3分会長らにおいても会社における就業が困難になるとして、分会の解散を勧奨することで今後の組合活動の継続をけん制するものといえ、これにより、組合等の自主性及び組織力が損なわれ、使用者による組合運営に対する干渉ないし組合の弱体化をきたすものといえるから、組合等の運営に対する支配介入に該当すると認めるのが相当であり、労組法7条3号本文前段の会社の不当労働行為を構成する。
4 8月7日のB1社長発言の有無及び同発言が労組法7条3号本文前段の不当労働行為を構成するか否か
 B1社長は、平成27年8月7日、8月7日のA6・B6間のトラブルの裁断を求めて社長室を訪れたA6に対し、今後もダンプカー運転手らが残業代等の支払を求めて分会の組合員として組合活動を続けるのであれば、会社の業務のうち産業廃棄物の収集運搬部門を縮小し、保有するダンプカーも処分することを考えており、その場合、A6ほかの分会の組合員らはもとより、本件組合等に加入していないダンプカー運転手についても解雇せざるを得なくなるから、A6らが組合活動を続けることは会社を良くすることにはつながらず、かえって非組合員である会社の従業員に重大な不利益を被らせることとなるとして、A6に対し、組合等を脱退してダンプカー運転手として会社で働き続けるか、自身の解雇や他の非組合員らに迷惑をかけることを前提に組合等の活動を続けるかという二者択一を迫る発言(8月7日のB1社長発言)をしたことが認められる。

 同発言は、組合等の組合員に対して組合組織からの脱退を勧奨するものであって、組合等の自主性及び組織力を損ねるとともに、使用者による組合運営に対する干渉ないし組合の弱体化をきたすものであるといえるから、組合等の運営に対する支配介入に該当し、労組法7条3号本文前段の不当労働行為を構成する。
5 本件ストライキ対応が労組法7条1号本文前段及び同条3号本文前段の不当労働行為を構成するか否か
 組合等は、会社に対し、A3分会長について、平成27年9月14日、同月18日、同月24日から同年10月14日まで、A7について、同年9月14日、同月18日、同月24日から同年10月14日まで、A6について、同年8月29日、同月31日、同年9月18日、同月24日から同年10月14日までの各期間、会社の不当労働行為に抗議するためにストライキを行う旨を事前に通知し、A3分会長ら3名は、それぞれ上記の日ないし期間、会社に出勤しなかったこと(本件ストライキ権行使)。
 これに対し、会社は、組合等に対し、同年8月28日、同年9月3日及び18日、上記の各通知について適法なストライキ権行使とは認めない旨を通知し、本件組合等の指導により行われたA3分会長ら3名のストライキを違法なストライキとして扱い、同人らをいずれも無断欠勤と取り扱ったものであること、従前から、会社により一連の不当労働行為が継続的に行われていたことに照らせば、本件組合等の組合活動及び組合員によるストライキ権行使を阻止し、その抑制を企図したものであると認められるから、本件組合等の運営に対する支配介入に該当するとともに、不当労働行為意思も認められる。
 以上によれば、本件ストライキ対応は、労組法7条1号本文前段及び同条3号本文前段の不当労働行為を構成する。
6 本件夏季賞与支給が労組法7条1号本文前段及び同条3号本文前段の不当労働行為を構成するか否
 会社は、平成27年9月10日、A3分会長ら3名を含む原告の従業員に対して平成27年度の夏季賞与を支給したが、支給時期は例年よりも1か月程度遅れ、また、支給額も前年度の半額程度にとどまったこと、会社は、組合等あるいはA3分会長ら3名に対し,本件団交申入れの時点から本件夏季賞与支給に至るまでの間、7月31日の配車不指示、8月17日の配車不指示、8月1日のB1社長発言、8月3日のB5及びB6発言、8月7日のB1社長発言及び本件ストライキ対応といった不当労働行為を1か月以上にわたり継続的に行っていたこと、B1社長は、組合等を嫌悪する発言を繰り返す中で分会の結成を理由とする夏季賞与の不支給を示唆し、本件夏季賞与支給の4日後に行われた本件団交においても、ダンプカー運転手の日給額を増額したばかりであるのに、唐突に分会を結成するような従業員に対して夏季賞与を支給するわけがないといった趣旨の発言をしたことが認められる。
 以上の諸事情を踏まえれば、本件夏季賞与支給は、会社が継続して有する組合等への嫌悪の情に基づき、分会の結成やその組合活動に対する報復的措置として、A3分会長ら3名が組合等の組合員であることの故に同人らに経済的不利益を負わせたものといえるから、不当労働行為意思に基づく不利益取扱いに該当する。

