概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成30年(不)第93号
ワットラインサービス不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合・X2組合・X3組合(「分会」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年2月4日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
会社との間で個人で請負契約を締結して、家庭用電気メーターの取替工事等に従事する作業者(「計器工事作業者」)らは、分会を結成した。
平成30年12月7日、分会は、上部団体であるX1組合及びX2組合と連名で、会社に対し、分会の結成を通知するとともに、翌年度の工事件数の割当て等の要求に係る団体交渉を申し入れ、12日にも再度、同じ議題による団体交渉を申し入れた。しかし、会社は、12月11日付及び14日付「回答書」により、計器工事作業者は会社と労働契約を締結する従業員ではなく、組合は会社が雇用する労働者の代表者には当たらないとして、団体交渉に応じない旨回答した。
12月26日及び31年1月3日、組合は、会社が計器工事作業者に提示した31年度の請負契約書の内容は従来の契約の不利益変更であるとして、不利益変更等に係る団体交渉を申し入れたが、会社は、30年12月27日付及び31年1月7日付「回答書」により、30年12月11日付「回答書」と同様の理由で団体交渉に応じない旨回答した。
本件は、組合の組合員である計器工事作業者が、労組法上の労働者に当たるか否か、労組法上の労働者に当たる場合、組合が①30年12月7日及び12日に申し入れた団体交渉、②12月26日及び31年1月3日に申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉の拒否及び組合の弱体化を企図した支配介入に当たるか否かが争われた事案である。
東京都労働委員会は、会社に対し、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるとして、団体交渉の応諾とともに、文書の交付・掲示を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人会社は、申立人X1組合、同X2組合及び同分会が、①平成30年12月7日及び12日に申し入れた団体交渉、②12月26日及び31年1月3日に申し入れた団体交渉に応じなければならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合らに交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートルX80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の各工事所内の計器工事の作業者の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記 年 月 日
X1組合
中央執行委員長 A1 殿
X2組合
執行委員長 A2 殿
分会
分会長 A3
会社
代表取締役 B
貴組合らが①平成30年12月7日及び12日に申し入れた団体交渉、②12月26日及び31年1月3日に申し入れた団体交渉に当社が応じなかったことは、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を掲載すること。)
3 被申立人会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 計器工事作業者の労組法上の労働者性(争点1)
労組法上の労働者に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要があり、現実の就労実態に即して、ア事業組織への組入れ、イ契約内容の一方的・定型的決定、ウ報酬の労務対価性、エ業務の依頼に応ずべき関係、オ広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、カ顕著な事業者性などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。
会社は、個人及び法人と請負契約を締結しているが、組合員は全て個人契約の計器工事作業者である。そして、計器工事作業者には、厚生会作業者と個人作業者とがおり、組合員は全て厚生会作業者であるが、厚生会作業者と個人作業者とは、工事単価の協議や労働災害保険の扱いに違いがある程度で、就労実態に違いはないことから、以下、厚生会作業者と個人作業者との区別はせず、計器工事作業者の労組法上の労働者性について、上記アないしカの判断要素ごとに検討する。
ア 事業組織への組入れ
会社の計器工事部の主要事業を担う計器工事作業者は、研修や賞罰制度、業務地域や業務日の割り振り等によって会社に管理されており、第三者に対しては、会社組織の一部として表示され、会社の計器工事に専属的に従事しているのであるから、会社の計器工事の遂行に不可欠な労働力として、会社組織に組み入れられているということができる。
イ 契約内容の一方的・定型的決定
契約内容に変更を加える余地は、担当エリアなどごく一部に限られており、契約内容の主要な部分は、会社が一方的、定型的に決定しているということができる。
ウ 報酬の労務対価性
計器工事作業者に支払われる報酬は、労務提供に対する対価としての性格を有しているということができる。
エ 業務の依頼に応ずべき関係
計器工事作業者は、個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるということができる。
オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
計器工事作業者は、労務の提供に当たり、一定の時間的場所的拘束を受けているということができる。
カ 顕著な事業者性
計器工事作業者は、業務に必要な器材等の一部負担や損失の負担等に事業者性をうかがわせる余地がないとはいえないものの、兼業の実績や他人労働力の利用の可能性、自己の才覚で利得する機会等がほとんどないのであるから、事業者性が顕著であるとはいえない。
キ 結論
以上のとおり、計器工事作業者は、ア会社の計器工事の遂行に不可欠な労働力として、会社組織に組み入れられており、イ会社が契約内容の主要な部分を一方的・定型的に決定しており、ウ計器工事作業者に支払われる報酬は、労務提供に対する対価としての性格を有しており、エ個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあり、オ広い意味で会社の指揮監督の下に労務の提供を行っていると解することができ、労務の提供に当たり、一定の時間的場所的拘束を受けているということができる一方、カ事業者性が顕著であるとはいえない。
これらの事情を総合的に勘案すれば、計器工事作業者は労組法上の労働者に当たることは明らかである。
2 団体交渉拒否について(争点2)
会社は、労組法上の労働者に当たる計器工事作業者を組織する組合の団体交渉申入れに応ずべき立場にあるところ、会社が団体交渉事項を拒否する正当な理由は認められないのであるから、組合が①30年12月7日及び12日に申し入れた団体交渉、②12月26日及び31年1月3日に申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。
3 支配介入について(争点3)
組合の存在そのものを否認する会社の対応により、組合は、団体交渉のみならず、会社と一切の交渉をすることができなかったのであるから、組合活動は大きく制限されたというべきである。また、会社のこのような組合に対する扱いは、計器工事作業者が組合に加入することを抑制することにもなり得るものである。
以上に加えて、前記1で判断したとおり、本件においては計器工事作業者が労組法上の労働者に当たることが明らかであることも考慮すると、会社が組合の団体交渉申入れに応じなかったことは、組合の存在を否認し、組合の弱体化を企図した支配介入にも当たる。
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掲載文献 |
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