 さらに、本件夏季賞与支給は、分会の非組合員である従業員についても同様の態様で行われているところ、上記の一連の会社による不当労働行為や会社による別件訴訟の提起等がされるなど、会社と組合等との労使間の対立が深刻化の一途をたどる中で行われたものであることに照らせば、例年どおりの時期及び金額による賞与支給を見込んで生計を立てていた会社の従業員に対し、分会が結成されたために夏季賞与の支給が遅れ、かつ、その金額も大幅に減額されたということを強く印象付けるものといえ、これにより、分会の非組合員の組合等に対する反組合的感情を醸成し、組合員と非組合員との間の対立をあおる効果を有するものであり、組合等の自主性及び組織力を損なうともに、使用者による組合運営に対する干渉ないし組合の弱体化をきたすものであるといえるから組合等の運営に対する支配介入に該当する。
 以上から、労組法7条1号本文前段及び同条3号本文前段の不当労働行為を構成する。


7 本件団交における会社の対応が労組法7条2号の不当労働行為を構成するか否か
 組合等は、8月1日のB1社長発言等を踏まえ、会社に対し、8月5日付け文書を提出して本件夏季賞与申入れを行い、同月12日にも夏季賞与の支給を団体交渉の議題の一つとする「団体交渉開催要求再々申入書」を提出したこと、本件団交においては本件夏季賞与支給の当否等が議題とされたが、会社は、組合等から、本件夏季賞与支給について例年よりも支給時期が遅れ、また、支給額が例年の半額程度となった理由を問われたのに対し、賞与はB1社長の経営上の裁量で恩典として支給されているものであり、履行期についても定めはない旨を回答し、組合等から要求された賞与額の算定根拠となる会社の経営資料の開示を拒絶したことが認められる。

 本件夏季賞与支給に関する本件団交の際の会社の説明は、社長の裁量や経営判断という抽象的な理由を提示するにとどまっているところ、組合等が説明を求める経営資料等の開示に応じることが会社の経営に著しい支障をもたらすとか、その作業に多大な労力や費用を要するといった事情もうかがわれないことからすれば、本件団交における会社の上記の対応は、本件夏季賞与支給に至った過程の合理性に関して具体的な説明をせず、また、客観的な経営資料等の開示要求に応じなかったものと解さざるを得ず、自らの主張の根拠についての具体的な説明や論拠に基づき反論し、見解の対立の解消を目指し、交渉を通じた合意による解決に向けて誠実に団体交渉に対応するという団体交渉における誠実交渉義務を尽くしたものとは認め難いから、団体交渉の拒否に該当する。
 以上によれば、本件団交の際の会社の対応は、誠実交渉義務に違反するものと認められるから、労組法7条2号の不当労働行為を構成する。
8 本件解雇が労組法7条1号本文前段及び同条3号本文前段の不当労働行為を構成するか否か
⑴本件解雇の有効性について
ア 解雇理由①(A3分会長ら3名に係る本件撮影行為,本件アップロード行為及び秘密録音)について
(ア) 本件撮影行為について
  会社は、本件撮影行為は、会社の業務に支障を及ぼすものであり、また、B1社長の肖像権や会社のブライバシーを侵害する違法なものである旨を主張する。
  しかし、本件撮影行為が組合活動としての正当性を欠くとはいえないから、同行為が本件就業規則36条6号の解雇事由に該当するとは認められず、仮に本件撮影行為が上記の解雇事由に該当するとしても、その態様や影響等に照らせば、同事由を理由として解雇することは相当性を欠くものというべきである。したがって、会社の主張は採用することができない。

(イ) 秘密録音について
 会社は、A3分会長ら3名は、業務のあらゆる場面で日常的に秘密録音をしており、これにより業務上の秘密等が外部に流出する危険性を生じさせただけでなく、従業員が常に緊張した状態で業務遂行しなければならない状況に陥らせて平穏な営業活動や職場環境を妨害、破壊したから、A3分会長ら3名がなした秘密録音は正当な組合活動とはいえない旨を主張する。
 A3分会長による平成27年8月3日の録音、A6及びA2書記長による同月7日の録音は、いずれも会社が不当労働行為に及ぶ蓋然性がある状況下において、具体的な会話内容を保全することで事後の組合等による団体交渉に備える目的で行われたものであったといえ、他方で、上記の秘密録音が会社の業務上の秘密を記録するために行われたものとは認められず、また、実際に当該録音により会社の業務上の秘密が外部に漏洩するなどといった会社の業務への客観的かつ実質的な悪影響が生じたことを認めるに足りる的確な証拠もない。
 以上の事情を総合すれば、上記2回の秘密録音は正当な組合活動の範囲を逸脱するとまではいえず、本件就業規則36条6号の解雇事由に該当するものではなく、同事由を理由として解雇することは相当性を欠くものというべきである。したがって、会社の上記主張は採用することができない。

イ 解雇理由②(A3分会長ら3名に係る信頼関係の破綻)について
 会社は、A3分会長ら3名は、本件撮影行為や秘密録音に加え、会社が倒産するなどといった虚偽の事実を告げて会社の従業員を勧誘して本件分会を結成するなど、正当性を欠く組合活動を継続することで会社の従業員及び会社との間の信頼関係を破綻させたものであり、それゆえ、A3分会長ら3名の雇用を継続すれば社内外で事故を発生させ、会社の他の従業員だけでなく、第三者の生命、身体、財産も害するおそれがあったから、上記の行為は、本件就業規則36条6号に該当する旨を主張する。

 まず、本件撮影行為や秘密録音は、いずれも正当な組合活動であると認められ、これらが本件就業規則36条所定の解雇事由を構成するとはいえず、仮に上記の各行為が上記の解雇事由に該当するとしても、その態様や影響等に照らせば、同事由を理由として解雇することは相当性を欠くものと解すべきである。
 次いで、A3分会長ら3名において、会社が倒産する旨の虚偽の事実を告げて会社の従業員を組合員に勧誘して分会を結成したか否かについては、本件組合等は、分会の結成時において、会社の従業員に組合への参加を呼びかけるに当たり、会社の経営状態が悪化しているという認識を有していたとは断じ難く、少なくとも会社が倒産しかかっているなどいった虚偽の事実を摘示して組合員を勧誘したとは認められない。
 その他、A3分会長ら3名において、会社が主張するようなB1社長の名誉や信用を貶めて会社の事業所内に混乱を生じさせたり、社内外で事故を発生させ、会社の他の従業員や第三者の生命、身体、財産を害する具体的なおそれを生じさせたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、解雇理由②に係る会社の主張は採用することができない。

ウ 解雇理由③(A7及びA6に係るダンプカーの鍵の返却)について
 A7及びA6がダンプカーの鍵の返却を拒んだことは、ダンプカー自体を排他的に占有することで会社の所有権ないし管理権の実現や会社の事業の遂行を妨げかねないものであって、労働者の争議行為の態様として正当性があるとはいい難いものといわざるを得ない。
 一方、A7及びA6が会社に対しダンプカーの鍵を返却しなかったのは、B1社長が、平成27年8月7日、A6に対し、会社の産業廃棄物の収集運搬部門を縮小し、これに併せてダンプカーも処分することを考えており、その場合、ダンプカー運転手である本件分会の組合員らにも会社を退職してもらうことになる旨の発言をしたことに加え、従前から会社による不当労働行為を継続的に受けていたことから、有給休暇の取得やストライキを中止して会社に出社してもダンプカー運転手としての仕事を失う可能性があることを危惧したためであることが認められるのであって、会社によるダンプカーの運行を実力で阻止し、その業務を積極的に妨害して団体交渉を有利に進めることを意図して鍵の返却を拒んだものとまではいえない。

 また、会社は、管理していたダンプカーの鍵のうちマスターキーはダンプカー運転手の保管に委ねていたが、スペアキーは会社において保管されていたことが認められるから、A7及びA6がダンプカーの鍵を返却しなかったとしても、それにより同人らに割り当てられていたダンプカーの使用ないし運用が一切不可能となったとはいえず、業務命令違反による会社の業務への影響は限定的であったといえる。
 以上の諸事情を総合すれば、A7及びA6が業務命令に違背してダンプカーの鍵を返却しなかったことをもって労働者としての地位を喪失させるのは重きに失すると解さざるを得ず、社会通念上相当であるとは認められない。
エ 解雇理由④(A6に係る無断欠勤)について
 A6の本件ストライキ権行使が組合活動として正当性を欠くものではないことは、前記5において説示したとおりであり、会社がこれを無断欠勤として扱ったことは相当ではなく、A6に係る解雇理由④が本件就業規則36条6号の解雇事由を構成するとしても、同事由を理由として解雇することは相当性を欠くものというべきである。
⑵不当労働行為の成否
 会社が、A3分会長ら3名に対して行った本件解雇は、労働者としての地位を喪失させるものであるから、不利益取扱いに該当するところ、上記(1)において説示したとおり、本件解雇は合理性又は社会的相当性を有しない無効なものであると解されることに加え、本件解雇に至る経緯を全体としてみれば、本件解雇は、本件団交申入れを受けて以降、継続して組合嫌悪の情を有していた会社が、前記1ないし7において説示した会社の一連の不当労働行為に続けて、A3分会長ら3名の労働契約上の地位を喪失させて分会の活動を阻止するために行ったものであると推認し得るから、本件解雇は、A3分会長ら3名が本件組合等の組合員であることや本件団交申入れ等の本件組合等の正当な組合活動の故に行われた不利益な取扱いであると認めるのが相当である。
 加えて、上記のとおり、本件解雇は、分会において役職を有するA3分会長ら3名を会社の事業所内から排除することで本件組合等の弱体化を企図したものといえるから、本件組合等の運営に対する支配介入にも該当する。
 以上によれば、本件解雇は、労組法7条1号本文前段及び同条3号本文前段の不当労働行為を構成する。

9 本件解雇後のA3分会長ら3名の中間収入を控除しないまま未払賃金全額のバックペイ相当額の支払いを命じた本件救済命令に違法があるといえるか
 A3分会長ら3名は、本件解雇後、1か月に数日程度のアルバイトを行ったほか、無職又はアルバイト、派遣社員等の非正規雇用として就業するのみで経済的収入のみならずその就労自体が不安定な状況が続いていたこと、A7については、平成28年10月以降、日給の運転手として稼働するようになったが、その収入は会社に在籍していた当時と比較すると約6割程度にとどまるなど、いずれも、本件解雇によって会社に在籍していた当時より相当悪化した労働条件の下での就労を余儀なくされたことが認められる。また、分会の組合員は、会社による一連の不当労働行為の結果、順次分会を脱退していたところ、本件解雇によりA3分会長ら3名及びA8が解雇されたことにより、平成27年10月14日以後、会社の従業員の中に本件組合等に属する者は存在しなくなり、分会の組合活動は著しく制約され、本件組合等の労働組合としての活動は重大な打撃を受けたものといえる。
 加えて、会社は、本件団交申入れを受けて以降、組合嫌悪の情に基づき、前記1ないし8において認定し説示したとおりの不当労働行為を継続して行っていたことからすれば、組合活動に著しく介入するだけでなく、組合組織を会社から排除すること自体を意図していたものと解さざるを得ず、これにより、本件組合等はその活動について甚大な打撃を被ったものといえる。

 以上の諸事情を総合すれば、本件救済命令が、A3分会長ら3名の本件解雇後の収入を中間収入として控除せずに未払賃金全額のバックペイ相当額の支払を命じたとしても、直ちに上記のような実害の回復以上のものを使用者に要求するものとは評し難く、また、本件解雇を含む会社の一連の不当労働行為が組合活動一般に与えた侵害の程度は甚だしいといえ、本件解雇により憲法28条により保障される労働者の団結権等が著しく制約されたことも踏まえると、本件申立てに係る救済方法を選択するに当たっては、個人的な経済的被害の救済の観点に加えて、集団的労使関係秩序を回復、確保する必要性も高かったものというべきである。
 よって、中労委が本件救済命令において中間収入を控除せずに未払賃金全額のバックペイ相当額の支払を命じたことに裁量権の逸脱又は濫用があったということはできない。
  また、労組法27条が定める労働委員会の救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した同法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであり、本件救済命令も、A3分会長ら3名の私法上の請求権の存在を前提として会社に賃金等の支払を命じたものではなく、不当労働行為からの救済方法として一定の金員の支払義務の履行を会社に命じるものであるところ、A3分会長ら3名の会社に対する私法上の権利(賃金請求権等)に係る消滅時効の期間が経過していたとしても、そのことをもって、不当労働行為によって生じた状態を是正する必要がなくなったとはいえないから、会社がA3分会長ら3名の私法上の権利(賃金請求権等)の消滅時効を援用したからといって、本件救済命令が裁量権の逸脱、濫用に当たり違法となるとはいえない。

10 結論
 会社の本件各行為が不当労働行為を構成するとした本件救済命令の判断は正当であり、本件救済命令が定めた救済方法も相当であるから、本件救済命令に取り消されるべき違法はない。よって、会社の請求は理由がないから、これを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成27年(不)第80号 一部救済 平成30年2月20日
中労委平成30年(不再)第20号 一部変更 令和2年7月1日
東京高裁令和4年(行コ)第5号 棄却 令和4年10月31日
最高裁令和5年(行ツ)第69号・令和5年(行ヒ)第56号 上告棄却・上告不受理 令和5年3月29日
 
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